フィリピン人の重婚問題の救済事例(子どもの認知)
―フィリピン人夫の「嫡出推定」をうける子による日本人実父を被告とした強制認知訴訟の報告
2018年1月25日 中島眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
概要
2017年に家庭裁判所で、フィリピン人夫と婚姻継続中のフィリピン人母と日本人男性との間に生まれた子が、実父を相手に認知を求めた訴訟で、DNA鑑定なしで認知を認容する判決が言い渡されました。
主文「1、原告が被告の子であることを認知する。2、訴訟費用は被告の負担とする。」
事件の経緯
フィリピン女性Aさんは、フィリピン人男性と婚姻し、その数年後に別居しました。そして日本でタレントとして働きに来て、日本人男性と交際して婚姻し、永住権を取得し、その後離婚しました。
それからAさんは、別の日本人男性と交際し、同居して内縁関係となり、妊娠しました。その子の父親である男性は、Aさんの妊娠中に胎児認知しようとしましたが、フィリピン人夫の子として「嫡出推定」されるため、役場で受理されず、胎児認知届けは返戻しされました。
その後、Aさんは、子どもを出産し、出生届を役場に提出し、子どもはフィリピン人であるAさんの子として外国籍となりました。
子を出産後、日本人男性と不仲になり、Aさんは、子どもと共に別居して暮らすようになりました。
その男性は、認知には協力しなかったため、子の認知を求める調停をへて、子を原告として相手男性を被告とする認知訴訟が提訴されました。
訴訟では、被告の男性は、子どもが自分の子であることは一貫して認めていましたが、Aさんとかかわりたくないとして、子を認知することにも、生物学的父子関係を調べるDNA鑑定への協力も拒否しました。
訴訟は、原告の法定代理人母であるAさんと被告の証人調べをへて結審し、認知を認容する判決が言い渡されました。判決確定後、役場で認知届を提出したところ受理され、(胎児認知届受付の記録があったため)出生時からの日本国籍の取得が認められました。
本件 強制認知訴訟の判決の骨子
1、 国際裁判管轄について 日本の裁判所に管轄がある
「原告ら被告もいずれも住所を日本国内に有しているから、当事者間の公平・裁判の適正・迅速を期するという理念により条理に従って判断すれば、本件については我が国の裁判所に管轄が認められる。」
2、準拠法について 嫡出親子関係 フィリピン家族法が適用される
非嫡出親子関係 日本の民法が適用される
「法の適用に関する通則法28条によると、嫡出親子関係の成立に関しては、子の出生に関しては、子の出生当時における夫婦の一方の本国法によるとされているから、原告の母と法律上の父の本国法であるフィリピン家族法が準拠法となる。
法の適用に関する通則法29条1項、2項によれば、非嫡出子親子関係の成立に関して、子の出生当時における父の本国法、認知当時(強制認知の場合には、事実審の口頭弁論終結時をいう)における認知者または、子の本国法のいずれかによるとされているから、本件においては認知当時の被告の本国法である日本民法の適用が認められる。
※法の適用に関する通則法28条(嫡出である子の親子関係の成立)
1項、夫婦の一方の本国法で子の出生当時におけるものにより子が嫡出となるべき予期は、その子は嫡出である子とする。
※法の適用に関する通則法29条(嫡出でない子の親子関係の成立)
1項、嫡出でない子の親子関係の成立は、父との間の親子関係については子の出生当時における父の本国法により、母との間の親子関係についてはその当時の母の本国法による。
この場合において、子の認知による親子関係成立の成立については、認知当時における子の本国法によれば、その子または第三者の承諾または同意があることが認知の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。
2項 子の認知は、前項前段の規定により適用すべき法によるほか、認知当時における認知する者又は子の本国法による。この場合において、認知する者の本国法によるときは同行後段の規定を準用する。
3、原告による認知請求の可否
(1)原告の法律上の父が存在するか否か
フィリピン家族法164条1項により、原告はフィリピン人夫の嫡出子とされる。
しかし、フィリピン家族法166条1項、同項bにより、原告はフィリピン人父の嫡出子であることが否定される。
従って原告には、法律上の父が存在しないものと認められる。
※フィリピン家族法164条1項
父母の婚姻中に懐胎又は出生した子は、嫡出子とされる。
※フィリピン家族法166条1項
子の出生前の300日間のうち、最初の120日間に夫と妻のとの性交が物理的に不可能であった場合は、嫡出性を争うことができる
※フィリピン家族法166条1項b
夫婦の別居
(2)原告と被告との間に生物学上の父子関係が存在するか否か
原告をその母が懐胎した頃、原告の母と被告との間に性的関係があり、それ以外の男性との性的関係をもたなかったことが認められる。
また被告も原告の出生前後を通じて原告が自らの子であることを認める言動を取っていたことも考慮すると、原告と被告の間に生物学上の父子関係が存在することが認められる。
4、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして主文のとおり判決する
|