コムスタカ―外国人と共に生きる会

「外国人犯罪」問題


2004年上半期犯罪情勢――警察庁とマス・メデイアの「外国人犯罪増加論」への批判
中島真一郎
2004年8月30日

1、2004年上半期の犯罪情勢―刑法犯認知件数の減少と検挙件数と検挙人員の減少の意味

警察庁は2004年8月5日に今年6月末までの犯罪統計データを公表した。以下、2004年8月6日読売新聞の報道の要約である。「今年6月までに全国で発生した殺人や強盗など重要犯罪(注、殺人・強盗・放火・強姦・略取誘拐・強制わいせつの6つの罪種)は、昨年同期を2.8%下回る10972件で、9年ぶりに減少に転じたことが、5日警察庁のまとめでわかった。警察の犯罪抑止策が増加に歯止めをかけたとみられ、検挙率も過去最低の昨年同期から1.7%回復し、50.3%を記録。一方、知能犯は逆に急増し、「おれおれ詐欺」の被害額はすでに昨年を上回り約57億に達した。重要犯罪の認知件数は、以前10年前(1994年)の2倍以上の水準だが、殺人1.5%減、強盗2.1%減、軒並み昨年同期を下回った。(―――以下、略) 刑法犯全体は2年連続の減少で、昨年同期より4.5%(約6万800件)少ない約127万7800件、刑法犯検挙件数は8.3%(約2万4000件)増加、検挙率も2.9%上昇して24.6%だった。認知件数を押し下げたのは、窃盗犯が昨同期より8.9%減ったため。しかし、知能犯は47.2%も急増。(―――以下、略)

2004年犯罪情勢について、上記の読売新聞も含めて、警察庁の広報どおり「2年連続の認知件数の減少と検挙件数と検挙率の増加により、『治安悪化』に歯止めがかかり、警察の犯罪抑止策が増加に歯止めをかけた」というのがマス・メデイアの多くの報道内容である。 2003年上半期と2004年上半期の比較する前提として、警察が認知件数の受理基準を変更していないと仮定して、以下その内容を検証してみる。刑法犯の認知件数の減少は、失業率の低下など雇用環境の改善や景気回復傾向など経済環境の改善により、窃盗犯、特に非侵入窃盗(車上狙い、自販機ねらい)の認知件数が減少したことによる。

(注、1990年代の刑法犯認知件数の増加、とりわけ1999年以降から2002年までの刑法犯認知件数の急増は、不況による窃盗犯や強盗犯などの増加も影響しているとおもわれるが、警察の犯罪相談の受理方針の変更による影響がもっとも大きい。)

(1)刑法犯の認知件数の減少について

ア 2004年上半期の認知件数は、前年同期に比べて、60875件減少した。凶悪犯-81件(増 減率 -1.2%)、風俗犯-39件(増減率 -0.7%)、粗暴犯+0.70件(増減率 +0.2%)と微減 か、微増で認知件数の減少には影響していない。

イ 認知件数約6万件の減少をもたらしたのは、窃盗犯認知件数が96322件減少したと による。窃盗犯では、非侵入窃盗-59561件、乗り物窃盗-19680件、侵入窃盗-17081件と 減少している。

ウ 窃盗犯手口別認知件数でみると、@車上ねらい -40173件、A自動販売機ねらい -16278件、Bオートバイ窃盗 -13075件 C ひったくり -4349件、D事務所荒し、-4289件、E 部品ねらい -4243件 F出店荒し、-4130件、G空き巣 -3873件、H 自転車等窃盗 -3739件、I 忍び込み -1114件 一方、前年同期より認知件数が増加している罪種は@占有離脱物横領13217件、 A 詐欺 12201件 B 万引き 9888件、C器物損壊 6072件などである。

(2)まとめ

 窃盗犯の認知件数の減少は、侵入窃盗、乗り物窃盗、非侵入窃盗すべてに及んでおり、景気の回復による失業率の低下など雇用情勢の改善によるものと思われる。一方、認知件数の増大のうち占有離脱物横領(13217件)と万引き(9888件)の認知件数はその多くが検挙後に認知件数として計算される罪種で、その認知件数の増加は、犯罪の増加を表すものではなく、「街頭犯罪」を重点的に取り締まった警察の取締りの強化の結果を表すものである。

2、都道府県別認知件数の減少

(1)刑法犯検挙件数と刑法犯検挙人員の増加の意味

ア、刑法犯検挙件数は、前年同期より23966件増加した。

罪種別では、@占有離脱物横領 9819件、A万引き5684件、B車上狙い 3771件 C自転車窃盗 2912件などである。一方、検挙件数が減少している罪種は、侵入盗3581件、詐欺 2349件である。

イ、刑法犯検挙人員は、前年同期より15050人増加した。

罪種別では、@占有離脱物横領 8736人、A万引き 5373人、 B自転車窃盗 1138人などである。一方、検挙人員が減少している罪種は、オートバイ窃盗869人、暴行 726人、恐喝 703人、 自動車窃盗400人、強盗 294人、侵入盗 174人である。

(2)まとめ

 認知件数約6万件の減少は、窃盗犯の認知件数9万件の減少によるが、これは失業率の改善など雇用情勢の回復という社会的要因による。認知件数のうち増加している罪種は、「占有離脱物横領」と「万引き」であるが、これは警察の取り締まり強化によるものであり、犯罪自体の増加を意味しているわけではない。

刑法犯検挙件数及び刑法犯検挙人員の増加は、「占有離脱物横領」(放置自転車の無断使用がその大半を占める)、「万引き」、「自転車窃盗」の増加によってもたらされており、これらの罪種は、「暗数」(被害届けのだされない犯罪)も多く、検挙された件数、人員が同時に認知件数として数えられる場合が多く、警察の取り締まり活動強化の結果の増大を表すもので、犯罪抑止に結びつくものではない。一方、警察が重要事件としている強盗や侵入盗の検挙人員は減少しており、また、最近認知件数の増加が著しい知能犯の検挙人員も減少しており、その減少率は、認知件数の減少率よりも大きく、警察の捜査能力の低下を示している。

2、2004年上半期「来日外国人」増加論への批判

「摘発外国人1万人突破、上半期16%増加、過去最多」(2004年8月19日読売新聞 見出し記事)

「全国の警察が6月末までに摘発した来日外国人は、昨年同期に比べ16.0%(約1400人)増えて、約1万500人に上がったことが19日、警察庁のまとめでわかった。摘発件数も31.4%増の約2万4400件。いずれも上半期では、過去最悪となった。 (――― 以下 略)外国人刑法犯は、昨年同期より6.2%多い約4200人、入管難民法や覚せい剤取締法違反など特別法犯も23.8%増の約6200人に上り、警察が摘発した外国人は上半期で初めて1万人を突破した。」

(1)刑法犯と特別法犯を合算して総検挙件数、総検挙人員で統計数値を公表することの誤り。

特別法犯は認知件数が不明な犯罪で、統計上は、警察の検挙件数や検挙人員は不明で、検察庁への送致件数と送致人員として公表される。「来日外国人」特別法犯検挙件数や検挙人員として公表されている数字は、実は、検察庁への送致件数と送致人員のことであり、警察の検挙件数と検挙人員とは異なる概念であり、刑法犯検挙件数と検挙人員と、検察庁への送致件数と送致件数を合算して総検挙件数や総検挙人員として表すことはできない。 警察庁も、日本全体の刑法検挙件数と特別法犯送致件数を合算して総検挙件数や、刑法犯検挙人員と特別法犯送致人員を合算して、総検挙人員として統計上公表することはしていない。ところが、「来日外国人」の犯罪統計では、この別々の概念で合算できないものを総検挙件数、総検挙人員として公表している。

(2)「来日外国人」特別法犯送致件数、送致人員増加の意味

2004年上半期 「来日外国人」特別法犯送致件数は、前年同期より1203件、送致人員1206人増加した。そのうち、入管難民認定法違反者の送致件数は1288件、送致人員1201人増加しており、「来日外国人」特別法犯送致件数の増加や送致人員の増加は、入管難民認定法違反者の増加によるものであり、それを除く「来日外国人」特別法犯送致件数85件減少、「来日外国人」特別法犯送致人員は、5人の増加に過ぎない。

入管難民法違反の送致件数と送致人員の増加は、警察の取り締まり強化の結果であり、その違反者の増加を意味しているわけではない。都道府県別の警察の入管難民認定法違反者の摘発件数の増加数は、東京都717件、埼玉424件、愛知144件、摘発人員の増加数は、東京668人、埼玉306人、愛知142人であり、警視庁や埼玉県警や愛知県警の摘発強化による。

(3)「来日外国人」刑法犯検挙件数増加、刑法犯検挙人員の増加の意味

2004年上半期「来日外国人」刑法犯検挙件数は、前年同期より4655件増加(37.2%増加)、刑法犯検挙人員は253人増加(6.3%増加)した。2004年上半期の前年同期と比べた日本全体の刑法犯検挙件数の増加率は8.3%、検挙人員の増加率は8.9%である。「来日外国人」刑法犯検挙人員の増加率6.3%は、日本全体の増加率8.9%より2.5%低くなっている。一方、「来日外国人」刑法犯検挙人件数の増加率37.2%は、日本全体の増加率8.3%より28.9%高くなっている。

2004年上半期「来日外国人」刑法犯検挙件数は、前年同期より4655件増加の罪種別内訳は、自動販売機ねらい2925件、車上ねらい874件、自動車窃盗176件、万引き175件、占有離脱物横領 145件などである。一方、自販機ねらいは前年同期より19人減少、自動車窃盗17人減少しているので、これらの罪種の検挙件数の増加は、余罪を多くカウントしたことによるものである。とりわけ刑法犯検挙件数の増加の63%を占める自販機ねらいの増加は、トルコ人グループの余罪を何千件とカウントしていることによる。

刑法犯検挙人員は253人増加の罪種別内訳は、万引き145人、占有離脱物横領100人、知能犯61人、車上狙い33人増加などである。万引きや占有離脱物横領の刑法犯検挙件数や検挙人員の増加は、警察の取り締まり強化によるものである。

(4)まとめ

ア、「来日外国人」刑法犯検挙人員の増加率(6.3%増)は、日本全体の刑法犯検挙人員増加率(8.3%)より低くなっており増加している罪種も、「万引き」と「占有離脱物横領」によるものが大半を占めているので、警察の取り取り締まり強化の結果を表しているに過ぎない。

イ、「来日外国人」刑法犯検挙人件数の増加率(37.2%増)は、日本全体の増加率(28.9.%増)より高くなっている。その大半を占める「自動販売機ねらい」の増加は、トルコ人グループの余罪を何千件とカウントしたためであり、「車上ねらい」「自動車窃盗」も検挙人員は減少しているので、余罪のカウントの増加による。「万引き」や「占有離脱物横領」の刑法犯検挙件数の増加は、警察の取り締まり強化によるものである。したがって、「来日外国人」の刑法犯検挙件数の増加は、「来日外国人」刑法犯の増加を意味しているわけではない。

ウ、「来日外国人」刑法犯のうち、凶悪犯と粗暴犯は減少しており、その減少率は、凶悪犯検挙件数-10件(-5.8%)、検挙人員-43人(-18.0%)と日本全体の検挙件数の-63件(-1.6%)、検挙人員-376人(-9.3%)より大きくなっている。粗暴犯も、検挙件数-21件(-8.1%)、検挙人員-22人(-7.8%)と減少している。

エ 以上から、警察の刑法犯検挙件数と検挙人員を指標とする「来日外国人」犯罪統計を前提としても、警察がここ数年取締りを強化している街頭犯罪の取り締まり強化や窃盗犯の余罪追及の強化による影響を除いて考慮すると、2004年上半期の「来日外国人」による凶悪犯、粗暴犯、侵入窃盗は、減少している。


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