韓国訪問記
釜山の移住者支援団体との交流と結婚移住者のための討論会報告
2012年12月 佐久間 順子(コムスタカー外国人と共に生きる会)
2012年10月11日より2泊3日で韓国第二の都市釜山をコムスタカのメンバー5名で訪問しました。12日に、熊本学園大学教授の申先生の取り計らいにより釜山の移住民支援団体を訪問し、その後「結婚移民者のための現地事前教育講師討論会」に参加しました。
「移住民と共に」訪問
10月12日の午前中に、釜山市内にある移住者支援団体「移住民と共に」の事務所を訪問し、団体代表ジョン・ギスンさんらから活動報告があり、その後スタッフの方と交流をしました。「移住民と共に」は、今年創立16年を迎えた移住者支援団体で、今年の9月より釜山市からの委託を受け「移住者労働センター」を運営し始めました。人口約341万人の釜山には、45,000人の外国籍住民が登録されており、内移住労働者は16,000人、結婚移民は65,000人いるそうです。「移住民と共に」結成当初は労働問題を中心に取り組み、2003年からは移住女性・多文化家族センター(EULIM)を立ち上げて移住女性問題に取り組み始めました。その後韓国政府への移住者政策提言の為に移住民研究所と、移住者問題教育など啓発活動を行うために多文化教育人権センターを設置。また、カンボジアやベトナム、アフガニスタンなどで教育や難民支援も行なっています。
団体代表ジョン・ギスンさんからの活動報告の後に、EULIMの事務局長イ・イギョンさんから、韓国の国際結婚と結婚移住女性問題についての説明がありました。韓国における国際結婚は、1990年代には600件ほどで、その大半は韓国人女性と日本やアメリカ人男性との結婚でしたが、2010年には年間34,000件程に増え、その70%が韓国人男性と外国人女性の結婚だそうです。農村地域では特に国際結婚率が高く、全婚姻数の40%以上が国際結婚とも言われています。国際結婚が急速に増える中、国際離婚も増加し、ドメスティックバイオレンス(DV)など様々な人権問題も表面化してきました。「移住民と共に」の結成当初、移住女性からのDVの相談は女性支援団体へ紹介していましたが、移住女性のDV問題には在留資格や言語の問題など韓国人女性とは異なる支援が必要な事から、2003年に団体内にEULIMを立ち上げて移住女性・国際結婚問題に取り組み始めたそうです。
「移住民と共に」の事務所には、歯科を含む医療施設が整えられており、毎週日曜日にはボランティア医師による無料の医療サービスを提供しています。ストリートカウンセリング、五カ国語でのニュースレター発行などを含む幅広い活動をスタッフ9名、ボランティア200名、会員数510名で運営しているそうです。「移住民と共に」の幅広い精力的な活動と、2012年の9月までは、寄付や会費のみでその活動を運営していたことなどに驚かされました。
結婚移民者のための現地事前教育講師招請討論会
「移住民と共に」訪問後の午後は、韓国政府の女性家族部と国連人権政策センター(KOCUN)による「結婚移民者のための現地事前教育講師招請討論会」に参加しました。この討論会では、KOCUN代表など7名が結婚移民女性についての報告をし、国際結婚事前教育と移住女性支援団体関係者ら50名ほどの参加者がありました。コムスタカからは、私がコムスタカの活動報告を、日高さんが日本におけるフィリピン人移住者の現状について報告をしました。
まず、KOCUNハノイ事務局長より、ベトナムでの国際結婚の現状についての報告がありました。2011年の韓国在住の結婚移民者の内19.8%がベトナム出身者で、国際結婚におけるその割合は上昇傾向にあります。ベトナム国内を見ると、北部や南部の農村地域で国際結婚が特に盛んで、農村地域婚姻数全体の40%以上が国際結婚。ある南部の町では79%が国際結婚をしているそうです。国際結婚に関する問題の増加に伴い、ベトナム政府は国際結婚を制御する施策を打ち出し、2002年には民間業者の国際結婚斡旋を禁止し、政府機関である女性結婚支援センターのみが結婚仲介をできるとしました。しかし、実際には民間による結婚斡旋は続いているそうです。現在国際結婚の3割が業者を通じて婚姻相手と知り合い、6割は親戚や知人を通じての結婚だと統計が出されていますが、実際には業者なのに親戚などと偽っているケースが多いと言います。韓国では国際結婚前に事前教育を受けなければならず、在留資格や文化などについての教育を行っているとしていますが、韓国人男性もベトナム人女性も相手や相手の国の事をよく知りもせず業者を通じて結婚する状況が今も続いていることが問題だと言われていました。
EULIM多文化家族支援センター事務局員からは、韓国での移民女性についての報告がありました。事務局員自身もベトナムから移住労働者として韓国に来て、後に韓国人男性と結婚した移住女性の一人です。結婚移民女性の多くは、斡旋業者を通じての結婚で、業者から配偶者の正確な情報を提供されずに結婚し、婚姻前の子がいたなど失望するケースが多く、また業者を通じ結婚する韓国人男性の多くは低所得で、外国人妻を「買った」という意識があります。韓国は男中心社会で強い女性差別があることや、嫁姑間の濃密な関係、言葉の壁などから、結婚生活に問題が生じることが多く、移住女性のDV被害が深刻で自殺も少なくないようです。また、DVで亡くなったにもかかわらず自殺として処理されたり、夫の他界後、遺産放棄を強制させられる事があります。韓国にいる外国籍住民は140万人から150万人ほどで、国内に200ヶ所以上の多文化家族支援センターがあり、韓国語や韓国文化の学習プログラムがあるが、事務局長は教育の姿勢に問題があると言われていました。
KOCUNベトナム事務局長からは、韓国からベトナムに帰国した人たちの現状の報告がありました。ベトナム人と韓国人の国際離婚が増加しており、昨年は、結婚件数7,600件で、離婚件数は約1,900件。ベトナムのKOCUNセンターに寄せられる相談の7割程を、離婚して帰国した人、離婚をせずに帰国しこれから離婚を成立させたい人など、離婚に関する相談が占めています。結婚移住をしても長くて3年位、短い人は1ヶ月ほどで帰国する人がいます。韓国での離婚が成立していてもベトナムでの離婚を成立させなければならず、その手続きには元夫からの離婚成立の確認が必要ですが、ベトナム政府は元夫からの連絡拒否を離婚不成立として判断し手続きが進まない、韓国には人民登録番号制度があるにもかかわらず、ベトナム側の結婚書類には、韓国人男性の名前と電話番号しか記載されておらず書類申請が難航するなどの問題があるそうです。帰国女性には法的な問題だけでなく精神的、経済的な問題があり、KOCUNベトナム局は法的、経済的、心理的な支援を行っているが、政府間の連携が確立されておらず実際に必要な支援を提供することは難しいそうです。ベトナムの女性支援連盟がKOCUNと連携して支援しようとしているが、韓国内の移住者支援団体との連携も必要だと訴えていました。
移住女性人権センター所長から、韓国人夫のDVによって殺された女性のビデオを上映後、結婚移住女性の保護活動の報告がありました。韓国の移住者政策の問題点として、全国にある全ての家族支援者センターで生活支援事業を行なっているわけではなく、また、センター相談員が移住者の生活状況をよく理解しておらず、必要な支援を受けられていない女性が多い事があるそうです。シェルターも全国で18箇所あるが、入所できるだけで、生活を向上させるためには機能しておらず、女性の人権が守られていない。また、2011年末に夫の保証無しでも在留資格の更新ができると規定が変更されたことは評価するが、今年の七月にDVで亡くなった中国人女性の追悼のデモを起こした際に、ようやくその事が判明したのは問題であると怒りを表していました。中国人女性の死を受けて、全国のNGOが集まり会議をするようになり、永住権取得までの期間延長に対する反対運動や、移住女性の専門相談員の育成をしようとしているそうです。最後に移住者女性をターゲットに相談業務を高額で行う悪質業者がでてきているので気をつけて欲しいと言われていました。
最後にKOCUN代表から、国連女性差別撤廃委員会及び人種差別撤廃委員会の会議参加の報告がありました。韓国は女性差別撤廃条約に1984年に批准し、2011年に7回目の審議があり、KOCUNもNGOとして会議に参加したそうです。会議終了後に委員会から、1)韓国政府は国内にある行政機関や女性団体に条約の内容や委員会からの勧告内容を伝える義務がある、2)DVや性暴力の報告率を高め、人身売買や性売買の搾取に関わっている業者などの処罰の必要がある、3)結婚移民女性が夫の支援が得られない場合や子どもがいない場合の帰化申請が難しいので政策を変えるべき、などの勧告がなされたそうです。また、今年8月に行われた人種差別撤廃委員会の会議では1978年に批准している韓国の審議もなされました、その最終見解には、1)韓国人の外国人配偶者に別居や離婚時にも在留を許可するなど平等な権利を与えるべき、2)興行ビザで来韓している人の人身売買や性売買の被害問題を改善すべき、3)多文化家族の概念を韓国人と外国人の家庭だけではなく、外国人同士の結婚も含み支援すべき、4)多文化家族の子どもたちの問題に取り組むべき、などがあったそうです。話の最後に、来年5月には日本が経済的、社会的及び文化的権利委員会で審議を受けることになっており、結婚移住者の問題に関してコムスタカを含む日本の移住者支援団体から報告書を提出して欲しいと訴えておられました。
時間が限られていたため、実際に討論する時間が設けられなかったのですが、報告者及び参加者が共通して懸念を示していたのは、結婚2年後に国籍か永住権取得を選択できるという現在の規定を、結婚後の永住権取得申請までの期間を3年に延長し、永住権取得後に国籍取得申請と段階的にするという法改正の動きでした。また、現在の多文化家族支援は韓国人家庭の維持に重点が置かれ、移民女性の現状にあった支援ができていないこと、支援対象に外国人同士の結婚や移住労働者、非正規滞在者が含まれておらず、彼らの支援が遅れていることも批判していました。韓国は結婚2年後には永住権申請ができることや、2011年からは限定的ではあるけれども多重国籍を認めるなど移民政策において日本に比べ進んでいると感じられました。KOCUN代表と話をした際、韓国政府も支援団体がいくら移民政策に対し批判をしてもなかなか耳を傾けないので、NGOが国連を通じて政府に圧力をかけることで、政策を改善していると言っておられました。また、DV被害女性が警察などの国の機関ではなく、移民支援団体からDV被害の認定を受けたら2年なくても永住権申請ができるなど、韓国での移民政策に対する民間団体の地位の高さにも感心しました。
今回の釜山訪問で、韓国の進んだ移民政策、移民支援を学び、日本の遅れを嫌でも感じさせられました。グローバル化が進み人の移動が今まで以上に活発化する中、現在でも日本の移民者数は減少しているのに、日本はこのままでいると更に移住者にとって全く魅力のない国になり、空洞化するのではないかと思います。日本を移住者にとってもすみやすい国にするために、私たち民間団体が主体となり政策を変えて行かなければならないと思いました。
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