『非正規滞在者と在留特別許可――
移住者たちの過去・現在・未来』
というタイトルの本の紹介
2010年12月26日
中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
私も執筆していますが、以下のような本がようやく出版されましたので、ご紹介しておきます。
『非正規滞在者と在留特別許可――移住者たちの過去・現在・未来』
(近藤敦・塩原良和・鈴木江理子 編著)
2010年11月25日発行 日本評論者社
定価 〔本体5700円 +税〕
私が執筆しているのは以下の第7章です。
第7章 入管行政の「開かずの門」への挑戦
――退去強制令書発付処分後の在留特別許可を取得した
4つの家族の事例 (P.145−P164)
第7章で、私が2001年11月から2009年9月にかけて直接・間接に関わった4つ
の家族と最高裁でも勝訴した1つの事件の5つの事件を紹介しています。
東京にある法務省入国管理局に在留資格のない外国人の在留特別許可の不許可処分に再
審について要請に行ったとき、応対した若いキャリア官僚から、「不許可処分は法務大臣の裁量で、
不服があるのなら行政訴訟をしてください、裁判されても覆されることはありません」といわれ、
悔しい思いをしたことがありました。
その当時は、行政訴訟となる退去強制令書発付処分等取消訴訟において、勝訴事例は皆無に近く
まれに1審勝訴判決が言い渡されても、控訴審でひっくり返されるか、それを最高裁でも追認される現状で、
司法は入管行政の追認者でしかなく、入管側には「厳然たる司法への信頼と行政訴訟での不敗神話」が存在していました。
いつの日か、この「不敗神話」を打ち破りたいと思っていました。外国籍の退去強制令書発付処分をうけた外国籍の当事者はむろん
支援者であるNGO関係者や弁護士の中にも、「裁判しても勝てない」「仮に1審で勝訴できても、
高裁でひっくり返される、万一高裁で勝訴しても最高裁でひっくり返される」という意識が支配的でした。
私自身が、在留特別許可が不許可となった在留資格のない外国人を原告とする退去強制令書発付処分等取消訴訟に
関与するようになったのは、熊本県内在住の2001年11月に福岡入管から摘発され、同年12月に福岡地裁に
提訴した中国残留孤児の婚姻前の娘2家族7人の事件からでした。
次に、2005年1月に逮捕され、同年4月に福岡地裁に提訴したナイジェリア国籍の日本人配偶者の事件がありました。
この2つの事件は、1審敗訴後、控訴した控訴審である2005年3月と2007年2月に福岡高裁で逆転勝訴し、
被告である国が上訴を断念したため、勝訴判決が確定し、在留特別許可により在留資格が許可され、
日本で定住できることになりました。
2004年12月と2005年1月に東京都内の品川にある東京入管の収容施設に収容されている在留資格の
ないパキスタン人家族4人とフィリピン人家族3人の2家族からコムスタカに相談があり、東京都在住の弁護士
に依頼して同年3月と4月に東京地裁に提訴しました。この二つの事件は、ほぼ同時に進行し、2006年8月
と2006年12月に1審(東京地裁)敗訴、2007年9月中旬と9月下旬に控訴審(東京高裁)も敗訴し、
最高裁へ上告しました。但し、フィリピン人家族の控訴審判決である東京高裁判決文には、「付言(法務大臣への
在留特別許可を求める)」がつけられていました。この2家族とも最高裁への上告を取り下げ、東京入管へ再審
(入管用語では、再審情願)をしたところ、2008年1月と同年2月に再審による在留特別許可がみとめられ、
家族全員日本で定住できることになりました。
上記の2家族の事件を担当していた弁護士が、2006年から別件で代理人として弁護していたビルマ(ミャンマー)籍
の日本人配偶者の退去強制令書発付処分等取消請求訴訟でも、2007年6月に1審東京地裁が勝訴、2007年11月
控訴審である東京高裁判決も勝訴し、控訴人である国が最高裁へ上告受理申立をしたため、最高裁判決が注目されていました。
そして、最高裁判所第三小法廷は、2009年9月に国の上告受理を受理しないとの決定をおこない、最高裁ではじめて
となる外国籍の原告の勝訴が確定しました。
救済された5家族の当事者のがんばりや、代理人となってくれた弁護士の奮闘、そして少数でしたが支援者による
支えがありました。いくつの偶然が重なりながら、あきらめないで挑んでいった結果、2000年代のほぼ10年
近くかかりましたが、法務省入国管理局の行政訴訟(その根幹ともいえる退去強制令書発付処分取消等請求訴訟)で、
入管側の「不敗神話」を打ち破ることができました。興味のある方はご購読下さい。
以下、この本の執筆者と各タイトルの紹介です。
序章 近藤敦(名城大学法学部教授)
第一部 在留特別許可制度の歴史的考察
第1章 ポストコロニアルな交換の政治――退去強制と在留特別許可の歴史社会学
挽地康彦 ( 和光大学現代人間学部専任講師)
第2章 戦後期における在留特別許可制度をめぐって
テッサ・モーリス−スズキ/ 堤 一直(訳)
(オーストラリア国立大学アジア太平洋カレッジ教授)
第二部 在留特別許可から問う社会のあり方
裁3章 非正規滞在者と日本社会――翻弄される非正規滞在者
鈴木 江理子 (国士舘大学文学部准教授)
第4章 在留特別許可制度における結婚の手段的側面とロマンチック・ラブの矛盾
山本 薫子(首都東京大学環境学部准教授)
第5章 脱出プロセスの中で-----日本人の子どもを養育する非正規滞在者の女性にとっての
在留特別許可 高谷 幸(日本学術振興会特別研究員PD 一橋大学)
第三部 在留特別許可裁決に対する司法の判断
第6章 在留特別許可をめぐる裁判例の傾向
児玉 晃一(弁護士)
第7章 入管行政の「開かずの門」への挑戦――退去強制令書発付処分後の在留特別許可を
取得した4つの家族の事例
中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
第四部 諸外国の非正規滞在者・庇護希望者への対応と正規化政策
第8章 一般アムネステイ・在留特別許可・特別アムネステイ
近藤敦 〔名城大学法学部教授〕
第9章 韓国における非正規滞留者と「合法化」をめぐる現状
李 潓珍 (筑波大学大学院人文社会学研究科博士課程)
第10章 オーストラリアの難民申請者政策――溶け合う「国境」と「国内」
塩原 良和 (慶應義塾大学法学部准教授)
第11章 5つの滞在正規化レジーム
――ヨーロッパ15ヵ国とEUの非正規滞在者への「正規化政策」の比較
久保山 亮((ビーレフェルト大学大学院社会学研究科博士課程)