報告 未払い賃金など求め提訴 中国籍の女性農業実習生
2008年4月10日 中島 真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
2008年2月に、社団法人・熊本県国際農業交流協会(青木 積会長 以下、協会)が
外国人研修・技能実習制度の第一次受入れ団体となって、熊本県阿蘇市内の農家で技能実習を
おこなっていた中国籍の女性技能実習生3名が助けを求めて逃げてきました。在住外国人等の
無料の人権相談をおこなっているNGOのコムスタカー外国人と共に生きる会と、個人でも加盟
できる労働組合である地域労組・ローカルユニオン熊本が、彼女達から相談をうけました。
彼女達は、残業が禁止されている1年目の研修時に長時間の残業させられていたこと、2年目の技能実習時に、
最低賃金を下回る時給で残業させられていたことや、禁止されている他の農家への二重派遣が行われるなど、
法務省入国管理局が定める「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」で禁止されている様々な
「不正行為」や労働基準法などの法令違反の過重労働を強いられていたことがわかりました。
彼女達は、労働組合であるローカル・ユニオン熊本に加盟して、第一次受け入れ機関である協会及び
受け入れ農家と、未払い賃金や残業代や慰謝料などを求めて、団体交渉をこれまで数回重ねてきました。
しかし、同協会も「法令違反」や「不正行為」があったことは認めていますが、合意解決に至りませんでした。
彼女達3名は、2008年4月9日熊本地方裁判所へ、協会、受け入れ農家2件、研修や技能実習の実施機関を
指導・監督している国際研修協力機構(JITCO)を被告として、未払い賃金や逸失利益や慰謝料等の一人
当たり総額653万円から659万円支払請求を求めて提訴しました。
技能実習生による訴訟の提訴は、2007年12月に熊本県天草市内の縫製工場で実習していた
中国籍の技能実習生4名が、第一次受け入れ機関である組合と受け入れ企業、国際研修協力機構(JITCO)を
被告として、熊本地裁において係争中であるが、それにつぐ熊本県内では2例目の提訴となります。
同日午前11時に熊本地裁前で、提訴前の門前集会を、原告、弁護団、支援者30名らの参加で行いました。
訴状提出後、裁判所敷地内にある弁護士会館で記者会見がおこなわれ、熊本県内司法記者クラブ加盟の
マスメデイアは全社が参加し、報道しました。
また、同日午後3時より、熊本県庁へいき、受け入れ団体の国際農業交流協会への実態調査と公益法人
の認可取り消しなどを求める潮谷義子熊本県知事宛の申し入れ書を、ローカルユニオン熊本と、
コムスタカー外国人と共に生きる会へ提出しました。県農林水産部農業経営課の職員4名が応対し、
「今年2月下旬頃の協会が問題を抱えていることをしり、3月の特別検査を行い、いくつかの改善指導
をしており、協会に対して1ヵ月後の5月連休明け頃に回答してもらう。現段階では、判断できる資料をもたないが、
その回答や労基署や入管の対応を見て、公益法人の適格性についても判断していく」という回答がありました。
今後、被告に対して訴訟での解決をめざすととともに、入管に対して農業技能実習生3名の在留資格
の更新問題や、協会などの受け入れ団体に対する「不正認定」問題、熊本県に対する
公益法人の認可取消問題など、公的機関についても、その責任を追求して解決をめざしていくことになります。
追記 熊本県農業国際交流協会の過去の研修生途中帰国問題
社団法人である協会(田浦宗嗣会長 当時)は、1993年夏に、中国人とフイリピン人研修生約
50名が、「人権侵害と待遇の改善」を訴えて研修途中で集団帰国する事件を引きこしました。
その際、福岡入国管理局は、「研修目的以外の労働があった」と認定し、研修中の他の外国人研修生も
帰国指導し、この研修事業は一時中断させられました。熊本県も、同協会への立ち入り検査を行い、
「公益法人である同協会の事業が研修生受け入れ事業に偏重していること、協会の収入財源の
9割以上が受け入れ農家の負担金であることなど公益性の欠如があることを指摘して改善指導しました。
同協会(上野慶一会長 当時)の研修生受け入れ事業は、その3年後に再開されました。しかし、
再開された1997年に、タイ人研修生が「単なる農作業ばかりで学科指導や説明もなく、
長時間労働と休日も少ない」と待遇と研修内容への不満を訴え、コムスタカー外国人と共に
生きる会に相談があり、入国管理局と熊本県へ調査を申し入れました。
その結果、福岡入国管理局は、「研修計画と相違がある」として、同協会から
申請のあった半年間のビザ延長を不許可としてタイ人研修生は全員帰国しました。
同協会に年間30万円の補助金を交付している熊本県も公益法人監査調査で、
同協会の調査に着手し、改善指導しました。
このように同協会が受け入れ機関として行っている研修―技能実習制度が
「不正行為」や「法令違反」があるとして問題が表面化しただけも、今回で3回目です。
同協会は、研修―技能実習生受け入れ事業を「国際交流」の美名の下でおこなっていますが、
その実態は、会員農家の労働力不足を補うための違法な外国人労働者の就労斡旋事業にすぎません。