NHKのクローズアップ現代 2003年11月5日午後7時30分〜7時55分放映
「外国人犯罪に暗躍する日本人斡旋屋」への批判的検証
中島真一郎
2003年11月9日
日本国内での複数犯の事件のうち日本人と外国人が組んだ共犯事件のケースでは、1、 日本人が主犯か正犯で、外国人は従犯か幇助犯の場合、2、両者が同格の共犯、3、外国人が主犯か正犯、日本人が従犯か、幇助犯のケースという3つが論理的に考えられます。日本社会での定着度や影響力などから考え、犯罪の世界でも日本人の方が外国人より相対的に優位にあり、主犯か正犯が日本人、従犯や幇助犯、あるいは汚れ役やリスクの多い実行犯が外国人というケースが多いと推測できます。
しかし、NHKの番組は、3、外国人が主犯で、日本人が従犯か、幇助犯のケースのみを取り上げ、そこに介在する(日本人)斡旋屋、それに利用される日本人を焦点にして「外国人犯罪者に利用される日本人」という構図を描き、日本人視聴者に「外国人犯罪」への憎悪と「外国人犯罪者に利用されないように」というメッセージを流す意図で作成放映されていると思えました。在留外国人の相談を受けていると、日本社会で犯罪の被害者となっている外国人も増加していると実感できますが、その多くが泣き寝入りを強いられていたり、被害届けをだしても警察に相手にしてもらえなかったりという扱いを受けています。
外国人犯罪被害者の加害者の多くが日本人によるものであるにもかかわらず、NHKだけでなくマスコミは決してこのような視点で、番組を制作したり報道することはありません。「外国人犯罪」「中国人窃盗グループ」という見出しや番組がつくられ、放映されることで、すべての外国人や中国人に対して同様な犯罪者や犯罪予備軍とみなす偏見が助長され、就職差別や住居差別、学校や職場でのいじめなどの人権侵害が引き起こされていきます。日本人の犯罪が一部の日本人によって引き起こされているのと同様に、外国人による犯罪も一部の外国人によって引き起こされているに過ぎないのに、「外国人犯罪加害者対日本人被害者」という構図で警察やマスコミは宣伝・扇動し、現在の日本社会に充満している人々の不満や不平を、「外国人犯罪」をスケープゴートにすることで本質からそらしていこうとする意図が感じられます。
以下、NHKの番組内容の外国人犯罪データでの検証です。
一、 複数犯の検挙件数
日本人と外国人が共犯関係にある複数犯がどのぐらい毎年検挙されているかは、警察庁が公表していないので不明ですが、複数犯のうち「日本人」によるもの、「定着居住外国人等」(駐留米軍関係者 、在留資格不明者、特別永住者と永住者と永住者の配偶者をあわせた外国人)、「来日外国人」(入管難民認定法の27の在留資格のうち「永住者」と「永住者の配偶者」を除いた25の在留資格者と「不法残留者」「不法入国者」「不法上陸者で構成される「不法滞在者」をあわせた外国人)別の刑法犯検挙件数と窃盗犯検挙件数を以下に示しておきます。(%の小数点第二位以下は四捨五入して計算)
注) 在留外国人は、警察庁の分類では、「来日外国人」と「定着居住者等」(あるいは「その他の外国人」とも呼ばれます)に大別されます。警察庁の外国人犯罪の統計は、「来日外国人」による犯罪データしか公表していません。「定着居住者等」とは、@「定着居住外国人」(「特別永住者」と「永住者」と「永住者の配偶者等」をあわせた外国人)とA駐留米軍関係者とB在留資格不明者のうち明らかに日本人でない者をいいます。「来日外国人」とは、@入管難民認定法の27の在留資格のうち「永住者」と「永住者の配偶者」を除いた25の在留資格者とA「不法滞在者」(「不法残留者」「不法入国者」「不法上陸者」で構成される)をあわせた外国人のことをいいます。
1、刑法犯のうち複数犯の検挙件数比較
2002年の刑法犯のうち複数犯検挙件数は、120491件で、「日本人」101911件、「定着居住外国人等」3661件、「来日外国人」14919件です。日本社会で発生して検挙された刑法犯のうちの複数犯の84.6%が日本人、12.4%が「来日外国人」、3.0%が「定着居住外国人等」が占めています。また、2002年刑法犯のうちの6人組以上(6〜9人組と10人組以上をあわせた複数犯)の複数犯検挙件数は、4366件で、「日本人」3981件、「定着外国人等」84件、「来日外国人」301件ですので、6人組以上の複数犯では、91.2%が「日本人」、1.9%が「定着居住外国人等」、6.9%が「来日外国人」が占めています。2002年刑法犯のうちの10人組以上の複数犯検挙件数は、931件で、「日本人」876件、「定着外国人等」48件、「来日外国人」7件ですので、10人組以上の複数犯では、94.1%が「日本人」、0.8%が「定着居住外国人等」、5.2%が「来日外国人」が占めています。
2、窃盗犯のうち複数犯の検挙件数
2002年の窃盗犯のうち複数犯検挙件数は、93551件で、「日本人」76293件、「定着居住外国人等」3115件、「来日外国人」14143件です。日本社会で発生して検挙された窃盗犯のうちの複数犯の81.6%が日本人、15.1%が「来日外国人」、3.3%が「定着居住外国人等」が占めています。また2002年窃盗犯のうちの6人組以上(6〜9人組と10人組以上をあわせた複数犯)の複数犯検挙件数は、2050件で、「日本人」1747件、「定着外国人」54件、「来日外国人」249件ですので、6人組以上の複数犯では、85.2%が「日本人」、2.6%が「定着居住外国人」、12.1%が「来日外国人」が占めています。2002年窃盗犯のうちの10人組以上の複数犯検挙件数は、125件で、「日本人」84件、「定着居住外国人等」0件、「来日外国人」41件ですので、6人組以上の複数犯では、67.2%が「日本人」、0%が「定着居住外国人」、23.8%が「来日外国人」が占めています。
以上から、日本社会で警察により検挙された刑法犯のうち複数犯検挙件数では、85%が 6人組以上の複数犯検挙件数では91%が、10人組以上では94%以上が日本人によるものです。窃盗犯のうちの複数犯検挙件数では、82%が、6人組以上の複数犯検挙件数では、85%が、 10人組以上では67%以上が日本人によるものです。
二、「急増する外国人犯罪、昨年より25%増加」発言の検証
NHKの番組の中で、女性キャスターが、「急増する外国人犯罪、昨年より25% 増加」との発言をしていました。以下、その根拠の検証をします。
25%は、「来日外国人」総検挙件数(特別法犯と刑法犯をあわせた件数)が2001年27763件から2002年34746件へと6983件(前年比25.2%増加)を根拠にしていると思われます。しかし、NHKの番組は、「来日外国人」総検挙件数が1999年 34398件から2000年30971件、2001年27763件へと2年連続大幅に減少していたことには触れていません。
また、2001年から2002年の6983件の増加の内訳は、刑法犯検挙件数が6059件、特別法犯924件です。特別法犯の924件の増加は入管難民認定法違反によるものが2002年は前年比1032件増加しており、入管難民認定法違反者への取り締まり強化の結果であり、入管難民法違反者以外の特別法犯の検挙件数はむしろ108件減少しています。
2001年と比べて2002年の「来日外国人」刑法犯検挙件数24258件と6059件増加していますが、これは全国に9つある警察管区のうち8地区管区では、横ばいか減少しているのに、中部管区のみが前年の3540件から10265件へ6725件も大幅増加したことによるものです。国籍別の刑法犯検挙件数では、トルコ人が2001年470件に比べて2002年4366件と3896件増加(トルコ人刑法犯検挙人員は2001年27人から2002年26人へ1人減少)、ブラジル人が2001年3457件から2002年4967件へ1510件増加((ブラジル人刑法犯検挙人員は958人から952人へ6人減少)しています。罪種別では、窃盗犯が2001年14823件から2002年20604件と5781件増加し、窃盗犯のなかでは、非侵入窃盗犯である自動販売機荒らし3323件増加、車上狙い1228件増加しています。
2001年から2002年刑法犯6059件の増加の大半は、中部管区の警察が、トルコ人グループの「自販機荒し」やブラジル人グループの「車上狙い」の余罪を数百〜数千件単位でカウントしたために増加しているに過ぎません。
三、侵入窃盗事件検挙状況の推移
NHKの番組でとりあげていた「来日外国人」による侵入盗事件は、2002年が検挙件数6754件で、前年比9.9%増加の607件の増加、検挙人員688人で前年比4.4%減少の30人の減少でしたから、「昨年に比べて外国人犯罪25%増加」とは、実は直接関係ありません。
2002年では、侵入盗の検挙人員で95%以上が、侵入盗の検挙件数で、93%以上が「来日外国人」以外が占めています
表1 最近5年間(1998−2002年)の侵入盗認知件数の推移
  | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 |
認知件数 | 237703 | 260981 | 296486 | 303698 | 338294 |
注)侵入窃盗認知件数は、1972年から2002年の最近31年間では、1972年359023件を最大におおむね減少をつづけ、1997年221678件を最低に増加に転じます。増加傾向が顕著になったのは、1998年からの最近5年間です。
表2 最近5年間(1998−2002年)の侵入盗検挙人員の推移
  | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | |
a 「来日外国人」侵入盗検挙人員 | 390 | 438 | 674 | 688 | 658 | |
b 日本全体の侵入盗検挙人員 | 15480 | 15234 | 13651 | 13712 | 13696 | |
c 構成比(a ÷ b)(%) | 2.5 | 2.9 | 4.9 | 5.0 | 4.8 |
表3 最近5年間(1998−2002年)の侵入盗検挙件数の推移
  | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 |
a 「来日外国人」侵入盗検挙件数 | 2885 | 4744 | 6396 | 6147 | 6754 |
b 日本全体の侵入盗検挙件数 | 165818 | 152984 | 109128 | 89456 | 98335 |
c 構成比(a ÷ b)(%)(%) | 1.7 | 3.1 | 5.9 | 6.9 | 6.9 |
出典 表1 2003年版「警察白書 」(警察庁編)
表2 2003年版「警察白書」(警察庁編)および「2003年来日外国人犯罪の現状(平成14年中)」(警察庁来日外国人犯罪対策室)
表3 2003年版「警察白書」(警察庁編)および「2003年来日外国人犯罪の現状(平成14年中)」(警察庁来日外国人犯罪対策室)
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