資料 2007年2月22日福岡高裁第一民事部
控訴審判決の内容
被控訴人の主張 「必ずしも真摯な愛情のみに基づく婚姻と評価するに足りない」
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裁判所の判断 「控訴人と妻との婚姻がもっぱら控訴人の在留資格取得目的のためになされたものであると認めることは到底できない」
被控訴人の主張 「本件裁決までの婚姻関係等の経緯にてらし、夫婦としての実体が十分に備わっていたと評価することはできない」
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裁判所の判断 「確かに、本件裁決まで控訴人と妻との婚姻期間は約2ヶ月余りであり、交際期間を含めても約5ヶ月半という短期間であり、しかも、この間一度も同居したことはなかったものである。しかしながら、必ずしも婚姻期間の長短、同居の有無が婚姻関係の真摯性を判断するための決定的基準となるものではないし、また、上記時実を持って直ちに保護に値する夫婦としての実体が備わっていないということもできない。のみならず、本件裁決後の事情とはいえ、既に、9ヶ月余り同居し、又、婚姻期間も約2年近くなるものである。」
被控訴人の主張 「控訴人と妻との関係は、そもそも、控訴煮の不法残留の継続という違法状態の上に築かれた者であって、当然に法的保護に値するものではない」
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裁判所の判断 「しかしながら、憲法24条は、婚姻は、夫婦が同等の権利を有することを基本とし、相互の協力により維持されなければならないと規定し、また、日本政府が締結・B規約 23条も、家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有し、婚姻をすることができる年齢の男女が婚姻し、かつ家族を形成する権利は認められると規定していることに照らせば、日本国の国民が外国人と婚姻した場合には、国家においても当該外国人の在留状況、国内・国際事情などに照らし、在留を認めるのを相当としない事情がない限り、両名が夫婦として互いに同居、協力、扶助の義務を履行し、円満な関係を築くことができるようにその在留関係についても相応の配慮をすべきことが要請されているものと考えられる。」
イ 控訴人の帰国の影響
裁判所の判断 「控訴人の一人の帰国に限っていえば、――― 帰国しても生計を維持することは十分可能であり、特段の問題は、存しない。しかしながら、控訴人の妻の病気の状況などに照らせば、そもそも妻がナイジェリアまで無事と渡航できるのかはなはだ疑問であるし、仮に渡航できたとしても、言葉や文化も全く異なる異国の地で無事平穏に生活できるものでないことは明らかであり、他方、控訴人が一旦帰国した場合は、本邦への再上陸は事実上不可能と考えられるのであり、(控訴人は懲役1年以上の有罪判決が確定しているため、入管法5条1項4号所定の上陸拒否事由者に当たる)これらの点に照らせば、控訴人がナイジェリアに帰国を強いられることは、婚姻関係の決定的な破壊を意味し、妻と控訴人にとって極めて著しい不利益であることは論をまたないというべきである。
ウ、控訴人の在留状況
裁判所の判断 「確かに控訴人は、適法に本邦に入国したものの、在留期間が終了することを認識しながら、同期間経過後も本邦に残留したうえ、帰国のための費用相当額を貯めて帰国することが十分可能となってからも、不法残留を継続したものであって、強く非難されるべきは当然である。
しかしながら、控訴人が過去に強制退去をうけたことがないことはもとより、本邦に残留している間は、前記のとおり、まじめに就労し、生活をしていたものであり、不法残留の他に犯罪を行ったあるいは、これに準じる素行不良があったことを認めるに足りる証拠は無く、控訴人は本邦において概ね平穏に生活していたものということができるのであるから、不法残留の点を過大に評価するのは相当ではない。そして、控訴人において、他に、在留状況、国内・国際事情等にてらして在留を認めるのを相当としない事情があることは窺えない。」
エ、小活
以上の点を合わせて考慮すれば、被控訴人福岡入管局長がした本件裁決は、控訴人と妻の婚姻関係の実体についての評価において明白な合理性欠くものであり、また、前記のとおり、在留関係についても相当の配慮をすべきことが求められる両名の真摯な婚姻関係に保護を与えないものとなるのであって、社会通念にてらして著しく妥当性を欠くものであるから、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法があるというべきである。
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