コムスタカ―外国人と共に生きる会

暴力と支配の連鎖を断つために


繰り返されるセカンドレイプ
ポール・スチール
2006年11月19日

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2003年4月27日、酒を飲ませられた18歳の少女が東京、六本木の雑居ビルの非常階段で13人の男たちに強姦された。これに加わった男たちのすべてがスーパーフリーという早稲田大学のサークルのメンバーであった。非常階段で暴行を行った後、男たちは女性を車に乗せ、サークルの代表であった和田真一郎の豊島区の自宅に連れて行き、そこで再び女性を集団で強姦した。その女性はその年の終わりにニュースでこのグループが行った強姦事件が報じられて初めて、警察に被害届を出した。そこで彼女以外にも12名以上の被害者がいることを知った。捜査の結果1995年に和田が代表になって以来、彼が実行した集団暴行は500件以上に上ることが判明した。

スーパーフリーがおこなった集団暴行事件はすべてマニュアルに基づいて行われていた。何人かが、狙いをつけた女性から友人の目をそらしている間に、女性を友人グループから引き離す。女性を脅かして無理やり笑顔をつくらせ、写真を撮る。犯行の間、じゃまが入らないように、見張りを置く。役割を交代して、順番に女性を強姦する。後で、被害女性たちには、もし警察に届けたらインターネットに写真を流すと脅迫メールが届いている。笑っている顔を写真に取られているので、裁判になっても男たちの有罪を証明するのは難しいし、世間に恥を曝すことになると、女性たちは考えた。スーパーフリーの被害者が世間の反応を恐れたのはもっともなことであった。新聞や雑誌の報道で、犯行の中身について詳しく触れているものはほとんどなかったが、スーパーフリーが女性をどんな基準で選んだかは徹底して報道された。餌食になったのは「田舎もの」で「世間知らず」の「ダサイ」女性たちである。彼女たちは一流大学の彼氏を見つけようとパーティに参加し、今まで自分がいた場所ではない場所にいようとしたのである。

サークルのメンバーが逮捕されて1週間後に自民党の太田誠一衆議院議員は国会でこの事件について、少子化が進んでいる日本にも元気のいい男性がいてくれてほっとするというような冗談を言った。その1週間後、やはり自民党で当時官房長官だった福田康夫は性的暴行についての彼自身の考えを何気ない調子で次のように語った。「女性にもいかにも『してくれ』というの、いるじゃない」「そういう格好しているほうが悪いんだ。男は黒豹なんだから」福田康夫は元男女共同参画担当大臣である。すでに十分傷つき苦しんでいる女性たちに対する同情を欠いたこのような恥ずべき言葉を聞くと、日本で強姦の被害届けが2003年から2004年までの間に1割減少している理由がすぐにわかるというものだ。

強姦の直後にはセカンドレイプがおきる。女性側にも責任があったと責められて十分な支援を受けられない。このような第二の性的被害は被害者と直接関わる人々によってよく引き起こされる。特に、警察官、ソーシャルワーカー、家族や先生たちが鈍感で思いやりがない場合に起こる。そして、被害者に無力感、孤独感、罪悪感をもたらす。政治家やマスコミのスーパーフリー裁判に対する態度はセカンドレイプの典型例である。しかし、日本の女性にとって、最悪の偏見は、よく知られていることだが、司法制度の中に根強くある偏見である。

私は性的暴行の問題について熊本の3つの高校で教師と話し合ったことがあるが、彼らは生徒が強姦されたら、誰にも言わないで(忘れてしまえ)と言って励ますと異口同音に言うのだ。世間に知られたときの社会的圧力は、生徒たちがとても耐えられないような重荷になると考えられているため、強姦事件を立証するのは難しい。また、もし、女性が証拠としてDNAを採取したり、強姦に伴う性感染症の有無を調べたりするために、病院に検査に行っても、このような検査は健康保険がきかないのだそうだ。

1970年代初頭の日本における強姦事件の被害者に関する統計では、強姦の被害届けを出した女性のうち32.5%が、襲われたのは自分に落ち度があると考えるようになり、届けを取り下げたという。40年近くたった現在、12名ほどの女性が勇敢にもスーパーフリーの犯罪を警察に届けたが、強姦犯を告発するために裁判を起こしたのは3人にすぎない。スーパーフリーの3件の集団暴行事件で起訴された和田被告には「社会的な配慮」により、最高刑より1年短い懲役14年の判決が出された。和田被告に加えて12人の男たちもまた、起訴され強姦の共犯とされた。そのうち5人は3年以下の懲役である。刑が軽いことに人々が抗議したため、国会は強姦の最高刑を2年から3年に引き上げ、集団暴行の刑の下限を4年にすることにした。スーパーフリーのメンバーが酔わせた女性たちからテレビやゲーム機やオーディオなどを盗んだのでなくて残念である。窃盗は強姦より立証が簡単で、最低でも5年の刑であり、国会が改正した強姦に対する刑罰よりももっと、罪が重いのだから。

アジア女性基金が東京と九州でおこなった女子高校生を対象とする調査では、女子高校生の5.3%が強姦の被害にあったことがあるという結果がでた。2004年の国勢調査からすると15才から19才の女性は日本に約3,295,000いる。日本の高校は3年なので、そのうちの60% は1,977,000人。その 5.3%、約 104,781 人が、強姦にあった女子高生の数ということになる。その数字を3で割ると、日本では毎年、34,927人の女子高生が強姦の被害にあっていることになる。政府からの財政援助を受けているアジア女性基金は、この数字に加え、女子高生の 13%が強姦されそうになったと報告している。2003年に届出があった強姦被害者総数は2,472人で、2004年にはその数は2,176人に減っている。

年間に強姦被害にあった女子高生で警察に届け出たものの割合は明らかに低い。アジア女性基金による調査では強姦の70%は被害者か加害者の自宅で起こっているという。このような場所での強姦は「古典的強姦」のパターンに当てはまらないため、被害届が出されにくいのだろう。もし、届けが出されても、強姦だとは認めてもらえないかもしれない。「古典的強姦」とは自宅以外の人気のない場所で、見知らぬ人から襲われるという映画やニュースなどで、最もよくお目にかかる強姦である。「古典的強姦」というステレオタイプのせいで、その典型的な強姦をそっくり再現するような被害に遭った女性ならば周りの同情を得やすいが、しかし、「古典的強姦」は強姦のシナリオとしては一般的ではなく、知人による強姦、配偶者による強姦、肉親による強姦の次にくるものだ。

すべての強姦のシナリオのうち、もっとも注目されにくいのが配偶者による強姦である。肉親による強姦と同様、被害者は加害者と家族として法的に関係づけられている。被害者と加害者にこのようなつながりがあるため、支援者たちから信じてもらえなかったり、反対に責められたりすることがある。特に、配偶者による強姦は加害者が身近におり、お互いによく知っているため、強姦が繰り返され、心理的、肉体的な虐待を伴いやすい。1993年のユニセフの報告によると、日本女性の59%が 夫に肉体的虐待を受けているという。夫から肉体的に虐待されている日本女性の57%が同時に心理的、性的な虐待も受けているとする「暴力と健康に関するワールドレポート」の統計の数字とあわせてみてほしい。

これらの数字から、90年代の日本では、低く見積もっても、既婚の女性の33.6%が家庭の中で夫の手で性的暴行の被害を受けているのである。日本では配偶者による強姦が起訴されるようになってきたが、このようなケースはまだ非常に少なく、2000年でも、ほとんどが第三者によるものだったとアメリカ内務省のレポートは述べている。女性が保護を求めると、しばしば、「夫婦喧嘩は犬も食わない」と言われる。過去には「オツトメ」を果たさない自分の妻に無理やり性行為をするのは合法という判決が出されたこともある。 日本で私のこのリサーチについて男たちと話をすると、男たちの多くが、レイプはアメリカや西洋の問題でそんな問題は日本には実際には存在しないと信じていることがわかる。しかし、女性たちの意見は例外なく男たちとは違っている。どの女性も性的暴行を受けた友人が少なくとも一人はいると断言する。私は日本で性的暴行について議論したり、意見を言ったりするたびに挫折感や絶望感を味わった。しかし、性的暴行は実際に行われており、ありふれた出来事でありながら、表面には出てこないのだ。

改正刑法が施行された2004年12月1日、全国的に有名な国士舘大学のサッカー部の部員15名が、女子高校生に対する7時間に及ぶ集団暴行で逮捕された。この事件は改正前の刑法で裁かれたので、逮捕のその日に自供した加害者のうちの6人が懲役1年、執行猶予3年の刑を言い渡され、裁判所から歩いて自由に出て行った。なぜなら、裁判官が、彼らはすでに犯した罪を十分償っていると言ったからだ。

性的暴行は未遂に終ろうとも、非常に大きな心理的影響を残す。セカンドレイプを受けると女性たちはこの問題に向き合うために必要な支援を受けることを躊躇したり、臆したりしてしまう。そして、トラウマによってすでに引き起こされている症状を悪化させる。摂食障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、 自殺願望、鬱、全般的反応性が麻痺し人を信頼できなくなるなどの過度の警戒心、愛の感情を持つことができないといった感情の範囲の縮小、などの精神的症状となってあらわれる。

日本全国で本物の支援と法による正義を得られない限り、女性たちは社会から支えられているという安心感を感じることはできないだろう。学校は、レイプは日本で普通に実施されている性教育の問題である以上に、支配と暴力の問題であるということを認識しなければならない。女性の権利、レイプの抑止と被害にあったときの届け出は、カリキュラムの一環である道徳教育として注目される価値のあるテーマである。他人を餌食にするという性格をもった強姦という犯罪は犯罪者に強姦を繰り返させるものだからである。 男子生徒や女子生徒にレイプ後遺症の影響力の有害性に気づかせ、どうしたらレイプをなくせるか、被害にあったらどのように届け出るかを学ばせるべきである。男子生徒にとって、この問題は二つの面をもつ。ひとつは教育的な側面であるが、男性が敬意をもって女性と付き合うことを教える。もうひとつは、自分自身が被害にあった場合、その被害を認識し、届け出ることを教えるのである。アジア女性基金の調査に男子高校生の3%がレイプの被害を受けたことがあると答えている。

刑法改正による集団強姦等の規定は最終的には今年の初めに札幌で起こった暴力団組員による三つの小さな事件に適用されたが、日本の一流大学の学生や他の社会的エリートに刑法改正により引き上げられた強姦罪の法定刑が適用されるかどうかはまだわからない。

女性を嫌悪するかのような不敵な発言をした閣僚たちが依然としてその職に留まっているのはこの国の国民の間にも残酷な冷淡さがあることを示している。このような閣僚が内閣の重要な地位を占めていること、しかも、彼らが首相候補として考えられていたこと(今年の福田氏の例のように)は日本の政治構造の紛れもない欠陥である。

これらの事実は政府の内部にセカンドレイプが存在することの証拠である。出生率の低下、自殺、落ちこぼれ、引きこもり、労働力不足、結婚年齢の上昇、結婚率の低下などについて述べる議員たちで、性的暴力がこういった問題に及ぼす影響について深く考えもしないのは、自分自身の無知を曝しているか、そうでなければ、政治的意図をもってこれらの問題を操作しているかである。このような重大な問題を無視し、忘れ、また、矮小化してしまうことを許す前に、日本人は、この日本にいる1億2千万の国民の中に、自分たちの利益を代表してくれるもっと別の人がいるのではないかと問い直すべきである。被害の連鎖を断ち切る方法はほかにはない。

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参考


http://www.jca.apc.org/femin/politician/  ふぇみん
強姦罪の法定刑を「2年以上の懲役」から「3年以上の懲役」に引き上げる(2年と3年の差は、執行猶予との関係で意味を持つことを期待してのものである。刑法25条参照。)自民党の太田誠一元総務庁長官が、与党3党の女性議員らに呼びかけて、集団強姦罪を新設し、4年以上の懲役とする などを盛り込んだ改正案の検討に入った。参議院本会議において小泉純一郎首相は、強姦罪の罰則強化と集団強姦罪の創設について理解を示しながらも、具体的方策については触れなかった。 その後、2004年12月の刑法改正で法定刑が引き上げられ、集団強姦等(第178条の2)の規定が設けられた。

英文の元原稿に付けられた参考文献 (いずれも英文)


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