2009年入管法改定における研修生―技能実習生制度の変化
中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
出入国管理難民認定法の改定案が2009年7月8日国会で成立(2009年7月15日公布)しました。
この改定法の内容は多岐に及びますが、このうち研修生―技能実習生に関する改定内容を明らか
にしておきます。この改定は、1年以内に政令で定められる日より施行されます。
政府(法務省入国管理局)がどのような研修−技能実習生制度にかえようとしているのか、
あらためて検討し、それへの批判の基礎資料です。
1、在留資格
改定前 来日1年目 「研修」の在留資格、職種制限なし 「労働」ではない
技能検定起訴2級の合格者は、技能実習生に移行できる
2年目、3年目 「特定活動」の在留資格 職種は63種類に限定
↓
改定後 来日1年目 「技能実習」(1号)職種制限なし 「労働」として認める
技能検定起基礎2級の合格者は、技能実習生に移行できる
2年目、3年目 「技能実習」(2号) 職種は63種類に限定
※ 「研修」の在留資格は、JICAなど政府機関が行う研修と実務研修のない研修のみの
※ 適用となって存続、「特定活動」の在留資格は、その対象から「技能実習生」を除いて
※ 従来どおり存続する。
2、団体監視型の第一次受入機関の監理義務責任
改定前 1年目の「研修生」のみを対象としていた。
↓
改定後 1年目だけでなく2年目、3年目の技能実習生も含めた3年間が対象となる。
・第一次受入機関による第二次受入機関の指導監督の強化
(・1ヶ月に1回の実施状況の確認指導、・3ヶ月に1回の監査と入管への報告
・第一次受入機関による相談員の設置 ・第一次受入機関による第2次受入機関
からの費用徴収の透明化、明確化)
3、不正行為を行った受入機関への罰則の強化
改定前 受け入れて停止 3年間 ・ 「不正行為」の認定の根拠法令は告示
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改定後 ・ 受け入れ停止 5年間
・ 不当な斡旋や仲介(ブローカー)を行っている外国人を退去強制できるように
・ 退去強制事由に追加、
・「不正行為」の認定の根拠法令を省令に
4、「非実務」研修の概念の廃止
改定前 「非実務研修」(現場の生産ラインでの非実務研修も認められる場合があった)と言う概念で、
非実務研修に名をかりた労働も行われていた。
↓
改定後 入国してから集中して座学の講習(日本語研修・技能に関する知識・入管法令・労働法令について
の学習)を、原則として技能実習期間の6分の1(1年間の2ヶ月)、例外として来日前に160時間事前研修した
場合には、12分の1(1年間の1ヶ月)の集中的な講習実施後に、労働者として契約して技能実習に移行する。
5、改定入管法の施行時期
成立から1年後に施行され、その1年の間に改定に伴う省令などを整備する
6、その他
@海外の送り出し国の送り出し機関の問題
→ 入国の際の送り出し期間との契約が悪質、例えば、保証金が高額すぎる場合であれば
一定期間受け入れを停止することもありえる。
A技能実習途中の打ち切りにより帰国を余儀なくされる場合の対策
→受け入れ団体やJITCOが同種の移籍先を探すが、見つけられない場合には帰国するしかないが、
本人に責めがないのに打ち切られて移籍する場合には、移転先の受け入れ枠を柔軟にしようと考えている。
(コメント 中島)
2009年8月7日国会で成立した出入国管理難民認定法のなかで研修生―技能実習生制度の改定の趣旨は、
「研修生―技能実習生を実質的に低賃金労働者として扱うなどの不適正な問題が増加している現状に対処し、
研修生―技能実習生の保護の強化を図るため」とされています。
入管法の改定(研修生―技能実習生問題)の発案者の意図は、「技術移転を通じた国際貢献」という建前を維持し、
続発する研修生や技能実習生に対する労基法や最低賃金法等違反や人権侵害問題を、1年目を研修から技能実習@に
在留資格を変更し、労働と認めることで、社会保険への加入や最低賃金法の適用など受入コストの増大による
受入数の抑制、
労基署の監視対象となることや、2年以降の技能実習Aの在留資格となる技能実習生らについては、第一次
受入機関による監理監督責任の強化で防止しようとしています。
しかしながら、現行制度でも、労働関係法の適用のある来日2年目以降の「技能実習生」に、労基法や
最低賃金法違反が続出しているのに、それへの対策が、元来、第二次受入機関(企業)と「共犯」関係にある
第一次受入機関の監理監督責任の強化しかないこと、指導監督権限がなく、実質的な「不正行為」の隠れ蓑と
なっているJITCO(国際研修協力機構)をそのまま存続させていること、現行制度が「現代の奴隷制」や
「国際組織犯罪」との批判を招く要因となっている海外の送り出し機関の保証金や違約金など契約を防止する
ための具体的な対策がありません。また、倒産やリストラ、不正行為の告発に伴う研修生や技能実習生の
途中帰国を防ぎ、他の職場への移籍を可能とする具体的な対策がないことなどから、現行制度下で噴出
している問題の解決に程遠い内容となっています。
そして、肝心の「不正行為」の取り締まり機関である入国管理局の職員や、労基法違反を取り締まる労働
基準監督官の消極的姿勢や人員不足は、現行でも取締りの件数やその範囲を限定したものとしており、
今回の改定案でも、大きな変化は期待できません。つまり、1年目の「研修」を、労働と認めて、
労働基準法や最低賃金法の適用を認めるなど改善も見られますが、大枠としての現行制度をかえる
ものではありません。
むしろ、在留資格を1年目の「研修」から、「技能実習@」とかえることで、「技術移転を通じた国際貢献」
という制度の建前がより後退し、この制度の目的が、「労働」の性格がより強まっていきます。
原則2ヶ月間の座学が義務付けられますが、来日前から一定期間の研修が行われていれば、来日1ヶ月間
の座学をへて、来日1年目から残業や休日労働か可能となり、最大2年11ヶ月間の就労させることが可能
となります。
その結果、1年間の期間限定の「技能実習生@」の在留資格で来日する技能実習生が、日本の労働力不足の
あらゆる分野に進出し、さらに2年間の技能実習が認められる63種類の職種については、「技能実習A」の
在留資格に移行して、残り2年間就労し、日本人労働者に代わって、最下層の低賃金労働者として増大し続け、
生産を担う方向にすすんでいくように思えます。
「技術移転を通じた国際貢献」という建前どおりの実態がある場合には、厳格に運営される「研修」の在留
資格対象で行うことができます。従って、新設される「技能実習@」「技能実習A」の対象となる外国人は、
その大半が労働者であり、その実態にそくして、「労働」の在留資格を設け、受け入れていく、抜本的な
改正こそ求められています。