コムスタカ―外国人と共に生きる会

「外国人犯罪」問題


2005年上半期の犯罪情勢――警察庁とマス・メデイアの「外国人犯罪増加論」への批判
中島真一郎
2005年12月23日

はじめに

1、2005年上半期の犯罪情勢―刑法犯認知件数の減少と、検挙件数と検挙人員の増加の意味

 警察庁は2005年8月4日に2004年の犯罪統計データを公表しました。
 2005年上半期犯罪情勢のデータを見る限り、昨年上半期と同様に、「認知件数の減少(前年同時期と比べて16万5269件減)と検挙件数(前年同時期と比べて2647件増)と検挙人員(前年同時期と比べて2631人増)の増加、および検挙率(28.4% 前年同時期と比べて3.9%増)の増加により、『治安悪化』に歯止めがかかり、警察の犯罪抑止策が増加に歯止めをかけた」という評価が、警察庁やマス・メデイアから行われています。

 2004年上半期と2005年上半期を比較する前提として、警察が認知件数の受理基準を変更していないと仮定して、以下その内容を検証してみました。

※注、1990年代の刑法犯認知件数の増加、とりわけ1999年(認知件数2165626件)以降から2002年(認知件数285379件)までの刑法犯認知件数の急増は、不況による窃盗犯などの増加も影響しているとおもわれますが、警察の犯罪相談の全件受理への方針変更による影響がもっとも大きい。警察は、1999年よりの受理方針変更による認知件数の急増を、「治安悪化」の根拠として宣伝し、警察官の増員要求を認めさせ、景気の回復や雇用情勢の改善による2003年からの認知件数の減少を、警察の犯罪抑止策の成果と都合よく正当化しています。

 刑法犯の認知件数の減少は、失業率の低下など雇用環境の改善や景気回復傾向など経済環境の改善により、「窃盗」14万7289件減少(侵入窃盗2万6288件減、乗り物窃盗4万5126件減、非侵入窃盗7万5875件減)と「その他の刑法犯」(器物損壊 1万4408件減,占有離脱物横領3390件減など)1万9729件減少したことによります。

(1)刑法犯罪種別の認知件数について



 ア 2005年上半期の刑法犯認知件数は、前年同時期に比べて、16万5269件減少(―12.9%)しました。

 イ 凶悪犯認知件数は、5698件で、前年同時期より914件減少(―13.8%)しています。殺人は2件増と微増ですが、強盗犯が787件(−20.6%)減少、放火が99件(−9.2%))減少強姦30件(−3.0%)減少しています。

 ウ 知能犯認知件数は、50362件で、前年同時期より4426件増加(+9.6%)しています。横領、偽造など他の罪種は減少していますが、詐欺が5522 件増加(+14.5%)したことによるものです。

 エ 風俗犯認知件数は5431 件で、前年同時期と比べて140件減少(−2.5%)、粗暴犯は35168件で、前年同時期と比べて1623件減少(―4.4%)でした。

 オ 窃盗犯認知件数が843780 件と、前年同時期と比べて14万7289件減少(−14.9%)しています。窃盗犯認知件数の減少の内訳は、非侵入窃盗7万5875件減、乗り物窃盗4万5126件減、侵入窃盗2万6288件減で、三種類の罪種のすべてで減少しています。また、その他の刑法犯認知件数が1万9729件減少(器物損壊 14408件減、占有離脱物横領3390件減、住居侵入2185件減など)しています。

 カ 認知件数で減少した窃盗犯手口別上位10をみると、1、車上狙い 43240件減、2、自転車盗 26604件減 、3、オートバイ盗 13884件減 4、 空き巣 13307件減、5、自動販売機狙い 11266 件減  5、自動車窃盗 4638件減  6、 忍び込み 4008件減  7、ひったくり 3964件減 8、 部品狙い 3782件減、 9、出店荒し 3104件減 10、すり 2367減 となっています。

 キ 前年同時期より認知件数が大きく増加している罪種は、1 詐欺 5522件 2, 暴行524 件です。

(2)刑法犯検挙件数と刑法犯検挙人員の増加について



 ア 刑法犯検挙件数は、前年同時期より2647件(0.8%)増加しました。

 罪種別で増加件数の多いのは、1、万引き 2658件増、2、空き巣 2634件増 3、詐欺 2090件増 4、部品狙い 1198件増 5、自動車窃盗897件増 6、暴行 886件増、7、出店荒し 744件増 8、器物損壊 536件増 9、傷害 518増、などです。一方、検挙件数が減少している罪種は、1、占有離脱物横領 2750件減、2、自動販売機狙い 2613件減 3、 自転車窃盗 1916件減  4、 車上狙い 1485件減などです。

 イ 刑法犯検挙人員は、前年同期より2631人(1.4%)増加しました。

罪種別で増加しているのは、1、万引き 2773人増、2、暴行875人増、3、詐欺 765人増 4、器物損壊 468人増 5、傷害385人増などです。一方、検挙人員が減少している罪種は、1、占有離脱物横領 2149人減 2、ひったくり 335人減 3、オートバイ窃盗 301人減、4、 車上狙い 200人 5、自動車窃盗 173人減 6、自動販売機狙い 148人減 7、出店荒し 102人減です。

 ウ、認知件数、検挙件数、検挙人員の3つの指標がすべて減少しているのは、凶悪犯、その他の刑法犯、一方、すべて増加している罪種は 知能犯です。

 2004年上半期と比べて認知件数、検挙件数、検挙人員の3つの指標がすべて減少している罪種は、凶悪犯(−914、−84、−153:順に認知件数、検挙件数、検挙人員の増減数。以下同じ)、その他の刑法犯(−19729、−1533、−1430)、一方すべて増大しているのは、知能犯(4426、2611、776)です。
 凶悪犯の減少は、主に強盗犯(−787、−133、−94)の減少により、その他の刑法犯の減少は、占有離脱物横領(―3390、−2750、−2149)によるものです。また、知能犯の増加は、主に詐欺(5522、2090,765)の増加によるものです。詐欺の増加は、振り込め詐欺事件の増加によるものとおもわれます。一方、強盗犯は、犯罪そのものが減少してきていると思われますが、占有離脱横領は、犯罪の減少ではなく兵庫県警の「偽装」摘発事件の影響等、警察の摘発姿勢の変化によるものと思われます。

(3) 2005年 上半期全国9管区警察別、及び上位5都道府県別の認知件数・検挙件数・検挙人員の増減(2004年上半期比)



 ア、全国9管区警察別認知件数は、全国9管区すべてで減少しています。関東管区が6.7万 件減(神奈川 約2.4万件減 埼玉県約1.9万件減)と最も減少が大きく、次いで近畿管区が 2.4万件減、九州管区約2万件減、東京1.7万件減となっています。

 イ 全国9管区警察別検挙件数は、北海道2796件増と最も増加が大きく、四国管区1536件増、 中部管区933件増となっています。一方、中国管区 1771件減、九州管区783件減、東北管区 638件減となっています。東京都、関東管区、近畿管区は微増です。

 ウ 全国9管区警察別の検挙人員は、関東管区の2205人増加が最も大きく( 千葉県 1256人増、 神奈川県 1038人増)、次いで東京都1238人増、近畿管区310人増、北海道管区240人増、中国管区、四国管区、九州管では微増です。一方、東北管区824人減、中部管区688人減となっています。

表1   全国9管区警察別認知件数・検挙件数・検挙人員の増減(2004年上半期比)



   認知件数   検挙件数    検挙人員
総 数 -165269   +2647    +2631
1、関東管区 -67334 1北海道管区 +2796 1.関東管区 +2205
2、近畿管区 -23871 2.四国管区 +1536 2.東京 +1238
3. 九州管区 -19577 3 中部管区 +933 3.近畿管区 +310
4、東京  -16842 4.近畿管区 +226 4.北海道 +240
5. 中国管区 -10204 5 東京 +188 5.四国管区 +77
6. 東北管区 -9631 6 関東管区 +160 6.中国管区 +44
7北海道管区 -6929 7.東北管区 -638 7.九州管区 +29
8. 中部管区 -6567 8.九州管区 -783 8. 中部管区 −688
9.四国管区 -4314 9.中国管区 -1771 9.東北管区 −824



表2、2004年上位5都道府県別の認知件数・検挙件数・検挙人員の増減(2004年上半期比)

     認知件数     検挙件数     検挙人員
総数 -165269    +2647    +2631
1、神奈川県 -23745 1.北海道 +2796 1.千葉県 +1256
2、埼玉県 -18729 2.千葉県 +1743 2.東京都 +1238
3. 東京都 -16842 3.静岡県 +1361 3.神奈川県 +1038
4. 福岡県 -11858 4.岐阜都 +1240 4.京都府 +484
5. 兵庫県 -9897 5 神奈川県 +1063 5.兵庫県 +483

(4) まとめ



 2005年上半期の認知件数が2004年上半期と比べて約16万5千件減少しています。この減少は、窃盗犯の認知件数14万7千件の減少(強盗犯も787件減少しています)によるものですが、これは失業率の改善など雇用情勢の回復という社会的要因によると思われます。
 認知件数のうち大きく増加している罪種は、「詐欺」です。「詐欺」は「振り込め」詐欺などの増加によるものと思われます。それ以外の犯罪は減少傾向にあります。

 刑法犯検挙件数の増加2647件 (前年同時期比、0.8%増)は、「万引き」(2658件増)や「空き巣」(2634件増)や「詐欺」(2090件増)等の増加によってもたらされており、このうち「空き巣」の検挙件数の増加は、「空き巣」の認知件数が13307件減少し、「空き巣」の検挙人員が32人減少していることから、余罪のカウントを多くしたことによるものであるとわかります。

 刑法犯検挙人員2631人(前年同時期比1.4%)の増加は、「万引き」(2773人増)と「暴行」(875人増)と「詐欺」(765人増)等の増加によってもたらされています。このうち「万引き」と「暴行」は警察の街頭取締りの強化によるものです。このうち「万引き」は、認知件数1176件減少している一方、2検挙件数が2658件増加、検挙人員が2773人増加していることから、「万引き」の取締りを警察が強化した結果と思われます。

 刑法犯検挙件数や検挙人員の増加が、前年同時期比 0.8%、1.4%増の微増にとどまった理由は、詐欺犯の検挙件数2090件増加、検挙人員765人増加にもかかわらず、占有離脱物横領の検挙件数 2750件減少、検挙人員 2149人減少したためです。

2.  2005年上半期「来日外国人」増加論への批判



(1) はじめに


 2005年8月19日のNHKのBSニュースで「2005年上半期の外国人の摘発数が史上最高となったこと、10年前の1995年の2倍以上、刑法犯の共犯率も約7割、石川県で発生した外国人(中国人)グループらによる一般住宅対象の緊縛強盗致傷事件など凶悪な組織的犯罪が目立つこと、また取締りの厳しい東京を避けて地方への拡散傾向が見られる」等を報じていました。
 これらは、警察庁の2005年上半期犯罪データにもとづく「来日外国人」犯罪の「増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」というコメントを無批判にそのまま報道しています
 これは、2005年8月18日に警察庁が公表した「2005年上半期犯罪情勢」のなかの「来日外国人による犯罪」のデータがもとになっています。

(2) 「来日外国人」刑法犯検挙件数と検挙人員の減少


ア、2005年上半期の刑法犯認知件数は、詐欺罪を除いてほぼあらゆる罪種で減少しています。「外国人」による犯罪統計は、日本全体の刑法犯認知件数に占める外国人による刑法犯認知件数が不明なため、警察の取り締まり結果を示す「検挙件数」「検挙人員」でしか表すことができません。

イ、2005年上半期の「来日外国人」刑法犯検挙件数は15528件、検挙人員4257人で、2004年上半期と比べて、検挙件数1712件減少(―9.9%)、検挙人員6人減少(―0.1%)しています。 日本全体の刑法犯検挙人員に占める「来日外国人」刑法犯検挙人員の構成比は、2.28% と前年同時期2.31%より0.03%低くなっています。

ウ、凶悪犯も、検挙検数152件、検挙人員185人で、2004年上半期と比べて、検挙件数11件減少(―6.7%)、検挙人員減少13人(―6.6%)しています。これは凶悪犯の大半を占める強盗犯が、検挙検数110件、検挙人員143人で、2004年上半期と比べて、検挙件数16件減少(―12.7%)、検挙人員22人減少(―13.3%)したためです。

エ、「来日外国人」刑法犯の共犯事件は10818件で、前年同時期と比べて1577件減少(―12.7%)、単独犯事件は4710件で、前年同時期と比べて135件減少(−2.8%)また、共犯率も69.7%は、前年同時期が71.9%でしたから、2.2%減少しています。

オ、「不法滞在者」刑法犯検挙人員は686 人(前年同時期比54人増)で、「来日外国人」刑法犯検挙人員4257人に占める構成比は、16.1%、日本全体の刑法犯検挙人187095 人に占める構成比は、0.37%です。

カ、「不法滞在者」凶悪犯検挙人員は71人(殺人8人、強盗62人、放火0人、強姦1人)で、「来日外国人」凶悪犯検挙人員185人に占める構成比は、38.4%、日本全体の凶悪犯検挙人員3485 人に占める構成比は、2.0%です。

 警察庁は、これまで「来日外国人」犯罪の「増加」や「凶悪化」の根拠を、刑法犯検挙件数や強盗犯検挙件数の増加によって強調してきましたので、その論理に従うのなら「外国人犯罪は、2004年上半期と比べて約10%減少、凶悪犯は、その大半を占める強盗犯が約13%減少したため約7%減少」、「共犯事件も、13%減少し、共犯率も約2%減少」とコメントして、マスコミもそのように報道すべきです。結局、警察庁は、「来日外国人」犯罪の「増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」を強調するため都合のよい数字を使い、その「増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」を強調しています。

(3)「来日外国人」犯罪は、増加も、凶悪化も、組織化も、地方への拡散もしていない


1、増加への批判


 これまで、「来日外国人」犯罪の増加の根拠に使われてきた総検挙件数が、23363件と 前年同時期比1124件減少(−4,6%)しているため、2005年上半期では警察の入管法違反者の摘発増加によって増加しているにすぎない特別法犯の検挙人員を含んだ総検挙人員10860人の前年同時期比358人の増加(3.4%)を根拠に、「史上最多」を強調しています。
 しかし、入管法違反者のうちその大半を占める「不法残留者」は、法務省の推計値で2004年中に約1万2千人減少していますので、警察の入管法違反者等の摘発者数が増加しただけで、特別法犯や入管法の違反者数は減少しています。また、刑法犯の検挙件数・検挙人員など減少しているデータにはふれていません。

2、凶悪化への批判



 2005年上半期の「来日外国人」凶悪犯は、2004年上半期と比べて、検挙件数11件(―6.7%)減少、検挙人員13人(―6.6%)減少しています。
 また2005年上半期の「来日外国人」侵入強盗は、その検挙件数は59件(前年同時期比1件減、1.7%減)、検挙人員は74人(前年同時期比19人減 -20.4%)といずれも減少しているのに、その減少をしている事実に触れず、個々の具体的な緊縛事件(外国人だけでなく日本人も被疑者として逮捕されている)を強調しています。なお、2005年上半期の中国人(香港、台湾を含む)刑法犯検挙件数は5555件、検挙人員2063人で、前年同時期と比べて、374件減(−6.3%)、109人減(−5.0%)となっています。

3 組織化への批判



 (1)刑法犯あるいは窃盗犯が複数であることと、それが組織犯罪であることは、別個の概念です。(組織犯罪の代表的なものとされる「暴力団犯罪」は、「暴力団の構成員による犯罪」であって、複数犯であることではありません。)
 また、仮に複数犯を組織犯罪のなかに含めるのであれば、日本全体の犯罪統計においても、複数犯を組織犯罪の中に含めて表示すべきです。

 (2)「来日外国人」刑法犯検挙件数は、窃盗犯が約86%と大半を占め、余罪が日本人に比べて多くカウントされています。 2004年の日本全体の窃盗犯余罪率(検挙件数÷検挙人員)は窃盗犯検挙人員一人当たり2.3件にすぎませんが、「来日外国人」は、5.8件と2.5倍以上カウントされています。2005年上半期の日本全体の窃盗犯余罪率は、窃盗犯検挙人員一人当たり2.2件ですが、「来日外国人」5.9件と2.6倍以上カウントされています。)  そのため共犯率(共犯事件検挙件数÷刑法犯検挙件数)を検挙件数で算出するかぎり「来日外国人」は高くなります。

 (3)以前公表していた統計では、5人組、6〜9人組、10人組以上と分類して公表していたのに、2002年より4人組み以上という分類に変えています。 (1999年と2001年の刑法犯の共犯率は、6〜9人組、10人組以上では日本人のほうが高くなっていました。)

4、地方への拡散への批判



(1) 「来日外国人」刑法犯検挙件数は、1994年13321 件と2004 年32087 件と比べて2004年は2.41倍、刑法犯検挙件数を指標とする限り、地方の警察管内の検挙件数も増加していくことになります。
刑法犯検挙人員を指標とすれば、1994年6989人と比べて2004年は8898人と1.27倍なので、緩やかな増加としかいえなくなります。
(2)しかし、全国の9管区の警察管内における「来日外国人」刑法犯検挙件数は、過去10年に一貫して増加し続けているのではなく、急激な増減を繰り返しています。これは、「来日外国人」刑法犯検挙件数の増減は主に窃盗犯、それも自販機荒しや車上狙いなど非侵入窃盗の余罪の大幅なカウントによるためです。


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