オーバーステイ外国籍夫の退去強制令書発付処分取消訴訟で、東京高裁での勝訴判決のご紹介
20071121
  中島 真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

1、はじめに

東京地裁の勝訴判決は、入管側が東京高裁に控訴し、1回の審理で結審となり、20071121日に控訴審判決が、原告(オーバーステイの外国籍夫)勝訴の原審判決(東京地裁民事第二部 大門裁判長)を維持し、「被控訴人の本件請求は理由がなく、これを認容した原判決は正当であって、本件控訴は理由がない」として、控訴人(法務大臣)の控訴を斥けました。 (東京高裁 民事第23民事部安倍嘉人裁判長)
 オーバーステイ外国人夫と日本人配偶者のケースで、高裁レベルでの勝訴判決例は、20082月22日のナイジェリア人夫と日本人配偶者のケースで福岡高裁で逆転勝訴判決の例がありますが、東京高裁が原審判決(東京地裁)の維持する判決であれ、入管側の主張を退け、勝訴判決を言い渡したのは、初めてと思います。
 控訴審、それも東京高裁で入管側の法務大臣の広範な裁量論、司法審査の限界論など、これまで入管側の定番の主張を、東京高裁が斥けて、原審判決を維持する判決を言い渡しことは、大きな意義があります。

 

 2、東京地裁での勝訴判決

逮捕退令発付処分後に婚姻届がだされた日本人妻とオーバーステイの外国籍夫の退去強制令書発付処分等取消訴訟で、第1審の東京地裁で勝訴判決がでました。2007年6月14日、東京地裁民事第二部(大門 裁判長 )は、ビルマ籍(ミャンマー籍)の夫が原告として提訴した退去強制令書発付処分取消訴訟で「原告の請求を認め、処分を取り消す」との勝訴判決を言い渡しました。
 この訴訟は 「内縁関係に準ずる『真摯な共同生活」が存在する」か、否かについての事実認定が最大の争点で、入管側の住民地の登録の届けが異なるとか、同居していたとまでみなせないといった形式的主張に対して、裁判官が丁寧に「内縁関係に準じる真摯な共同生活が存在していたことを考慮しないまま判断された」という事実認定して、処分を違法として取り消しました。なお、この判決に対して被告は、東京高裁へ控訴しましたので、控訴審で争われていくことになります。

3、東京高裁第23民事部(安倍 嘉人 裁判長)の

勝訴判決の要旨

 

2007年11月21日 オーバーステイの外国籍の夫の退去強制令書発付処分取消等請求控訴事件判決の「当裁判所の判断」の要旨(重要部分)を紹介しておきます。

 

「第3 当裁判所の判断」の結論

当裁判所も,本件裁決は,被控訴人に在留特別許可を付与しなかった点におい

て裁量権を逸脱又は濫用したものといわざるを得ず,違法であって,違法な本件

裁決を基にされた本件退令発付処分も違法であるから,これらの処分はいずれも取消しを免れないのであつて,被控訴人の本件請求は理由があるから,認容されるべきものであると判断する。

  (  ―――中略―――  )

 

コメント  中島

 

控訴審の控訴人(国)の主張は、事実認定の誤りについての主張を除くと以下の2つでした。これまでも繰り返し、在留特別許可の不許可とした法務大臣の裁決の正当性を根拠付ける入管側の「法務大臣の広範な裁量権論」及び「裁量処分の司法審査の限界論」の主張を、この東京高裁判決は明確に斥けています。この高裁判決が確定すれば、入管側の従来の形式論理ではなく、司法審査に当たっては、「真摯な愛情に基づく婚姻の実態や、家族の結合の実態の有無」を、具体的な事実経過を審理し,これを踏まえて,在留特別許可を付与しなかった判断の結論を左右するだけの重要な事実として認められるか否かにより、国の不許可処分が、裁量権の逸脱又は濫用に当たるかどうかが判断されることになります。

 

2005年3月7日福岡高裁判決(中国残留孤児の妻の婚姻前の娘2家族7人のケース)や、2007年2月22日の福岡高裁判決(オーバーステイのナイジェリア籍の夫のケース)の勝訴判決などの判例の流れを踏襲するものですが、入管側の司法の拠り所であった東京高等裁判所で、同終始の判決が言い渡されたことに画期的意味があります。

 

 今後、オーバーステイ外国人配偶者や、オーバーステイ家族など、法務大臣等の裁決(在留特別許可の不許可)処分と退去強制令書発付処分など取消請求を争う訴訟では、 「真摯な愛情に基づく夫婦の実態」や「真摯な愛情に基づく家族の実態」を具体的な事実経過にそって立証していけば、法務大臣等の処分が裁量権を逸脱・濫用した違法なものとして取り消される判例を勝ち取ることがより可能となっていきます。

 

追記  2008年12月4日に、控訴人(法務大臣)は、最高裁判所へ上告許可を申請していることがわかりました。本件東京高裁判決は確定せず、最高裁判所で、その是非が争われることになりました。

 

1  在留特別許可についての法務大臣の裁量権について、

 

 「控訴人」(法務大臣)は,

 

「在留特別許可を付与しないという法務大臣等の判断が裁量権の逸脱又は濫用に当たるとして違法とされるような事態は容易に想定しがたく,極めて例外的にその判断が違法となり得るとしても,それは,法律上当然に退去強制されるべき外国人について,なお我が国に在留することを認めなければならない積極的な理由があったにもかかわらずに看過されたなど,在留特別許可の制度を設けた法の趣旨に明らかに反するような極めて特別な事情が認められる場合に限られるというべきである」と主張するが,

 

〔当裁判所〕

「入管法50条1項の規定に照らしてもそのように解さなければならない理由はない。」

 

2  裁量処分に対する司法審査について、

「控訴人」(法務大臣)は,

「裁量処分に対する司法審査は,処分をした行政庁と同一の立場に立って行政庁の判断に置き換えて結論を出すことではなく,あくまでも行政庁の裁量権の行使としてされたものであることを前提として,その判断要素の選択や判断過程に著しく合理性を欠くところがないかどうかを審査すべきものであるところ,原判決は,東京入国管理局長と同一の立場に立って裁量判断をしたに等しい」と主張する。

 

 

{当裁判所}

「本件裁決・決定書においては,在留特別許可を付与しない理由としては『在留を特別に許可すべき事情は認められない。』と記載されているのみであり,その実質的な理由が明らかにされていないのであるから,この裁量判断が裁量権の逸脱又は濫用に当たるかどうかを司法審査するに当たっては,いきおい具体的な事実経過を審理し,これを踏まえて,在留特別許可を付与しなかった判断の結論を左右するだけの重要な事実が認められるのか,

また, この事実を前提とした場合には当該結論が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるといい得るかを検討せざるを得ず,その過程で在留特別許可に関する積極要素と消極要素を審理検討することもまた必然であるというべきである。」

そして,現に,原判決は,上記のような審理を経て,本件裁決は被控訴人と(その妻)との「真しな共同生活」の存在を考慮に入れないまま判断に至ったものと認定した上,このような本件裁決は,その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとしているのであって,この判断手法を論難する控訴人の主張は理由がない。」

 

4 結論

 

よって,被控訴人の本件請求は理由があり,これを認容した原判決は正当であって,本件控

訴は理由がない。

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