新しく施行される改定入管難民認定法の問題

その1 ―2010年7月1日施行の「技能実習制度」の動向について。

2010年9月16日  中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

1、はじめに

 2009年7月に公布された改定入管難民認定法(以下、入管難民法という)の一部が、2010年7月1日に施行されました。

同年7月1日から、これまでの研修―技能実習制度も、技能実習制度へ変更され、「研修」の在留資格から「技能実習」の在留資格を

もつ技能実習生が1年目から来日することになりました。

 改定入管難民法が、「不正行為」や違法行為が横行して来たあり方から、制度の趣旨から逸脱した送出しや受け入れのあり方を見直し、

研修生―技能実習生の人権侵害をなくしていくという改定目的にどの程度実効性を持つのか注目されます。

 

2、減少する研修生―技能実習生

 新制度施行から数ヶ月ですが、現時点でいえることは、来日する1年目の「技能実習生」(同年6月30日までは、「研修生」)が、2009年

(「研修生」)と比べて大幅に減少していることです。JITCO(日本国際研修機構)の関係者によると、昨年と比べて4−5割減少ということでした。

2008年を研修生―技能実習生をあわせて19万1816人をピークに2009年は、2万人ほど減少して その合計は 17万人台となりました。

2010年は、さらに大幅に減少して12−13万人台まで減少していくことが予想されます。(但し、 JITCO関係者の予想では、

2011年からは回復していくとしています。)

 

3、減少の要因

 減少している直接的要因は、入管難民認定法の改定により、1年目(座学の当初の1ヶ月から2ヶ月間を除く)「技能実習生」は「労働者性」が認められ、

職業安定法が適用されることになったことです。その結果、団体監視型の第一次受入機関は、職業紹介事業者の資格が必要となりました。

この資格がないと海外での面接や、新たな在留資格認定証明書交付申請ができなくなりました。

職業紹介事業者の資格には、職業紹介に関する諸費用等の手数料を徴収しない「無料職業紹介事業」の届出か、職業紹介に関する諸費用等の

手数料を徴収する有料職業紹介事業者の許可のいずれかの資格が必要です。 管理費のなかから、渡航費用や役職員の報酬や選考のための職員の

費用を支払うときは、後者の有料職業事業者の許可が必要です。届出や許可には、受入れ機関の定款変更、認証、登記等の手続きをへて届出や

許可申請が必要で、後者の有料職業紹介事業者の許可の場合には、財産的要件や事業所の要件があり、申請から許可まで3ヶ月程度を要します。

この結果、多くの第一次機関が職業紹介事業者の資格取得に時間を要していたり、要件を満たせず、受け入れが遅れたり、できない状況となっています。

そして、現状では、多くの第一次機関は、許可が必要で、費用や時間のかかる有料職業紹介事業者の資格ではなく、届出ですむ無料職業紹介斡旋業野資格を

取得していっています。但し、この場合、送り出し国での面接のための旅費や費用など諸経費を取ることができないため、日本国内の第一次機関へ加盟

している企業や農家へ加盟費用を値上げしてその費用をまかなうしかなくなります。

それ以外にも、今回の入管安眠認定法の改定により、1年目から労基法や最低賃金法などの労働関係法が適用されるようになったこと、第一次受入機関の

「管理責任」が明記され、@ 原則2ヶ月間の座学の実施(送出国で、一定の座学等の要件を満たしている場合には1ヶ月の座学の実施でよい。

A 技能実習1号の技能実習計画の作成 B 1ヶ月1回の訪問、 C 3ヶ月に1回の監査と報告など第一次受入れ機関への規制が強化されました。

このため、第一次受入れ機関は「技能実習生」の来日中の3年間の費用負担と、受入れ企業や農家の負担が増加してきます。つまり、改定は、

財政力のない第一次受入れ機関や第二次受入れ機関である企業や農家を淘汰していく方向で機能していくことが予想されます。

 

4、今後の展望

これが、初年度の一時的減少にとどまり2011年度から増加に転じていくのか、あるいは、以後も減少し続けるのかは、技能実習生によって

成り立っている日本国内の業種を保護していくために規制を形骸化するのか、それとも技能実習生の権利保護のために規制を強化していくのか、

入管や労働基準監督署など関係行政機関が、どのように運用していくかにかかっており、今後の推移を見なければなりません。

問題は、改定による規制強化が機能を発揮し、団体監視型に多くに見られた「格安の賃金で雇える労働力として期待して受容れていた」企業や

農家がこの「技能実習生制度」を利用できなくなった場合に、どうなっていくかです。

その場合、現行制度下では、「@日本人あるいは他の日本国内の外国人労働者を雇い入れる、A倒産・廃業していく、B技能実習生にかわる格安の

低賃金労働力を探す(その一つの候補が日本人父親と外国人母親から生まれた「新日系人」労働者です)」という3つが考えられます。

 2010年7月1日より施行される新技能実習制度に対して、 技能実習生の権利意識を高め、 関係行政機関の規制を徹底し、技能実習生に対する

「不正行為」や「違法行為」等の人権侵害をなくしていくこと、かつ「技能実習生」にかわる新たな搾取形態を許さず、その上で、国際技能移転という

建前を前提とする「技能実習制度」から、その実態に合わせて「労働」の在留資格による受入れを目指すことが求められています

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