退去強制令書発付処分を受けた外国人(原告)が
裁判で使える勝訴判例や再審事例の紹介
――退去強制手続関連の行政訴訟の現状――
2008年3月 日 中島 真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
はじめに
刑事事件での無罪判決率が1%以下と低いのと同様、行政訴訟の勝訴率は、2%程度しかなく、しかも行政訴訟の中でも出入国管理関連の行政訴訟、その中でも退去強制令書発付処分等取消請求訴訟は、勝訴事例が皆無に近く、「開かずの門」といっても過言でありませんでした。つまり、法務大臣等による退去強制令書発付処分を受けた外国人には、「裁判しても勝てない、裁判で救済されることはない」ということが強固な常識として存在し、一方被告の国(法務省入国管理局)の側には、「裁判で負けることがない」という不敗の安心感が厳然と存在していました。
これまで多くの出入国関連の行政訴訟(特に、退去強制令書発付処分等取消訴訟、無効確認訴訟など)で、原告側は、立証に有利となる確定した勝訴判例等を提出することはできませんでした。
私自身が、退去強制令書が発付された外国人から日本での定住の相談を受け、支援する過程で退去強制手続関連の行政訴訟に本格的に係るようになったのは、2001年12月に福岡地裁に提訴した元中国残留孤児の妻の婚姻前の娘2家族7人の退去強制事件からでした。第1審の過程では、裁判で有利な先例として使える勝訴判例を探してもなく、控訴審で2003年9月に東京地裁(藤山裁判長)のイラン人家族の退去強制令書発付処分等取消訴訟での勝訴判決などを証拠として提出しましたが、被告側はすぐに東京高裁での逆転敗訴の判決を証拠として提出してくるなど、従来の判例で外国人が有利に使えるものがなく、悔しい思いをしました。
しかし、退去強制令書発付処分等をめぐる訴訟でも、2000年代になり、少しずつですが、下級審である地方裁判所レベルから原告側が勝訴する判例があらわれてきました。また、2005年からは控訴審である高等裁判所の判例でも勝訴して確定し、救済につながる事例があらわれてくるようになりました。私自身の6年余りの取組みの経験のなかでも、控訴審での勝訴判例や、敗訴確定後の再審(裁決の見直し)事例をいくつか作り出すことができました。
退去強制令書が発付されてしまった外国人から日本での定住の相談を受け、行政訴訟に挑む方々の参考になればと思い、出入国関連の行政訴訟、とりわけ勝訴が困難な退去強制令書発付処分等取消請求訴訟の現状と、これまでの勝訴事例や敗訴判決確定後も再審(情願)による在留特別許可による解決事例を以下紹介しておきます。
※ 以下の紹介事例のうち青字で紹介した判例や解決事例の資料(公刊物としては未掲)は、私が当該外国人から相談を受けNGOとして、あるいは弁護団の一員として係った事例や、当事者の外国人やその代理人弁護士から「紹介してもよい」として了解を得ているものです。同様な訴訟に取組む方で、証拠や参考資料として裁判所等に提出をご希望される方は、ご連絡下さい。
※ 以下の紹介事例は、これまでの限られた経験と情報に基づいて作成しています。他にも、活用できそうな勝訴事例や再審(情願)による在留特別許可取得事例などがありましたら、追加していきたいと思いますので御知らせ下さい。)
注*在留資格関連行政訴訟、特に「日本人配偶者等」の在留期間の更新・在留資格の変更不許可処分を巡る争いでは、これまで勝訴判例があります。
参考事例:出典 「弁護士による外国人人権救済実例第二集」(明石書店 東京弁護士会外国人人権救済センター運営委員会編 1998年2月5日発行)の在留資格の事例5、事例6として釜井弁護士が担当されたケースとして、離婚無効訴訟係争中で別居中の外国人配偶者が、「日本人配偶者等」の在留期間の更新・在留資格の変更不許可処分を争い、原審・控訴審・上告審とも勝訴した事例の紹介があります。
但し、国(法務省入国管理局)は、「日本人との婚姻関係が社会生活上の実質的基礎を失っている外国人は、その活動が日本人の配偶者の身分を有する者として活動に該当するということができず、出入国管理及び難民認定法別表第二所定の在留資格「日本人の配偶者等」の在留資格取得の要件を備えているとはいえない」旨判示した2002年10月17日最高裁判決を引用してきます。
1、退去強制手続関連行政訴訟の現状
退去強制手続関連行政訴訟はここ数年(2003年68件、2004年109件、2005年143件、2006年164件)と急増しています。
2006年についての出入国管理関連の行政訴訟(2006年 252件)の内訳は、退去強制手続関係の行政訴訟(164件)、難民認定手続関係の行政訴訟(59件)在留審査関係不許可処分(21件)、在留資格認定証明書不交付処分関係(2件)でした。(出典 『2007年版 出入国管理』58ページ表46より)、また、このうち国の敗訴が確定して在留資格を付与した事例は、法務省への質問に対する回答によると2006年2件でした。
2、 出入国管理行政をめぐる行政訴訟提起事件の推移(2002年―2006年)
(1)出入国管理関係行政訴訟(本案事件) 取消請求・無効確認提起事件の推移
出入国管理関係行政訴訟(本案事件)取消請求・無効確認提起事件は、増加傾向にあります。難民認定手続き関係の訴訟は、毎年50件台ですが、退去強制手続関係(退去強制令書発付処分等取消請求訴訟)は、2006年(164件)には2003年(74件)の2倍以上になっています。
請求趣旨 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
2005年 |
2006年 |
退去強制手続関係 |
74 |
68 |
109 |
143 |
164 |
在留審査関係不許可処分 |
20 |
58 |
6 |
8 |
21 |
在留資格認定証明書不交付処分 |
1 |
5 |
7 |
17 |
6 |
難民認定手続関係 |
52 |
53 |
25 |
52 |
59 |
その他 |
4 |
6 |
19 |
28 |
2 |
合計 |
151 |
190 |
166 |
248 |
252 |
出典 『2006年 出入国管理』 『2007年 出入国管理』(法務省入国管理局編)
(2)出入国管理関係訴訟(退去強制令書執行停止申立事件) 提起事件の推移
執行停止申立事件の提起件数は、概ね増加傾向にありますが、収容の停止と送還の停止をあわせて認める全部停止の決定は、1987年から2001年までの15年間1件もありませんでした。
しかし、2002年以降は毎年2−4件程度認められるようになってきました。(但し、下級審での決定では入管側が抗告するので、抗告審である高裁で認められ確定した事例は2004年までゼロ、2005年から1−2件が認められた事例が、ようやくあらわれるようになってきたにすぎません。)
また、収容の停止はみとめないが、送還の停止だけ認める決定は、終了件数の6−7割程度を占めるようになってきています。
区分 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
2005年 |
2006年 |
提起件数 |
56 |
42 |
95 |
101 |
85 |
終了件数 |
77 |
44 |
70 |
109 |
69 |
却下 |
7 |
9 |
4 |
16 |
5 |
全部停止 |
- |
2 |
4 |
2 |
3 |
送還停止 |
42 |
28 |
54 |
72 |
49 |
取り下げ |
28 |
5 |
8 |
19 |
12 |
年末係属件数 |
13 |
11 |
36 |
28 |
44 |
出典 『2006年 出入国管理』 『2007年 出入国管理』(法務省入国管理局編)
3、退去強制令書執行停止申立事件の裁判所の決定の現状
(1) 最高裁判所の決定の状況
最高裁判所で、収容停止を含む全部停止が認められた事例は、現在までありません。これまで退去強制令書執行停止申立事件では、高裁の収容停止申立棄却決定に対して、最高裁に特別上告、高裁に抗告許可しても、民事訴訟法の特別抗告や抗告許可事由に該当しないとして、門前払いされる決定例が大半でした。
@ 最高裁が 収容の執行停止許可抗告事件で、門前払いではなく実質判断して棄却決定された事例
2002年4月26日最高裁(第2小法廷)は、福岡高裁で収容部分の執行停止申立事件で棄却決定に対する、高裁への抗告許可申立が許可された事件(本案事件 元中国残留孤児の妻の婚姻前の娘の家族7人の退去強制令書発付処分等取消請求事件)で、はじめて、民事訴訟法上の抗告許可事由に該当しないとする門前払い決定ではなく、「原新の適法に確定した事実関係によれば本件各退去強制令書の収容部分の執行により抗告人らが受ける損害はいずれも社会通念上金銭賠償による回復をもって、満足することもやむをえないものというべきである原審は抗告人らが受ける損害を個別的、具体的に検討した上で、上記各部分の執行により生じる回復困難な損害を避けるために緊急の必要があるということはできないとしたもので、この判断は是認できる」という棄却決定をしました。
この最高裁決定は認容ではなく、棄却でしたが、収容の執行停止申立事件に対して、それまでの「被収容者の不利益は、収容に伴う不利益として当然予定されている」という当然予定損害論や通常予定損害論により棄却するあり方から、「個別的具体的な検討をしてその是非を判断していく」という個々のケースの損害の実質的審理を行って裁判所がその是非を決定する道が開かれてきました。
注:国(法務省入国管理局)は2002年4月26日の最高裁決定を、「原審の適法に確定した事実関係によれば本件各退去強制令書の収容部分の執行により抗告人らが受ける損害はいずれも社会通念上金銭賠償による回復をもって、満足することもやむをえないものというべきである」という前半部分を、収容の停止を認めるべきでないという国の主張の根拠として引用している
(2)、 高裁での全部停止(送還停止及び収容停止)の決定例(確定)
@ 在留資格のないフィリピン人家族で子どものみ全部停止が東京高裁で認められた事例
原審の執行停止申立事件では、家族3人とも送還停止のみで収容停止は認められていませんでしたが、2007年2月20日東京高裁は、原告敗訴後の控訴審執行停止申立事件(本案 退去強制令書発付処分等取消訴訟)で、オーバーステイのフィリピン人親子3名の家族(家族全員仮放免中)に対して、両親には送還停止のみで、収容停止の決定を認めませんでしたが、子ども(小学生))一人については、全部停止(送還停止・収容停止)の決定を行い、国も争わずこの子どもへの高裁の全部停止の執行停止決定は確定しました。
A 在留資格のないタイ人女性に、仮放免中の幼い二人の養育の必要性を理由に全部停止が大阪高裁で認められた事例
2005年11月16日 大阪高裁は、本案事件(退去強制令書発付処分等取消訴訟)で一審敗訴後の控訴執行停止申立事件で、一審のときと同様に在留資格のないタイ人母親に全部停止(送還停止・収容停止)の決定を行い、国も争わずこの高裁の全部停止の執行停止決定は確定しています。(出典 『難民認定実務マニュアル』2006年7月1日発刊、現代人文社発行 )
4、退去強制手続関連の行政訴訟を提訴する原告となる外国人
ア 原告となる外国人とは、
@ 難民認定申請を不許可とされた人、A 中国残留日本人の血縁のない家族(養子、婚姻前の子)で「実子」を偽装したとして上陸許可を取り消された人、B 摘発―逮捕後に婚姻届を提出した日本人等と婚姻した在留資格のない外国籍配偶者です。Cの子どものいるオーバーステイ家族などです。
これ以外にD 子どものいないオーバーステイの外国籍同士の夫婦、E オーバーステイ外国人が独身の場合も、論理的には考えられますが、出入国管理関連の行政訴訟を提訴する原告となる外国人が裁判を提訴して争うのは、在留特別許可などの行政手続上の救済措置が認められず、訴訟以外の方法がなくなった場合です。従って、在留特別許可の付与が期待できない現状にあるD、Eのケースでの行政訴訟の提訴は極めてまれと思われます。
イ、控訴審でも確定した勝訴事例がある類型と勝訴事例のない類型、
@ 難民認定申請を不許可とされた人、A 中国残留日本人の血縁のない家族(養子、婚姻前の子)で「実子」を偽装したとして上陸許可を取り消された人、B 摘発―逮捕後に婚姻届を提出した日本人等と婚姻した在留資格のない外国籍配偶者については、確定した勝訴判例があらわれており、同様な訴訟で、原告側の有利な証拠として使えます。
なお、Cの子どものいるオーバーステイ家族では勝訴判決で確定した判例はありませんが、判決文中の付言により在留特別許可が与えられたケースが、摘発時小学生の子がいた在留資格のない外国籍家族があらわれてきました。
しかしながら、D 子どものいない在留資格のない外国籍どうしの夫婦や、E 在留資格のない外国籍の単身者については現段階では、行政訴訟の勝訴確定による救済事例はありません。
5、 出入国管理関連行政訴訟で原告側が使える勝訴判例
(1) 難民認定関係――難民認定申請が不認定とされ、退去強制令書が発付された外国人
@、地裁段階での勝訴判決は、数十件以上あります。
日本初の難民性を認めた判決は、1986年9月4日 東京地裁でのイラン人(ムジャヘデイン)を原告とする退去強制令書発付処分取消訴訟勝訴判決です。しかし、この判決は、難民の不認定処分ではなく、退去強制令書発付処分等取消を求める訴訟で、高裁では敗訴して確定しませんでした。難民の不認定処分取消を求めた訴訟で、確定した難民勝訴判決としては、1997年10月29日に名古屋地裁で言い渡されたパキスタン籍の難民不認定処分取消訴訟判決(注)があります。
しかしながら、難民不認定処分だけでなく、入管法違反者として退去強制令書発付処分をうけた難民の難民不認定処分取消請求訴訟及び退去強制令書発付処分等取消訴訟については、2001年まで地裁レベルでもみられず、ようやく2002年以降より勝訴判例があらわれてきました。現在では、東京地裁、名古屋地裁、大阪地裁、広島地裁など地裁レベルでは数十件以上、あらわれています。
注: 「1997(平成9)年10月29日 名古屋地裁 パキスタン 確定
パキスタンにおけるアハマディア教徒の難民該当性を肯定し、難民不認定処分を取り消した本邦初の事例で、確定。(但、退去強制令書発付処分等取消訴訟の事例ではありません)
(出典 「 難民判例集30頁」 )
A、高裁段階での勝訴事例
控訴審での勝訴事例は、ビルマ難民に対する2005件6月 大阪高等裁判所判決(原審で敗訴、控訴審で逆転勝訴、国の上告断念により確定)、クルド難民に対する2006年6月の名古屋高等裁判所判決、アフガニスタン難民の2007年9月の東京高等裁判所判決などがあります。
( 但し、名古屋高裁と東京高裁のケースは控訴審勝訴確定後の難民申請で再び不認定処分とされる。このようなケースが現在まで3例確認されています。) なお、ビルマ難民申請者への難民認定は増加傾向にあり、難民不認定訴訟及び退去強制令書発付処分等取消訴訟でも、ビルマ難民について、2007年末現在、地方裁判所や高等裁判所の勝訴判決が確定した事例が多くあらわれています。
(2) 中国残留日本人の「血縁」のない家族(養子、婚姻前の子)で「実子」を偽装したとして
上陸許可を取り消された外国人、
勝訴判例(いずれも国の上告断念により確定)
@、2005年3月7日福岡高等裁判所(原告敗訴の原審判決を控訴審で逆転勝訴)
熊本県内在住の中国残留日本人の妻の婚姻前の娘2家族7人の退去強制令書発付処分等
取消訴訟
※ 2005年9月28日 定住者告示(法務省令 告示第132号)改定
改定前「入国時に、養子は6歳未満、配偶者の婚姻前の子は、未婚未成年」という要件が、改定後は、「中国残留邦人の家族の養子及び配偶者の婚姻前の子は、6歳に達する前から養親と同居していること」
A、2007年2月27日東京高等裁判所(原告勝訴の原審判決を控訴審でも維持)
千葉県内在住の中国残留日本人の夫の親族の子の家族で、両親は退去強制されたが,子ども二人がそれぞれ原告となり提訴した退去強制令書発付処分等取消訴訟のうちの一つ。もう一つも同様に勝訴確定。
注: 上陸許可取消処分は、2004年5月改定入管難民認定法で、在留資格取消制度が導入され、船舶の乗員や乗客など「特例上陸許可」で入国する外国人には一部適用の余地が残りますが、「在留資格」を得て在留する外国人には、入国時から遡及的に取り消される上陸許可取消処分は適用されなくなり、外国人に抗弁をみとめ、遡及的な処分とならない在留資格取消処分が適用されるようになりました。
(3) 摘発―逮捕後に婚姻届を提出した日本人等と婚姻した在留資格のない外国籍配偶者
勝訴判例 (控訴審 )
@ 2007年2月22日福岡高等裁判所(原告敗訴の原審判決を控訴審で逆転勝訴、国の上告断念により確定)
逮捕後に婚姻届が提出された熊本県内在住の日本人妻と婚姻した在留資格のないナイジェリア籍夫の退去強制令書発付処分等取消訴訟
A 2007年11月21日東京高等裁判所判決(原告勝訴の原審判決を控訴審で維持、国は最高裁に上告許可申請中)
逮捕後に婚姻届を提出して日本人妻と婚姻した在留資格のないビルマ籍夫の退去強制令書発付処分等取消訴訟
(4) 敗訴判決確定後の再審により在留特別許可が認められた事例
ア、子どもがいる在留資格のない外国籍家族
@ 敗訴判決確定後に家族のうち子ども一人のみ再審により在留特別許可が認められた事例
2003年9月17日東京地方裁判所判決 (原審原告勝訴)、しかし、2004年3月30日控訴審で逆転敗訴、2007年10月10日最高裁の上告棄却で敗訴確定)
在留資格のないイラン人家族4人、両親と妹は退去強制され、長女のみ在留特別許可により定住者の在留資格が付与される。
A 敗訴判決確定後に家族全員が再審により在留特別許可が認められた事例
ア、2007年9月27日東京高等裁判所判決(原審原告敗訴、控訴審でも原告敗訴)
在留資格のないフィリピン人家族(父母と子ども一人)の控訴審判決文中の付言で「法務大臣への在留特別許可などの恩恵的措置及び児童の最善の利益の観点から検討されることを問う裁判所から期待したい」と記載あり、最高裁へ上告後に上告取下げ、東京入国管理局長に再審(情願)を申請したところ、2008年1月11日に家族全員に在留特別許可により「定住者」の在留資格が付与される。
イ、2007年9月13日東京高等裁判所判決(原審原告敗訴、控訴審でも原告敗訴)
朝鮮籍の特別永住者の在留資格をもつ子どもの親権を得て養育している、在留資格のないパキスタン人家族4人(父母と子ども二人)の原審・控訴審とも敗訴。最高裁へ上告後に上告取下げ、東京入国管理局長に再審(情願)を申請したところ、2008年2月27 日に家族4人全員に在留特別許可により「定住者」の在留資格が付与される。
イ、法務大臣などの「裁決の見直し」が行われる事由
退去強制令書が取り消され、在留特別許可が付与される「裁決の見直し」が行われる事由について、2006年2月4日の移住労働者と共に生きるネットワーク九州との意見交換会の場での福岡入管の回答は、以下のようなものでした。
「法務大臣は原則として裁決の見直しを行うことはありませんが、案件によっては、
@判決で裁決が違法であると判断された場合、A裁判所における審理の過程で新たな事
情が判明した場合、B裁決後に事情が変更し退去強制することが人道上過酷であるよう
な場合については、裁決の見直し、在留特別許可の可否について再検討する場合もあり
えます。」
なお、2007年度現在でも、入管の『違反審判要領』(P.60-P.61)においては、「法務
大臣は、原則として裁決の見直しを行うことはないが、案件によっては、判決によって裁決が違法であると判断された場合はもちろん、裁判所における審理の過程において新たな事情が判明した場合などは、裁決の見直し、在留特別許可の許否について再検討することもあり得る。なお、裁判が処分の違法性を争うものであり、処分時までに生じていた事情をもとに判断されることとなるので新たに判明した事情とは処分後に新たに生じた事情は含まない」と記載している。
福岡入管の回答にある「B裁決後に事情が変更し退去強制することが人道上過酷である
ような場合については、裁決の見直し、在留特別許可の可否について再検討する場合もありえます」は、上記で紹介した3つの敗訴判決確定に裁決の見直しが行われた事例は、裁決後の新たな事情を考慮しており、実際の入管の運用は、裁決後の事情を考慮するものに変わってきています。