DV加害者の夫が、逃げ出したDV被害者の妻を探し回るケースの救済事例報告

2008年12月29日 

中島 真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

1、はじめに

日本人夫からの暴力に苦しむDV被害者の外国人妻(子どもつれた)からの相談には、大別すると二つのパターンがあります。

夫が、離別を迫り、暴力で追い出し、遺棄するケースと、逃げ出した妻を捜しまわり追いかけまわすケースです。

前者のケースでは、Dv被害者の妻を保護し、ビザ問題を入管と交渉して解決しながら、住居や仕事など生活の自立をはかり、

その上で妻を遺棄した夫に対して、家庭裁判所に婚姻費用や養育費請求の調停申し立てを行い対抗しています。その後、

妻が離婚を望む場合には、離婚と子どもの親権を母親にえること、養育費や慰謝料や財産分与を請求する調停や訴訟で

問題を解決しています。

 

2、逃げ出したDV被害者の妻を、加害者の夫が追い掛け回す場合、被害者が遠方へ逃げないで解決することをめざす

 

後者のケースは、公的機関の一時保護所に保護された場合も、妻子の安否があきらかにされないため、DV加害者の夫が友人宅や

支援者のところにも探し回り、時には脅迫や暴力が振るわれるという2次被害が発生していくこともあります。このようなケースでは

公的機関の対応として、一時避難所に保護したあと、県外の保護施設へ移送して対応していく例が多いと思われます。

一時保護所等公的機関に保護されているケースでは、加害者に被害者の安否を教えず、加害者と一切連絡をとらない、接触せず、

交渉しない対応となっています。そのため、一保護されている外国籍の被害者が、夫のもとに戻る場合や、協議離婚など夫と合意

できそうな場合に、夫との連絡が必要となりますが、公的機関は対応できないため、コムスタカに依頼がなされることもありました。 

そして、コムスタカより、夫と交渉して迎えに来てもらったり、離婚届に署名してもらうなどして解決したこともあります。

コムスタカー外国人と共に生きる会では、後者のようなケースの場合も、生命身体に具体的な危険が迫っている場合には、

地域外への避難させることもありますが、原則として、その地域で暮らし続けながらDV被害者の問題を解決していくことを

めざしています。

その理由は、DV被害者が生活の自立をしていくうえで、友人や知人がいて、職場や子どもの学校や住居等住み慣れた地域の方が、

被害者の再出発がスムーズに行くからです。その場合の最大の問題は、夫の暴力や探し回りをどのように防ぐかという問題です。

これまで、コムスタカで、被害者の希望や同意の上で、夫に連絡して交渉して解決してきました。

 

 

 

3、被害者の同意を得て夫と交渉する担当者(警察官、公務員)を設けることの提案

 

毎年1回5月か6月頃に開かれる熊本県DV対策関係機関首長連絡会議の場では、コムスタカのDV被害者の救援の経験から、

被害者の代理人として被害者側に立って夫と交渉する存在の必要性と有用性を説明し、被害者の同意を得て、夫と交渉する

担当者(警察官、公務員)を設けるように、ここ数年提案してきました。しかし、行政側の回答は、「守秘義務があるので、夫には

接触できない、夫と交渉することができる専門家がいない」など消極的な回答でした。

ただ、今年6月の会議では、熊本県警の担当者から、「おっしゃることはわかります。警察に被害者からの要請と同意があれば、

夫に連絡し、安否を知らせたり警告や指導ができ、実際に効果をあげている。しかし、被害者で同意してくれる人は少ない」

という発言がありました。

 

今年夏に、外国籍の妻から「日本人夫が、酒に酔うたびに包丁で脅され、殺されるかもしれない、助けてほしい」という深刻な

相談がありました。夫にわからないように妻は、子どもをつれて逃げてきました。その直後に、夫は、警察へ捜索願を出し、

妻の友人宅や職場、子どもの学校など探し回りました。

被害者の意思を確認したところ、「知らないところに逃げてくらしたくない」ということでした。先の会議での警察官の話を思い出し、まず、

警察に被害相談へ連れていきました。

そして、被害者から要請して、警察官から「妻は、DV被害者として相談しており、妻子の安否は無事安全なところに保護されて

大丈夫であること、今後妻子を探し回らないこと、いずれ裁判所から呼び出しが来るので、それをまって夫婦のことはそこで話し

合うように」と連絡してもらい、また、「妻子に包丁を振り回したり、脅したら、逮捕する」旨、警告・指導してもらいました。

  妻と子の所在は明らかにしないまま、警察官を仲介者として、夫との間で何度かやり取りを行った結果、夫の側は探し回ることが

なくなりました。そして、妻子の住居の所在は明らかにしないまま、妻は職場へ復帰し、別居しながら、家庭裁判所で離婚などの調停が

進行しています。

このケースは、 コムスタカに相談ではなく、公的機関へ相談して一時保護されていたら必ず県外の施設へ移送されていくケースに

なったと思われます。コムスタカとしても、私たちが直接に夫と交渉せずに、警察に相談し、警察官に仲介者として夫と交渉してもらい、

その地域で暮らし続けながら問題を解決できるはじめてのケースとなりました。

深刻なDV事例の相談のすべてがこのようにうまくいくわけではありませんが、警察官あるいは公務員が、DV防止や犯罪防止の立場で、

被害者の代理人あるいは仲介者として夫と交渉し・安否確認や警告・指導することで、夫からの暴力を抑止、支援者や友人二次被害を

防止して解決できるケースは多くあると思います。

 

資料として、 DV防止法改正に伴う基本方針の「警察への相談や警察の援助」の関係箇所を

示しておきます。

 

改正DV防止法(2007年7月成立  2008年1月11日施行)に伴う

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策に関する基本的な方針

 (P、14−P、15 警察に関する関係箇所)

(2)警察

ア 相談を受けた場合の対応

被害者からの相談については、被害者に対し、緊急時に110 番通報すべき旨や自衛手段を教示するにとどまらず、

関係機関等への紹介、加害者に対する指導警告等警察がとり得る各種措置を個別の事案に応じて被害者に教示するなど

被害者の立場に立った適切な対応を行うことが必要である。

また、相談に係る事案が暴行、脅迫等刑罰法令に抵触すると認められる場合は、被害者の意思を踏まえ、検挙に向けての

迅速な捜査を開始するほか、被害者に被害届の提出の意思がないときであっても、捜査手段を講じなければ更なる事案が

起きるかもしれない危険性について理解させ、特に、被害者及びその関係者に危害が及ぶおそれがあると認められるときは、

警察側から被害届の提出を働き掛け、必要に応じ説得を試みることが必要である。

刑事事件として立件が困難と認められる場合であっても、被害者及びその関係者に危害の及ぶおそれがある事案については、

加害者に対する指導警告を行うなど積極的な措置を講ずることが必要である。

さらに、被害者及びその関係者に対して、加害者からの復縁等を求めてのつきまとい等の行為がある場合には、ストーカー行為等

の規制等に関する法律(平成12 年法律第81 号。以下「ストーカー規制法」という。)を適用した措置を厳正に講ずることが必要である。

なお、被害者に接する際には、被害者の負担を軽減し、かつ、二次的被害を与えないよう、女性警察職員による被害相談対応、

被害者と加害者とが遭遇しないような相談の実施等被害者が相談しやすい環境の整備に努めることが必要である。

警察以外の関係機関による対応がふさわしいと考えられる場合は、被害者に対し、支援センター等の関係機関の業務等について

説明し、これらの機関に円滑に引き継ぐことが必要である。

なお、引継ぎを行う場合には、単に当該機関等の名称及び連絡先を教示するだけでなく、当該機関等に連絡するなど確実に

引継ぎがなされることが必要である。

 

イ 援助の申出を受けた場合の対応

法第8条の2において、警視総監若しくは道府県警察本部長(道警察本部の所在地を包括する方面を除く方面については、

方面本部長)又は警察署長は、配偶者からの暴力を受けている者から、配偶者からの暴力による被害を自ら防止するための

援助を受けたい旨の申出があり、その申出を相当と認めるときは、当該配偶者からの暴力を受けている者に対し、

国家公安委員会規則で定めるところにより、当該被害を自ら防止するための措置の教示その他配偶者からの暴力による被害の

発生を防止するために必要な援助を行うものとすることとされている。警察が行う援助は、次に掲げる措置のうち、適切なものを

採ることにより行うこととされている。

(ア)被害者に対し、配偶者からの暴力による被害を自ら防止するため、の状況に応じて避難その他の措置を教示すること。

(イ)加害者に被害者の住所又は居所を知られないようにすること。

(ウ)被害者が配偶者からの暴力による被害を防止するための交渉を円滑に行うため、被害者に対する助言、加害者に対する必要

な事項の連絡又は被害防止交渉を行う場所としての警察施設の供用を行うこと。

(エ)その他申出に係る配偶者からの暴力による被害を自ら防止するために適当と認める援助を行うこと。なお、生命等に対する脅迫

を受けた被害者については、法第8条の2の規定による援助の対象ではないが、身体に対する暴力を受けた被害者に準じて必要

な援助を行うことが必要である。