コムスタカ―外国人と共に生きる会

「外国人犯罪」問題


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「外国人犯罪」の宣伝と報道
中島真一郎
2006年

はじめに

警察やマスメディアによる「外国人犯罪」の差別的な宣伝や報道が繰り返されている。その度に、在留外国人への差別偏見が助長され、在留外国人の就職や住居探しが困難となったり、子どもが学校でいじめられたり、日本社会での生活が困難となっている。個々の具体的な凶悪な事件の被疑者が外国人である事件を、マスコミが大きく報道していくことによる影響もあるが、『警察白書』等の「来日外国人」(注@)犯罪統計データによる「来日外国人犯罪の増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」の警察の広報・宣伝が大きな影響を与えている。

一般論で言えば、「来日外国人犯罪」は、国際化によりその構成人口が毎年増大していくので、増加傾向となることが予想できる。しかしながら、警察は、取り締まりの結果にすぎない「検挙件数」や「検挙人員」の増加を、「来日外国人」による犯罪の増加とすり替えて、「来日外国人」や在留資格のない「不法滞在者」(注A)をスケープゴートにして、「治安の悪化」を印象づけ続けている。

その結果、石原東京都知事のような政治家の差別暴言がなされても、それを多くの東京都民や日本国民が支持するなど、その影響は広く日本社会に浸透している。そして遂には、政府も「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を2003年12月18日に決定し、「外国人犯罪」問題を日本社会の治安問題として取り上げ、「約25万人に上る不法滞在の外国人を今後5年間で半減させる」数値目標を設けるまでに至っている。

2、「外国人犯罪統計」の限界とその読み方

(1) 「認知件数」が不明で、「検挙件数」「検挙人員」で示すしかない外国人犯罪統計

犯罪発生数の増減を論じるときに一般的には「認知件数」(注B)や「犯罪発生率」(人口10万人当たりの認知件数)が使われる。しかしながら、「外国人犯罪」は、ある年の日本全体の刑法犯認知件数のうち「外国人」によるものがいくらあったかが不明なため、「外国人刑法犯認知件数」や「外国人犯罪発生率」を算出することができず、警察の取り締まり結果を示すにすぎない「検挙件数」及び「検挙人員」で示すことしかできない。

警察庁は、「刑法犯」(注C)と「特別法犯」(注D)をあわせた「総検挙件数」・「総検挙人員」の増加や、「刑法犯検挙件数」の増加を根拠に、「来日外国人」による犯罪の「増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」を宣伝し、マスメディアがそれを検証なく報道している。しかしながら、「外国人犯罪」の増加を、「検挙件数」や「検挙人員」の増加で示すことには大きな限界がある。

(2)  「来日外国人」特別法犯検挙件数・検挙人員の限界

被害者のいない犯罪が大半を占める「特別法犯」は認知件数が不明で、「刑法犯」と性格を異にするので、「特別法犯」と「刑法犯」を合計する「総検挙件数・総検挙人員」という概念は成り立たず、日本全体の犯罪統計では使われていない。にもかかわらず、警察庁の「来日外国人」犯罪統計では、「総検挙件数・総検挙人員」を使用して、その増加をあたかも「来日外国人」による犯罪の増加とすり替えて強調している。

「来日外国人」特別法犯の約8割は出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)違反者が占めているが、1993年の約30万人の「不法残留者」は、2005年1月1日現在約20万7千人と減少しており、「不法残留者」が大半を占める入管法違反者は、この12年間で余り約3割減少していると推定できる。一方、入管法違反の検挙件数は、1993年4393件から12516件と2.9倍、検挙人員は、3618人から11069人と3.1倍に増加している。このように「来日外国人」特別法犯の「検挙件数」・「検挙人員」を根拠として、「来日外国人犯罪」の増加を論じると、客観的には約3割程度減少しているのに、約3倍増えているという誤った結論を導くことになり、特別法犯の「検挙件数・検挙人員」の増加は、犯罪発生数の増加を示す指標として使えない。

(3)「来日外国人」刑法犯検挙件数の限界

「検挙件数」が「検挙人員」より多くなるのは、余罪が「検挙件数」に含まれるためである。そして、「来日外国人」刑法犯検挙件数は、日本全体の刑法犯と比べて、異常とおもえるほど余罪のカウントが多くなされている。例えば、2004年の刑法犯の「余罪率」(検挙人員一人当たりの検挙件数)は、日本全体の刑法犯では、1.7件ですが、2004年「来日外国人」刑法犯では3.6件と2倍以上になっている。これは、「来日外国人」による「自販機荒し」「車上狙い」などの非侵入盗の犯罪を、一グループあたり何百件、何千件とカウントして算出しているためである。そのため、「来日外国人」刑法犯検挙件数は、犯罪発生数の増加を示す指標としては使えない。

(4) 「来日外国人」刑法犯検挙人員の限界

「来日外国人」刑法犯検挙人員も、警察がある罪種の犯罪の取締りを重点的に行えば、その犯罪の検挙人員は増大していくので、警察の取り締まり方針に左右されやすい指標である。

(5)「来日外国人」や「不法滞在者」による犯罪の動向

日本社会における「来日外国人」や在留資格のない「不法滞在者」による犯罪の動向は、日本全体の刑法犯検挙人員に占める「来日外国人」あるいは「不法滞在者」刑法犯検挙人員の構成比の一定期間(10年間程度)での推移で、一般的に把握することしかできない。

「来日外国人」の日本全体の検挙人員に占める構成比を、1993年1998年、2004年で推移を見ると、「刑法犯」で2.4%、1.7%、2.3%、「凶悪犯(殺人・強盗・強姦・放火)4.7%、3.6%、5.6%となる。また、「不法滞在者」検挙人員の構成比は、「刑法犯」で0.34%、0.40%、0.36%、「凶悪犯」で2.5%、2.0%、2.1%%である。

3、まとめ

このように、「来日外国人」あるいは、「不法滞在者」による犯罪は、その絶対数も少なく、日本全体に占める構成比も少なく、最近12年間で、増加傾向は見られない。その変化も、日本全体の変化に対応しており、「日本社会の治安悪化」の要因でも、まして、「犯罪の温床」ともなっていない。

外国人による犯罪は、国籍・民族・人種・在留資格などによって行われているのではなく、具体的な個人やグループによって行われている。日本社会でおきている外国人による犯罪を、警察庁など公的機関が、特定の国籍・民族・人種・在留資格などによって分析し、その増加や凶悪化、組織化などを公表して宣伝することは、それ自体その集団への偏見と差別を煽動する行為となる。

以上のように、日本では10年以上にわたって警察当局が人種差別を助長する組織的宣伝活動を行い、それをマスメディアが公の当局の発表として社会に流布することによって、「外国人犯罪の増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」が誇大広告的に社会に印象づけられている。こうした警察庁の行為及びマスメディアの「外国人犯罪」報道は、国際人権規約B規約第27条及び人種差別撤廃条約第4条に抵触する。

注1「来日外国人とは、在留外国人のうち定着居住外国人(「特別永住者」、「永住者」、「永住者の配偶者等」の在留資格者)と駐留米軍関係者と「在留資格不明者」を除いた外国人のこと。
注2「不法滞在者」とは、正規の在留資格を得て入国後在留期限を超えて滞在している「不法残留者」、「偽造旅券」や「密入国」など有効の旅券を持たずに入国した「不法入国者」、上陸許可を得ずに上陸した「不法上陸者」等によって構成されている。
注3「認知件数」とは、犯罪について、被害の届出、告訴、告発その他の端緒により、警察などが発生を認知した事件の数をいう。認知件数には「暗数」(犯罪被害者から被害届けがなされない犯罪や被害届けがなされても警察が受理しない犯罪)は含まれていない。
注4「刑法犯」とは、道路交通関係業務上過失罪等を除いた刑法等に規定された罪をいう。「凶悪犯」「粗暴犯」「窃盗犯」「知能犯」「風俗犯」「その他の刑法犯」の6つの包括罪種がある
注5「特別法犯」とは、刑法犯等の罪を除いた罪をいう。(但し、「道路交通法」等交通関係法令違反を除く)特別法には、「覚せい剤取締法」「入管法」「風営適正化法」「銃刀法」「軽犯罪法」「労働基準法」「公職選挙法」等がある。


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