コムスタカ―外国人と共に生きる会

「外国人犯罪」問題


政府の「不法滞在者による治安悪化論」の根拠への批判
中島真一郎
2005年5月15日

1、はじめに------政府の根拠は

法務省、警察庁、政府の「不法滞在者」半減政策の根拠でもありますが、2004年入管難民認定法の改定の理由である、「不法滞在者による治安悪化」の根拠として、2004年通常国会での参議院及び衆議院法務委員会での増田入国管理局長の答弁の論理を要約すると、以下の4つが根拠となっています。

1.「外国人」による犯罪の増加の根拠は、「来日外国人」犯罪データのうち入管法違反者が大半を占める特別法犯と刑法犯を含めた総検挙件数40615件と総検挙人員20007人(うち「不法滞在者」10752人 53.7%)となり史上最高を強調しています。
2. 2003年総検挙人員20007人のうち正規滞在者9255人、不法滞在者10752人で、正規滞在者の人口563万人 として、「不法滞在者」人口を約25万人 として、不法滞在者が犯罪に及ぶ可能性が非常に高いことを強調しています。
3.「不法滞在者」による犯罪増加の根拠は、2003年「来日外国人」凶悪犯検挙人員に占める「不法滞在者」凶悪犯検挙人員の構成の高さ(刑法犯18%、凶悪犯36.7%、侵入強盗50%、侵入窃盗 66%)を強調しています。
4. 2002年凶悪犯検挙人員の割合を正規滞在者のそれと比べると約12.5倍に上っているとして、不法滞在者が正規滞在者に比べて凶悪犯罪に及ぶ比率が高いことを強調しています。

その根拠を要約すると、2003年「不法滞在者」は、「来日外国人」総検挙人員の約54%を占め、「来日外国人」凶悪犯検挙人員の構成比約37%という高さと、2002年の正規滞在者人口563万人と「不法滞在者」人口約25万人として凶悪犯検挙人員の「犯罪者率」を比べると「正規滞在者」に比べて「不法滞在者」は12.5倍に上ることが、「不法滞在者」による犯罪が、日本の「治安悪化」の要因としてある根拠として示されています。それ故に、「不法滞在者」を半減しないと日本の治安の回復ができないという論理です。

しかし、ここには、1、入管法違反者を含めた「来日外国人の総検挙人員」にしめる「不法滞在外国人」の構成比の高さ(約54%)と、2、「来日外国人」凶悪犯検挙人員に占める「不法滞在者」凶悪犯検挙人員の構成比の高さ(約38%)を強調していること、3、「短期滞在者」を含めた「正規滞在者」人口と「不法滞在者」人口をもとに「犯罪者率」(人口10万人当たりの検挙人員)を比較するという三つのトリックが使われています。以下、「不法滞在者」が日本の治安悪化の要因でも、温床でもないことを、政府の3つのトリックを批判しながら論証していきます。

2、「総検挙人員」に占める「来日外国人」の構成比の高さという トリックへの批判

ア、刑法犯と特別法犯を合計した総検挙件数・総検挙人員は、「来日外国人」犯罪にのみ使われており、日本全体の犯罪統計では使われていません。なぜならば、「特別法犯」は、認知件数が不明な犯罪で、統計上検察庁への「送致件数・送致人員」としてあらわれてくるので、刑法犯の検挙件数と検挙人員とは異なる概念です。そのため、両者を合算することはそもそもできないので、両者は別々の統計として計算されるべきものだからです。

イ、「来日外国人」特別法犯の検挙件数や検挙人員には、「不法就労助長罪」を除き原則として日本国籍者は対象とならない入管難民認定法違反者が約8割程度を占めています。(2003年 特別法犯検挙件数の約78%、特別法犯検挙人員の約82%が入管難民認定法違反者です)

これを含めて統計データを計算する限り「不法滞在者」の構成比は当然高くなるので、「特別法犯」を含めた「総検挙件数」「総検挙人員」の統計で比較することは、犯罪増加の実体を表していません。

ウ、政府の推定でも2003年「不法滞在者」(約25万人)の8割以上を占める「不法残留者」(約22万人)は、1993年の約30万人から2003年約22万人へと約27%減少しており、「不法滞在者」も当然減少しています。「特別法犯」の検挙件数は1993年6900件から2003年13357件へ1.9倍、検挙人員は1993年5191人から2003年11282人と2.2倍へ増加しています。これは、最近12年間で入管法違反者が約3割近く減少しているにもかかわらず、警察の取り締まりの強化の結果摘発数が増加していることを示しており、特別法犯の検挙件数や検挙人員の増加は、特別法犯の増加を示しているわけではありません。

以上から2003年「来日外国人総検挙人員」に占める「不法滞在者総検挙人員」の構成比が約53%あることが、「不法滞在者」による犯罪の多さを示しているわけではありません。

(補論)「不法滞在者」による犯罪の動向を判断する指標について

1、 犯罪発生数を示す統計データとして使用されている認知件数は、暗数(警察に被害届けが提出されず、あるいは提出されても受理されない犯罪)があるため犯罪発生数を客観的に表すものでは有りません。

しかも、「外国人」による犯罪は、その認知件数が不明なため、警察により事後的に明らかになる検挙件数と検挙人員でしか表すことができません。刑法犯の検挙件数や検挙人員も、犯罪の実数を表す指標ではなく、あくまで警察の取り締まりの結果を示すものに過ぎません。

特に、検挙件数は、2003年刑法犯検挙件数の67%を占める窃盗犯(2003年の検挙率は19%台に過ぎない)の余罪の追及の程度によりその増減が大きく左右されます。窃盗犯検挙人員一人当たりの検挙件数を意味する「余罪率」( 窃盗犯検挙件数÷窃盗犯検挙人員)は、2003年では「日本全体」が2.27件 (433918件÷191403人)に対して、「来日外国人」は5.01件(22830件÷4555人)と2.2倍以上カウントされています。このように、「来日外国人」については余罪の追及が厳しくカウントされていますので、犯罪の増減を判断する指標として使えません。

2、「不法滞在者」による犯罪の動向を見る指標としては、暗数も少なく検挙率が約95%と高い「殺人」の検挙件数の推移でみるのが比較的近似値を表します。

2003年の殺人の認知件数1452件、検挙率94.1%、検挙件数は、日本全体は1366件、「来日外国人」37件(構成比2.7%)、「不法滞在者」はデータ公表なし。 殺人の検挙人員は、日本全体は1456人、「来日外国人」61件(構成比4.2%)のうち「不法滞在者」16人(構成比1.1%)です。

3、次に、警察の取り締まりの方針に左右されやすいという限界を踏まえつつ、刑法犯検挙人員、あるいは罪種別刑法犯検挙人員の日本全体に占める構成比の経年的推移でその犯罪発生の動向をある程度推定することできます。表3の最近12年間(1993-2004年)の日本全体に占める「不法滞在者」の構成比の変化でみると、刑法犯で0.4%。凶悪犯で2%程度とほとんど変化しておらず、「不法滞在者」による犯罪の増加傾向は認められません。

3、罪種別刑法犯検挙人員における「不法滞在者」の「来日外国人」に占める構成比の高さを強調するトリックへの批判

(1) 1993年〜2004年の最近12年間で、「来日外国人」刑法犯検挙人員が最も少なかった1998年と、2002年から2003年の最近3年間の罪種別刑法犯検挙人員における「不法滞在者」の「来日外国人」に占める構成比の高さを比較して検証して見ます。

□表1 1998年及び 2002年から2004年の最近3ヵ年の「不法滞在者」罪種別刑法犯検挙人員の「来日外国人」の検挙人員に占める構成比

ア、表1-1〜表1-4から、1998年と比べて最近3ヵ年の2002年〜2004年「来日外国人」罪種別刑法犯検挙人員に占める「不法滞在者」罪種別刑法犯検挙人員の構成比は、刑法犯24.2%→18.2%→17.4%→15.6%と一貫して低下していることがわかります。1998年と比べて最近3ヵ年は、凶悪犯、粗暴犯、窃盗犯、知能犯、風俗犯、その他の刑法犯のすべての罪種でその構成比は低下しています。従って、2003年12月に「政府の犯罪に強い社会実現のための行動計画」で「不法滞在者の5年間での半減」が数値目標として取り入れられる前の2002年から、1998年と比べてその構成比は減少していたことがわかります。

イ、2002年−2004年の最近3ヵ年刑法犯罪種別検挙人員では、「不法滞在者」は、「正規滞在者」と比べて、「凶悪犯」や「知能犯」の構成比が約37-39%と高く、「粗暴犯」が11-13%や「その他の刑法犯」(占有離脱物横領が約8割を占める)が約4-6%と構成比が低い傾向にあることはほとんど変化していません。

ウ、2003年「来日外国人正規滞在者」と「不法滞在者」:の人口比は、79%:21%(「短期滞在者」を除く正規滞在者人口約109.0万人:「不法滞在者」人口約28.2万人)です。

この人口比と比べて、「凶悪犯」と「知能犯」の容疑で「不法滞在者」は検挙される比率が約4割と高く、一方「正規滞在者」は、「粗暴犯」は約9割弱、「その他の刑法犯」は9割以上と人口比に比べて、「粗暴犯」や「その他の刑法犯」として検挙される比率が高いことを示しています。

エ、まとめ、

これらの比較は、「不法滞在者」と「正規滞在者」との刑法犯罪種別検挙人員の構成比の比較に過ぎません。この比較からわかることは、「不法滞在者」は、「正規滞在者」に比べて、人口構成比でみると「凶悪犯」や「知能犯」として検挙されることが比較的多く、「粗暴犯」「その他の刑法犯」として検挙されることが比較的少ないという意味しかありません。

(2)刑法犯罪種別検挙人員の日本全体に占める「不法滞在者」の構成比の経年変化からみるその動向

「不法滞在者」による犯罪が、日本社会の「治安悪化」の要因となっているのか、あるいは「犯罪の温床」となっているのかは、「来日外国人」検挙人員に占める「正規滞在者」と「不法滞在者」の構成比を比べるのではなく、日本全体の検挙人員に占める「不法滞在者」の構成比と、その構成比の最近12年間(1993-2004年)の推移である程度判断できます。

表2-1から表2-4でわかるように、日本全体の罪種別検挙人員に占める「不法滞在者」罪種別検挙人員の構成比は、1998年と2002-2004年を比べても、刑法犯0.4%程度、凶悪犯で2.%程度と、ほとんど変化していません。(最近3ヵ年では窃盗犯が0.52〜0.40と減少傾向にある一方、風俗犯が0.4から0.7%。強盗犯が0.28〜3.20とやや上昇傾向にあります)、粗暴犯 0.2 %以下 窃盗犯 0.4〜0.5% 知能犯 1.5%程度 風俗犯 0.3〜1.02% その他の刑法犯 0.1%程度でほとんど変化していません。このように「不法滞在者」刑法犯検挙人員の絶対数も少なく、その日本全体に占める構成比も小さく、構成比に増加傾向が見られないので「不法滞在者」による犯罪が日本の「治安悪化」の要因でも、温床でもありません。

□表2 「不法滞在者」罪種別刑法犯検挙人員の日本全体の刑法犯検挙人員に占める構成比

表3より「不法滞在者」刑法犯検挙人員の日本全体刑法犯検挙人員に占める構成比の最大は1996年の0.55%で、それ以降概ね0.4%台で増大傾向は見られず、2001−2003の最近3年間は減少傾向にあります。「不法滞在者」凶悪犯検挙人員の日本全体刑法犯検挙人員に占める構成比の最大は1996年と1999年の2.6%で、それ以降概ね2%台前後で増大傾向は見られません。

□表3 「不法滞在者」刑法犯と凶悪犯検挙人員の日本全体の検挙人員に占める

構成比

まとめ

以上から、「不法滞在者」の刑法犯と凶悪犯の検挙人員の日本全体のそれに占める構成比は、刑法犯で約0.4%程度、 凶悪犯で約2%程度にすぎず、最近12年間で増大傾向は見られません。 「不法滞在者」による犯罪(刑法犯、凶悪犯)は、その絶対数や構成比も小さく、日本社会の治安悪化の要因でも、まして犯罪の温床ともなっていません。

4、「短期滞在者」を含めた「正規滞在者」人口と「不法滞在者」人口をもとに「犯罪者率」を比較するトリックへの批判

(1)「不法滞在者」刑法犯検挙人員率 

(注 )警察庁では、ある集団の構成人口10万人当たりの検挙人員を「犯罪者率」とよんでいますが、これは、ある集団10万人あたりに何人警察に検挙されたかを表すものであり、その集団の犯罪発生率の高さを表すものではありません。それゆえ、以下では「検挙人員率」という用語を使います。

ア 人口を分母として比較する場合には。2003年「来日外国人」正規滞在者の人口を563万人とすると、そのなかには15日以内と、90日以内しか滞在していない新規入国短期滞在者約426万人(2003年)を含んでいるので、それらは除いて「正規滞在者」「不法滞在者」の構成人口を比較すべきです。

イ、2003年「来日外国人」正規滞在者(新規入国短期滞在者約426万人を除く)人口は、約109万人(「来日外国人」正規滞在者人口1089247人=外国人登録者数1915030人―特別永住者475952人― 一般永住者 267011人―永住者の配偶者  8519人 −短期滞在者外国人登録者 74301人)となります。

エ、「不法残留者」人口22万人、「不法入国・不法上陸者」人口3万人と政府は推定しています。但し、「不法残留者」の推定値は、毎年法務省が公表しており比較的実数に近いと思われますが、「不法入国者」の推定値3万人の根拠は示されていません。

2003年収容令書が発付された外国人45512人のうち「不法残留者」は34048人(注、入管難民認定法第24条4号ロ、6号、7号違反者)で、「不法入国・不法上陸者」(注、入管難民認定法第24条1号、2号違反者)9836人です。この「不法入国・不法上陸者」数は「不法残留者」数の約29%を占めているので、この比率で計算すると、「不法残留者」約21.9万人に対して、「不法入国・不法上陸者」は約6万3千人と推定され、「不法滞在者」人口は約28.2万人となります。

オ、2003年「来日外国人」刑法犯検挙人員 8725人、「正規滞在者」(短期滞在者514人を除く)刑法犯検挙人員6691人、「不法滞在者」刑法犯検挙人員1520人(うち「不法残留者」刑法犯検挙人員 843人、「不法入国・不法上陸者」刑法犯検挙人員 677人)です。

カ、2003年の構成人口10万人当たりの検挙人員率は、「正規滞在者」(短期滞在者を除く)614人、「不法滞在者」539人 (「不法残留者」385人、「不法入国・不法上陸者」1075人)、「短期滞在者」は12人となります。

つまり、「不法滞在者」刑法犯検挙人員率は、「正規滞在者」(短期滞在者を除く)のそれより低いことがわかります。「不法残留者」刑法犯検挙人員率は、「正規滞在者」のそれより低くなります。「不法入国・不法上陸者」の刑法犯検挙人員率は、正規滞在者より高くなっていますが、2倍以下です。ちなみに、2003年の都道府県別構成人口10万人当たりの検挙人員率は、福岡県 452人、東京都 441人、大阪府 379人ですので、「不法残留者」は、福岡県民や東京都民より少なくなっています。

(2)『不法滞在者』凶悪犯検挙人員率

2003年「来日外国人」凶悪犯検挙人員 477人、「正規滞在者」(短期滞在者14人を除く)凶悪犯検挙人員288人、「不法滞在者」凶悪犯検挙人員175人(うち「不法残留者」検挙人員 88人「不法入国・不法上陸者」検挙人員 87人)です。

2003年の「来日外国人」(新規の短期滞在の在留資格者を除く)人口は109万人、「不法滞在者」人口28万2千人(「不法残留者」21万9千人、「不法入国・不法上陸者」6万3千人と推計できます。

構成人口10万人あたりの検挙人員率は、「正規滞在者」26.4人、不法滞在者62.1人、(「不法残留者」40.1人、「不法入国・不法上陸者」138.1人)となります。「不法滞在者」の凶悪犯検挙人員率は、「正規滞在者」の2.4倍程度であり、12.5倍ではありません。(「不法残留者」の凶悪犯検挙人員率は、「正規滞在者」の1.5倍、「不法入国・不法上陸者」の凶悪犯検挙人員率は、「正規滞在者」5.2倍程度となる。)

『不法滞在者』の凶悪犯検挙人員比率は、「正規滞在者」の2.4倍であり、12.5倍ではありません。

まとめ

「不法滞在者」(「不法残留者」や「不法入国・不法上陸者」)の凶悪犯検挙人員率が、正規滞在者のそれよりも高いのは、その一部に来日後も収入が少なく経済的困窮などから「強盗」犯となるものが多いためであり、「不法滞在者=犯罪者や犯罪予備軍」ではありません。

 「不法滞在者」のごく一部に刑法犯(1000人当たり5.4人)や凶悪犯(1000人当たり0.6人)として検挙される者がいるにすぎず、「不法滞在者」という在留資格のない状態で暮らしている外国籍の彼ら/彼女ら(「不法残留者」約22万人の約半数が女性です)の経済的困窮や隷属関係や不安定雇用という状態の改善を図ることで解決すべき問題であり、「不法滞在者」とよばれる在留資格のない外国人を、「犯罪者や犯罪予備軍」と危険視して日本国内から追放することで解決できる、あるいは解決すべき問題ではありません。


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