日本における外国人犯罪の実像
中島真一郎
2005年
以下の「日本における外国人犯罪の実像」は、一橋経済研究所の2005年2月4日付けでDP(デイスカッションペーパー)に2004年度NO250 (2005年1月)「日本における外国人犯罪の実像」(中島真一郎)として掲載されたものです。2004年2月5日に東京で開かれた第2回移民政策研究会で私が報告した「日本社会おける外国人による犯罪の実像」のタイトルの資料に、2003年のデータを追加し、A4−20枚程度にまとめなおしました。1993年〜2003年の最近11年間のデータをもとに警察庁の「来日外国人犯罪の増加、凶悪化、組織化、地方への拡散」論と「不法滞在者による犯罪の増加や凶悪化」論を批判したものです。
はじめに
警察の「外国人犯罪」に関する広報には、「外国人犯罪」ビラやポスターなどがあり、マスコミによる「外国人犯罪」の報道が繰り返されていますが、それらはいずれも外国人を差別する扱いになっています。それらの広報や報道がなされる度に、在留外国人への差別や偏見が助長され、在留外国人の就職や住居探しが困難となったり、外国人の子どもが学校でいじめられたりしており、外国人の日本社会での生活が困難となる傾向が見られます。
個々の具体的な凶悪な事件の被疑者が外国人である事件を、マスコミが大きく報道していくことによる影響もありますが、「来日外国人犯罪統計データ」による警察の広報・宣伝が大きな影響を与えていると考えられます。そのデータとして「警察庁来日外国人犯罪対策室」による『来日外国人問題の現状と対策』や『警察白書』での「来日外国人」犯罪の統計数値とその分析が使われています。警察庁は、毎年3月(前年中のデータのまとめ)と毎年9月(当該年の上半期のデータのまとめ)の年二回、また、毎年秋の『警察白書』の公刊時等に、「来日外国人犯罪」の動向と分析を公表し、「来日外国人犯罪の増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」という宣伝をし続けています。そして、マスコミはそのたびにその見解を無批判に、あるいはさらに誇張して報道し、外国人への差別と偏見を助長する報道を繰り返しています。その結果、石原東京都知事のような政治家が差別暴言をしても、それを多くの東京都民や日本国民が支持するなど、その影響は広く日本社会に浸透していると考えられます。そして、「出入国管理及び難民認定法」(以下、入管難民認定法と呼ぶ)の改定があるたびに、法務省は、「外国人犯罪」問題などを理由とする入管難民認定法の規制強化へむけた改定を提案し、与野党の国会議員の支持を受けて成立させてきました。そして、2003年の衆議院議員総選挙では、与野党の多くの政党が「治安対策の強化」を公約に掲げ、政府も「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を2003年12月18日に決定し、「増え続ける外国人犯罪と少年犯罪を主眼に、約25万人に上る不法滞在の外国人を今後5年間で半減させる数値目標を政府として設ける」までに至っています。 本稿では、外国人犯罪の実像を明らかにする作業が必要であると感じて、1998年ごろから外国人犯罪に関する警察庁の「来日外国人犯罪」の統計分析を検証することを行ってきた筆者の作業結果をとりまとめたものです。
以下において、筆者が取り上げた外国人による犯罪の統計データは、各年度の『犯罪白書』、『警察白書』、各年の「来日外国人犯罪の現状と対策」などの公表されているデータと、筆者自身が行った国会議員への質問に対する回答や内閣への質問主意書に対する内閣総理大臣の答弁書のデータであり、すべて公的データをもとにしています。
1 「外国人犯罪」に関する用語の解説
1-1 警察庁の定義する「外国人」の分類
警察庁編の『警察白書』は、日本での外国人犯罪を扱う場合の「外国人」について、次のような定義をしています。即ち、在留外国人のうち@定着居住外国人(「特別永住者」、「永住者」、「永住者の配偶者等」の在留資格者)及びA駐留米軍関係者、そしてB「在留資格不明者」を「その他の外国人」と定義しています。また、在留外国人から「その他の外国人」を除いた外国人を「来日外国人」と定義しています。そして、警察庁は、『警察白書』などでは、「その他の外国人」の犯罪統計は公表せず、「来日外国人」の犯罪統計のみ公表しています。これに対して、法務省法務総合研究所編の『犯罪白書』は、「外国人刑法犯」の統計として、「その他の外国人」及び「来日外国人」の犯罪統計を公表しています。
1-2 警察庁の定義している 「来日外国人」とは
「来日外国人」=総在留外国人−「定着居住者」−「駐留米軍関係者」−「在留資格不明者」(在留資格不明者であきらかに日本人でない者等)です。 |
警察庁の定義による「定着居住者」に該当する在留資格は、「特別永住者」「永住者」「永住者の配偶者等」の三つです。つまり、「来日外国人」は、「特別永住者」を含めて28ある在留資格から上記「定着居住者」に含まれる3つの在留資格を除いた25の在留資格(「定住者」「日本人配偶者等」「短期滞在者」「留学」「就学」「研修」、「人文知識・国際業務」「興行」などの在留資格)を有する者と、「不法滞在者」(正規の在留資格を得て入国後在留期限を超えて滞在している「不法残留者」、「偽造旅券」や「密入国」など有効の旅券を持たずに入国した「不法入国者」、上陸許可を得ずに上陸した「不法上陸者」等)によって構成されています。
1-3 「来日外国人」人口は、1993年から2003年で、1.5倍〜1.6倍程度増加しています。
外国人人口には、外国人登録者だけでなく、「不法滞在者」(「不法残留者」「不法入国者」「不法上陸者」)と外国人登録義務のない「外交」「公用」「短期滞在者」が含まれていますので、正確な外国人人口を示すことができません。最近10年間の外国人登録者数だけを比べても1993年1320748人から2003年1915030人へと11年間で1.5倍の増加を示していますし、「短期滞在」の在留資格者の新規入国者を比較すると、1993年2806215人から2003年4259974人へと11年間で1.5倍増加しています。「不法残留者」は1993年約30万人から2003年約22万人と減少していますが、その減少分を考慮しても外国人人口は、1993年と比べて2003年には1.5倍程度に増加していると推測できます。(注、新規入国の「短期滞在者」の在留期間15日内を24分の1人、在留期間90日以内を4分の1人というように1滞在期間を年単位に換算した人数にして計算しなおすと、約1.6倍程度の増加となります。)
2 警察庁の「来日外国人犯罪の増加論」への批判
2−1 「2003年外国人犯罪4万件突破、 03年 摘発人数も最多2万人突破 」の記事
2004年3月11日夕刊や3月12日朝刊での各社の「外国人犯罪」問題の記事は、警察庁の広報内容を紹介したものです。「外国人犯罪4万件突破、03年 摘発人数も最多2万人突破 警察庁」という見出し(2004年3月11日 熊本日日新聞 夕刊、共同通信社配信の記事)に代表される、警察庁の検挙件数の増加を主な根拠とする「来日外国人犯罪の増加論」が、この10年以上にわたって繰り返され、日本のメディアが検証なしに報道しつづけています。その結果、「外国人犯罪が増加」しているとの考えが広く深く世論に浸透し、日本社会の排外主義潮流の温床として肥大化し、「外国人犯罪」問題が、日本政府の「治安対策」の一つとなるまでに至りました。
2−2 特別法犯検挙件数と検挙人員増加の意味
2−2 特別法犯検挙件数と検挙人員増加の意味
「来日外国人」特別法犯検挙件数・検挙人員を見てみますと、いずれもその約8割を入管難民認定法違反が占めていますので、外国人犯罪の増加の大半は、入管難民認定法違反容疑での警察の摘発件数と摘発人員の増加によってもたらされています。
2003年12月に政府は、「不法滞在者を25万人と推計し、5年間で半減する」ことを政策目標として掲げました。法務省の推計では、2003年1月現在、「不法残留者」(正規の在留資格で入国し、在留期限を超過して在留している者)は約22万人ですから、政府の推計する「不法滞在者」25万人(「不法残留者」「不法入国者」「不法上陸者」を含む)の約9割(88%)が「不法残留者」が占めていることになります。ところが、「不法残留者」は1993年の約30万人を過去の最高値として以後減少し続けており、1993年から2003年まで最近11年間で約8万人(27%)減少しています。つまり、違反者数の実体をあらわす入管難民認定法違反者は、最近11年間で約3割減少しているにもかかわらず、警察庁の入管難民認定法違反の検挙件数は、1993年4393件から2003年10550件へ6157件増 (142%増)と2.4倍に、検挙人員は、1993年3618人から2003年9211人へ5593人増(155%増)と2.5倍以上に増加しています。
「来日外国人」特別法犯から入管難民認定法違反者を除く検挙件数でみると1993年2507件から2003年2807件と1.1倍へ、検挙人員でみると1993年1573人から2003年2071人と1.3倍となっています。「来日外国人」の人口が最近11年間に1.5倍程度増加していることと比べると、最近11年間で1.1倍か、1.3倍程度の増加にとどまっており、入管難民認定法違反者を除く「来日外国人」特別法犯の増加傾向は見られません。
2002年と比べて2003年の「来日外国人」特別法犯から入管難民認定法違反者を除く検挙件数309件の増加や、検挙人員289人の増加は、警察による風営適正化法違反者の摘発が強化されたためです。2003年「来日外国人」特別法犯の検挙件数や検挙人員の「大幅増加」は警察、そのなかでも特に警視庁と関東管区の警察の入管難民認定法違反容疑の集中的な取締まりや、風営適正化法違反者の摘発の強化によってもたらされているに過ぎず、「来日外国人」の特別法犯違反者の「増加」を示すものではありません。
● 表1 最近11年間(1993年―2004年)の推定「不法残留者」数の推移
● 表2 最近11年間(1993−2003年)の「来日外国人」特別法犯検挙件数、入管法違反検挙件数、
● 表3最近11年間(1993−2003年)「来日外国人」特別法犯検挙人員、入管法違反検挙人員、入管法違反を除く特別法犯検挙人員
2−3 刑法犯の検挙件数の検証
(1) 刑法犯検挙件数の増加の約9割が、警視庁と関東管区の警察によるものです。
刑法犯検挙件数は、2002年24258件から2003年27258件へ3000件増(前年比12.4%増)。全国9警察管区別で見ると、警視庁(東京都)が、前年比1005件増加(全国の増加数3000件の34%を占める)、関東管区(茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・神奈川・新潟・山梨・長野・静岡の10県)が、前年比1663件増加(全国の増加数3000件の55%)を占めています。2002年に比べて2003年の刑法犯検挙件数の実に89%が、東京都と関東管区10県の増加によるものです。
● 表4 2002年と2003年の「来日外国人」刑法犯発生地域別検挙件数の比較
(2)(2) 罪種別では窃盗犯(主に侵入盗)の余罪追及と「その他の刑法犯」(その大半が自転車の無断使用など占有離脱物横領)の摘発強化によるものです
ア、刑法犯検挙件数は、2002年比べて、2003年は3000件増加しました。増加の内訳は、窃盗犯が2226件(うち侵入盗1728件増)と増加の74%を占めています。刑法犯から窃盗犯を除いた検挙件数は2002年3654件から2003年4428件と774件増加していますが、「凶悪犯」13件増、「粗暴犯」18件増、「知能犯」50件などと微増なのに比べて、「その他の刑法犯」(その大半が放置自転車の無断使用などの占有離脱物横領です)が690件も増加したためです。
イ、警視庁(東京都)2003年の前年比の検挙件数の増加数は1005件、検挙人員の増加数315人、関東管区の2003年の前年比の検挙件数の増加数は1663件、検挙人員の増加数202人と、「来日外国人」刑法犯検挙件数と検挙人員の増加数に大きな差があるのは、検挙件数のなかに多くの「余罪」があるためです。窃盗犯の余罪をどの程度追及し、検挙件数に含めるかという警察の捜査方針により、刑法犯検挙件数は、増加させることも、減少させることもできます。 特に「来日外国人」に対しては、1グループ(複数犯)の余罪が何百件、何千件と検挙件数に含まれています。2003年の日本全体では、「窃盗犯」認知件数2235844件、検挙件数433918件、検挙率19.0%、(侵入盗33.0%、乗り物盗8.2%、非侵入盗22.1%)となっています。これら検挙率が低い「罪種」では、警察に被害届けがなされず認知件数に含まれない、いわゆる「暗数」も多く、「検挙件数」の増減は、警察の取り締りの結果を示すものに過ぎず、その犯罪数の客観的な増減を意味するものではありません。
イ、警視庁(東京都)2003年の前年比の検挙件数の増加数は1005件、検挙人員の増加数315人、関東管区の2003年の前年比の検挙件数の増加数は1663件、検挙人員の増加数202人と、「来日外国人」刑法犯検挙件数と検挙人員の増加数に大きな差があるのは、検挙件数のなかに多くの「余罪」があるためです。窃盗犯の余罪をどの程度追及し、検挙件数に含めるかという警察の捜査方針により、刑法犯検挙件数は、増加させることも、減少させることもできます。 特に「来日外国人」に対しては、1グループ(複数犯)の余罪が何百件、何千件と検挙件数に含まれています。2003年の日本全体では、「窃盗犯」認知件数2235844件、検挙件数433918件、検挙率19.0%、(侵入盗33.0%、乗り物盗8.2%、非侵入盗22.1%)となっています。これら検挙率が低い「罪種」では、警察に被害届けがなされず認知件数に含まれない、いわゆる「暗数」も多く、「検挙件数」の増減は、警察の取り締りの結果を示すものに過ぎず、その犯罪数の客観的な増減を意味するものではありません。
(3)過去11年間(1993年から2003年)の「来日外国人」刑法犯検挙件数から窃盗犯検挙件数を除いた件数は、1993年3637件から2003年4428件と1.2倍程度しか増加していません。
2002年と比べて2003年の774件の増加は、主に自転車の無断使用などの占有離脱物横領の摘発強化によるものです。 「その他の刑法犯」の検挙件数の約75%を占める「占有離脱物横領」は、その認知件数の90%以上を自転車が占めており、暗数が多く、認知件数と検挙件数がほぼ一致して検挙率約97%と高く、すなわち検挙した数が認知件数となりますので、警察の摘発強化により大きく左右されます。その増加は、犯罪の増加というより警察の摘発強化を意味しています。
● 表5 最近11年間(1993−2003年)「来日外国人」刑法犯検挙件数、窃盗検挙件数、窃盗犯以外の刑法犯検挙件数
(4)まとめ
「来日外国人」刑法犯検挙件数の「増加」は、主に窃盗犯の余罪の追及によってもたらされており、日本人ならカウントされないであろう1グループ(二人以上の複数犯)に対する何百件、何千件という余罪のカウントが「来日外国人」犯罪の統計では行われており、「刑法犯検挙件数」の増加は、犯罪が増加した指標・根拠とはみなせないものです。 また、窃盗犯以外の罪種では、主に放置自転車の無断使用などの占有離脱物横領の摘発強化によってもたらされています。
2−4 刑法犯検挙人員の検証
(1)、 刑法犯検挙人員の増加の7割が東京都と中部管区と関東管区の増加によるものです。
刑法犯検挙人員は、2002年7690人から2003年8725人へ、1035人増(前年比13.5%増)。全国9警察管区別で見ると、警視庁(東京都)が、前年比315人増(全国の増加数1035人の30%を占める)、中部管区(富山・石川・福井・岐阜・愛知・三重の6県)が、前年比243人増(全国の増加数1035人増の24%)、関東管区(茨城・栃木・群馬・ 埼玉・千葉・神奈川・新潟・山梨・長野・静岡の10県)が、前年比202人増(全国の増加数1035人増の20%)を占めています。2002年に比べて2003年の刑法犯検挙人員の実に73%が、東京都と中部管区6県と関東管区10県の増加によるものです。
(2)罪種別では、「その他の刑法犯」(その大半が自転車の無断使用など占有離脱物横領)の増加が半分以上を占めています。
刑法犯検挙人員は、2002年と比べて2003年は1035人増加しました。増加の内訳は、「その他の刑法犯」(その大半が自転車の無断使用など占有離脱物横領です)が571人増(増加の55%)、窃盗犯160人増、知能犯138人増、凶悪犯124人増(うち強盗89人増)となっています。刑法犯から窃盗犯を除いた検挙人員は、2002年3295人から2003年4170人と875人増加していますが、これは「その他の刑法犯」が571人増加するなど、警察による放置自転車の無断使用などの占有離脱物横領摘発が強化されたためです。
(3) 日本全体の刑法犯検挙人員の増加と対応して増加している。
刑法犯検挙人員は、2002年347558人から2003年379602人へと32044人増(前年比9.2%増)と日本全体も増加しており、2003年の「来日外国人」8725人の日本全体に占める構成比は2.3%と前年の2002年の「来日外国人」7691人の日本全体に占める構成比は2.2%より0.1%弱増加しただけで、過去のピーク時であった1993年の7276人の日本全体297725人に占める構成比2.4%より低いので、「来日外国人」犯罪だけが、とくに増加しているわけではありません。
● 表6 最近11年間(1993−2003年)「来日外国人」刑法犯検挙人員と全国刑法犯検挙人員及び構成比
● 表7 最近11年間(1993−2002年)「来日外国人」刑法犯検挙人員、窃盗検挙人員、窃盗犯以外の刑法犯検挙人員
2−5 まとめ
2002年と比べて2003年の「来日外国人」総検挙件数・総検挙人員の『増加』は、一 見すると前年と比べて大幅増加しているように見えます。しかし、その内容を検証してみると、
(1)特別法犯検挙件数と特別法犯検挙人員の「増加」は、警察、特に警視庁や関東管区の警察が「来日外国人」の入管難民認定法違反者の摘発を強化した結果と、風営適正化法違反者の摘発強化により生じたものです。実際の入管難民認定法違反者は1993年より減少し続けていますから、実際の特別法犯の増加をあらわしているものではありません。また風営適正化法違反の「暗数」は多いので、その検挙件数の増加が犯罪発生の増加を表しているわけではありません。
(2)刑法犯検挙件数の「増加」は、『来日外国人』窃盗犯、それも暗数が多く、検挙率も低い窃盗犯の余罪追求を厳しくしている結果として『増加』しているもので、実際の犯罪の『増加』を表しているわけではありません。
(3)刑法犯の検挙人員の「増加」は、その半分以上が「その他の刑法犯」(その大半が放置自転車の無断使用などの占有離脱物横領)によるものであり、また日本全体の刑法犯検挙人員の「増加」に対応して「増加」しているだけで、「来日外国人」による犯罪だけ特に増加しているわけではありません。
このように2002年に比べて2003年の「来日外国人」犯罪の検挙件数と検挙人員の増加は、警視庁や関東管区の警察による入管難民認定法違反や風営適正化法違反や占有離脱物横領(放置自転車の無断使用が大半を占める)の摘発強化によってもたらされており、「来日外国人」犯罪の増加を示しているものではありません。
3 「不法滞在者」による犯罪は増加も凶悪化もしていない
3−1 「不法滞在者」刑法犯検挙人員は、日本全体の刑法犯検挙人員の0.4%台程度で、最近3年間は減少傾向にあります。
● 表8「来日外国人」刑法犯検挙人員に占める「不法滞在者」刑法犯検挙人員の構成比
「不法滞在者」刑法犯検挙人員は、最近10年間では1996年の1632人をピークに2002年1403人、2003年1520人とやや減少してきています。「来日外国人」刑法犯検挙人員に占める「不法滞在者」刑法犯検挙人員の構成比のピークは、1996年の27.1%で、2002年は18.2%、2003年は17.4%と減少傾向にあり、また、日本全体の刑法犯検挙人員に占める「不法滞在者」刑法犯検挙人員の構成比は、1996年の0.55%をピークに、2002年0.40%2003年も0.40%と減少傾向にあります。このように、「不法滞在者」刑法犯検挙人員は、日本全体の刑法犯検挙人員の0.4%台(最近11年間の平均値)しか占めておらず、増加傾向ではなく、むしろ1996年以降概ね減少傾向にあります。
3−2 「不法滞在者」凶悪犯検挙人員は、日本全体の凶悪犯検挙人員の2%台程度で、最近4年間では減少傾向にあります。
● 表9 最近11年間 (1993年−2003年)「来日外国人」凶悪犯検挙人員と 「不法滞在者」凶悪犯検挙人員の日本全体の凶悪犯検挙人員に占める比率
『警察白書』など警察の広報では、「来日外国人」凶悪犯の4−5割を「不法滞在者」凶悪犯が占めていることが、「不法滞在者」の凶悪化の理由として強調されています。 しかし、表9から、わかるように「来日外国人」凶悪犯検挙人員は、最近11年間では1993年の246人から2002年353人、2003年477人と増加傾向にありますが、日本全体の凶悪犯検挙人員も、1993年5190人から2002年7726人、2003年8362人と増加傾向にあり、日本全体の凶悪犯検挙人員の増加に対応して増加しているに過ぎません。
一方「不法滞在者」凶悪犯検挙人員は、最近11年間では1993年の130人から1999年186人をピークに2002年141人、2003年177人と概ね横ばいです。「来日外国人」凶悪犯検挙人員に占める「不法滞在者」凶悪犯検挙人員の構成比のピークは、1996年の67%で、2002年には40%、2003年は37%と減少傾向にあり、また日本全体の凶悪犯検挙人員に占める「不法滞在者」凶悪犯検挙人員の構成比は、1996年と1999年の2.6%をピークに、2002年は1.8%、2003年は2.1%と概ね減少傾向にあります。このように、「不法滞在者」凶悪犯検挙人員は、日本全体の凶悪犯検挙人員の2%程度(最近10年間の平均)しか占めておらず、むしろ概ね減少傾向にあります。
4 「来日外国人犯罪」が組織化している根拠はありません―――警察庁は「来日外国人」の複数犯を組織犯罪とすりかえて強調しています
4−1「来日外国人」複数犯(3人〜5人組)の比率の高さを、国際組織犯罪の組織化とすりかえて強調する警察庁の宣伝
『2003年版警察白書』では、冒頭の第1章のタイトルを「組織犯罪との闘い」として「来日外国人」と「暴力団」を組織犯罪の対象として並べています。同章では「来日外国人犯罪の変質」として、「来日外国人犯罪の組織化」を強調していますが、日本の暴力団に相当する「外国人犯罪組織の構成員」による刑法犯や凶悪犯が何件検挙され、何人検挙されたのかは、『警察白書』も含めて警察庁はデータを明らかにしていません。そのかわりに、公表しているのは、刑法犯(実質 窃盗犯)検挙件数に占める共犯(複数犯)の構成比の高さで、「共犯事件比率を日本人と来日外国人で比較すると、日本人では18.6%であるのに対して、来日外国人では61.5%であり、日本人の3.3倍となっており、来日外国人の犯罪は組織的に行われる傾向が非常に強いことがうかがわれる。」(『2003年版警察白書』ページ6)などの記述がなされています。 本来、「組織犯罪」とは、犯罪を目的とした結社や団体が結成され、その組織の構成員によって行われる犯罪のことを意味します。『警察白書』によると、国際組織犯罪とは、「国際的には国・地域や手段を問わず国境を越えて組織的に行われる犯罪全般をさすことが多い」という説明が書かれています。また、国際犯罪組織とは、「国際犯罪を行う多数人の集合体のことをいい、外国に本拠を置く犯罪組織や不法滞在外国人などによって構成された外国人犯罪グループ等がこれに当たる」と定義されています。国内であれば、結社として存在している暴力団構成員による犯罪(2002年には暴力団構成員及び準構成員22405人が刑法犯として検挙されています)は統計上もあきらかにされています。ところが、『警察白書』の定義では、国内に在留する外国人のグループも含めていますから、複数犯や共犯関係があれば、国際組織犯罪に含まれる事になります。もし、同じ定義を適用して日本人による複数犯も組織犯罪に含めると2003年には10万5989件の日本人複数犯の刑法犯検挙件数がありますので、日本全体の刑法犯検挙件数(2003年で約65万件)の約16%が組織犯罪ということになってしまいます。
4−2 刑法犯のうち複数犯の検挙件数の「日本人」、「その他の外国人」「来日外国人」別比較
日本人と外国人が共犯関係にある複数犯がどのぐらい毎年検挙されているかは、警察庁が公表していないので不明ですが、複数犯のうち「日本人」によるもの、「その他の外国人」(駐留米軍関係者、在留資格不明者、特別永住者と永住者と永住者の配偶者をあわせた外国人)、「来日外国人」(入管難民認定法の27の在留資格のうち「永住者」と「永住者の配偶者」を除いた25の在留資格者と「不法残留者」「不法入国者」「不法上陸者」で構成される「不法滞在者」をあわせた外国人)別の刑法犯検挙件数を以下に示しておきます。 表12より、2002年の刑法犯のうち複数犯検挙件数は、120491件で、「日本人」101911件、「その他外国人」3661件、「来日外国人」14919件です。日本国内で発生して検挙された刑法犯のうちの複数犯の84.6%が日本人、12.4%が「来日外国人」、3.0%が「その他の外国人」となっています。また、2002年の刑法犯のうちの6人組以上(6〜9人組と10人組以上をあわせた複数犯)の複数犯検挙件数は、4366件で、「日本人」3981件、「その他の外国人」84件、「来日外国人」301件ですので、6人組以上の複数犯では、91.2%が「日本人」、1.9%が「その他の外国人」、6.9%が「来日外国人」によるものとなっています。
2002年刑法犯のうちの10人組以上の複数犯検挙件数は、931件で、「日本人」876件、「その他外国人」48件、「来日外国人」7件ですので、10人組以上の複数犯では、94.1%が「日本人」、0.8%が「その他の外国人」、5.2%が「来日外国人」が占めています。 2002年の刑法犯検挙件数のうちの複数犯の構成比のうち、「来日外国人」と「日本人」を比較すると、3人組、4人組、5人組は、「来日外国人」が「日本人」より高くなっていますが、2人組、6−9人組、10人組以上では、「日本人」の構成比が「来日外国人」より高くなっています。このことから「来日外国人」複数犯は、「日本人」複数犯に比べて、3人組から5人組の構成比は高いが、2人組や6人組以上は「日本人」複数犯の構成比が高いことがわかります。
● 表12 2002年刑法犯検挙件数の単独犯・複数犯人数別統計
4−3 まとめ
警察庁のいう「来日外国人」犯罪の「組織化」の根拠は、刑法犯検挙件数のうち「共犯率」の比較、複数犯と単独犯を比較した比率を強調するものです。しかし、3〜5人組の窃盗犯の構成比が日本人の窃盗犯に比べて高い(絶対数は、日本人らによるものが圧倒的に多い)ことと、国際犯罪組織による犯罪が増加することとは同じではありませんので、数字のすり替え、あるいは一種のトリックです。
5 「来日外国人」犯罪の地方への拡散の虚構
一般論としていえば、日本を訪問し、日本各地で暮らす外国人が増加し続ける限り、日本各地で、「来日外国人」刑法犯検挙件数や、検挙人員が増加することは、不思議でもなんでもないことです。警察庁は、「来日外国人犯罪」の地方への拡散の根拠を、刑法犯の検挙件数が地方警察管内で増加していることを理由に「地方への外国人犯罪の拡散」として宣伝しています。
実は、刑法犯検挙人員を根拠にすると、最近11年間では1993年7276人と2003年は8725人と1.2倍程度しか増えていませんので、地方への拡散とはいえないことになります。刑法犯検挙件数を根拠にすると、1993年12771件から2003年27258件と2倍以上増加していますので、地方の警察管内の検挙件数も当然増加していることになります。但し、刑法犯検挙件数を指標として、その増減を論じる場合には、暗数が多く、検挙率も低い窃盗の余罪の追及の程度によって大きく左右されていますので、犯罪数の増加の根拠となるものではありません。
以下の表13で、1993年から2003年の最近11年間の刑法犯「来日外国人」検挙件数の管区別(全国9つ)件数をみると、1993年から1999年まで、あるいは2001年まで増加傾向にあるのは、北海道、東北、中国、四国、九州の5管区ですが、最近数年間は減少しています。一方、近畿管区は1996年を、警視庁は1997年、関東管区は1998年を最大値として、以後大幅減少しています。中部管区は、1993年から1999年まで増加し、2000年と2001年の2年間は減少していましたが、2002年1万件を超え急増します。(2002年の中部管区の大幅増加は、愛知県警が外国人の自動販売機荒しの余罪を約3千件以上摘発したことなどによるものです。)
この結果、件数がもともと少ない地方管区で増加傾向が見られますが、件数がもともと多い関東管区や警視庁や近畿管区では、最近数年間は大幅減少がみられます。これらの減少は、窃盗犯のうちの非侵入窃盗の余罪の減少によるものです。刑法犯検挙件数を根拠とする「来日外国人」犯罪の地方への拡散という言説は、「来日外国人」刑法犯検挙件数の大幅減少が、主に大都市圏でおきていることを隠し、数百件程度しかない地方管区での増加を強調しています。
● 表13 「来日外国人」刑法犯発生地域別検挙件数の推移(1993−2003年)
6 外国人による犯罪統計の特色とその正しい見方 ――「外国人犯罪統計」は、日本社会の「治安悪化」の要因として政治利用されています
2003年には、「日本の治安悪化」が声高に叫ばれ、与野党の政党の多くが公約として、また政府が「外国人犯罪」や「少年事件」を主眼とする治安問題対策を政策として取り上げるようになりました。実は、この二つとも、前者は最近10数年間、後者は30年間で見る限り、犯罪統計上の増加の実態がないことでは共通していますが、日本社会の治安悪化の要因だとして政治利用されている点で共通しています。
日本社会の治安悪化の要因として、「外国人犯罪」と「少年犯罪」との増加が強調さ れている理由は、以下の二つの理由によると思われます。第一は、当事者から抗議がくることがほとんどないので、安心して利用できること、第二は、警察庁の「検挙人員」や「検挙件数」の増加を示す犯罪データが、犯罪の実際の数値の増加を表すものと信じられ論じられてきたためです。
@ 日本社会で実際に起きている犯罪の認知件数のうち一体どれだけが「少年」あるいは、「外国人」によるものかを、データ上知ることはできません。つまり、「少年」あるいは「外国人」が被疑者として検挙されて後に明らかとなる「検挙件数」と「検挙人員」という指標でしか示すことはできません。
A 「検挙人員」と「検挙件数」というこの二つの指標は、警察の捜査方針や捜査能力に左右されやすい指標であり、これらの数の増加は、必ずしも実際の犯罪の増加を表すものではありません。たとえば、入管法違反のうち最も多い「不法残留者」の検挙人員は、1993年2638人から2002年3602人と964人増加していますが、法務省が推定値として公表している「不法残留者」は、1993年約30万人から2002年22万人へ8万人減少しています。このように違反者は最近10年間で約3割減少していますが、検挙者は警察の取り締まり強化により約3割以上増大していることになります。従って、最近10年間で「不法残留」の違反者は減少しているにもかかわらず、検挙人員は増加しているため、検挙人員の指標だけを見ていると違反者が増加していると思えてしまいます。また「不法残留者」の検挙件数も、1993年3149件から2002年4122件と最近10年間で約3割以上増加していますが、検挙人員と同様に実際の違反者は減少しているのに、「検挙件数」だけをみると増加したような印象を与えてしまいます。
B 警察庁の「来日外国人」犯罪統計で、特に増加の根拠として使用されているのが『検挙件数』という指標です。しかし、『検挙件数』は、刑法犯検挙件数の約7割を占める窃盗犯、それも窃盗犯(暗数が多く、検挙率も20%程度と低い)の6割以上を占める非侵入盗(車上狙い、自販機あらし、部品盗、万引き等)の余罪追及の程度に大きく左右されています。例えば、2002年「来日外国人」刑法犯検挙件数は24258件と前年の2001年の18199件から6059件増加(前年比33%増加)していますが、これは全国の9つの警察管区のうち8管区が前年より横ばいか、減少しているのに中部管区のみ2001年の3540件から2002年10265件と6725件も増加したためで、外国人の少数のグループの自動販売機荒しの余罪が3000件以上、車上狙いが1千件以上カウントされています。このように「来日外国人」刑法犯検挙件数には、少数のグループによる非侵入盗の余罪が何百件、何千件とカウントされており、「検挙件数」の指標は、犯罪発生数の実体を表すものではありません。
C 「外国人犯罪」の検挙件数や検挙人員に特別法犯を含めると、「不法就労助長罪」などを除いて日本人にはほとんど適用されない入管難民認定法違反が含まれることになり、それが「外国人」特別法犯の約8割を占めているため、多く見えることになります。
D 「少年犯罪」は、「少年人口」が統計で明らかであり、人口10万人あたりの検挙人員を「人口比」(検挙人員率)として示すことができるのに比べ、「外国人犯罪」は、警察庁の定義では、1年間滞在していない「短期滞在者」や実数が不明な「不法滞在者」などを含めているため「外国人人口」が不確定で、正確な「人口比」を示すことができません。認知件数は「少年犯罪」「外国人犯罪」とも不明なため、犯罪(発生)率(人口10万人あたりの認知件数)であらわせません。「少年犯罪」は「少年人口」が明らかで検挙人員率であらわすことができますが、「来日外国人」人口は不明なので、「来日外国人」検挙人員率(人口10万人あたりの検挙人員)であらわすことができず、登録人口が比較的はっきりしている在留資格別の検挙人員率であらわすことしかできません。ただし、検挙人員率はあくまで警察がその対象人口10万人あたりに対して何人検挙したかを示すもので、犯罪の増加の実体をあらわすものではありません。
E このように、警察庁の犯罪増加のデータ上の根拠となっている「検挙件数」や「検挙人員」は、警察の取り締まりの結果を示すものであって、犯罪の実際の増減をあらわすものではありません。もともと犯罪統計データの変化は、社会の変化に対応して、時間的遅れを伴いながら緩やかに変化していくもので、1990年代後半からの認知件数の急増や、検挙件数や検挙率の急減は、警察の受理方針の変更や摘発基準の変化により引き起こされたもので、犯罪発生数の実体を示しているものではありません。
F 警察の「犯罪統計」でデータは、以上のような限界があることを踏まえたうえで、暗数や余罪の少ない罪種(たとえば「殺人」)で、ある一定期間(たとえば10年間、20年間など)の犯罪の傾向をみることはできますし、警察庁の「検挙件数」あるいは「検挙人員」の増減を根拠に犯罪の増減を論じる警察庁の論理を、同じデータで批判的に検証することもできます。
G 「少年犯罪」については、警察庁のデータについて、刑事法学者、犯罪(社会)学者、教育(社会)学者、弁護士などからの批判的論考も多くなされています。しかし、警察庁の「外国人犯罪」データについては、専門の学者や弁護士、人権団体などからもほとんど批判的論考がなく、石原都知事、鳥居中教審会長、江藤衆議院議員(当時)の差別発言など公職にある人間が公然とおこなっても、それへの批判がほとんどなされない状況となっています。それは、警察庁「来日外国人犯罪」のデータの宣伝やマスコミの報道により、「外国人犯罪の増大・凶悪化・組織化・地方への拡散」があたかも事実であるかのように広く深く浸透して、いわば自明のごとく内面化されているためです。
7 結び
警察庁の「外国人犯罪の増加論」や「外国人による治安悪化論」は、その実体がないにもかかわらず、スケープゴートとして政治利用され、日本の排外主義の温床として肥大化し、外国人を「犯罪者」や「犯罪予備軍」とみなす差別や偏見を助長しているだけでなく、国際化への適応を遅らせ、多文化共生社会への転換を阻む大きな壁として存在しています。日本社会は、少子―高齢化の進展や近い将来の人口減少社会を迎えるにあたって、移民の受け入れや外国人労働者の一般労働の原則的受け入れなど入管法の抜本改定が求められていますが、「外国人犯罪」問題が大きな壁となり規制強化の改定がなされ、その抜本改定を阻んでいます。
これまで述べてきたように、最近11年間で「来日外国人犯罪」は、警察庁のデータを検証しても、「増加」も、「凶悪化」も、「組織化」も、「地方への拡散」もしておらず、また「不法滞在者」も「犯罪の温床」となっているわけではありません。にもかかわらず、これまで「来日外国人」犯罪の「増加」や、「凶悪化」、「組織化」「地方への拡散」を強調するのに都合のよい数字や罪種が強調されてきました。そして、これに対する反論や抗議がこれまでほとんどなされてきませんでした。/P>
その結果、「来日外国人」「不法滞在者」の犯罪が毎年増加、凶悪化、組織化され、日本の治安を深刻に脅かしているかのようなイメージが作り出され、マスコミの報道により日本社会に広く深く浸透しています。そして、石原東京都知事のような政治家の暴言や差別発言が公然となされても、それを東京都民や日本国民の多くが支持し、許容していくということが起きています。
その理由として、第1に、犯罪を取り締まる警察、あるいは入管によってしか、「来日外国人犯罪」問題が論じられてこなかったことがあげられます。警察は、行政機関としての自らの権限や組織の拡大のため、ことさら「来日外国人犯罪」に関する「増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」などを主張するのに都合のよいデータを強調する広報を続けてきました。そして、第2にマスコミが、「外国人」による犯罪報道は「日本人」による犯罪報道以上にニュース価値があるとして、警察の広報を自ら検証することなく繰り返し報道しつづけてきたことがあげられます。第3に、日本国内でこれに抗議する団体や個人がほとんどなく、警察やマスコミは、「来日外国人」犯罪の広報や報道に関しては、抗議を受けることがなく安心して広報や報道ができたことがあげられます。そして、第4に、これらを許容し受け入れてきたのは、日本社会に根深くある移住労働者と家族への偏見と差別意識です。
外国人による犯罪は、国籍・民族・人種・在留資格などによって行われているのではなく、日本人と同様に具体的な個人によって行われています。日本社会でおきている外国人による犯罪を、警察庁など公的機関が、特定の国籍・民族・人種・在留資格などによって分析し、その増加や凶悪化、組織化などを公表して宣伝することは、それ自体その集団への偏見と差別を煽動する行為となります。
また、 特定の国籍・民族・人種・在留資格などで分類した集団に所属する者の犯罪の数が仮に増加や構成比が高くなることがあっても、それはその集団が「犯罪集団」であることや「犯罪を起こしやすい集団」であることを意味するものでなく、その集団の日本社会における経済的―社会的状況の問題として捉えられるべきです。被差別部落民やアイヌ民族や在日韓国・朝鮮人などの日本社会におけるマイノリテイの犯罪動向を警察庁が分析・公表することがなく、マスコミも公表し続けることがないのは、それが差別となることを自覚している、あるいは差別として抗議を受けるからだと思います。このことは、「来日外国人犯罪」問題についても同様であり、警察には、「来日外国人犯罪」のデータ公表や広報をやめさせ、マスコミには「来日外国人犯罪」報道を差別と自覚させ、マスコミにも自らの責任において警察の広報に加担する報道をさせないようにしていくことが必要です。
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