法務大臣の裁決(在留特別許可不許可)後の事情変更による裁決の見直し問題

――オーバーステイ外国籍家族の救済へ向けて

2009年4月5日  中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

 

フイリピン人のオーバーステイ家族3名(両親が摘発された時娘が10歳)が、

2007年9月の東京高裁の判決(控訴人家族の敗訴判決でしたが)の付言により、

2008年1月に再審(情願)により「定住者」(在留期間1年)を得て合法化、

またオ−バーステイ(「不法入国者」を含む)のパキスタン人家族4人が2008年2月に合法化されました。

 

            詳細は、 コムスタカのホームページ 「出入国関連行政訴訟」の項目に掲載している

「 2008.1.11オーバーステイのフィリピン人家族全員に在留特別許可が認められました。」、

「2008.02.27オーバーステイのパキスタン人家族全員に在留特別許可がみとまられました。」をご参照下さい。)

 

そして、2008年11月頃からオーバーステイのフィリピン人家族の問題がマスコミ報道でも

大きくとりあげられ、子どものいるオーバーステイ家族の問題が焦点化しました。しかし、

家族全員が日本に残るという願いは実現せず、現在中学生の長女のみ合法化されますが、

両親は帰国を余儀なくされました。2008年1月11日に在留特別許可が認められた

フィリピン人家族と、不許可となったフィリピン人家族のケースは、よく似た状況にありながら

結論が分かれ、裁決(在留特別許可不許可決定)後の再審(情願)による裁決の見直しの

運用基準の不透明さやあいまいさがうきぼりになりました。

2009年1月と2月に家族全員が合法化された2家族のケースを例外的なものとして、

法務省入国管理局の運用基準は、「家族全員ではなく、場合により子どもだけ日本での在留を

認める」という従来方針に戻ってしまいました。

法務省入国管理局の運用基準を変えさせ、摘発時13歳未満の子どもがいるオーバーステイ

家族全員の合法化を実現するには、マスコミ報道を通じての世論の喚起以外に、司法判断に

よる家族全員の在留を認めさせること、現在の法務省入国管理局を拘束する手続規定を欠き、

一切が裁量で行われる「裁決後の再審(情願)による裁決の見直し」の法令上の根拠や

その手続き規定を定める立法化が必要になると思われます。

 

2009年2月25日の移住労働者と共に生きるネットワーク九州と福岡入管との意見交換会で、

「裁決(在留特別許可不許可)後の事情変更による裁決の見直し」の根拠について質問してみました。

 

質問

「入管の違反審査要項など規定には、『裁決後の事情変更による裁決の見直し』の記載がないが、

昨年(2008年2月)の意見交換会での回答では、「法務大臣は原則として裁決の見直しを

行うことはありませんが、案件によっては、判決で裁決が違法であると判断された場合、

裁判所における審理の過程で新たな事情が判明した場合、裁決後に事情が変更し

退去強制することが人道上過酷であるような場合については、裁決の見直し、

在留特別許可の可否について再検討する場合もありえます。」と回答し、実祭上、

裁決後の事情変更による裁決が見直され、在留特別許可が認められたケースが存在します。

なぜ、『裁決後の事情変更による裁決の見直し』について、入管の違反審査要領で、明記しないのですか、」

 

 これに対する福岡入管の回答は、

「裁決後の裁決の見直しは、法令上の手続きとして存在しておらず、あくまで憲法16条の

国民の請願権による反射的効果として行われているにすぎないので、明記できません。」というものでした。

 

コメント(中島)

 

刑事司法手続きであれば、法令上 再審手続きが定められているが、入管行政では、

裁決手続や退去強制令書発付処分手続きが規定されているのに比べて、「再審情願」と呼ばれている

裁決後の事情変更による見直しの手続きが法令上定められていません。

裁決後の裁決の見直しと言う重大な変更が、再審を受理するか否か知らせるかどうかも含めて

一切が入管の裁量で行われており、人権保障のための手続き規定が欠如しています。

 

これまで「裁決後の事情変更による裁決の見直しは行われることはなく、その手続き規定も必要ない」

という前提で入管行政は運用されています。しかし、現実には、裁決後の事情変更による裁決の見直しは

行われてその数も増えてきています。

 

厳格な手続きをへて決定された裁決の処分が見直されるという重大な処分内容の変更であるにもかかわらず、

人権保障手続が一切なく、すべてが入管の裁量で行われることが許されているのは、人権上重大な問題です。

かつて、入管は、中国残留日本人の「実子」を偽装して入国した中国人家族を摘発する場合などに、

上陸許可処分時に遡及して取り消す効果をもつ上陸許可取消処分を行政法の一般的解釈のみを根拠に行っていました。

 

2004年の改定入管法で、上陸許可取り消し制度にかわり、法令上の人権保障手続きがある程度認められた

在留資格取消制度が設けられ、以後原則的に上陸許可取消制度に取ってかわりました。

 

裁決処分(在留特別許可不許可処分))後の事情変更による裁決の見直し(再審による在留特別許可)についても、

裁量行政ではなく、立法政策として法令上の根拠と手続き規定を設け、申請者の人権を保障する運用に改め、

その救済対象を拡大していくべきです。

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