警察庁による「2001年上半期の来日外国人犯罪の現状と対策」の分析と批判
中島真一郎
2001年12月26日
昨年9月中に報告しておきたいと思っていましたが、多忙のため手が回らず12月に入ってしまいました。警察庁の「2001年上半期の(来日)外国人犯罪分析」の批判のあらましを紹介しておきます。実は、2000年の上半期に比べに比べ外国人の刑法犯など検挙件数が30%減少するなど大幅減少となっています。詳細の分析批判は、後日余裕ができたときに詳しく紹介しますが、その概説のみ紹介しておきます。
以下のような記事が2001年9月13日の読売ONLINEに掲載されていました。 (この記事が警察庁の主張したいことを最も忠実に宣伝していると思われるので、紹介しておきます)
「今年上半期(1―6月)に全国の警察が摘発した外国人は前年同期より753人(12・9%)多い、6585人に上ったことが13日、警察庁のまとめでわかった。このうち凶悪犯(殺人、強盗、放火、婦女暴行)は、16人増の166人を数え、中でも強盗犯は132人と、前年同期を20人上回っている。また外国人の凶悪犯が日本人を狙ったケースは、前年同期より38人多い134人で、外国人犯罪の対象が日本人に移りつつある現状が裏付けられた。一方、外国人刑法犯の検挙状況を地域別に見ると、北海道が49件から108件に、九州が596件から743件にそれぞれ増加している。」 以上、紹介されている数字はウソではないが、警察庁が「外国人犯罪の増大、凶悪化、組織化」を強調するのに都合のよい増加した一部の数字をのみ宣伝し、減少している数字を紹介せず、あるいはどの程度の増加か、どの罪種による増加かが説明されておらず、「来日外国人」による犯罪全体が「増大、凶悪化、組織化」しているかのように宣伝し、情報操作をしています。
1.「来日外国人犯罪」は前年比30%も大幅減少
刑法犯検挙人員は2979人から3218人へと239人増大していますが、昨年同期に比べ「来日外国人刑法犯検挙件数」が、11392件から7972件へ30%も減少していました。警察庁は、刑法犯検挙人員は、通年では1993年の7276人が最大で、1998年5382人にまで減少し、1999年以降増加に転じていますが2000年6329人であるため、これまで刑法犯検挙件数(あるいは特別法犯を含めた総検挙件数)の増大を根拠に「来日外国人犯罪」の増大を強調してきました。検挙件数の増減という同じ基準で客観的に評価するなら、「1999年に比べ2000年が総検挙件数で10%減少、刑法犯検挙件数で8.7%減少していたが、2000年上半期に比べて2001年上半期も、総検挙件数で18.2%減少、刑法犯検挙件数で30.0%と大幅減少している。来日外国人犯罪は、1998年をピークに大幅減少に向かっている」と強調できます。ところが、その年の都合のよい増大しているものを強調し、「中国人の犯罪の増大、組織的犯罪の増大(共犯の件数の多さではなく、単独犯と比べての比率の高さを強調するところに胡散臭さがあります)」などを強調するあいもかわらない構成となっています。(これをそのまま報道し続けるマスコミも同罪ですが) それから、この30%の大幅減少の要因として、警察庁は、「自動販売機荒らし(―2305件)、車上狙い(―766件)、部品盗(−413件)の検挙件数が急激に減少している、この傾向は特に余罪において著しく、この3手口の余罪だけで前年比3484件と刑法犯検挙件数全体の減少分(−3420件)を上回っています」と説明しています。この3つの窃盗犯検挙件数の余罪の減少によるもので、「来日外国人」の刑法犯検挙件数は、これらを除くと64件増大しているといいたいようです。
私は、これまで「来日外国人犯罪」の増加の根拠に、検挙件数の増加を基準とすることは、警察の余罪追及の程度に大きく左右されるため基準として不適格であると主張してきました。今回の警察庁の言い訳は、私のこの主張を裏付けてくれています。(「来日外国人」による認知件数が不明なため、「来日外国人」犯罪の増減は、検挙件数と検挙人員を基準として比較するしかありませんが、検挙件数が警察の余罪追及の程度で大きく左右されるので、検挙人員を基準としてその増減を論じた方がより正確であるというのが、私の主張でした。) これまで、「来日外国人」刑法犯検挙件数の増加は、実は自販機荒らし、車上狙い、部品盗などの本件の増加ではなく、余罪の増加によってもたらされてきていました。一人あるいは一グループが、どちらかというと軽微な犯罪の何百件、何千件の余罪を検挙件数としてカウントされ、それが統計上増加をもたらしていく主な要因となっていました。ところが、近年認知件数の増大に対応するため、捜査方針が余罪の追求による検挙件数の重視から検挙人員の重視へ変化してきました。そのことが、日本全体の検挙件数の減少、検挙率の大幅低下をもたらす要因の一つとなっています。そして、「来日外国人犯罪」の検挙件数においては、余罪追及の結果として増加分が大きかった分、検挙件数の大幅減少をもたらしています。
2. 地方への拡散の実態
警察庁は刑法犯検挙件数の増加に基づいて、地方への拡散を強調してきましたので、全国で前年比30%も減少していることから、全国的に一部地域を除いて大幅に減少しています。 発生管区別「来日外国人」刑法犯検挙件数の状況(2000年上半期 →2001年上半期)―――関東管区(3922→2384)や中部管区(2148→944)、近畿管区(1650→989)など都市部や四国管区(335→93)は大幅減少、東北管区(289→250)、中国管区(270→245)がやや減少となっています。従って全国9管区のうち増加しているのは、警視庁管区(2133→2216)、九州管区(596→743)、北海道管区(49→108)の3管区のみにすぎず、その増加も元来件数の少ない北海道を除いてやや増加しているにすぎません。 「来日外国人」刑法犯検挙件数に基づく地方への拡散も、東京都は横ばい、九州・四国など元来件数も比率も少ない地方でやや増加していますが、関東や中部や関西などでは大幅減少しています。
3.「来日外国人」凶悪犯検挙状況
凶悪犯は、検挙件数が121件から137件と12件の増加、検挙人員は150人から166人へと16人増加しています。強盗犯の検挙件数が81件から104件と23件増加し、検挙人員が112人から132人へと20人増加したためです。その一方で凶悪犯のうち、殺人犯は、検挙件数出21件から19件と2件減少、検挙人員は23人から20人へと3人減少しています。また、強姦犯も検挙人員は15件から10件へ5件減少し、検挙人員も11人から10人へと1人減少しています。放火犯は、検挙件数、検挙人員とも4県と4人で変化はありませんでした。これらから、凶悪犯の増加の要因は、強盗犯の増加によるもので、殺人犯、強姦犯は減少し、放火は横ばいです。ちなみに日本全体の凶悪犯の検挙状況も、強盗犯が増大し、殺人犯や強姦犯が減少し、放火犯が横ばいという同様な傾向となっています。
4. 日本人被害の凶悪犯が増加は、強盗犯の増加による
警察庁は、「来日外国人」凶悪犯検挙人員のうち日本人に被害を与えたものが96人から134人へと38人も増加したことを強調しています。このうち、32人の増加が強盗犯検挙人員の増加によるものですから、これも日本人を対象とした強盗犯の増加によるものです。警察庁が、「来日外国人」による被害を日本人か、外国人かで分析した統計を公表するのなら、同様に日本人凶悪犯による被害を、日本人被害者か、外国人被害者として統計を取り公表していかないと公平ではありません。日本への定住する、あるいは入国する外国人が増えるにつれ、犯罪被害者となる外国人も増えているはずですから、その場合加害者の多くは日本人によるものと思われます。強盗犯や窃盗犯は、国籍によりその対象を狙っているのではなく、お金のありそうなところを狙うので、日本社会では日本人被害者が多くなるのは当然のことと思われます。
5.「来日外国人」侵入窃盗犯が増大から横ばいへ
「来日外国人」侵入窃盗犯は、検挙件数で1999年の4744件から2000年6396件へと1652件増大、検挙人員で438人から674人へと236人も増加したとして、昨年急増している外国人犯罪として最も強調されました。しかし、侵入窃盗も2000年上半期と2001年の上半期で比較すると検挙件数で2825件から2837件と12件増加、検挙人員で320人から320人と横ばいとなっています。(なお、東京都で急増していたピッキングによる窃盗の認知件数は2000年の1260件をピークに2000年12月には513件と半分以下に減少してきています。2001年1月から6月のデータが不明ですが、ピッキングによる窃盗の認知件数は減少傾向にあると思われます。)
6.「来日外国人」窃盗犯の複数犯(3人組から5人組の構成比が多い)の構成比の多さを、「国際的組織犯罪」の危険性の増大とすりかえる警察庁
今年上半期の警察庁の分析の焦点は、昨年が侵入窃盗(ピッキングによる)の増大や、中国人による犯罪の増大でしたが、テロ対策や国際組織犯罪対策に結び付けようと「来日外国人」犯罪の共犯比率の構成比の高さが、「来日外国人犯罪」の組織化の進展として強調されています。「来日外国人」の犯罪の特徴として、窃盗犯や強盗犯といった財産めあての犯罪の構成比率が高いのが特徴です。「来日外国人」刑法犯のうち窃盗犯が検挙件数で83%、検挙人員で60%を占め、「来日外国人」凶悪犯のうち強盗犯が検挙件数で76%、検挙人員で80%を占めています。また、窃盗犯での3−5人組の構成比率が高いのが「来日外国人」犯罪(あるいは中国人による窃盗犯罪)の特徴ですが、それは国際組織犯罪とは直接結びつきません。このことは、日本国籍者による複数の共犯で行われる窃盗犯と暴力団などによる組織犯罪が直接結びつかないことと同じです。
7.「来日外国人」犯罪の温床となる「不法滞在者」というウソ
警察庁は、「平成8年以降検挙人員に占める不法滞在者の比率は50%以上で推移している」ことを根拠として、「不法滞在者」が「来日外国人」犯罪の温床となっていると主張しています。 実は、この検挙人員は、特別法犯と刑法犯検挙人員をあわせた総検挙人員を意味しており、特別法犯検挙人員の約8割(2001年上半期特別法犯検挙人員3367人のうち入管法違反者が2600人の77%)を占めていますから、「総検挙人員に占める不法滞在者の割合」が50%を越えるのは当然であり何ら不思議でもありません。そして、入管法違反者の検挙人員はここ10年間で1997年6835人を最高に毎年減少し2000年は4815人となっています。このため、「平成8年以降検挙人員に占める不法滞在者の比率」は、1997年の62.5%を最高に毎年減少し、2000年53.7%となっています。2001年上半期は52.2%と更に減少しています。
このことから、警察庁の総検挙件数に占める不法滞在者の割合は、最近4年間減少傾向にあるといえます。
「不法滞在者」が犯罪の温床と本当になっているかを検討するため、「来日外国人」刑法犯検挙人員に占める「不法滞在者」の比率を見てみましょう。
年 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 1-6 | |
「不法滞在者」の刑法犯検挙人員 | 1317 | 1302 | 1529 | 1603 | 684 | |
「来日外国人」刑法犯検挙人員 | 5435 | 5382 | 5963 | 6329 | 3218 | |
構成比(%) | 24.2 | 24.2 | 25.6 | 25.3 | 21.2 |
上記のように1997年からの最近4年間の「来日外国人」の刑法犯検挙人員に占める「不法滞在者」の構成比は24−25%程度で、2001年上半期は21.2%と低下しています。2000年12月末の「短期滞在者」と「不法滞在者」を除く「来日外国人」人口は約100万人程度、「不法滞在者」人口は「不法残留者」23万人程度に「不法入国者」「不法上陸者」数万人を加えたものと推定できますから26―30万人程度、「来日外国人」のなかに占める「不法滞在者」の比率は21%-25%程度と推定できますので、ほぼ人口比に対応しており、「来日外国人」のなかで「不法滞在者」が刑法犯罪の温床となっているわけではありません。
年 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 1-6 |
「不法滞在者」の刑法犯検挙人員 | 1317 | 1302 | 1529 | 1603 | 684 |
日本全体刑法犯検挙人員 | 313573 | 324263 | 315355 | 309649 | 147869 |
構成比 (%) | 0.42 | 0.40 | 0.48 | 0.52 | 0.46 |
上記のように1997年からの最近4年間の日本全体の刑法犯検挙人員に占める「不法滞在者」の構成比は0.4-0.5%程度で、2001年上半期は0.46%と低下しています。
従って、日本の刑法犯罪に占める「不法滞在者」による刑法犯罪は、0.5%程度しかなく、最近5年間ほぼ横ばいで増加傾向をしめしていません。
8.「不法滞在者」の「比率が高い凶悪犯と薬物犯」と警視庁は強調するが、その比率は凶悪犯、薬物犯とも最近数年間低下傾向にある
警察庁は、刑法犯検挙人員に占める「不法滞在者」の比率は21.3%であるが、そのうち凶悪犯は166人中79人と47.6%と比率が高いことを強調しています。この比率も、1996年の67%から2000年50%、2001年上半期は47.6%と毎年年減少してきています。 2001年版上半期のデータでは、「来日外国人」凶悪犯検挙人員に占める「不法滞在者」凶悪犯検挙人員が不明ですが、「来日外国人」凶悪犯検挙人員166人中132人(約8割)が強盗犯ですから、「不法滞在者」凶悪犯79人の8割以上が強盗犯であると推定できます。「不法滞在者」に強盗犯が比較的多いのは、「不法滞在者」という在留資格により経済的に困窮して追い詰められているものが多いためと考えられます。
「来日外国人」薬物事犯に占める「不法滞在者」の比率が最も高かったのは、1996年778人中552人の70%で、1997年873人中525人の60%、1998年873人中の500人の57%、1999年754人中の344人の46%、2000年720人中311人の43%、そして2001年上半期は、427人中181人の42.4%となっています。
このように、その比率は1996年の70%を最高に年々低下し、2001年上半期では42%程度となっています。日本全体の薬物事犯検挙人員は2000年で20382人ですから、このうち「来日外国人」薬物事犯720人は3.5%、『不法滞在者』薬物事犯311人は1.5%を占めているに過ぎません。
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