日本人父親の婚内子として出生しながら、
日本国籍を取得できない国際児の問題 (その3)
中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
日本人父とフィリピン人母の婚内子として国外で出生し、3ヶ月以内の国籍留保手続きが行われず国籍を喪失した、フィリピン在住の日比国際児の認知審判問題 |
日本国外で出生し、3ヶ月以内の国籍留保手続きが行われず、日本人の婚内子でありながら日本人父の
戸籍に載らない日比国際児のケースについて、日本人父親が子であることを認め、調停に出席したケースですが、
日本人父親の戸籍に載らないので、その代わりに日本人父との親子関係を証明する公文書として、
家裁に認知の調停を申し立てて事例。
1、認知の審判決定が認められた事例(2000年3月 熊本家裁)
2000年3月熊本家裁は、日本人父親が調停に出席し、子の認知に合意し、かつ証拠として
ABO式の血液検査結果を母子と父親が提出したことで、認知を認める決定をしました。
「フィリピン家族法164条1項によれば、母と相手方の嫡出子とされるが、同法166条
(一定の事由がある場合に、嫡出性を争うことができる。)により反証をあげて争う余地があることが認められ、
あらかじめ嫡出親子関係を確立する必要がある場合は、同法172条1項2号により公文書による嫡出親子関係の
認諾ができるから、民法上認知が認められると解される」と当事者の合意に相当する認知審判を決定しました。
2、認知の審判決定がなされなかった事例(2005年7月 大阪家裁)
「申立人は、相手方の嫡出子と認められる(フィリピン家族法164条1項(父母の婚姻中に懐胎,
又は出生した子は、嫡出子とされる。)、法例17条1項(夫婦の一方の字本国法によって子が嫡出であるときは、
その子は嫡出子とされる。)、フィリピン家族法172条1項[嫡出子の父子関係は、登録所で出生登録することや
公文書などによる父母の自認によって生じる])。そして、相手方は、申出人の出生後まもなくその事実を知ったのである
から嫡出否認の訴えは、子の出生若しくは出生登録の事実明らかになった日から3年以内に提起しなければならないとする
フイリピン家族法の規定(同170条2項)からして、もはや相手方において子である申立人の嫡出性を争うことはできない。
そうすると申立人は、国籍留保手続きをとらなかったことから日本国籍を喪失したとはいえ、相手方の嫡出子であることは
明らかであって、更に相手方を認知する法的余地はないことになる。よって、当時者間に相手方を認知する合意が成立し、
かつ原因たる事実関係についても争いがないが、本件調停が成立しないものとして本件を終了させるのが相当である。」と
認知の調停申立を不成立としました。
大阪家裁のケースは、養育費の調停に相手男性が途中欠席し続けるなど時間がかかりましたが、養育費の支払いが
2005年5月に調停合意となり、同月より養育費の支払いがはじまりました。なお、フィリピンで出生し3ヶ月以内の
国籍留保手続きが行われず、日本国籍を取得できない日比国際児のケースでしたが、父親の戸籍に載らないことを
承知の上で公文書として裁判所の認知の決定をえるため認知の調停も申し立てました。この調停は、2005年7月に
「子が婚内子であることが明らかで、相手方は『嫡出性』を争うよちがない」ためという理由書をつけてくれて、
不成立となりました。
認知の調停は、以上の理由により不成立となりましたが、調停不成立調書に「相手方の嫡出子であることは明白」と
上記の理由を書いた理由書をつけてくれたため、日本人父親の戸籍に載らない代わりに、認知の審判決定書でなくとも、
調停不成立調書が父子関係を証明する公文書の役割を果たすこととなり、目的は達しました
コメント
日本人父親の婚内子でありながら戸籍に記載されない日比国際児の問題は、将来相続問題等が生じた時に戸籍に
記載されていないので、無視される危険性があります。 この問題は、国籍留保制度は廃止するか、その期間を
現在の3ヶ月間から長期の期間に延長する、あるいは日本国内で出生した婚内子が14日以内に出生届を提出
しなければならないと規定され、正当な理由のない遅延についても出生届は受理され、罰則として過料が課される
ことになっているのと同様に、国籍留保手続きの要件である3ヶ月が経過しても受理して国籍を認め、遅延したこと
について過料などの罰則を課すようにすることで解決すべき問題です。いずれにしろ国籍法の改正が必要になってきます。