元中国残留孤児井上鶴嗣さんの再婚した妻の娘2家族7人の退去強制問題報告―福岡高裁での文書提出命令をめぐる攻防に勝利して、10月18日口頭弁論の再開へ
中島真一郎
2004年7月15日
1、福岡高裁へ、文書提出命令のための第三者審尋手続きにはいる。
2004年4月12日に被控訴人から「文書提出命令に対する意見書3」が福岡高裁に提出されました。この意見書の内容は、被控訴人側が原審段階から繰り返し主張している、@在留特別許可についての法務大臣の裁量権が広範にあること、そして、A 法適用の平等違反の主張が失当であることを、2003年9月の東京地裁民事3部(藤山裁判長)のオーバーステイのイラン人家族の在留特別許可不許可処分を取り消した判決を、2004年3月30日にその判決を取り消す逆転判決を言い渡した高裁判決を証拠として新たに提出しただけで、これまでと同じ内容の繰り返しで、2003年6月の大阪入管から在留特別許可が認められた元中国残留孤児の入国手続きの提出書類の文書提出命令の各文書の証拠調べをする必要性がないと主張しているだけのものでした。また、提出によるプライバシーの問題については、同意書が提出された家族以外の第三者の個人情報保護の観点から文書提出命令の申立ては必要ないと主張するものでした。 4月26日福岡高裁より主任弁護人に連絡があり、「被控訴人の4月12日付準備書面は,意見聴取に対する回答ではなく,単なる意見書であり、福岡高裁は4月12日を期限に法務大臣に裁判所の専権として意見聴取を行い、4月13日に法務大臣からの回答があったこと、(主任弁護人が閲覧したところ、被控訴人の意見書の拒否回答とほぼ同じないようのものであったということでした。)そして、福岡高裁は、法務大臣回答を踏まえ、大阪入管へ民事訴訟法第223条2項の「裁判所は,第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には,その第三者を審尋しなければならない。」との規定にもとづき、書面審尋を現在行っている。文提命令申立に対する判断ないし次回期日の指定は,大阪入管からその審尋の回答があってからになる」ということでした。
福岡高裁が、2003年6月の大阪入管から在留特別許可が認められた元中国残留孤児の入国手続きの提出書類の文書提出命令に対して、大阪入管へ民事訴訟法第223条2項の「裁判所は,第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には,その第三者を審尋しなければならない。」との規定にもとづき、書面審尋を行ったということは、大阪入管の審尋の回答次第という可能性はありますが、大阪入管に対して文書の提出を命じる意思があることが推測されました。 控訴人側からも、福岡高裁に文書提出命令をださせるために、文書提出命令が証拠調べの上で必要不可欠であることと、被控訴人の主張する「第三者のプライバシー保護のためにも提出ができない」という場合の「第三者」について、求釈明を求める被控訴人(国)の意見書への反論を4月下旬に提出しました。
2、被控訴人(国)が大阪の類似ケース2家族の入国申請時の提出書類を、証拠として任意提出するも、その大半が黒く塗りつぶされていました。
2004年5月12日、被控訴人(国)から、2003年6月の在留特別許可が大阪入管から認められた類似のケース2家族の入国申請時の提出書類を、福岡高裁の文書提出命令がだされる危険を感じてそれを避けるために任意で証拠として提出がなされました。しかし、提出への同意書をすでにだしている当事者の2名の氏名や関連事項以外、他の氏名や関連事項は、ほとんど黒塗りの証拠ばかりで、元中国残留孤児の戸籍謄本にいたっては枠組み以外はすべて真っ黒で、立証のための証拠として使えないものばかりでした。
被控訴人(国)は、裁判所の提出命令がだされる具体的危険性を感じて、それを回避するために任意で提出してきたものと思われますが、同意書が提出された当事者の関連事項以外の「第三者」のプライバシーに該当する部分を黒塗りにして提出されており,ほとんど真っ黒の状態で、証拠として使えないものをだしてきたところに往生際の悪さを感じます。任意提出に追い込んだこと、裁判所が文書提出命令を本気で出す意向であると被控訴人が感じていることがわかったことは成果でした。
福岡高等裁判所から,5月13日、求釈明が双方に出されました。被控訴人に対しては、1991年当時の在留資格認定証明書不交付記録の保存期間を2年と定めた根拠となる規則等の証拠提出の求釈明、控訴人に対しては、2003年6月に在留特別許可が得られた類似ケースの入国申請者二人の同意書の作成の申請の立証方法をどうするかという求釈明でした。控訴人は、5月24日に求釈明への回答書を提出し、文書提出命令のために同意書の真正立証が必要な場合には、印鑑登録証の提出により真正立証することを伝えました。 被控訴人(国)も、5月31日求釈明への回答書と根拠となる規則などを提出してきました。
3、被控訴人が、同意書の真正立証された大阪の類似ケース2家族の入国申請時の提出書類関連箇所を明示して任意提出してきました。
2004年6月初旬、福岡高裁より次回口頭弁論期日の日程期日(6−7月の期間中)の打診が双方になされましたが、この日程はキャンセルとなり、福岡高裁の裁判官より、控訴人主任弁護人へ「同意書を提出した2名の真正立証を行うように」との意向が電話で伝えられました。控訴人として、「二人の同意書に印鑑登録済み証明書を添付して再提出をおこなう。」と伝えました。福岡高裁は、真正立証された同意書の再提出を待って、次回口頭弁論期日を決定することになりました。なお、6月11日に、「第三者」として黒塗りされていた申請者の父親(印鑑登録済み登録書を添付して)と母親の同意書を証拠として福岡高裁へ提出したところ、被控訴人(国)は、印鑑登録済み証明書の添付された父親の関連事項について明示した入国申請時の提出書類を証拠として再提出してきました。母親の同意書についても、6月下旬に印鑑登録手続きをしてもらい印鑑登録済み証明書を裁判所へ提出したところ、6月末に母親の関連事項についても明示した入国申請時の提出書類を証拠として再提出してきました。これにより、控訴人が要求していた証拠提出が実質的には実現したことになりました。福岡高裁の裁判官から、控訴人の主任弁護人へ「被控訴人の今回の証拠提出により文書提出命令の実質的な目的を達していると思われるので、取り下げしては」との意向打診があり、控訴人弁護団で協議した結果、7月8日文書提出命令を取り下げることになりました。これをうけて、福岡高裁は、次回口頭弁論期日を10 月18日(月)と指定してきました。文書提出命令をめぐる攻防は、2004年1月30日申立から5ヶ月あまりをへて、「文書提出命令の却下、口頭弁論再会即時結審」を主張していた被控訴人の期待は打ち砕かれ、被控訴人の任意での証拠の提出により、控訴人の実質的な勝利となり、第4回口頭弁論が10月18日に証拠調べの再開として行われることになりました。
次回第4回口頭弁論のご案内
時 2004年10月18日午後1時30分〜午後3時
(現時点の予定ですので、短くなることもあります。)
所 福岡高等裁判所 501法廷
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