「来日外国人」及び「不法滞在者」の犯罪データ(刑法犯検挙人員)からみえる外国人犯罪の実像――江藤議員の『暴言―差別発言』への批判のための基礎資料として
中島真一郎
2003年10月29日
はじめに
江藤隆美衆議院議員は、20003年7月12日福井市内でひらかれた自由民主党福井支部の定期大会で講演し、「国内には不法滞在者など、泥棒や人殺しやらしているやつらが100万人いる。内部で騒乱を起こす」(毎日新聞)。「新宿の歌舞伎町見てみなさい。第三国人が支配する無法地帯。最近は中国やら韓国やらその他の国々の不法滞在者が群れをなして強盗をやってる」(毎日新聞)などとの暴言を吐いたと報道されています。 国内に居住する「不法滞在者」は、「不法残留者」については、法務省が公表している推定値(2003年1月)で約22万人、毎年3万人から5万人ほどいる退去強制者数の「不法残留者」とそれ以外の者の比率から考えて、それ以外の「不法上陸者」「不法入国者」などが数万人いると思われ、日本国内に居住する在留資格のない外国人は、25万人〜30万人ほどと推定できます。従って、江藤議員の発言にあるような100万人も居住している事実はありません。江藤議員の発言は、「暴言」のオンパレードですが、外国人犯罪の部分についての発言は、これまで警察庁やマスコミが、宣伝してきた内容をフレームアップしているものといえます。
1、「来日外国人」犯罪データの見方
(1)「検挙件数」ではなく、「検挙人員」を使う理由
日本社会での外国人による犯罪は、その認知件数が不明なため、人口10万人あたりの認知件数を示す(犯罪)発生率や、認知件数に占める検挙件数の比率である検挙率を示すことができません。そのために、警察庁は、「検挙件数」と「検挙人員」の増加を根拠に、『来日外国人』犯罪の「増加・凶悪化・地方への拡散・組織化」を主張しています。「検挙人員」も、警察の捜査能力や捜査方針により影響を受けますが、「検挙件数」は、2002年「来日外国人」刑法犯検挙件数の85%(2002年日本全体の刑法犯検挙件数に占める窃盗犯の比率は68%と比べて高い)を占める窃盗犯、それも「自販機荒し」や「車上狙い」や「万引き」などの非侵入窃盗の余罪のカウントの程度により大きく左右されています。
例えば、「来日外国人」刑法犯検挙件数は、1999年25135件から2001年18199件と6936件減少し、この減少理由を「自販機荒し」等の余罪の減少によるものと警察庁は説明しています。2001年と比べて2002年の「来日外国人」刑法犯検挙件数24258件は6059件増加していますが、これは全国に9つある警察管区のうち8地区では、横ばいか減少しているのに、中部管区のみが前年の3540件から10266件へ6726件も大幅増加したことによるものです。国籍別の刑法犯検挙件数では、トルコ人が前年に比べて3860件増加(トルコ人刑法犯検挙人員は27人から26人へ1人減少)、ブラジル人が1510件増加((ブラジル人刑法犯検挙人員は958人から952人へ6人減少)しています。これらは、中部管区の警察が、トルコ人グループの「自販機荒し」やブラジル人グループの「車上狙い」の余罪を数百〜数千件単位でカウントしたために増加しているに過ぎず、中部管区の警察が昨年や一作年並も3000件台に戻ると、「来日外国人」刑法犯検挙件数は大幅減少します。以上から、「来日外国人」刑法犯検挙件数は、警察の「自販機荒し」や「車上狙い」などの非侵入盗の余罪の追及の程度に大きく左右されているので、比較データとして使用するには、不適切なものです。今のところ比較データとして「検挙人員」をもとに「来日外国人」犯罪の推移を検証していくしかありません。
(2)「来日外国人」人口が不確定であること
また、「来日外国人」は、日本に在留する外国人のうち『駐留米軍関係者』と『定着居住者』(「特別永住者」・「永住者」・「永住者の配偶者等」の在留資格者)と『在留資格不明者』を除いた者として、警察庁により定義されています。
「来日外国人」には、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法とよぶ)で規定されている27種類の在留資格のうち25種類の在留資格を持つ外国人と「不法滞在者」(「不法入国者」「不法上陸者」「不法残留者」などを含む)により構成されています。「短期滞在者」(新規入国短期滞在者 約388万人 2001年)は、15日間と90日間の2種類で1年間滞在していないことや、「不法滞在者」は、「不法入国者」「不法上陸者」等が不明なため、推定値(約25万人〜30万)でしかないことなどから、「来日外国人」人口は不明確です。したがって、「来日外国人」による犯罪が、日本人による犯罪に比べて犯罪発生率が高いかを比較することができず、人口10万人当たりの検挙人員の比率である「検挙(人員)比率」で比較するしかないのですが、この場合でも「来日外国人」人口が不確定なため推定値でしかありません。
以上のように「来日外国人」犯罪データは、「検挙件数」と「検挙人員」の増減のみを根拠に論じることに限界や制約が本来あるのですが、警察庁及びマスコミは、主に「検挙件数」による増加を根拠に「来日外国人」による犯罪(特に「不法滞在者」による犯罪)が「急増、凶悪化、組織化、地方への拡散」しているとして、日本社会での「治安悪化」の原因が「来日外国人」や「不法滞在者」にあるかのような宣伝を行い、これが日本社会に広く深く浸透しているため、繰り返される政治家などの「暴言」や「差別発言」の底流となっています。
江藤議員の発言にある「来日外国人」及び在留資格のない外国人(いわゆる入管用語でいうところの「不法滞在者」)による犯罪が、日本でどのぐらい起きているのかを、警察庁などの最近10年間(1992-2002年)の検挙人員のデータをもとに、表1から表4で示しておきます。(なお、刑法犯検挙人員は、あくまで被疑者を意味しているにすぎず、 2001年の「来日外国人」刑法犯の起訴率は69.7%で、全終局処理人員の起訴率56.7%より高くなっています。)
新規短期滞在者を除いて推計した場合と、15日間を24分の1人、90日間を4分の1人として新規短期滞在者を計算して含んだ場合の双方とも、私の推計では1993年と比べて2002年には、「来日外国人」人口は、1.4倍以上に増加しています。また、「不法滞在者」人口のうち7-8割を占めると思われる「不法残留者」は、1993年の約30万人から2002年の約22万人に最近10年間で約8万人減少していますので、減少傾向にあります。「来日外国人」人口や「不法滞在者」人口の変化から、一般的には最近10年間で「来日外国人」刑法犯検挙人員は増加傾向、「不法滞在者」刑法犯検挙人員は減少傾向となることが推測できます。
2、「不法滞在者」刑法犯検挙人員は、日本全体の刑法犯検挙人員の0.4%台程度で、最近3年間は減少傾向にあります。
表1 「来日外国人」刑法犯検挙人員に占める「不法滞在者」刑法犯検挙人員の構成比
(最近10年間 1993年-2002年) 注)刑法犯には交通業過を除く。
年 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 |
a | 1015 | 1215 | 1315 | 1632 | 1317 | 1302 | 1529 | 1603 | 1379 | 1403 |
b | 7276 | 6989 | 6527 | 6026 | 5435 | 5382 | 5963 | 6329 | 7168 | 7690 |
c | 13.9 | 17.4 | 20.1 | 27.1 | 24.2 | 24.2 | 25.6 | 25.3 | 19.2 | 18.2 |
d | 297725 | 307965 | 293252 | 295584 | 313573 | 324263 | 315355 | 309649 | 325292 | 347558 |
e | 0.34 | 0.39 | 0.45 | 0.55 | 0.42 | 0.40 | 0.48 | 0.52 | 0.42 | 0.40 |
f | 2.4 | 2.3 | 2.2 | 2.0 | 1.7 | 1.7 | 1.9 | 2.0 | 2.2 | 2.2 |
表1から、「来日外国人」刑法犯検挙人員は、最近10年間では1993年をピークに1998年まで毎年減少し、1998から2002年まで増加傾向にありますが、この10年間で見ると、2002年に10年前の1993年のピーク時の7276人を414人上回り7690人となったにすぎず、概ね横ばいといえます。一方「不法滞在者」刑法犯検挙人員は、最近10年間では1996年の1632人をピークに2002年1403人とやや減少してきています。「来日外国人」刑法犯検挙人員に占める「不法滞在者」刑法犯検挙人員の構成比のピークは、1996年の27.1%で、2002年の18.2%と減少傾向にあり、また。日本全体の刑法犯検挙人員に占める「不法滞在者」刑法犯検挙人員の構成比は、1996年の0.55%をピークに、2002年の0.40%と減少傾向にあります。このように、 「不法滞在者」刑法犯検挙人員は、日本全体の刑法犯検挙人員の0.4%程度(最近10年間の平均値)しか占めておらず、増加傾向にないどころか、むしろ減少傾向にあります。
3、「不法滞在者」凶悪犯検挙人員は、日本全体の凶悪犯検挙人員の2.%程度で、最近4年間では減小傾向にあります。
表2 「来日外国人」凶悪犯検挙人員に占める「不法滞在者」凶悪犯検挙人員の構成比
(最近10年間 1993年−2002年)
年 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 |
a | 130― | 133― | 106― | 142(28) | 131(31) | 137(47) | 186(93) | 159(100) | 180(82) | 141(55) |
b | 246 | 230 | 201 | 212 | 213 | 251 | 347 | 318 | 403 | 353 |
c(%) | 53 | 58 | 53 | 67 | 62 | 55 | 54 | 50 | 45 | 40 |
d | 5190 | 5526 | 5309 | 5459 | 6633 | 6949 | 7217 | 7488 | 7490 | 7726 |
e(%) | 2.5 | 2.4 | 2.0 | 2.6 | 2.0 | 2.0 | 2.6 | 2.1 | 2.4 | 1.8 |
f(%) | 4.7 | 4.2 | 3.8 | 3.9 | 3.2 | 3.6 | 4.8 | 4.2 | 5.4 | 4.6 |
表2から、「来日外国人」凶悪犯検挙人員は、最近10年間では1993年の246人から2001年の403人をピークに、2002年353人と増加傾向にありますが、日本全体の凶悪犯検挙人員も、1993年5190人から2002年7726人をピークに増加傾向にあり、日本全体の凶悪犯検挙人員の増加に対応して増加しているに過ぎません。一方「不法滞在者」凶悪犯検挙人員は、最近10年間では1993年の130人から1999年186人をピークに2002年141人と概ね横ばいです。「来日外国人」凶悪犯検挙人員に占める「不法滞在者」凶悪犯検挙人員の構成比のピークは、1996年の67%で、2002年には40%と減少傾向にあり、また日本全体の凶悪犯検挙人員に占める「不法滞在者」凶悪犯検挙人員の構成比は、1996年と1999年の2.6%をピークに、2002年の1.8%へと減少傾向にあります。このように、「不法滞在者」凶悪犯検挙人員は、日本全体の刑法犯検挙人員の2.2%程度(最近10年間の平均)しか占めておらず、むしろ減少傾向にあります。
4、最近10年間の「来日外国人」殺人犯検挙人員は、日本全体の殺人犯検挙人員の4%〜 5%程度で、1997年83人をピークに2002年41人と半分以下となっています。
表3 「来日外国人」殺人犯検挙人員と日本全体の殺人犯検挙人員の構成比
(最近10年間 1993年-2002年)
年 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 |
a | 72 | 53 | 41 | 73 | 83 | 62 | 50 | 54 | 59(30) | 41(16) |
b | 1218 | 1275 | 1295 | 1242 | 1284 | 1365 | 1313 | 1416 | 1334 | 1405 |
c(%) | 5.9 | 4.2 | 3.2 | 5.9 | 6.5 | 4.5 | 3.8 | 3.8 | 4.4 | 2.9 |
「来日外国人」殺人犯検挙人員は、1997年83人をピークに2002年41人(内『不法滞在者』殺人犯検挙人員は16名)と半減しています。又、日本全体の殺人犯検挙人員が1993年1218人から、2,000年の1416人をピークに2002年1405人と増加傾向を示しているのに対して、「来日外国人」殺人犯検挙人員は、1998年以降減少傾向にあり、その構成比も1997年の6.5%をピークに2002年2.9%に半分以下に減少しています。
5、「来日外国人」強盗犯検挙人員は、日本全体の強盗犯検挙人員の6%程度で、最近10年間で倍増していますが、日本全体の強盗犯も倍増しており、その増加に対応して増加しているに過ぎません。
表4 「来日外国人」強盗犯検挙人員と日本全体の強盗犯検挙人員の構成比
(最近10年間 1993年-2002年)
注)強盗犯には侵入強盗と路上強盗など非侵入強盗がありますが、近年増えているのは路上強盗で、2001年では路上強盗が日本全体の強盗犯認知件数の約4割を占めています。
年 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 |
a | 142 | 139 | 135 | 114 | 103 | 160 | 278 | 236 | 309(145) | 280(116) |
b | 2089 | 2372 | 2169 | 2390 | 3152 | 3379 | 3762 | 3797 | 4096 | 4151 |
c(%) | 6.8 | 5.9 | 6.2 | 4.8 | 3.3 | 4.7 | 7.4 | 6.2 | 7.5 | 6.7 |
a 「来日外国人」強盗犯検挙人員 ( )内は「不法滞在者」強盗犯検挙人
b 日本全体の強盗犯検挙人員
c 日本全体の強盗犯検挙人員に占める「来日外国人」強盗犯検挙人員の構成比(%)
「来日外国人」強盗犯検挙人員は、1993年の142人から2,001年309人をピークに2002年280人(うち『不法滞在者』強盗犯検挙人員は116名)とほぼ倍増していますが、日本全体の強盗犯検挙人員も1993年2089人から、2002年の4151人をピークに2002年に倍増していますので、「来日外国人」強盗犯検挙人員の増加は、日本全体の強盗犯検挙人員の増加に対応しているにすぎません。「来日外国人」強盗犯検挙人員が、日本全体の強盗犯検挙人員に占める構成比は、1993年6.8%から1997年3.3%まで減少傾向にあり、1998年4.7%から2002年6.7%と増大傾向にありますが、10年前の1993年の構成比に戻ってきたにすぎませんから、最近10年間で特に増加しているわけではありません。
6、結び
(1)「来日外国人」人口が最近10年間で1.4倍に増加しているにもかかわらず、「来日外国人」刑法犯検挙人員は、1993年を上回ったのは2002年からですから、概ね横ばいといえます。
(2)「来日外国人」刑法犯検挙人員が、日本全体の刑法犯検挙人員に占める構成比も2%程度しかしめていません。
(3)「来日外国人」凶悪犯検挙人員は、最近10年間で1993年の246人から2002年から353人へと1.4倍に増加していますが、日本全体の凶悪犯検挙人員も1993年の5190人から2002年の7726人と1.5倍増加しているので、日本全体の凶悪犯検挙人員の増加に対応して増加しているに過ぎません。(凶悪犯のうち「来日外国人」殺人犯検挙人員は、1997年83人をピークに2002年41人(内『不法滞在者』殺人犯検挙人員は16名)と半減しています。
(4)「来日外国人」強盗犯検挙人員は、1993年の142人から2001年308人をピークに2002年280人(内『不法滞在者』強盗犯検挙人員は116名)とほぼ倍増していますが、日本全体の強盗犯検挙人員も1993年2089人から、2002年の4151人をピークに2002年に倍増していますので、「来日外国人」強盗犯検挙人員の増加は、日本全体の強盗犯検挙人員の増加に対応しているにすぎません。
(5)一方、「不法滞在者」刑法犯検挙人員は、1996年の1632人をピークに2002年1403人と減少傾向にあり、日本全体の刑法犯検挙人員に占める構成比も0.4%台程度しか占めていません。
(6)「不法滞在者」凶悪犯検挙人員は、最近10年間では1993年の132人から1999年182人をピークに2002年141人と概ね横ばいです。また、日本全体の凶悪犯検挙人員に占める「不法滞在者」凶悪犯検挙人員の構成比は、1996年と1999年の2.6%をピークに、2002年の1.8%へと減少傾向にあります。
(7)「不法滞在者」凶悪犯検挙人員は、日本全体の凶悪犯検挙人員の2.2%程度(最近10年間の平均)しか占めておらず、増加傾向にないどころか、むしろ減少傾向にあります。
(8)以上から、最近10年間の検挙人員の推移から見る限り、「来日外国人」の犯罪は、刑法犯では概ね横ばい、凶悪犯(強盗犯)は増加傾向にありますが、日本全体の凶悪犯(強盗犯)の増加傾向と変わらず、その構成比に増加傾向は見られません。「不法入国者」の犯罪は、刑法犯で減少傾向にあり、凶悪犯(強盗犯で概ね横ばい、殺人で半減)では概ね横ばい、日本全体の刑法犯や凶悪犯との構成比では、減少傾向にあります。
(9)以上から、最近10年間の検挙人員の推移から見る限り、「来日外国人」の犯罪は、刑法犯では概ね横ばい、凶悪犯(強盗犯)は増加傾向にありますが、日本全体の凶悪犯(強盗犯)の増加傾向と変わらず、その構成比に増加傾向は見られません。「不法入国者」の犯罪は、刑法犯で減少傾向にあり、凶悪犯(強盗犯で概ね横ばい、殺人で半減)では概ね横ばい、日本全体の刑法犯や凶悪犯との構成比では、減少傾向にあります。
(10)なお、来日外国人」や「不法滞在者」の犯罪の特色として、日本全体と比べて、凶悪犯(殺人・強盗・放火・強姦の4つの罪種)検挙人員の罪種別では、強盗犯の比率が極めて高いこと(2002年 全国54% 「来日外国人」79% 「不法滞在者」82%)が特色です。これらから、「来日外国人」や「不法滞在者」の一部に過ぎませんが、犯罪容疑者として検挙される者には経済的に困窮している者が多いことが推測できます。
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