日本人夫が提訴したフィリピン人妻の重婚を理由とした婚姻無効訴訟で、熊本家裁は、

公序良俗違反として夫の請求を棄却する初めての判決を言い渡しました。


2010年7月6日   中島 真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
 

フィリピン人男性と婚姻中に日本人夫と婚姻して来日していたフィリピン人妻を被告として、日本人夫が提訴した

婚姻無効確認請求訴訟で、熊本家庭裁判所は、「通則法第42条(公序)に基づき、(重婚を無効とする)フイリピン

家族法第35条4号の適用を排除すべき」とするおそらく日本で初めての判断を言い渡しました。

1、フィリピン人妻が勝訴した判決
 
日本人夫が原告となり、フイリピン人妻の重婚を理由に婚姻無効確認訴訟の判決言い渡しが、2010年7月6日

(火曜日)午後1時10分から熊本家庭裁判所でありました。
古市朋子裁判官は、「主文  1、原告の請求を棄却する。2、訴訟費用は原告の負担とする」とのフィリピン人妻が

勝訴する判決を読み上げました。

判決文の中で、その理由を
「原告と被告のとの婚姻について、フィリピン家族法第35条4号を適用すれば、婚姻は遡及的に無効となり、初めから婚姻関係は

なかったものとされる。しかしながら、被告の前婚の配偶者は、原告と被告の婚姻が成立した約6カ月後に死亡しており、すでに重婚状態は

解消していること、元被告の婚姻期間は5年経過しており、被告は、2005年4月に日本に入国後、約5年間日本で生活していること、

長女も被告とともに入国し約5年間日本で生活していること、二女は、日本で出生してから現在まで日本で生活していること、

 他方で原告と被告の婚姻が無効となれば、長女及び二女が原被告の嫡出子たる身分を失うこと等の事情を考慮すれば、原告と被告の婚姻について,

重婚を無効とするフィリピン家族法を適用することは、その結果において我が国の公の秩序又は、善良の風俗に反するものと解するのが相当である。

したがって、通則法42条に基づき、フィリピン家族法第35条4号の適用を排除すべきであるから原告と被告の婚姻は無効とは言いえない。」とした。

勝訴判決へのコメント
2010年7月6日  コムスタカー外国人と共に生きる会
             (代表  中島 真一郎)

  2008年9月に、日本人夫の暴力から子ども二人を連れて逃げてきたフィリピン女性からコムスタカに相談があり、母子を保護し、

警察への相談や家裁に離婚調停を申立たてたところ、2009年4月に調停は不成立となりました。

 そして、夫が弁護士を立て離婚訴訟を提訴してくるということでしたから、反訴しようと待っていたところ、2009年10月に家裁から

届いた訴訟は、重婚を理由とする婚姻無効確認請求訴訟の訴状でした。
 事実関係を確認したところ、日本人夫の婚姻時にフイリピン人夫との婚姻継続中であったのは事実でした。当初は、原告の訴えに認諾し、

子どもの認知を求める調停・訴訟で対抗しようかとも考えました。
  しかし、一番心配していた重婚による婚姻が無効になったとしても、入管は、「日本人の実子を養育している事実があれば、婚姻が無効となった

外国人母にも、定住者の在留資格への変更やその更新が可能である」という見解であることがわかり、母親の在留資格を 失わずにすむことや、子どもは

日本国籍を失うも定住者の実子として定住者の在留資格を取得できることがわかりました。
(被告のフイリピン人妻は、在留資格を、「日本人配偶者等」から、「定住者」へ変更が認められ、かつ、本件訴訟の継続中に、「定住者」の在留期間が

1年から3年への更新が許可されました。)

 そこで、認諾せずに、日本人夫の婚姻無効訴訟に対して、通則法42条の公序の規定を根拠に請求棄却を求めて、争うことにしました。本件訴訟は、

5回の口頭弁論をへて、2010年7月6日に判決言い渡しとなりました。

 原則的には、原告である夫の主張のどおり通則法第24条1項によりフィリピン法が準拠法となり、重婚の場合には婚姻は当初から無効となります。

フィリピン人の重婚事例で被告の主張するように通則法42条を適用して、日本民法の適用を認めた判例は、これまでみつけることはできませんでした。(

なお、婚姻時重婚状態であった 朝鮮籍夫との日本人妻との婚姻を、重婚を無効とする朝鮮民事令下の慣行・判例を適用することは公序良俗に反するとした判例に、

1991年7月30日の高松高裁判決 があります。 判例タイムズ770号 239ページ)
 

熊本家庭裁判所(古市 朋子裁判官) は、本件婚姻無効訴訟において、法の適用に関する通則法第42条の適用を認め、重婚を無効とするフィリピン法を適用

することは、公序良俗に反するとして、原告(日本人夫)の婚姻無効の請求を棄却しました。
 この判決は、「重婚を婚姻当初から無効と、規定するフィリピン家族法の適用が、本件のような事情がある場合には、公序良俗に反するとして、

その適用を除外し、日本人夫の請求を棄却した」おそらく日本で初めての判決でした。(直同判決は、その後夫が控訴を打年して確定しました。)
 しかし、日本国内には、フイリピン人夫と重婚状態で、日本人夫と婚姻して来日し、DV加害者の日本人夫の暴力にくるしめられながら、

「重婚の事実を入管にあきらかにすれば、いつでも日本から追い出せる」と脅され、身体的な暴力だけでなく精神的支配に苦しめられてきた

フィリピン人妻や国籍喪失のおそれのある日本人との間に生まれた子どもが、相当数存在していると思われます、
このようなフイリピン人母親や、その子ども達にとって、熊本家裁の判決は、その人権に配慮した画期的な判決として高く評価できると思います。

 

関連法

法令の適用に関する通則法第24条1項

「婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。」

法令の適用に関する通則法第42条

 「外国法による場合において、その規定の適用が公の秩序又は、善良な風俗に反する時は、これを適用しない。」

フィリピン家族法 第35条

 「以下の場合には、婚姻は、当初から無効とする。

   4項 第41条の規定を除く、重婚であるとき」

フィリピン家族法  第41条

「 前婚の継続中になされた婚姻は無効とする・―(以下、省略)―――」

民法第732条

 「配偶者のある者は、重ねて婚姻することができない」

民法第744条 

 1項 「第731条から第736条までの規定に違反した婚姻は、各当事者、その親族又は検察官から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる

――以下・(省略)――。」

民法第748条

1項 「婚姻の取消しは、将来にむかってのみその効力を生じる。」.