2004年度から人事手続法と
改正民事執行法が施行されました。
中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
1、日本に住所のない日比国際児の認知訴訟の裁判所の管轄が、
2004年度から日本人父親の住所地の家庭裁判所で提訴できるように変わりました。
2004年4月1日からは2003年7月に成立した人事訴訟法が人事訴訟手続法にかわり施行されました。
離婚や認知などの人事訴訟について、これまで地方裁判所で提訴しなければなりませんでしたが、
2004年度からは家庭裁判所に提訴することに変わりました。(調停申立は、従来どおり家事審判法で、
原則として相手方の住所地の管轄の家庭裁判所への申立となります。)
これに伴い、日比国際児とその法定代理人である母親がフイリピンに在住しており、父親の住所が日本にある場合に、
子の認知の調停申立は、父親の住所地の家庭裁判所が原則として管轄裁判所となりますが、調停が不成立となった
場合の子の認知訴訟は、これまでの人事訴訟手続法と最高裁判所規則により東京地方裁判所でしか提訴できませんでしたが、
父親の住所地の家庭裁判所で提訴できることになりました。
日比国際児問題で懸案であった「父親の住所地の地方裁判所ではなく、
東京地方裁判所でしか提訴できないという裁判所の管轄問題の壁」がなくなることになりました。
人事訴訟法 第4条 (人事に関する訴えの管轄)
「1項 人事に関する訴えは、当該訴えに係わる身分関係の当事者が普通裁判籍を有する地又はその死亡の時に
これを有した地を管轄する家庭裁判所の管轄に専属する。
2項 前項の規定による管轄裁判所が定まらないときは、人事に関する訴えは最高裁判所規則で定める地を
管轄する家庭裁判所の管轄に専属する。」
最高裁第一小法廷(小野幹雄裁判長裁判官)の特別抗告棄却決定 1998年11月30日
大分県内在住の日本人男性に対する依頼のケースで、相手男性は任意交渉も拒否し家庭裁判所の調停にも出席せず、
日本に住所のない子の認知訴訟を1998年12月に大分地方裁判所に提訴しました。1999年4月大分地方裁判所は、
日本に住所も居所もない子の認知訴訟の裁判管轄は東京地方裁判所にあるとして、大分地方裁判所から東京地方裁判所に
移送を決定しました。この決定に対して、福岡高等裁判へ抗告しましたが棄却され、最高裁判所へ抗告受理申し立てと
特別抗告しました。福岡高裁は抗告受理申立を不許可としたため、憲法第32条裁判を受ける権利に違反するという内容を
主とする特別抗告だけとなりました。最高裁判所は、1998年11月30日特別抗告を「いかなる裁判所において裁判を
うけるべきかの裁判所の組織・権限・審級などについては、憲法第81条の規定するところを除いて立法政策の問題
であって、所論指摘の点が憲法32条に違反するものではないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和23年(れ)
第281号同25年2月1日大法廷判決・刑集四巻二号八八頁)の趣旨に照らしてあきらかであるから、
論旨は理由がない。」として棄却し、日本に住所のない日比国際児の認知訴訟は東京地方裁判所でしか提訴
できないことが確定しました。この結果、東京以外に在住する父親を相手とする子の認知訴訟を起こすには、
養育費の家庭裁判所での調停・審判まで考慮すると事実上被告の住所地の地元の弁護士と東京の弁護士の
最低二人の弁護士に代理人を依頼して裁判をになう体制を作らないと認知訴訟を担えないことになりました。
相手男性の住所地の裁判所ではなく東京地方裁判所にしか提訴できないとする人事訴訟手続法や
最高裁判所規則の不当性は明らかで、救済を求めている多くの日比国際児問題の解決に大きな壁となっていました。
人事訴訟法の成立により、この壁がなくなりました。
2、2004年度から 養育費の不払いが生じた場合に、1回の差し押さえ請求で、給与などから天引きできることになりました。
調停などで合意した養育費の未払いがあっても滞納した過去の分しか強制執行の対象とならず、滞納分をそのつど
差し押さえないといけませんでした。2003年の民事執行法の改正により、2004年度より、一部不履行が
あるときには、養育費の将来分も債権執行の対象とすることができるようになり、1回の差し押さえ申し立てだけで、
以後父親の給料日に他の債権に優先して確定した養育費を受け取ることができるように変わります。
(但し、給与のない父親に対しては、改正のメリットが生じないので、将来的に政府や自治体が父親に
かわって支給し、税金と同様に父親から取り立てる制度の導入が必要と思われます。)
民事執行法 第151条の2 (扶養義務等に係わる定期金債権を請求する場合の特例)
「1項 債権者が次に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権を有する場合において、
その一部に不履行があるときは、第30条第1項の規定にもかかわらず、当該定期債権のうち確定期限が
到来していないものについても、債権執行を開始することができる。
一、民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
二、民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
三、民法第766条(同法第749条、第771条、及び第788条において
準用する場合を含む)の規定による子の監護に関する義務
四、民法第877条から第880条までの規定による扶養の義務
2項 前項の規定により開始する債権執行においては、各定期債権についてその確定期限の
到来後に弁済期が到来する給料その他継続的給付にかかわる債権のみ差し押さえることができる。」