「治安悪化」のスケープゴートとされる外国人
――犯罪統計から見る「来日外国人」「不法滞在者」による犯罪の実像
2008年4月11日 中島 真一郎 (コムスタカー外国人と共に生きる会)
この文章は、『経済』(新日本出版社)の2007年12月号に「治安悪化のスケープゴートとされる外国人」(中島真一郎)
として掲載されたものを加筆修正したものです。
1993年から1996年、そして2007年のデータを追加し書き直し、また、「正規滞在者」と比べた「不法滞在者」による
「侵入窃盗」「侵入窃盗」の「構成比」の高さを理由とする「不法滞在者」による体感治安悪化論を批判する文章を追加しました。
はじめに
警察やマス・メディアによる「外国人犯罪」の宣伝や報道には看過できない問題がある。個々の具体的な凶悪な事件の被疑者が外国人で
ある事件を、マス・メディアが大きく報道していくことによる影響もあるが、『警察白書』等の「来日外国人」(注1)
犯罪統計データによる「来日外国人犯罪の増加・凶悪化」の警察の広報・宣伝が大きな影響を与えている。
注1:警察庁の定義では、「来日外国人」とは、在留外国人のうち定着居住外国人(「特別永住者」、「永住者」、「永住者の配偶者等」の在留資格者)
と駐留米軍関係者と「在留資格不明者」を除いた外国人のことで、「短期滞在者」を含む25種類の在留資格者と在留資格を有しない「不法滞在者」
で構成される。
一般論で言えば、「来日外国人」による犯罪は、国際化によりその構成人口が毎年増大していくので、増加傾向となることが予想できる。
しかしながら、警察は、後で見るように取り締まりの結果にすぎない「検挙件数」や「検挙人員」の増加を、「来日外国人」による犯罪の
増加とすり替えて、「来日外国人」や在留資格のない「不法滞在者」(注2)をスケープゴートにして、「治安の悪化」を印象づけ
続けている。はたして、事実はどうなのか。犯罪統計の見方、扱い方について、以下、具体的に検討する。
注2:「不法滞在者」とは、正規の在留資格を得て入国後在留期限を超えて滞在している「不法残留者」、「偽造旅券」や「密入国」など
有効の旅券を持たずに入国した「不法入国者」、上陸許可を得ずに上陸した「不法上陸者」等によって構成されている。
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1、「外国人犯罪統計」の限界とその読み方
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(1)「認知件数」が不明で、「検挙件数」「検挙人員」で示すしかない外国人犯罪統計
犯罪発生数の増減を論じるときに一般的には「認知件数」(注3)や「犯罪(発生)率」(注4)が使われる。
注3:「認知件数」とは、犯罪について、被害の届出、告訴、告発その他の端緒により、警察などが発生を認知した事件の数をいう。
認知件数には「暗数」(犯罪被害者から被害届けがなされない犯罪や被害届けがなされても警察が受理しない犯罪)は含まれて
いないので、客観的な犯罪発生数をあらわすものではないが、犯罪発生数を表す指標として一般的に使われている。
注4:「犯罪発生率」とは、人口10万人あたりの認知件数を意味する。
外国人による犯罪は、認知件数が不明なため「犯罪発生率」が算出不能であるうえ、「来日外国人」には、構成人口が不明な
「不法入国者・不法上陸者」を含む「不法滞在者」や、膨大な数の「短期滞在者」(2006年新規「短期滞在者」入国者数641万人を含むため、
その構成人口そのものが算出困難である。それゆえ、「来日外国人」や「不法滞在者」の犯罪発生率は不明である。
認知件数は、被害届け・警察の犯罪の認知という過程をへて算入されることから当然であるが、ある年の日本全体の刑法犯認知件数のうち
「外国人」によるものがいくらあったかなどは不明で、「外国人刑法犯認知件数」を示すことはできない。つまり、警察が検挙後に被疑者
の国籍が、外国籍であることがわかるだけである。それゆえ、「外国人犯罪」を統計に表す場合、警察の取り締まり結果を示すにすぎない
「検挙件数」及び「検挙人員」で示すしかない。
また、これまでの警察やマス・メディアの「外国人犯罪増加キャンペーン」により、日本社会において「来日外国人は、日本人等と比べて、犯罪(発生)率が
高いとか、犯罪をおかしやすい」という説が根強く作り出されている。しかし、犯罪統計からは、外国人の犯罪(発生)率は算出できず、算出不能で「不明」と
しかいいようがない。なお、警察庁も、「来日外国人」による犯罪の増加については強調するも、外国人の「犯罪発生率」の高さ等について、言及していない。
(注5)
注:5 1998年の『平成10年版 警察白書』まで、「検挙人員全体に占める来日外国人構成比の高さ」という項目が毎年掲載されていた。しかし、1999年改定入管
難民認定法案の審議の過程で、法務大臣が「来日外国人」には、「不法滞在者」や「短期滞在者」が含まれており、「来日外国人」人口構成比を日本全体の1%として
算出していることの不自然さを追及され、以後翌年の『平成11年版 警察白書』から、この項目は削除されて現在に至っている。
警察庁は、「刑法犯」(注6)と「特別法犯」(注7)をあわせた「総検挙件数」・「総検挙人員」の増加や、「刑法犯検挙件数」の増加を根拠に、
「来日外国人」による犯罪の「増加・凶悪化」を宣伝し、マス・メディアがそれを検証なく報道している。
しかしながら、「外国人犯罪」の増加を、「検挙件数」や「検挙人員」、さらに「総検挙件数」・「総検挙人員」の増加で示すことには、
以下述べるように大きな限界がある。
注6:「刑法犯」とは、道路交通関係業務上過失罪等を除いた刑法等に規定された罪をいう。「凶悪犯」「粗暴犯」「窃盗犯」「知能犯」「風俗犯」
「その他の刑法犯」の6つの包括罪種がある 。
注7:「特別法犯」とは、刑法犯等の罪を除いた罪をいう(但し、「道路交通法」等交通関係法令違反を除く)。特別法には、「覚せい剤取締法」
「入管法」「風営適正化法」「銃刀法」「軽犯罪法」「労働基準法」「公職選挙法」等がある。「特別法犯」には、被害者のいない犯罪が多く、
「認知件数」として統計的に計上されないため、「刑法犯」とは性格が異なる。従って、刑法犯と特別法犯を統計上合算することはできない。
(2)「来日外国人」特別法犯検挙件数・検挙人員の限界
《入管法違反の取締り強化による増加》
「来日外国人」特別法犯の約7−8割は『出入国管理及び難民認定法』(以下、入管法)違反者が占めている。1993年の約30万人の
「不法残留者」は、2007年1月1日現在約17万人、2008年1月1日現在約15万人と減少しており、「不法残留者」が大半を占める
入管法違反者は、この15年間で約4〜5割減少していると推定できる。しかしながら、1993年と2006年を比べると、入管法違反の検挙件数は、
4393件から10100件と2.3倍、検挙人員は、3618人から8690人と2.4倍に増加している。
私が、「検挙件数や検挙人員は、警察の取締りの結果を示すにすぎず、犯罪の増減をしめしているわけではない」というのは、このことを示している。
つまり、「不法残留者」は約5割減少しているのに、警察の取締り強化の結果として、検挙件数、検挙人員は
約2倍以上に増えているのである。この内容を、正確に広報しないで、「来日外国人」特別法犯の「検挙件数」・「検挙人員」の増加を根拠として、
「来日外国人犯罪」の増加を論じることは、外国人への誤解と偏見を広げることになる。特別法犯の「検挙件数」・「検挙人員」の増加は、
犯罪発生数の増加を示す指標として使えない。
《外国人犯罪だけ、特別法犯と刑法犯の数を合計する不可解さ》
さらにいえば、被害者のいない犯罪が大半を占める「特別法犯」は認知件数が不明で、「刑法犯」と性格を異にする。
したがって「特別法犯」と「刑法犯」を合計した「総検挙件数・総検挙人員」という概念・枠をつくることに合理的な意味はなく、
そのような概念は『警察白書』『犯罪白書』など日本全体の犯罪統計では使われていない。にもかかわらず、
警察庁の「来日外国人」犯罪統計では、「総検挙件数・総検挙人員」を使用している。警察の取締りの結果、
入管法違反での検挙件数・検挙人員が増えると、当然「総検挙件数・総検挙人員」が増える。
その増加を、あたかも「来日外国人」による犯罪の増加であるかのようにすり替えて強調している。
警察の意図的と思えるこうした統計数字の操作についてはあまり知らされていないのである。
(3)「来日外国人」刑法犯検挙件数の限界
一般的に言って、「検挙件数」が「検挙人員」より多くなるのは、余罪が「検挙件数」に含まれるためである。
そして、「来日外国人」刑法犯検挙件数は、日本全体の刑法犯と比べて、異常と思えるほど余罪のカウントが多くなされている。
例えば、2007年の刑法犯の「余罪率」(刑法犯検挙人員一人当たりの刑法犯検挙件数)(注8)は、
日本全体の刑法犯では1.7件だが、2007年「来日外国人」刑法犯では3.4件と、2倍以上になっている。これは、警察が、
日本人による犯罪の場合、通常は立件に必要な数件や数十件の余罪の追及にとどまるのに対して、「来日外国人」による「自販機荒し」
「車上狙い」などの非侵入盗の犯罪を、一グループあたり何百件、何千件と、その余罪をカウントして算出しているためである。
そのため、「来日外国人」刑法犯検挙件数は、犯罪発生数の客観的増加を示す指標としては使えない。
注:8 「余罪」とは、一人の被疑者や被告人の容疑事実となっている犯罪以外の犯罪のことをいう。
刑法犯の「余罪率」(刑法犯検挙人員一人当たりの刑法犯検挙件数)は、1994年以前は、「日本全体」(1994年2.5件)の方が、
「来日外国人」(1994年1.9件)より多かった。しかし、1995年以降は、「来日外国人」の方が「日本全体」よりも多くなる。
これは、警察の捜査方針が「日本全体」としては、余罪の追及より検挙人員の増加を重視する方針に転換していく一方、
「来日外国人」については、逆に余罪の追及を厳しくして、検挙件数を増加させているためである。
(4)「来日外国人」刑法犯検挙人員の限界
「来日外国人」刑法犯検挙人員も、事後的に警察により検挙された人員を示すに過ぎない指標である。
さらに警察がある罪種、例えば「占有離脱物横領罪」(「留学生」「就学生」は、刑法犯の中では「占有離脱物横領罪」、
つまり放置自転車の無断使用などで検挙される比率が高いことが知られている)の取締りを重点的に行えば、その犯罪の
検挙人員は増大していく。これも警察の取り締まり方針に左右されやすい指標である。それゆえ、「来日外国人」検挙
人員の増減が、「来日外国人」犯罪の増減を客観的に示すものではない。
(5)まとめ
このように「検挙件数」や「検挙人員」を指標とする「来日外国人」犯罪統計は、「来日外国人」による犯罪の増減を客観的に
示すものではない。しかも、すでに見たように、警察庁の公表している統計数字の内容が「来日外国人犯罪の増加」を強調する
ように意図されている。
以上の限界を踏まえ、警察庁が公表している犯罪統計指標を用いて、日本社会の「来日外国人」及び「不法滞在者」による
犯罪の増減をどのように把握することができるのであろうか。私の見解は、「検挙人員」の指標の各年ごとの増減比較によるのではなく、
日本全体に占める構成比の一定期間(例えば、10年間)の経年的な変化を鳥瞰することで、大まかな増減の変化を把握する
ことができるというものである。
つまり、警察庁の犯罪統計指標のうち「検挙人員」の経年的推移を、日本全体に占める構成比でみることで、
「来日外国人」や「不法滞在者」による「刑法犯罪」「凶悪犯罪」の増減の大まかな推移の把握をなすのである。(注9)
注9:「検挙人員」の経年的推移を日本全体に占める構成比で見る場合に、対象集団の「構成人口」と警察の「検挙方針・検挙能力」が
一定であることが条件となる。
1993年から2006年までの「構成人口」では、「来日外国人」のうち「正規滞在者」人口は、約1.5倍に増加したが、
「不法滞在者」人口は、4割以上減少している。「検挙方針・検挙能力」については、1998年から2002年まで
「日本全体の認知件数」が急増しているが、これは、警察庁が、認知件数を「全件受理」に変更した影響と思われること、
「侵入窃盗」では、認知件数の増減は、景気変動や雇用状況に対応しているが、
検挙人員は概ね減少し続けており、これは警察の検挙能力が低下したためと思われる。これらの変動要因を考慮して、
その増減の評価をしなければならない。
以下、1993年から2007年までの15年間の「来日外国人」と「不法滞在者」の「刑法犯」検挙人員と「凶悪犯」の
検挙人員の推移から、その増減を論じる。
出典 警察庁 ホームページ 「平成18年の犯罪情勢」、「平成19年の犯罪情勢」、
各年版 『警察白書』及び 「来日外国人犯罪の現状」など犯罪統計資料 より
(但し 「平成19年中 来日外国人犯罪の現状」は、暫定値である)
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2、外国人による犯罪は増加していない
「来日外国人」、「不法滞在者」刑法犯の犯罪統計
(1993年から2007年の最近15年間 表1、 表2 より)
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(1) 「来日外国人」刑法犯検挙人員
1993年から2007年の最近15年間では、日本全体の刑法犯検挙人員が、2004年38万9027人を最大値に、最近3年間は2005年38万6955人、
2006年38万4250人、2007年36万5577人(前年同時期比18673人減)と減少しているのと同様に、「来日外国人」刑法犯検挙人員は、
2004年の8898人を最大値に、2005年8505人、2006年8148人、2007年7542人(前年606人減少、全国に占める構成比 2.1%)と
減少している。
「来日外国人」刑法犯検挙人員が全国刑法犯検挙人員に占める構成比も、1993年から2007年の最近15年間で、最大値は1993年の2.4%で、
最小値は1998年の1.7%であった。つまり、1993年から1998年まで構成比は減少し、1999年1.9%から2003年2.3%まで増加、
2004年2.3%から、2005年2.2%、2006年2.1% 2007年2.1%へと減少している。
このように「来日外国人」刑法犯検挙人員が全国刑法犯検挙人員に占める構成比は、1993年2.4%を最大値としており、
それ以降15年間の最低値が1.7%で、概ね2%前後となっており、増加傾向は見られない。「来日外国人」の構成人口(注10)が、
最近15年間に約1.5倍に増加していることを考慮すれば、減少しているといえる。
注10:「来日外国人」人口 ここでいう「来日外国人」人口は、警察庁の定義に基づき、外国人登録者数から永住者等(「特別永住者」「永住者」
「永住者配偶者等」の在留資格者)の在留資格者数を除き、それに推計「不法残留者数」を加えて算出した推計値である。
(「来日外国人」人口=外国人登録者数+「推定不法残留者数」-永住者数(特別永住者+一般永住者))(但し、「不法入国者・不法上陸者等」は、
その数は不明であり、また、「短期滞在者」も「90日以内」の滞在にすぎないので含めていない。)これによると、1993年約99万人、
2006年約144万人で、約1.5倍に増加している。
(2) 「正規滞在者」刑法犯検挙人員
1993年から2007年の最近15年間で、「正規滞在者」刑法犯検挙人員は、2004年7505人を最大値に2005年7201人、
2006年7073人、2007年6790人(前年比283人減少)と減少傾向にあり、最大値の2004年7505人と比べて、
最小値である2007年は6790人と約1割減少している。 また、1993年から2007年の最近15年間で、「正規滞在者」
刑法犯検挙人員が全国刑法犯検挙人員に占める構成比は、1993年2.1%を最大値に、1998年1.3%が最小値であった。
つまり、1993年2.1%から1998年1.3%まで減少し、1998年から2004年1.9%まで増加、最近3年間は2005年1.9%、
2006年1.8%、2007年1.9%で推移している。「正規滞在者」の構成人口が、最近15年間に約1.8倍増加していること(注11)
を考慮すると、「正規滞在者」刑法犯は、減少しているといえる。
注11: 「正規滞在者」の人口は、外国人登録者のうち『定着居住者』(「特別永住者」「永住者」「永住者の配偶者等」で構成される)の在留資格者を
除いたもので構成され、1993年69万人から2006年125万人へと約1.8倍近く増加している。
但し、「正規滞在者」人口を構成する外国人登録の義務のない「外交・公用」の在留資格者と「短期滞在」の在留資格者の大半は、外国人登録者数に
ふくまれていない。(2006年新規入国した「短期滞在」の在留資格者641万人のうち約56000人が外国人登録をしている。)そのため、外国人登録者数
から「定着居住者」数を差し引いても、その分一致しない限界がある。
(3)「不法滞在者」刑法犯検挙人員
1993年から2007年の最近15年間で、「不法滞在者」刑法犯検挙人員は、1996年1632人を最大値に2004年1393人、
2005年1304人、2006年1075人、2007年752人(前年比323人減少)であり、最大値の1996年1632人と比べて、
最小値である2007年は752人と5割以上減少している。
1993年から2007年の最近15年間で「不法滞在者」刑法犯検挙人員が全国刑法犯検挙人員に占める構成比も、
1996年0.55%を最大値に、2007年0.21%が最小値であり、5割以上減少している。そして、2000年0.52%以降、
2001年0.42%、2002年0.40%、2003年0.40%、2004年0.36%、2005年0.34%、2006年0.28%
2007年0.21%へと7年連続減少している。「不法滞在者」の構成人口(注12)が、
最近15年間に半減していることを考慮しても、「不法滞在者」刑法犯には、増加傾向は見られない。
注12: 「不法滞在者」の構成人口は、「不法入国者」「不法上陸者」が不明のため算定できないが、「不法滞在者」の構成人口の
約7〜8割を占める「不法残留者数」(法務省が公表している推計値)によると、1993年約30万人から、2007年約17万人
、2008年15万人へと半減している。
(4)まとめ
以上、1993年から2007年最近15年間の刑法犯検挙人員の推移から、「来日外国人」及び「正規滞在者」の
刑法犯検挙人員は、日本全体の刑法犯検挙人員の増減に概ね対応して1998年まで減少、1999年から2004年までは増加、
そして2004年を最大値に、最近3年間は減少している。
また、「不法滞在者」の刑法犯検挙人員は、1996年(1632人)を最大値として、2007年752人を最小値とする。
1996年以外にも2000年(1603人)、2003年(1520人)の2つの山があるが、2004年以降最近3年間は減少し、
2007年752人は1996年1632人と比べて5割以上減少している。
日本全体の刑法犯検挙人員に占める構成比をみると、「来日外国人刑法犯検挙人員」は、過去15年間、
1993年の2.4%を最大値に、1998年の1.7%を最小値として、2007年2.1%へと変化しているが、
概ね全国の刑法犯検挙人員の2%程度とほとんど変化していない。
そのうち、「正規滞在者」は、過去15年間、1993年の2.1%を最大値に、1998年の1.3%を最小値として
2007年1.9%へと変化している。
2000年から2007年の最近8年間は、全国の刑法犯検挙人員の2%弱で推移しており、増加傾向もみられず、
犯罪の温床ともいえない。
また「不法滞在者」は、1996年の最大値0.55%から2007年最小値0.21%へと減少しており、その構成比の小ささと、
増加傾向にないことから、日本の犯罪の温床でも、「治安悪化」の要因でもない。
表1 「来日外国人」 及び「不法滞在者」刑法犯検挙人員の犯罪統計
最近15年間(1993年から2007年)
年 |
全国刑法犯検挙人員 |
来日外国人 検挙人員 |
全国に占める 構成比(%) |
不法滞在者刑法犯検挙人員 |
全国に占める 構成比(%) |
1993 |
297725 |
7276 |
2.4 |
1015 |
0.34 |
1994 |
307965 |
6989 |
2.3 |
1215 |
0.39 |
1995 |
293252 |
6527 |
2.2 |
1315 |
0.45 |
1996 |
295584 |
6026 |
2.0 |
1632 |
0.55 |
1997 |
313573 |
5435 |
1.7 |
1317 |
0.42 |
1998 |
324263 |
5382 |
1.7 |
1302 |
0.40 |
1999 |
315355 |
5963 |
1.9 |
1529 |
0.48 |
2000 |
309649 |
6329 |
2.0 |
1603 |
0.52 |
2001 |
325292 |
7168 |
2.2 |
1379 |
0.42 |
2002 |
347558 |
7690 |
2.2 |
1403 |
0.40 |
2003 |
379602 |
8725 |
2.3 |
1520 |
0.40 |
2004 |
389027 |
8898 |
2.3 |
1393 |
0.36 |
2005 |
386955 |
8505 |
2.2 |
1304 |
0.34 |
2006 |
384250 |
8148 |
2.1 |
1075 |
0.28 |
2007 |
365577 |
7528 |
2.1 |
754 |
0.21 |
ゴチ * 最大値 赤字 * 最小値
表2 「正規滞在者」及び「不法滞在者」 刑法犯検挙人員の犯罪統計
最近15年間(1993年から2007年)
年 |
全国刑法犯検挙人員 |
正規滞在者 検挙人員 |
全国に占める 構成比(%) |
「不法滞在者」 刑法犯 検挙人員 |
全国に占める構成比(%) |
1993 |
297725 |
6261 |
2.1 |
1015 |
0.34 |
1994 |
307965 |
5774 |
1.9 |
1215 |
0.39 |
1995 |
293252 |
5212 |
1.8 |
1315 |
0.45 |
1996 |
295584 |
4394 |
1.5 |
1632 |
0.55 |
1997 |
313573 |
4118 |
1.3 |
1317 |
0.42 |
1998 |
324263 |
4080 |
1.3 |
1302 |
0.40 |
1999 |
315355 |
4434 |
1.4 |
1529 |
0.48 |
2000 |
309649 |
4726 |
1.5 |
1603 |
0.52 |
2001 |
325292 |
5789 |
1.8 |
1379 |
0.42 |
2002 |
347558 |
6287 |
1.8 |
1403 |
0.40 |
2003 |
379602 |
7205 |
1.9 |
1520 |
0.40 |
2004 |
389027 |
7505 |
1.9 |
1393 |
0.36 |
2005 |
386955 |
7201 |
1.9 |
1304 |
0.34 |
2006 |
384250 |
7073 |
1.8 |
1075 |
0.28 |
2007 |
365577 |
6774 |
1.9 |
754 |
0.21 |
ゴチ * 最大値 赤字 * 最小値
----------------------------------------
3、外国人による凶悪犯罪は
増加していない
「来日外国人」、「不法滞在者」凶悪犯の犯罪統計(199年から2007年の最近15年間
表3、表4より)
----------------------------------
(1)「来日外国人」凶悪犯検挙人員
この15年間をみると、日本全体の凶悪犯検挙人員が、1993年5190人を最小値、2003年8362人を最大値として、2004年7519人、
2005年7047人、2006年6459人、2007年5923人と減少しているのと同様に、「来日外国人」凶悪犯検挙人員は、1995年201人を最小値、
2003年477人を最大値として、2004年421人、2005年396人、2006年297人、2007年259人と最近4年間で4割以上減少している。
「来日外国人」凶悪犯検挙人員の全国凶悪犯検挙人員に占める構成比は、1997年3.2%を最小値、2003年5.7%を最大値として、
2004年5.6%、2005年5.6%、2006年4.6%、2007年4.4%と減少している。
(2)「正規滞在者」凶悪犯検挙人員
「正規滞在者」凶悪犯検挙人員は、2003年302人を最大値に、2004年261人、2005年254人、2006年202人、
2007年197人と、2003年と比べて2007年は、3分の2に減少している。
「正規滞在者」凶悪犯検挙人員の全国凶悪犯検挙人員に占める構成比も、2003年3.6%を最大値に2004年3.5%、
2005年3.6%、2006年3.1%、2007年3.3%と減少している。
(3)「不法滞在者」凶悪犯検挙人員
「不法滞在者」凶悪犯検挙人員は、2000年186人を最大値に、2004年160人、2005年142人、2006年95人、
2007年62人と、2000年と比べて2007年は、3分の1に減少している。「不法滞在者」凶悪犯検挙人員の全国凶悪犯検挙人員に
占める構成比も、1996年2.6%を最大値に2003年2.1%、2004年2.1%、2005年2.0%、2006年1.5%、2007年1.0%と減少している。
(4) まとめ
以上から、最近15年間の「凶悪犯」検挙人員の推移からみて、「来日外国人」の凶悪犯検挙人員は、
日本全体の凶悪犯検挙人員の増減に対応して、最近4年間では4割以上減少している。うち「正規滞在者」の
凶悪犯検挙人員は3分の1、「不法滞在者」の凶悪犯検挙人員は3分の2以上減少している。
また、その構成比からみて、過去15年間「来日外国人」は、全国の凶悪犯検挙人員の4%〜5%程度、そのうち、
「正規滞在者」が2〜3%程度、
「不法滞在者」は、1%〜2%程度しか占めておらず、日本の凶悪犯罪の温床とはいえない。
さらに、全国に占める構成比の変化も、1993年に比べて2006年は、「来日外国人」人口は、99万人から144万人へ1.5倍に、
うち「正規滞在者」人口は、69万人から125万人に2倍近くに増加しており、「不法残留者」は、約30万人から約17万人へ
約4割以上減少していると推定できるので、その構成人口の変化を考慮すれば、むしろ減少傾向にあるとみることもできる。
表3 「来日外国人」及び「不法滞在者」凶悪犯
(殺人・強盗・強姦・放火の4つの罪種)の犯罪統計
1993年から2007年
年 |
全国凶悪犯 検挙人員 |
来日外人 凶悪犯 検挙人員 |
全国に占め る構成比(%) |
「不法滞在者」 凶悪犯 検挙人員 |
全国に占め る構成比(%) |
1993 |
5190 |
246 |
4.7 |
130 |
2.5 |
1994 |
5526 |
230 |
4.2 |
133 |
2.4 |
1995 |
5309 |
201 |
3.8 |
106 |
2.0 |
1996 |
5459 |
212 |
3.9 |
142 |
2.6 |
1997 |
6633 |
213 |
3.2 |
131 |
2.0 |
1998 |
6949 |
251 |
3.6 |
137 |
2.0 |
1999 |
7217 |
347 |
4.8 |
186 |
2.6 |
2000 |
7488 |
318 |
4.2 |
159 |
2.1 |
2001 |
7490 |
403 |
5.4 |
180 |
2.4 |
2002 |
7726 |
353 |
4.6 |
141 |
1.8 |
2003 |
8362 |
477 |
5.7 |
175 |
2.1 |
2004 |
7519 |
421 |
5.6 |
160 |
2.1 |
2005 |
7047 |
396 |
5.6 |
142 |
2.0 |
2006 |
6459 |
297 |
4.6 |
95 |
1.5 |
2007 |
5923 |
259 |
4.4 |
62 |
1.0 |
ゴチ * 最大値 赤字 * 最小値
表4 「正規滞在者」及び「不法滞在者」凶悪犯
(殺人・強盗・強姦・放火の4つの罪種)の犯罪統計
1993年から2007年
年 |
全国凶悪犯 検挙人員 |
正規滞在者凶悪犯 検挙人員 |
全国に占め る構成比(%) |
「不法滞在者」 凶悪犯 検挙人員 |
全国に占め る構成比(%) |
1993 |
5190 |
116 |
2.2 |
130 |
2.5 |
1994 |
5526 |
97 |
1.8 |
133 |
2.4 |
1995 |
5309 |
95 |
1.8 |
106 |
2.0 |
1996 |
5459 |
70 |
1.3 |
142 |
2.6 |
1997 |
6633 |
82 |
1.2 |
131 |
2.0 |
1998 |
6949 |
114 |
1.6 |
137 |
2.0 |
1999 |
7217 |
161 |
2.2 |
186 |
2.6 |
2000 |
7488 |
159 |
2.1 |
159 |
2.1 |
2001 |
7490 |
223 |
3.0 |
180 |
2.4 |
2002 |
7726 |
212 |
2.8 |
141 |
1.8 |
2003 |
8362 |
302 |
3.6 |
175 |
2.1 |
2004 |
7519 |
261 |
3.5 |
160 |
2.1 |
2005 |
7047 |
254 |
3.6 |
142 |
2.0 |
2006 |
6459 |
202 |
3.1 |
95 |
1.5 |
2007 |
5923 |
197 |
3.3 |
62 |
1.0 |
ゴチ * 最大値 赤字 * 最小値
----------------------------------------
4、「体感治安」による「不法滞在者犯罪脅威論」への批判 (その1)
「来日外国人」による侵入強盗・侵入窃盗の犯罪統計(1993年から2007年の最近15年間 表5、)、
「不法滞在者」による侵入強盗・侵入窃盗の犯罪統計(2003年から2007年の最近5年間 表6、)
----------------------------------------
これまで警察庁は、「検挙件数」の増加を主な根拠として「来日外国人」及び「不法滞在者」による犯罪の
「増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」等を強調してきた。
しかし、警察庁は、これらが根拠のないものであることへの批判を意識するようになってきており、また、
「検挙件数」を指標にしても、2005年47865件を最大値として、
2006年40128件、2007年35800件と2年連続減少してきた。そのため警察庁は、近年では、住民の「体感治安」に
不安を与えている「侵入強盗」や「侵入窃盗」の増加や、
これらの犯罪で「正規滞在者」と比べて「不法滞在者」の構成比が高いことを強調するようになった。(注 13)そこで、
「来日外国人」及び「不法滞在者」による「侵入強盗」や「侵入窃盗」検挙人員について検証してみる。
注13: 『平成19年版警察白書』のなかで、「平成18年中に刑法犯で検挙された来日外国人に占める
不法滞在者の割合は、13.2%にとどまる。しかしながら、罪種別に見ると、侵入窃盗では、58.0%、
侵入強盗では、58.2%となるなど国民に強い不安を与える身近な犯罪への不法滞在者の関与が顕著になっている。」
(P.142)と記述している。
(1)「来日外国人」侵入強盗犯検挙人員
最近14年間(1994年〜2007年)の日本全体の侵入強盗認知件数は、1997年1002件まで減少傾向にあったが、
1998年より増加に転じて2003年2865件と最大値となり、2004年から減少に転じて2007年1700件と減少している。
日本全体の侵入強盗検挙人員も、日本全体の侵入強盗認知件数の変化に沿って推移しており、1996年610人を最小値、
2004年1356人が最大値として、最近3年間は、2005年1255人、2006年1107人、2007年968人と減少している。
同様に、「来日外国人」侵入強盗検挙人員は、1997年43人を最小値として、2003年の218人を最大値に、2004年201人、
2005年 170人、2006年 98人、2007年 71人と最近4年間で7割減少している。
「来日外国人」侵入強盗検挙人員の全国侵入強盗検挙人員に占める構成比は、1997年6.0%を最小値として、
2003年16.6%をピークに2004年14.8%、2005年13.5%、2006年8.9%、2007年7.3%と減少している。
(2)「不法滞在者」侵入強盗犯検挙人員
最近5年間(2003年〜2007年)「不法滞在者」侵入強盗検挙人員は、2003年109人を最大値に、
2004年94人、2005年88人、2006年57人、2007年32人を最小値と、2003年と比べて
2007年は、7割以上減少している。「不法滞在者」侵入強盗検挙人員の
全国侵入強盗検挙人員に占める構成比も、2003年8.3%を最大値に2004年6.9%、2005年7.0%、
2006年5.1%、2007年3.3%と減少している。
表5 「来日外国人」侵入強盗の犯罪統計(検挙人員)
1994年から2007年
年 |
全国侵入強盗犯認知件数 |
全国侵入強盗犯検挙人員 |
来日外国人 侵入強盗犯 検挙人員 |
侵入強盗犯検挙人員の全国に占める構成比(%) |
1994 |
1264 |
761 |
65 |
8.5 |
1995 |
1032 |
679 |
74 |
10.9 |
1996 |
1004 |
610 |
65 |
10.7 |
1997 |
1002 |
719 |
43 |
6.0 |
1998 |
1314 |
854 |
63 |
7.4 |
1999 |
1649 |
993 |
160 |
16.1 |
2000 |
1786 |
982 |
132 |
13.4 |
2001 |
2335 |
1094 |
138 |
12.6 |
2002 |
2436 |
1134 |
163 |
14.4 |
2003 |
2865 |
1310 |
218 |
16.6 |
2004 |
2776 |
1356 |
201 |
14.8 |
2005 |
2205 |
1255 |
170 |
13.5 |
2006 |
1896 |
1107 |
98 |
8.9 |
2007 |
1700 |
968 |
71 |
7.3 |
ゴチ * 最大値 赤字 * 最小値
表6 「不法滞在者」侵入強盗の犯罪統計(検挙人員)
最近5年間( 2003年から2007年 )
年 |
全国侵入強盗犯認知件数 |
全国侵入強盗犯検挙人員 |
「不法滞在者」 侵入強盗 検挙人員 |
全国侵入強盗検挙人員に占め る構成比(%) |
2003 |
2865 |
1310 |
109 |
8.3 |
2004 |
2776 |
1356 |
94 |
6.9 |
2005 |
2205 |
1255 |
88 |
7.0 |
2006 |
1896 |
1107 |
57 |
5.1 |
2007 |
1700 |
968 |
32 |
3.3 |
ゴチ * 最大値 赤字 * 最小値
(3)「来日外国人」侵入窃盗検挙人員
最近15年間(1993年〜2007年)の日本全体の侵入窃盗認知件数は、1997年221678件まで減少傾向にあったが、
1998年237703件より増加に転じて2002年338294件と最大値となり、2003年333233件から減少に転じて、
最小値2007年175728件へと減少している。
最近15年間(1993年〜2007年)の日本全体の侵入窃盗検挙人員は、1993年18741人を最大値として、
おおむね減少傾向にあり、2007年12037人まで減少している。
「来日外国人」侵入窃盗検挙人員は、1993年201人を最小値として、2003年の704人を最大値に、
2004年565人、2005年524人、2006年441人、2007年408人と減少し、最近4年間で約4割減少している。
「来日外国人」侵入窃盗検挙人員の全国侵入窃盗犯検挙人員に占める構成比は、1993年1.1%を最小値として、
2001年と2003年5.0%を最大値に2004年4.2%、
2005年4.2%、2006年3.5%、2007年3.4%と減少している。
(4)「不法滞在者」侵入窃盗犯検挙人員
最近5年間(2003年〜2007年)「不法滞在者」侵入窃盗検挙人員は、2003年461人を最大値に、2004年317人、
2005年296人、2006年256人、2007年164人を最小値と、2003年と比べて2007年は、6割以上減少している。
「不法滞在者」侵入窃盗検挙人員の全国侵入窃盗検挙人員に占める構成比も、2003年3.2%を最大値に2004年2.3%、
2005年2.4%、2006年2.1%、2007年1.4%と減少している。
表7 「来日外国人」及び「不法滞在者」侵入窃盗の犯罪統計(検挙人員)
最近15年間 1993年から2007年
年 |
全国侵入窃盗犯 認知件数 |
全国侵入窃盗犯 検挙人員 |
来日外国人 侵入窃盗犯 検挙人員 |
全国に占め る構成比(%) |
1993 |
254516 |
18741 |
204 |
1.1 |
1994 |
247661 |
18168 |
257 |
1.4 |
1995 |
234586 |
16275 |
268 |
1.6 |
1996 |
223590 |
15866 |
308 |
1.9 |
1997 |
221678 |
15859 |
362 |
2.3 |
1998 |
237703 |
15480 |
390 |
2.5 |
1999 |
260981 |
15234 |
438 |
2.9 |
2000 |
296486 |
13651 |
674 |
4.9 |
2001 |
303698 |
13712 |
688 |
5.0 |
2002 |
338294 |
13696 |
658 |
4.8 |
2003 |
333233 |
14208 |
704 |
5.0 |
2004 |
290595 |
13548 |
565 |
4.2 |
2005 |
244776 |
12564 |
524 |
4.2 |
2006 |
205463 |
12434 |
441 |
3.5 |
2007 |
175728 |
12037 |
408 |
3.4 |
ゴチ * 最大値 赤字 * 最小値
表8 「不法滞在者」侵入窃盗の犯罪統計(検挙人員)
最近5年間 2003年から2007年
年 |
全国侵入窃盗犯認知件数 |
全国侵入窃盗犯検挙人員 |
「不法滞在者」 侵入窃盗 検挙人員 |
全国侵入窃盗犯検挙人員に占め る構成比(%) |
2003 |
333233 |
14208 |
461 |
3.2 |
2004 |
290595 |
13548 |
317 |
2.3 |
2005 |
244776 |
12564 |
296 |
2.4 |
2006 |
205463 |
12434 |
256 |
2.1 |
2007 |
175728 |
12037 |
164 |
1.4 |
ゴチ * 最大値 赤字 最小値
(5) まとめ
以上から、最近15年間の侵入強盗検挙人員の推移からみて、「来日外国人」の侵入強盗検挙人員は、
日本全体の侵入強盗犯認知件数や検挙人員の増減に概ね対応しており、最近4年間は減少している。
また、最近5年間の「不法滞在者」の侵入窃盗検挙人員も、
同様の傾向であり、「日本全体」と比べれば、その絶対数も少なく、構成比も小さい。
そして、最近15年間の「来日外国人」の侵入窃盗検挙人員も、日本全体の侵入窃盗犯認知件数の
増減に概ね対応しており、2003年を最大値として、最近4年間は減少傾向にある。
最近4年間の「不法滞在者」の侵入窃盗犯検挙人員も、同様な傾向であり、「日本全体」と比べれば、
その絶対数も少なく、構成比も小さく、その構成比も増加傾向にない。
----------------------------------------
5、「体感治安」による「不法滞在者犯罪脅威論」への批判( その2 )
2001年と2007年刑法犯検挙人員の罪種別の構成比からみる
「日本全体」「正規滞在者」「不法滞在者」の比較
----------------------------------------
刑法犯検挙人員の罪種別構成比をみたとき、「正規滞在者」と比べて「不法滞在者」は、
「凶悪犯」(特に「侵入強盗」)、「窃盗犯」(特に「侵入窃盗」)の構成比が高いことを、
警察庁は「来日外国人」犯罪の温床や「治安悪化」の要因となっていると主張し、
「不法滞在者」取締りや規制強化の根拠としている。
しかし、先に述べたように「日本全体」のなかで、「不法滞在者」による「侵入強盗」「侵入窃盗」の
検挙人員の数やその構成比は、「侵入強盗」2006年5.1%、
2007年3.3%、「侵入窃盗」2006年2.1%、2007年1.4%と小さく、しかも減少傾向にある。
住民の「体感治安」に不安を与えているといわれる「侵入強盗」「侵入窃盗」の多くが「不法滞在者」以外の者、
日本社会で圧倒的な構成人口を占める「日本人」により行われている。「侵入強盗」や「侵入窃盗」は、検挙率(注14)が高く、
逮捕される危険性が高い犯罪である。そのような危険性の高い犯罪を行う者の多くは、何らかの経済的困窮者である。
注:14 「検挙率」は、ある罪種の認知件数に占める検挙件数の割合を百分率で示したもの。 2006年「侵入強盗」の検挙率は、
2006年63.3%、2007年56.9%「侵入窃盗」の検挙率は 、2006年49.1%、2007年54.8%である。
罪種別構成比の比較を、「日本全体」と「多重債務者(あるいは、経済的困窮者)」を比較した場合も後者の方は、
「侵入強盗」「侵入窃盗」の構成比が高くなることが予想される。しかし、警察庁は、「不法滞在者」のように、
「多重債務者」を「治安悪化」の要因として、その危険性を広報・強調し、取締りの対象とし規制強化の政策を
とることはしていない。「多重債務者」による犯罪問題は、むしろ日本社会の「貧困」問題や社会政策の問題として
解決をめざすべき問題である。
以下の表9、10は、2001年と2007年の罪種別の刑法犯検挙人員の構成比を「日本全体」「正規滞在者」
「不法滞在者」の三者を比較したものである。
(参考までに、2001年の完全失業率は5.0%、2007年の完全失業率は3.8%であり、2001年は、
雇用状況が悪化している時期、2007年は雇用状況が改善されている時期に当たる。)
2001年刑法犯検挙人員の罪種別の構成比を「日本全体」と「不法滞在者」を比べると、「不法滞在者」の方は、
「凶悪犯」(特に「強盗」)、「窃盗犯」、「知能犯」(「詐欺」「偽造」など)の構成比が高い、一方、
「日本全体」の方は、「粗暴犯」(「傷害」「恐喝」など)や「その他の刑法犯」(「占有離脱物横領」
「器物損壊」「住居侵入」など)の構成比が高いという特色がみられる。
「正規滞在者」は、「日本全体」の構成比に近いが、「強盗」や「窃盗」や「その他の刑法犯」の構成比がやや高く、
「粗暴犯」の構成比が低い。 2007年刑法犯検挙人員の罪種別の構成比では、「日本全体」と「正規滞在者」の構成比は、
「強盗」「知能犯」がやや高いものの、それ以外はほとんど変わらなくなっている。また、「不法滞在者」の構成比も、
2001年と同様な特色はあるものの、2001年に比べて、「日本全体」の構成比に近づいている。
このことは、「不法滞在者」による犯罪、特に「侵入強盗」「侵入窃盗」を減少させる方法として、入管法の規制を緩和し、
合法的に入国や就労できるような状況に変えたり、すでに「不法滞在者」となっている外国人に在留特別許可を活用して、
在留資格を付与するなど合法化を進め、「正規滞在者」にしていくことで目的を達成できることを示唆している。
また、「日本全体」での「侵入強盗」「侵入窃盗」を減らすには、「貧困」や「格差」問題の解決、雇用状況の改善や
福祉政策の充実をはかることが必要である。「不法滞在者」を、いつでも日本から追いだせる存在と見るのではなく、
日本社会の構成員としてとらえ、「多重債務者」による犯罪問題の解決と同様の問題としてとらえていくべきである。
表9 2001年 「日本全体」「正規滞在者」「不正規滞在者」
罪種別の刑法犯検挙人員の構成比の比較
罪 種 |
日本全体(構成比%) |
正規滞在者(構成比%) |
不法滞在者(構成比%) |
刑法犯総数 |
325292 (100) |
5789 (100) |
1379 (100) |
凶悪犯 |
7490 (2.3) |
223 (3.9) |
180 (13.1) |
うち殺人 |
1340 (0.4) |
29 (0.5) |
30 (2.2) |
うち強盗 |
4096 (1.3) |
164 (2.8) |
145 (10.5) |
うち侵入強盗 |
-- |
-- |
-- |
粗暴犯 |
50428 (15.5) |
498 (8.6) |
80 (5.8) |
窃盗犯 |
168919 (51.9) |
3262 (56.3) |
873 (63.3) |
うち侵入窃盗 |
13712 (4.2) |
--- |
--- |
知能犯 |
11539 (3.5) |
159 (2.7) |
108 (7.8) |
風俗犯 |
6166 (1.9) |
99 (1.7) |
34 (2.5) |
その他 |
80750 (24.8) |
1548 (26.7) |
104 (7.5) |
ゴチ ※ 三者のなかで、構成比が大きい罪種
出典 「来日外国人犯罪の現状 (平成13年中)」(平成14年3月 警察庁来日外国人犯罪対策室)より作成
表10 2007年 「日本全体」「正規滞在者」「不正規滞在者」
罪種別の刑法犯検挙人員の構成比の比較
罪 種 |
日本全体 (構成比%) |
正規滞在者 (構成比%) |
不法滞在者 (構成比%) |
刑法犯総数 |
365577 (100) |
6790 (100) |
752 (100) |
凶悪犯 |
5923 (1.6) |
197 (2.9) |
62 (8.2) |
うち殺人 |
1161 (0.3) |
32 (0.5) |
9 (1.2) |
うち強盗 |
2985 (0.8) |
132 (1.9) |
50 (6.6) |
うち侵入強盗 |
968 (0.3) |
39(0.6) |
32 (4.3) |
粗暴犯 |
54163 (14.8) |
930 (13.7) |
32 (4.3) |
窃盗犯 |
180446 (49.4) |
3353 (49.4) |
409 (54.4) |
うち侵入窃盗 |
12037 (3.3) |
244 (3.6) |
164 (21.8) |
知能犯 |
15264 (4.2) |
368 (5.4) |
168 (22.3) |
風俗犯 |
6279 (1.7) |
84 (1.2) |
20 (2.7) |
その他 |
103502 (28.3) |
1858 (27.4) |
61 (8.1) |
※ ゴチ 三者のなかで構成比が大きい罪種
出典 「来日外国人犯罪の現状 (平成19年中)」(平成19年3月 警察庁来日外国人犯罪対策室)より作成
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むすび
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このように、「来日外国人」あるいは、「不法滞在者」による犯罪は、その絶対数も、日本全体に占める構成比も少なく、
最近15年間で増加傾向は見られない。その変化も、日本全体の変化に概ね対応しており、「日本社会の治安悪化」の要因でも、
まして、「犯罪の温床」ともなっていない。
しかし、警察庁の「来日外国人犯罪の増加論」や「不法滞在者による治安悪化論」は、その実体がないにもかかわらず、
スケープゴートとして政治利用され、日本の排外主義の温床として肥大化し、外国人を「犯罪者」や「犯罪予備軍」とみなす
差別や偏見を助長し、国際化への適応を遅らせ、多文化・多民族共生社会への転換を阻む大きな壁として存在している。
その結果、石原東京都知事のような政治家の差別暴言がなされても、それが追及されないなど、その影響は広く日本社会に浸透している。
その理由として、第1に、犯罪を取り締まる警察、あるいは入管によってしか、「来日外国人犯罪」問題が論じられてこなかったことがある。
警察は、自らの権限や組織の拡大のため、ことさら「来日外国人犯罪」に関する「増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」などを主張するのに
都合のよいデータを強調する広報を続けてきた。
第2に、マス・メディアが、警察の広報を自ら検証することなく、「外国人による犯罪増加」を繰り返し報道しつづけてきたこと、
第3に、日本国内でこれに抗議する団体や個人がほとんどなく、警察やマス・メディアは「来日外国人」犯罪の広報や報道に関しては、
抗議を受けることがなかったことがあり、そして、第4に、これらを許容してきたのが、日本社会に根深くある外国人とりわけ移住労働者と
家族への偏見と差別意識である。
外国人による犯罪は、国籍・民族・人種・在留資格などによって行われているのではなく、日本人と同様に具体的な個人あるいはグループによって
行われている。
また、 特定の国籍・民族・人種・在留資格などで分類した集団に所属する者の犯罪の数が仮に増加や構成比が高くなることがあっても、
それはその集団が「犯罪集団」であることや「犯罪を起こしやすい集団」であることを意味するものでなく、その集団の日本社会における
経済的―社会的状況の問題として捉えられるべきである。「不法滞在者」を含めて在留外国人を「テロリスト」「犯罪者」として
治安対策の対象として見るのではなく、日本国籍者と同様に日本社会の構成員の問題と認識して、その「犯罪問題」と
向き合うことが必要である。
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あとがき
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私が、 警察庁が公表する「来日外国人犯罪の現状」などの「来日外国人犯罪」の統計データやその分析のあり方を批判する作業を始めたのが、
1998年の終わりごろからであった。
今年2008年で約10年となる。私が、この問題にかかわる契機は、「退去強制後の再入国禁止期間の1年間から5年間へ延長」や
「不法在留罪」の創設など管理と規制強化を進める1999年の入管法「改悪」に反対する運動にNGOの立場でかかわったことにあった。
それまでの入管法の改定案は、法務省側の提案理由として、警察庁の「来日外国人」犯罪統計分析による「来日外国人」や
「不法滞在者」による犯罪データが使われ、「治安悪化」に対する政策として規制や管理強化、罰則の創設の必要性が論じられ、
与党の国会議員だけでなく、野党の国会議員も賛成して、全会一致で可決されるパターンであった。
99年入管法の改定案に反対するために、警察庁のデータ分析に対抗して、「来日外国人」犯罪の問題を、その人権問題の立場で研究したり、
反論する学者や、研究者や弁護士などの法律家の存在や論文などを探したが、残念ながら見つけることはできなかった。また、仮に私の知らないところで存在していたとしても、警察庁相手に名前を出して反論したり、正面から取り組んでくれる人は皆無であった。 同様な問題である「少年犯罪」では、警察庁のデータに反論する教育学者や社会学者、法律学者や弁護士など法律家がそれなりに存在することと比べても、「来日外国人」や「不法滞在者」問題では「専門家」は全くあてにできなかった。
警察庁が公表している「来日外国人」犯罪が増加しているというデータは、ニューカーマーと呼ばれる移住外国人(その多くは移住女性)からの相談を長年担当
してきた私の実感と大きく異なっていた。また、警察庁の「来日外国人犯罪」データが、「検挙件数」の増加を根拠として論じられているが、
1998年当時まで「検挙人員」は減少傾向にあることとの乖離が疑問としてあった。結局、「犯罪統計」分析に素人である私が、一つ一つ警察庁の分析
データの意味や根拠を検証し、未公開データを警察庁から、時には国会議員などに依頼して公表させながら、野党の国会議員の改定入管法への質問
や法務省への反論を準備する作業を行い、警察庁の犯罪データの問題について担当することとなった。
99年の入管法の改定法案は、これまでの法務省のほぼ言いなりで簡単に国会を通過してしまうパターンと異なり、与野党の対決法案の一つとなり、
ぎりぎりまで採決されず廃案寸前まで追い込むことができた。最終的には、それまで野党として反対していた公明党が、この年から自民党と連立内閣を
構成することになり賛成に転じたため、NGO側の提案を踏まえた野党の意見を加味した付帯決議をつけて可決されてしまった。
それでも、1998年版『警察白書』の中で、「『検挙人員全体に占める来日外国人構成比の高さ』の項目の根拠となっている『来日外国人』人口の
算定基準が誤っている」という
法務委員会での野党議員の質問を受け、陣内法務大臣(当時)は答弁に窮してしまった。そして、翌1999年の『警察白書』から「検挙人員全体に占める
来日外国人の構成比の高さ」という項目が消え、現在に到っている・このことは、警察白書において、「来日外国人は、犯罪率が高い」という偏見の
根拠をなくすという成果となった。
1999年は、現在に至る自民党と公明党を中心とする連立内閣が成立したという政治的にも歴史の節目であったが、この年は経済的にもITバブルが崩壊し、
失業率が急上昇し、日本国内で「治安悪化」が宣伝されていくようになる。そして、読売新聞を中心とするマス・メディアによる警察庁の「来日外国人」犯罪、
データを根拠とする「(来日)外国人」犯罪キャンペーンは、「治安悪化」の要因として、「来日外国人」や「不法滞在者」による犯罪を世間に広く深く浸透させていった。
その結果、2000年4月の石原東京都知事による「差別発言」等、多くの政治家の「暴言」や「差別発言」がなされても、それを批判するより、多くの日本国民が
その発言を支持していくことになった。そして、2003年12月には日本政府は、「犯罪に強い社会実現のための行動計画」を策定し、その中で
「不法滞在者の5年間での半減」が数値目標として取り入れられ、入管職員の増員や警察官の増員が認められていった。
その根拠として最大限「悪用」された警察庁の「来日外国人」犯罪統計分析による「来日外国人」や「不法滞在者」による犯罪データによる「増加」論は、
単純であるだけにわかりやすく、大きな影響力をもち、その後の毎年のような入管法の規制強化や管理強化を意図する改定法案の根拠として
活用されていくことになった。その状況は現在も基本的変わっていない・
しかしながら、2000年代以降の国会の法務員会での入管法改定法案をめぐる野党議員の追及や質問は、「来日外国人」や「不法滞在者」の犯罪の増加を
示す警察庁のデータの根拠のなさを鋭く批判し、あばくものとなっていった。法案自体は、多数を占める与党の賛成多数で付帯決議をつけて可決されて
いくものの、法務員会での論戦は1990年代のように一方的に法務省の提案に対して無批判に可決されていくものとは大きく異なってきた。
また、その論議の影響を受け、警察庁も、それまで「来日外国人」や「不法滞在者」についての公表していなかったデータの公表や、私が主張してきた、
「来日外国人」や「不法滞在者」の犯罪の増減を見る指標として、「日本全体」の刑法犯検挙人員に占める構成比の経年的変化」のデータを、
近年では「警察白書」や「来日外外国人犯罪の現況」等のデータの中に記載公表するようになってきた。
警察庁の公表するデータや見解に追随してきたマス・メディアのなかにも、「来日外国人犯罪(刑法犯検挙人員)」が、日本全体の刑法犯の2%程度を
占めて推移しているにすぎないことこと、」「不法滞在者の犯罪が、日本全体の刑法犯の0.4%程度にすぎず、近年減少傾向にあること」、
「外国人犯罪が減少していること」等を報道するところも現れてきた。
日本社会が、不況による雇用情勢の悪化や格差の拡大など社会不安が高まる時、「外国人犯罪」問題が政府や警察庁や法務省などの
公権力側から意図的に宣伝され、それを検証せず、一方的に追随するマス・メディアにより広く深く世間に浸透させられていく。
その構図は、10年を経た現在も基本的に変化していないと思われるが、それでも、それに対抗する側の論理や内容や抵抗力は確実に高まっている。
目前に迫っている深刻な「少子―高齢化」による労働力不足に直面する日本社会は、外国人の労働者への労働開放や移民の受け入れ問題を
避けて通ることができない。
日本が従来のままの管理と規制中心の閉ざされた外国人政策から、多文化共生をめざす開かれた外国人政策に転換していくことを阻む大きな壁として、
警察庁の「来日外国人」「不法滞在者」犯罪データの分析や見解を根拠とする「外国人犯罪増加論」が存在している。
この10年間を通じて行ってきた警察庁の「来日外国人」「不法滞在者」犯罪データの分析や見解を批判する私の作業が、
多文化共生をめざす開かれた外国人政策に転換していくための基礎データとなり活用されていくことを希望する。