中国駐福岡総領事館訪問と、「研修生―技能実習生」問題についての意見交換会報告
2008年10月16日
中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
一、はじめに
熊本県玉名市横島町の縫製企業で働く中国人技能実習生12名の問題が、熊本労働局職員及び
中国駐福岡総領事館の領事の立会いの下、9月19日の示談書や協定書締結により無事解決に至りました。
この事件が和解解決に至った一つの要因として、実習生の権利の擁護にむけた中国総領事館の領事の取組み
がありました。領事館の領事より、「この事件が解決したら、その報告と研修生―技能実習生問題についての
NGOの意見を聞かせてください。」といわれていました。9月下旬に、中国駐福岡総領事あてに、九州内の
研修生―技能実習生問題のケース報告と意見交換及び中国政府への要望を伝える目的で訪問と意見交換会を
申し込んでいました。9月27日から10月5日まで中国の国慶節期間中で領事館業務が休みのため、
回答が遅れましたが、10月7日に回答がきて、10月10日(金曜日)午後2時からと日程が決まりました。
2008年10月10日は、NGO側から「コムスタカー外国人と共に生きる会より2名、くまもと
レインボープロジェクトより1名、アジアに生きる会・ふくおか より1名、そして、現在、熊本県阿蘇市の農家
などを被告として訴訟中の中国人農業実習生3名:の計7名が参加しました。
領事館側は、トーチューイ次席領事(総領事に次ぐ地位にある)、通商経済部の2名の領事の計3名の参加でした。
途中、次席領事が、領事館業務のため1時間ほど中座しましたが、午後4時半までの約2時間半、
話し合うことができました。
二、 日本のNGO側から、以下の3つの議題で報告や問題提起をしました。
1、九州内の3つのケースの報告
@熊本県玉名市横島の縫製企業中国人女性実習生12名の問題
(2008年7月から9月までの取組みで解決した事例)
A 福岡県内の縫製企業で働く中国人女性技能実習生の問題
(2008年6月から7月までの取組みで解決した事例)
B 熊本県阿蘇市の農家らを被告として裁判係争中の中国人女性技能実習生
の問題については、支援者と当事者の実習生3名が直接の体験を話しました。
2、 研修―技能実習生制度の問題、特に、中国側送り出し機関(派遣企業)の問題点
募集時点での高額な保証金制度、日本側受け入れ機関との時給300円などの違法な(裏)協定の存在、
帰国後の違約金や担保制度、日本側受け入れ機関などに中国側送り出し機関による違法な接待が
おこなわれている実態があることなど)について、指摘しました。
3、中国領事館及び中国政府への要望事項
@ 中国政府が、「研修生―技能実習生の訴えが、合法的かつ合理的な内容を持つ場合には、
その権利擁護の立場で取り組む」ことの公的な表明をしてほしい。
A 在日中国領事館に、研修生―実習生からの相談に、研修生―実習生の権利擁護の立場で
対応する相談窓口を設けてほしい。(その場合、通商経済の担当領事でなく、人権―労働問題担当
の領事を設けて対応してほしい)
B 中国政府として、日本側受け入れ機関や企業と違法な協定を締結して研修生―技能実習生を
派遣している中国側送り出し機関(派遣企業)に対しての規制、取締りを強化し、適法な派遣事業に
かわるようにしてほしい。」など
三 中国領事館側の意見と回答
次席領事より、「熊本県玉名市横島の技能実習生の問題については、日本のNGOの方々が、
中国人研修生―技能実習生問題の権利の回復のため、真剣に取り組まれ、その解決にご尽力されたことに、
当該実習生やその家族も本当に感謝していることおもいますし、中国領事館としても、感謝申し上げます。
個人的にも、一日本国民として、彼女たち12名の権利利益のためにわがことのように取り組んでおられる姿に接し、
本当に感動しました。改めて、御礼と感謝の気持ちを申し上げます。」とのお礼とねぎらいの挨拶がありました。
領事館として、中国から日本へ来る中国国民のなかで、『研修生―技能実習生』と『就学生』の存在に注意と
関心を抱いています。それは、これらの人々が、もっとも人権を侵害されやすい弱い立場にあるからです。福岡総領事館
では、総領事が九州7県をすべて訪問する企画を実行し、そこで実際に研修や実習先の企業を訪問し、研修生―実習と
あって意見を聞き、領事の名刺を渡して、相談したいことがあれば相談してくれるように伝えています。
研修生―技能実習生の問題には、7−8年前から心を痛めていました。そして、解決に至った今回
の玉名市横島の実習生の問題を通じて感じることは、以前に比べて、日本社会でのこの問題での社会的関心が高まり、
日本のマスメデイアが大きく取り上げるようになったこと、研修生―実習生の権利意識も、グローバリーゼーションの
影響もあると思いますが、飛躍的に高まってきたことです。
中国政府も、今年1月より労働法を施行し、労働者の権益擁護を国の政策とし
て取り組んでいますし、違法な派遣業務を行う企業に対する規制や処分を強化しています。ただ、日本国内で発生する
研修生―実習生の権利侵害事件の解決には、当事者の権利意識の高まりが必要ですが、中国領事館がこの問題の解決できる
ためにできることにも様々な制約があり、日本側の公的機関(入国管理局や厚生労働省)との連携が必要です。中国政府と
日本政府の間で毎年1回定期協議が開かれており、その場で必ず『研修生―技能実習生』問題が議題の一つとして取り上げ
られています。また、皆さん方のようなNGOなどの民間団体との協力も必要と思います。」と総論的な立場表明がありました。
次に 私たちの中国政府についての3つの要望についても、以下のような回答がありま
した。
@について、「中国政府として、海外で働く、または移住する国民に対して、その権利利益を擁護するために、
様々な案内や注意、そして、トラブルに巻き込まれた時の対処法や各国の領事館など相談先を記載した
ガイドブックを配布して作成しています。その中に中国政府の基本的立場を表明し、公表しています。」そして、
青色のパンフレット「中国領事 保護和協助指南」(2007年版 中華人民共和国外交部)をもらいました。
Aについて、「駐福岡総領事館では、研修生―実習生からの相談について、外交―人権担当の次席領事、
通商経済部の領事で対応するようにしています。また、今後、皆さん方、日本のNGOの方々との連絡
をとりあうようにしていきたい」と考えています。
Bについて、「玉名市横島町の実習生の問題でも、彼女らから事情を聞いて、すぐに中国中央政府に
報告書を送ったところ、中央政府から浙江省地方政府に指示がいき、浙江省地方政府からの派遣企業へ
派遣業務の一時停止の処分が下されるなど、中国政府として違反や違法行為をおこなっている企業の取り
締まりをおこなっています。」 という回答でした。
最後に、今後相互に連絡・協力しながら、日本国内、九州内で多発している「研修生―実習生への労働・
人権侵害問題」の解決へ向け取り組んでいくことを確認して終わりました。
コメント、
初めての中国領事館との意見交換会でしたが、中国領事館や中国政府が、どちらかというとこの問題に無関心か、
送り出し機関や受け入れ機関双方の企業側に立っているというこれまで私たちの印象から、公的に研修生や実習生
の権利擁護の立場で取り組むという方針に立っていることを確認できたこと、その共通基盤のうえにたって、
具体的なケースの解決を通じて今後連絡協力関係を築いていける可能性が見出せたことは、大事な第一歩と
なりました。
追記
「中国人技能実習生12名の事件」については、2008年9月25日発売の在日
中国人向けの新聞(週刊 毎週木曜日発刊)『東方時報』と『中文道報』に写真入で
掲載されました。
また、2008年9月20日付で、中国駐福岡総領事館のホームページに
以下のような記事が掲載されています。
9月19日,浙江东方集团股份有限公司所派12名研修生与日方雇主熊本县“Ra∙Mail”和“
Shiesu企画”两公司及熊本县社会市场协同组合就劳资纠纷达成和解,雇主及组合同意
就拖欠工资和加班费向研修生做出经济补偿,双方当日签署了和解协议。根据协议,
5名研修生返“Ra∙Mail”复工,其余7人将于9月21日乘机回国。
事件自7月30日发生以来,我馆高度重视,本着坚决维护我公民合法权益的精神,
及时介入协调处理。武树民总领事多次派员赴熊本县看望我研修生并听取其诉求。
同时向熊本县劳动局提出交涉,要求尽快调查事实,依法公正处理,保障我研修生合法权益;
多次约见日方雇主、国内派遣公司等各方代表进行协调,并积极参与纠纷谈判进程。经多方努力,
事件在较短时间内获得妥善解决。
我馆还将派员赴机场为回国研修生送行。