以下、文章は、『<研修生>という名の奴隷労働 外国人労働者とこれからの日本』
(外国人労働者とこれからの日本編集員会 花伝社 発行 2009年2月22日
定価 1500円プラス税)のなかで「裁判の継続に立ちはだかる在留資格の更新問題」
のタイトルで私が執筆したものに、その後の事情とコメントも加筆し、編集者の了解のもとに
掲載しています。
入管行政の到達点―――NGOや労働組合に保護された
技能実習生の在留資格の更新問題
中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
1、はじめに
私は、熊本市中心部にある手取カトリック教会を連絡先として、在住外国人のための無料人権
相談や支援活動を民間のボランテイア団体(NGO)として担っている「コムスタカー外国人と共に生きる会」
の相談員をしています。
2008年2月から3月にかけて、熊本の地域労組ローカルユニオンに保護されている中国人女性技能実習生、
縫製(3名)と農業(3名)の6名の在留資格の更新について相談と依頼がありました。技能実習生、弁護団、
支援団体等から事情を聞き、これまで実習生らの在留資格の更新の支援をしてきました。
2、研修生―技能実習生への従来の入管の在留資格の取扱い
実習生らは、1年目は研修生として「研修」の在留資格ですが、2年目に技能実習生に移行してからは、
「特定活動」(在留期間1年)の在留資格で、在留しています。技能実習が特に問題なく行われている場合には、
技能実習生は、第一次受入機関を通じて派遣された第二次受入機関となる企業で実習をおこなう目的で在留してい
るので、第二次受入機関である企業や農家が用意した住居で暮らすことになります。もし、入国管理局に届けら
れている住所地を無断で離れ、連絡が取れなくなったときは、「失踪者」となり、在留資格の有効期間内でも、
「不法」状態となります。
また、在留資格の有効期間内でも第二次受入企業が倒産した場合、あるいは、入国管理が「不正行為」認定を行い、
受入事業の3年間の停止等の処分をした場合で、技能実習の許可条件に適合する他の受入企業・農家が見つからない
場合には、入国管理局は、技能実習生を帰国させる取扱いをおこなっていました。そして技能実習生が、在留期間の
更新時期を迎えた場合にも、入国管理局は、他の実習先が見つからない場合には、原則として在留資格の更新を認めず、
帰国させる取扱いをおこなっていました。但し、彼女ら実習生らのように、第一次受入機関及び第2次受入機関が、「不正行為」
をおこない、法令違反があるとして、実習先から逃げてきて、労働組合やNGOに助けを求めて保護されてきた場合には、入国管理局は
、例外的に、届出先住所地から移動していても、保護している団体など連絡先を明らかにしておくことで、問題解決まで「不法状態」として
取り扱わず、実習生の在留期間内までは在留を認める取扱いを行ってきました。また、問題解決が長引き、在留期限が迫り、在留資格の
更新を申請した場合には、一部には例外的に「短期滞在」(在留期間90日)に在留資格を更新して問題解決まで更新を繰り返すことを
認める場合もありますが、その多くは帰国させられており、その取扱いは不透明でした。
3、 技能実習生らの在留資格の申請経緯
2008年3月26日、実習生らの在留資格の更新の相談と、受入企業・団体らの「不正認定」のための実習生からの
事情聴取のために福岡入管へ行きました。彼女らの在留資格の更新問題について、福岡入管の審査官は、「技能実習生の
在留資格『特定活動』は、実習目的で在留を認めるものであり、裁判のためという在留目的の在留資格は設けられていない
ので、その更新は困難であるが、仮に受入機関の『不正行為』による実習継続ができなくなった場合には、他の受入機関
への移籍が可能であれば、更新を検討することができる。また、研修―技能実習生の権利救済のための在留についてどう
取扱かは、今後の検討課題である」という回答でした。
これらの福岡入管の回答をへて、4月中旬福岡入管熊本出張所へ、在留期限が迫っている縫製2名と農業3名の在留資格
「特定活動」(在留期間の更新1年)を申請し受理されました。(在留期限が同年7月となっていた縫製の実習生1名に
ついても、6月に同様な更新申請をおこないました。)縫製の実習生については、未定だが移籍先を探していることを理由に、
また農業の実習生について受入先農家を指定して申請していました。
4 申請後の入管の対応
5月下旬の時点で、移籍先の企業が見つかっていない縫製の申請者2名の申請は「不許
可」処分となる可能性が強まっていました。しかし、縫製の実習生について5月下旬に行
われる予定の入管からの「事情聴取」が突然延期され、申請者の扱いは、2008年11
月現在「保留」状態のままとなっています。
また、農業の3名の実習生について、熊本県内で一次受入機関の認可のある団体をみつ
け、その加盟農家を二次受入機関として申請しましたが、入管職員による現地調査が行われ、実習生の来日時の実習
目的である「トマト」栽培が行われてないとして、不許可となりかけました。急遽、熊本県内のトマト栽培農家で
2名の農業の技能実習生を受入れてもよいという農家を探し、3名のうち2名について2008年6月に実習先を
変更する申請を提出しました。
5、2名の農業実習生に「特定活動」の在留資格の変更が許可される
この2名の農業の実習生については、同年7月には、入管職員の受入先農家の調査がおこなわれ、同年8月25日に
「特定活動」(在留期間1年)の在留資格が許可されました。入管から許可のスタンプが押された旅券に添付された
指定書では、「下記機関において、2008年8月25日から2009年4月19日まで、研修の在留資格の下で習
得した技術、技能または知識を習熟するため同機関との雇用契約に基づき、当該技術等に係る同機関の業務に従事
する活動」とかかれていました。技能実習生を実習先から保護し、第一次受入機関や第二次受入機関である農家を
相手に訴訟しているケースで、NGOが独自の第一次受入機関や第二次受入機関である農家をみつけて、入管に
在留資格の変更(技能実習先の変更)申請を行って入管が認めた全国最初のケースと思います。
6、入管行政の到達点
実習生らは、技能実習を継続できなかったことについて何らの責任はなく、その責任は、労働基準法など労働関連法規を
守らず、最低賃金以下の賃金で、長時間働かせてきた受入企業、及び受入機関の「不正行為」や「不法行為」によるもの
です。これまで、研修生や技能実習生が、労働基準局に通報したり、NGOや労働組合に助けを求めたりして、深刻な
人権侵害状態に置かれていることが明らかになったケースでも、受入機関の多くが、研修生―実習生をすぐに帰国
させて、問題が顕在化することを阻む対応をしてきました。
入国管理局も、他の受入団体・企業などに移籍ができない研修生―実習生について、原則として帰国させる運用を
おこなうことで、在留資格制度の制約が、研修生―技能実習生の権利救済を困難にする結果をもたらしていました。
熊本県内の訴訟継続中の縫製の実習生3名と農業の1名の実習生については、2008年4月の申請から「審査中」
の状態が続いていることで、実質的には入管が日本に在留しながら裁判を継続できるように配慮している結果と
なっています。また、移籍先農家が見つかった2名の農業実習生については、2009年4月まで、技能実習を
継続しながら裁判を担えることになりました。
法務省入国管理局も、受入機関の「不正行為」などにより、研修や技能実習が継続できなくなった研修生―実習生
に対して、権利救済に必要な期間中「特定活動」(在留資格1年)の更新を認めるところまでは到っていませんが、
これまでのように直ちに帰国させるのではなく、権利救済のためにできる限り保護していく方向へ、
入管行政は変化しようとしています。
追記
労働組合に保護されたあとの技能実習生の在留資格の変更・更新問題 続報
2009年3月21日 中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
2007年9月に全労連系の労働組合、熊本ローカルユニオンに保護され、同年12月に熊本地裁に提訴した
熊本県天草市の縫製企業で働いていた中国人女性技能実習生3名(原告は4名ですが、1名は途中で帰国し、
3名のみ日本で滞在)、2008年2月に同労組に保護され、同年4月に熊本地裁に提訴した熊本県阿蘇市の
農家で実習していた中国人技能実習生3名は、いずれも技能実習生1年目で、保護されたあとの在留資格の
更新が問題となっていました。この6名は、2008年4月中旬に、いずれも在留資格「特定活動」
(在留期間1年)の更新を迎えました。既に技能実習先の企業や農家から離れ、労働組合関係者のアパートで
暮らしていました。2008年4月の更新に際しては、「特定活動」での更新(理由 新しい実習先を探しているが、
まだ見つかっていない)申請をしました。
このうち農業技能実習生2名については、受け入れてくれる新しい農家が1件みつかり、同年6月に申請したところ、
同年8月下旬に許可され、新しい農家で実習を継続しながら
歳場の原告として活動していくことができるようになりました。残り4名は、新しい実習先が見つからず、
申請中のままの保留状態が続いていました。
天草の縫製の実習生の裁判は、熊本地裁で2009年1月中旬と2月下旬に原告本人尋問がおこなわれました。
阿蘇の農業技能実習生3名の裁判も、2009年5月15日に原告の3人の本人尋問が予定されています。
このような事情を踏まえて、福岡入管は、2009年3月上旬に天草の縫製の実習生3名については、
帰国準備のための「特定活動」への変更申請を行い、来日3年間の満期となる同年4月中旬まで滞在を認めました。
また、阿蘇の農業技能実習生3名農地保留状態の1名は、縫製の実習生と同様に帰国準備のための
「特定活動」への変更申請を行い、来日3年間の満期となる同年4月中旬まで滞在を認めました。
そして、現在技能実習中の2名の3年間の満期となる同年4月中旬以降も、農業実習生3名については、
裁判所からの呼び出し状を入管へ提出してもらえれば、帰国準備の「特定活動」に変更を許可し、
同年5月15日の本人尋問までは滞在を認める以降である旨の連絡がありました。
労働組合が保護した技能実習生に対して、裁判の本人尋問が終了するまで入管が滞在を配慮し、
天草の縫製の実習生3名は、保護後1年7ヶ月、農業の技能実習生1名は、保護後1年3ヶ月間、
実質的に裁判のための在留が認められたことになります。
この結果、天草の縫製の技能実習生3名は、2009年4月中旬に中国へ帰国、阿蘇の農業実習生3名は、
同年5月15日の本人尋問終了後に中国に帰国することになります。そのうえで、原告らが中国に帰国後も
裁判は代理人弁護士により継続していきます。
コメント (中島)
研修生―技能実習生からの受入機関の労働基準法や最低賃金法など労働関連法違反などの相談では、
労働問題の解決 とともに、受入企業や農家での研修や実習が継続できないときには、研修生や
技能実習生が他の企業や農家での研修やー技能実習の継続を希望する場合があります。このような場合、
制度的には、団体監視型では第一次受入機関、単独型では受入れ企業、そしてJITCO(国際研修協力機構)
がその移籍先を探すことになっています。しかし、現実には、移籍先がみつからず、長期的に
NGOや労働組合が保護し続けるか、あるいは途中帰国を選択せざるをえない場合があります。
研修生―技能実習生の労働問題や人権侵害問題の解決には、長期化する場合もあり、就労できないことが
その権利回復の闘いをより困難にしています。
熊本県天草の縫製企業および阿蘇の農業の技能実習生4名が、労働組合に保護されてから1年以上、
裁判での本人尋問終了まで在留が継続できたこと、そして阿蘇の農業技能実習生2名が、NGOの紹介で
他の第一次受入機関と第二次受入機関となる農家への移籍を入管が許可し、約8ヶ月間就労しながら
裁判闘争を担える実例が生まれました。
今後、研修生―技能実習生からの同様な相談で、適法・適正な運営を行う団体管理型の第一次受
入機関である団体や第二次受入機関である企業や農家を見出し、その移籍を実現して、就労しながら
権利回復の闘いを継続できる具体例を増やしていきたいと思います。