外国人原告が勝訴を確定する最高裁決定が初めてあらわれました。
2009年9月17日 中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
1、原審(東京地裁)、控訴審(東京高裁)で外国人が勝訴し、国が最高裁に上告受理を申立てた最初のケースです。
逮捕後に婚姻届を提出した在留資格のないビルマ籍夫の退去強制令書発付処分等取消請求訴訟は、2007年6月14日に東京地裁で勝訴しました。国が控訴し、控訴審の東京高等裁判所も、同年11月21日原告勝訴の原審判決を支持し、控訴を棄却する判決を言い渡しました。これに対して、2007年12月に国は最高裁に上告受理申立をしました。国は、2008年2月15日上告受理申立理由書を提出しました。
これまでは、下級審でまれに国が敗訴しても、控訴や上告せず確定させるか、下級審で和解して終結させており、最高裁の判例としてあるものは、外国人が下級審で敗訴し最高裁へ上告、上告受理申立を行い、最高裁で民事訴訟法上の上告事由や、上告受理事由がないとして退けられたものばかりでした。
それ故、国も、このビルマ人夫の上告受理理由書(以下、理由書)では、過去の東京地裁や東京高裁判例などを引用し、それを追認した最高裁の判例を引用しますが、内容を判断した最高裁判例は引用していません。
日本人配偶者と在留資格のない外国人配偶者のケースで、上告受理が認められ、内容判断されて最高裁で棄却された判例はこれまで存在していません。退去強制令書発付処分等取消請求訴訟で、国が敗訴して最高裁へ上告受理申立をしたのは、このビルマ人夫の東京高裁判決が最初となります。
2、最高裁(第三小法廷)が、国の上告受理申立を受理しないという決定を行う。
国(法務省入国管理局)が、東京地裁(2007年6月14日)そして、東京高裁(同年11月21日)で敗訴し、最高裁へ上告受理申立(同年12月)を行ったビルマ人夫の退去強制令書発付処分取消等請求上告受理申立事件( 平成20年 (行ヒ)第64号)で、最高裁判所第三小法廷(堀籠 幸男 裁判長裁判官)は、以下のような決定を行いました。
裁判官全員一致の意見で、次のとおり決定。
第一 主文
1、本件を上告審として受理しない
2、申立費用は申立人の負担とする
第2 理由
本件申立の理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。
平成21年9月15日
最高裁判所第三 小法廷
裁判所書記官 三枝 かほる。印
この事件の国の上告受理申立理由書の提出が、平成20年1月23日でしたので、それから1年8ヶ月弱経過していました。
この結果、相手方となる外国籍夫(及び日本人妻)にとって、2005年の夫の逮捕から約4年近くをへて、ようやく勝利し、適法化された日本での夫婦の同居が実現することになりました。
3、本件最高裁判決定の意義
1、 退去強制令書発付処分取消等請求訴訟で、外国籍の原告(一審)が勝訴した最初の判例となること。(法務省入国管理局にとって、入管の不許可処分を追認してくれた「守護神」ともいえる東京高裁、そして最高裁判所の「厚い壁」を破って勝訴できたこと。)
2、これまでの法務省入国管理局の入管法第50条1項の主張を真っ向から否定した東京高裁判決を最高裁判所が追認し、確定することになること、
2007年11月21日東京高裁第23民事部(安倍嘉人裁判長)判決の判断の紹介
@ 在留特別許可についての法務大臣の裁量権について、
控訴人」(法務大臣)は,
「在留特別許可を付与しないという法務大臣等の判断が裁量権の逸脱又は濫用に当たるとして
違法とされるような事態は容易に想定しがたく,極めて例外的にその判断が違法となり得るとしても,それは,法律上当然に退去強制されるべき外国人について,なお我が国に在留することを認めなければならない積極的な理由があったにもかかわらずに看過されたなど,在留特別許可の制度を設けた法の趣旨に明らかに反するような極めて特別な事情が認められる場合に限られるというべきである」と主張するが,
〔当裁判所〕
「入管法50条1項の規定に照らしてもそのように解さなければならない理由はない。」
2 裁量処分に対する司法審査について、
「控訴人」(法務大臣)は,
「裁量処分に対する司法審査は,処分をした行政庁と同一の立場に立って行政庁の判断に置き換えて結論を出すことではなく,あくまでも行政庁の裁量権の行使としてされたものであることを前提として,その判断要素の選択や判断過程に著しく合理性を欠くところがないかどうかを審査すべきものであるところ,原判決は,東京入国管理局長と同一の立場に立って裁量判断をしたに等しい」と主張する。
{当裁判所}
「本件裁決・決定書においては,在留特別許可を付与しない理由としては『在留を特別に許可すべき事情は認められない。』と
記載されているのみであり,その実質的な理由が明らかにされていないのであるから,この裁量判断が裁量権の逸脱又は濫用に
当たるかどうかを司法審査するに当たっては,いきおい具体的な事実経過を審理し,これを踏まえて,在留特別許可を付与しなかった判断の結論を左右するだけの重要な事実が認められるのか, また, この事実を前提とした場合には当該結論が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるといい得るかを検討せざるを得ず,その過程で在留特別許可に関する積極要素と消極要素を審理検討することもまた必然であるというべきである。」
そして,現に,原判決は,上記のような審理を経て,本件裁決は被控訴人と(その妻)との「真しな共同生活」の存在を考慮に入れないまま判断に至ったものと認定した上,このような本件裁決は,その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとしているのであって,この判断手法を論難する控訴人の主張は理由がない。」
本件事件の概要や詳細は、コムスタカー外国人と共に生きる会のホームページの出入国関連行政訴訟の項目の以下の記事をお読み下さい。
(最初のページ http://www.geocities.jp/kumustaka85/ )
○「オーバーステイ外国籍夫の退去強制令書発付処分取消訴訟で、東京高裁での勝訴判決のご紹介」
○ 入管法違反で逮捕後に婚姻届を提出したビルマ人夫の退去強制令書発付処分等請求
注目される最高裁第三小法廷の判断――― 国の上告受理理由書への批判
コメント
(1) 国が最高裁へ上告受理申立をした事情
私がかかわった2005年3月7日の中国残留孤児の妻の娘2家族7人の福岡高裁判決や2007年2月22日のナイジェリア人夫の福岡高裁判決が一審の判断を取消す逆転勝訴判決でしたが、国は最高裁への上訴を断念していました。これに対して、本件では、国は、はじめて最高裁へ上告受理申立をしました。なぜ、本件について国が上告受理し立てをしたのか、その理由が、上告受理申立理由書から推測できます。
国の敗訴判決が、国の「守護神」といえる東京高裁判決であること、この判決文が、事例内容に沿った判断をしただけでなく、以下のように入管の法50条1項の在留特別許可に係る法務大臣など裁量権に関する主張を、これまで東京高裁判決や最高裁判決でも追認してくれていたのに、正面から判決文で否定する判断をしたことに、我慢がならなかったということではないでしょうか。(このあたりの感情は、国がその理由書のなかで、同種の事例の過去の判例として、あてつけのように最高裁第三小法廷の過去の判例を多数引用しているところにもあらわれています。)
この最高裁の決定により、従来の国(法務省入国管理局)の入管法第50条1項の解釈
「法務大臣の広範な裁量権論」及び「裁量処分の司法審査の限界論」を否定した東京高裁の判決が確定し、それを最高裁が追認しました。
(2)最高裁の決定による東京高裁判決の論理が確定したことの意義
これまでも繰り返し、在留特別許可の不許可とした法務大臣の裁決の正当性を根拠付ける入管側の「法務大臣の広範な裁量権論」及び「裁量処分の司法審査の限界論」の主張を、この東京高裁判決は明確に斥けています。
この高裁決定により、本件東京地裁判決、国の控訴を棄却した東京高裁判決が確定、入管側の従来の形式論理ではなく、司法審査に当たっては、「真摯な愛情に基づく婚姻の実態や、家族の結合の実態の有無」を、具体的な事実経過を審理し,これを踏まえて,在留特別許可を付与しなかった判断の結論を左右するだけの重要な事実として認められるか否かにより、国の不許可処分が、裁量権の逸脱又は濫用に当たるかどうかが判断されることになります。
2005年3月7日福岡高裁判決(中国残留孤児の妻の婚姻前の娘2家族7人のケース)や、2007年2月22日の福岡高裁判決(オーバーステイのナイジェリア籍の夫のケース)の勝訴判決などの判例の流れを踏襲するものですが、入管側の司法の拠り所であった東京高等裁判所で、同趣旨の判決が言い渡されたことに画期的意味があります。
今後、オーバーステイ外国人配偶者や、オーバーステイ家族など、法務大臣等の裁決(在留特別許可の不許可)処分と退去強制令書発付処分など取消請求を争う訴訟では、 「真摯な愛情に基づく夫婦の実態」や「真摯な愛情に基づく家族の実態」を具体的な事実経過にそって立証していけば、法務大臣等の処分が裁量権を逸脱・濫用した違法なものとして取り消される判例を勝ち取ることがより可能となっていきます。