コムスタカ―外国人と共に生きる会

「外国人犯罪」問題


朝日新聞社の2004年4月22日 見出し「にっぽんの安全 外国人犯罪に不安増幅・受刑施設も多国籍化の波」の特集記事掲載への抗議と批判
中島真一郎
2004年6月17日

2004年4月20日から5月6日(熊本での掲載日時)までの朝日新聞社が掲載した「外国人犯罪問題」の特集と連載への抗議と反論の掲載を申し入れていました。朝日新聞社の担当者からは、反論については、掲載するかどうかは内容を読んで判断するとした上、「私の視点」に投稿してほしいといわれましたので、以下のような投稿原稿を朝日新聞の私の視点担当者へ送りました。しかし、5月25日、企画報道部『私の視点」係名で、「投稿原稿が多数に上り、検討した結果掲載を見送る』との連絡葉書きがきました。朝日新聞社の「外国人犯罪問題」の特集と連載を批判した抗議文と、私の投稿原稿を資料として公表しておきます。

資料1

朝日新聞社様

2004年4月22日 見出し「にっぽんの安全 外国人犯罪に不安増幅・受刑施設も多国籍化の波」の特集記事掲載への抗議と、反論の掲載を申し入れます

2004年4月30日
中島 真一郎(コムスタカ―外国人と共に生きる会)

2004年4月22日朝日新聞(朝刊) 見出し「にっぽんの安全 外国人犯罪に不安増幅・受刑施設も多国籍化の波」の記事

「身近な危険を感じる要因の一つとして来日外国人による犯罪を指摘する声が多い。

警察庁によると、03年に逮捕や書類送検など検挙された来日外国人は、刑法犯と入管法違反などの特別法犯をあわせた初めて2万人を超え、前年に比べ23.4%増の2万7人となった。93から00年までは1万2千〜1万3千人で推移したが、01年から3年連続して前年より大幅に増えた。

日本に滞在する外国人は増えているが、検挙されているのはそのうちのごく一部だ。外国人登録者数を見ると93年は約132万人だが、02年は約185万人(法務省調べ)。02年でみると、検挙者はわずか1%。03年の来日外国人検挙者数のうち刑法犯は、約12年前の倍近い8725人で過去最多だが、窃盗犯が約5割を占め、中でも住宅を対象に侵入するケースが多い。凶悪犯(殺人、強盗、放火。強姦)の中では強盗が目立つ。また、単独犯約8割の日本人と異なり、来日外国人の場合は3人組や4人以上のグループによる犯行が多い。近年は日本人も加担して犯行に及ぶケースも多発。こうした特徴不安感を増幅している。

03年の来日外国人全体(刑法犯と特別法犯)の検挙者数を国籍別でみた場合、中国が約45%を占め、韓国(約9%)フイリピン(約7%)、ブラジル(約6%)と続く。イランは、約2%だが、覚せい剤などの薬物関係事件では、最多の135人が検挙された。在留資格別に見た場合、就学生や留学生による犯罪が近年目立ってきている。5年前の98年に比べ、いずれも3倍以上で、国籍別だと中国が8割以上を占める。

警察庁は、こうした組織的な外国人犯罪に対応するために4月1日に組織犯罪対策部を設置し、これまで部局が別々だった外国人犯罪と暴力団、薬物、銃器などの捜査対応を一元化した。各県警も、捜査体制を集中させるなどの来日外国人犯罪対策を進めている。」

Tはじめに

警察庁の公表している「来日外国人」犯罪データは、「検挙件数」と「検挙人員」の増加を根拠とするものですが、これらは実際の犯罪発生数の実体を表しているものではなく、警察の取り締まり活動の結果を表しているに過ぎません。にもかかわらず、「検挙件数」「検挙人員」の増加が、あたかも実際の犯罪発生数の増加をあらわしているかのように信じられ、宣伝・報道されてきています。しかも、警察庁は「来日外国人」の「増大・凶悪化・組織化・地方への拡散」という結論を強調するために都合のよい数値や罪種を強調し、それをマスメデイアが無批判に、あるいは誇張して報道しつづけています。一方、警察庁は、在留外国人の犯罪被害者の統計を公表していませんし、在留外国人が犯罪被害者になるケースの報道はほとんどなされないか、報道されても小さな扱いしかなされません。その結果、常に「来日外国人」あるいは「不法滞在者」(在留資格のない外国人)による犯罪の増大と、「外国人犯罪者」による「日本人犯罪被害者」の構図で「外国人犯罪問題」が宣伝・報道され続けて、「日本の治安悪化」の有力な要因として在留外国人を「犯罪者」や「犯罪予備軍」として危険視し、排斥する排外主義が強まっています。

「来日外国人」による犯罪は、警察庁の統計データからも、一般刑法犯(交通業過を除く、以下、刑法犯とよぶ)検挙人員で、1993年から2003年の最近11年間で、日本全体の刑法犯検挙人員に占める構成比は、1993年2.4%、1998年1.7%、2003年2.3%とほとんど変化しておらず、この10年ほどで「来日外国人」人口が3割〜4割程度増大していることを考慮すると、相対的には減少していると判断できます。

また、在留資格のない外国人である「不法滞在者」(「不法残留者」「不法入国者」「不法上陸者」を含む)の刑法犯検挙人員の日本全体の刑法犯検挙人員に占める構成比は、1993年0.34%、1996年0.55%を最大に減少し、1998年0.40%、2003年0.40%となっています。このように、日本社会におけるあらゆる罪種の犯罪(入管法違反や外国人登録法違反を除く)の大半は、日本国籍者によるものであり、「来日外国人」や「不法滞在者」による犯罪は、その絶対数も少なく、その構成比も小さくほとんど変化していません。

一般論としていえば、日本に在留する外国人が増大するにつれ、日本社会での在留外国人による犯罪は増えていくことが予想されます。そして、同時に在留外国人が犯罪被害者となる場合も当然増加していくと考えられます。

しかしながら、これまで警察庁やマスメデイアにより宣伝報道されてきた「外国人犯罪」問題は、警察統計の意味や限界を踏まえて外国人の人権に配慮したものではなく、「来日外国人」や「不法滞在者」をスケープゴートにして、日本社会の排外主義の有力温床となっています。新聞メデイアのなかでは、読売新聞が、次いで産経新聞が最も突出してその扇動の役割を果たしていますが、他紙も警察庁の犯罪統計データを根拠に同様な報道姿勢で「外国人犯罪」問題を報道し続けています。

朝日新聞社のこの特集記事は、警察庁の「平成15年中来日外国人犯罪の現状について」等の犯罪データをもとに朝日新聞社が作成・掲載したものと思われます。日本の「治安悪化」の要因として「来日外国人の犯罪の増加」を強調する警察庁の見解にそって無批判に、「外国人犯罪の急増」を強調・宣伝する役割を果たす差別記事です。そして、このような記事が掲載されるたびに、在留外国人に対して、「犯罪者、あるいは犯罪予備軍」と見る偏見が広がり、外国人であることを理由に外国人が解雇されたり、就職できなかったり、住居を借りられなかったり、婚姻に反対されたり、地域や学校内でのいじめなどの差別問題が日本社会でより強まっていきます。以下、この特集記事の問題点をあきらかにする。

Uこの特集記事の問題点

1「日本人経営者のオフイスの窃盗被害の犯罪者は中国人」と断定している莫邦冨氏の差別発言

「捜査・防犯カギは「パイプ」/対中国人が試金石」 の見出しの記事中、ジャーナリスト莫邦冨氏は、「日本の企業経営十数人との会合で、私が在日中国人犯罪のテーマを取り上げたところ、参加者のうち自分のオフイスで、6人が窃盗被害に遭ったと話し出した。中国人による被害だろう、私は恥ずかしくて、土下座して謝りたい気持ちだった。」とのべています。在留中国人である莫邦冨氏が、10数人の日本人経営者のうち6人が事務所荒しといえる侵入盗の被害に遭ったことを話しだしたところ、すぐに莫邦冨氏が「中国人による被害だろう」と判断し、「日本人窃盗被害者に対して土下座して謝りたい気持ちだった」と書かれているので、これを読んだ読者は、「事務所荒しなどの侵入盗はすべて中国人による犯行」と理解してしまいかねません。

この特集記事が根拠としている警察庁の犯罪統計でも、2003年 日本全体の検挙件数に占める中国国籍者(台湾・香港を除く)の検挙件数の構成比(%)は、刑法犯で1.8%、強盗で3.3% 窃盗犯で2.1%、侵入盗で6.3%です。  莫邦冨氏が「10数人の日本人経営者のうち6人が事務所荒しといえる侵入盗の被害に遭った」ことを聞いたら、「その被害は6件とも日本人によるものと思われます、もしかすると1件は外国人によるものかもしれませんが、その1件が中国人による可能性は半分以下でしょう」と答えるのが、この特集記事が根拠としている警察統計から見て正しい回答となります。犯罪被害者に謝るべきは、犯罪加害者であって、中国人が犯行の加害者となっているかどうかですら定かでなく、統計データ上もほとんどありえない話を、「中国人による被害だろう」と判断して謝罪の気持ちを表すことは、彼自ら「中国人は犯罪者」と宣伝流布する役割を果たしていることになります。また、この記事を掲載した朝日新聞社も同様な役割を果たしています。

2.検挙者数をもとにブラジル、フィリピン、韓国、中国の4カ国の特色を公表していることの問題点

「ブラジル 少年による刑法犯多く  関東中部に犯行集中」「フィリピン 覚せい剤、国別で最多  旅券の偽造変造が増」「韓国 目立つ不法残留絡み、武装スリ団事件相次ぐ」「中国8896人(注 特別法犯を含む)、10年で3倍密航に航空機利用増える」との見出しがつけられています。

これを読んだ読者は、「ブラジル人少年は刑法犯」「フィリピン人は覚せい剤犯」「韓国人は武装スリ団」「中国人による犯罪は3倍増」とステレオタイプ的に理解する危険性があり、この特集記事はそのような偏見を宣伝しているようなものです。日本人による犯罪者が一部しかいないように、在留外国人の中で犯罪者は一部でしかありません。

警察庁の検挙件数・検挙人員をデータとして、日本国籍者の犯罪の特徴も掲載可能で あろうし、日本国内の47都道府県の罪種別の全国ランキングを作成し、各罪種ごとのワースト上位を公表し、47都道府県の犯罪の特徴を特集して掲載することも可能と思えますが、そのよう特集記事は、差別と偏見を助長するものとして批判を受けるのではないでしょうか、そうであれば、検挙件数・検挙人員のデータをもとに、在留外国人の各国籍犯罪類型別の特色を掲載することも同様な批判の対象となります。

3.全検挙件数で、犯罪の増加を論じることの誤り

刑法犯と特別法犯の検挙件数と検挙人員を合計する総検挙件数や総検挙人員が、「来日外国人」については警察庁により公表され、この特集記事もそれをもとに内容が作られています。

しかし、特別法犯(道路交通法関係を除く)は、刑法犯(交通業過を除く)とことなり、認知件数が明らかでない犯罪で、統計上は検察庁への送致件数と送致人員として公表されています。警察庁の「来日外国人」特別法犯の数値は検察庁への送致件数及び送致人員数を意味しています。警察の検挙件数と検挙人員と検察庁への送致件数と送致人員は概念がことなるため、本来別々に統計を比較すべきものであり、特別法犯と刑法犯を加算することはできません。

従って、この特集記事で掲載されている「来日外国人の犯罪検挙推移」グラフと、「全検挙に占める来日外国人の構成比」のグラフ、「来日外国人国籍別検挙件数」の円グラフも、本来異なる特別法犯の検察庁への送致件数と送致人員と、刑法犯の検挙件数と検挙人員を合算して算出しており、統計として成り立たないものです。さらに、特別法犯の検挙件数や検挙人員を含んだ統計データで、「日本全体」と「来日外国人」を比較すると、「来日外国人」特別法犯の約8割が入管法違反者(不法就労助長罪を除いて日本国籍者には適用がない)が占めており、その分大きく見えることになります。刑法犯と特別法犯は、それぞれ別個に、各罪種ごとに比較していかなければ構成比は成り立ちません。

4.この特集記事の「来日外国人犯罪の増加」を意図的に強調している箇所の指摘

(1)「02年で見ると、検挙者はわずか約1%」

この約1%とは 2002年の「来日外国人」総検挙者16212人を2002年の外国人登録 者数185万1758人で除した百分率である0.88%を根拠としていると思えます。しかし、警察庁の定義する「来日外国人」人口は、外国人登録者数と一致していないので、外国人登録者数を分母として検挙者の比率をだすのは誤りです。 「来日外国人」人口は、「定着居住者等」を含まず、「短期滞在者」や「不法滞在者」を 含む概念で、その人口数を確定できない概念です。比較的近似値を推定する場合にも、 分母と分子が対応できる「正規の在留資格者」か、法務省が毎年推計値を公表している 「不法残留者」の検挙者の比率でしか表すことができません。特別法犯と刑法犯を合算した総検挙人員が統計上成り立たないことはすでに述べましたので、刑法犯件検挙人員でみていくしかありません。

2002年の来日外国人「正規の在留資格者」の検挙人員比率は、分母では、外国人登録者数(185万2千人)から「特別永住者」「永住者」「永住者の配偶者等」、「短期滞在者」の合計79万2千人を除き、分子に2002年「来日外国人」刑法犯検挙人員(7690人) から「不法滞在者」(1403人)と「短期滞在者」(475人)刑法犯検挙人員を除いて百分率であらわすと、0.55%(人口10万人当たり548人)となります。「不法残留者」の検挙人員比率は、2002年「不法残留者」(822人)刑法犯検挙人員を2002年の「推定不法残留者数 220552人」(2003年1月1日現在)で除して百分率であらわすと、0.37%(人口10万人当たり373人)となります。

(2)「03年の来日外国人検挙者数のうち刑法犯は、約12年前の倍近い8725人で過去最多だが、」

ここでは、グラフで示されている1993年の統計データを使わず、1991年のデ―タをあえて使っています。「来日外国人」刑法犯検挙人員は、1991年は4813人で、2003年8725人となるが、1990年代の最大値が1993年の7276人であることをふれていません。1993年を基準にすると「03年の来日外国人検挙者数のうち刑法犯は8725人で過去最多だが、10年前の1993年の7216人を上回ったのが2002年7690人からであり、10年前と比べて約20%の増加に過ぎない」という記述となります。

(3) 「 また、単独犯が約8割の日本人と異なり、来日外国人の場合3人組や4人以上のグループによる犯行が多い」

 この記事は、警察庁の「共犯形態別 罪種等別 刑法犯検挙件数(平成15年中)」のデータを元に書かれていると思われます。
2003年刑法犯のうち2人以上の複数犯検挙件数は、「日本人」は105989件、「来日外国人」は、16820件ですから、「来日外国人」の6.3倍の複数犯検挙件数が日本人によるものです。また、2003年のデータではあきらかになっていませんが、2002年の警察庁のデータでは、刑法犯のうちの複数犯検挙件数を比較すると、「来日外国人」は3人組、4人組、5人組の構成比は「日本人」より多くなっていますが、2人組と、6人組〜9人組、10人組以上の構成比は「日本人」の方が多くなっています。従って、「来日外国人は、3〜5人組のグループによる犯行が多く、日本人は2人組と6人組以上のグループによる犯行が多い」というべきではないでしょうか。

(4)「イランは、約2%だが、覚せい剤など薬物関係で最多の135人が検挙された」

 「イラン人は薬物犯」との偏見が、警察の犯罪統計の公表により生み出されてきています。2003年のイラン人薬物事犯検挙人員は135人で、前年2002年の237人から102人減少し、1993年から2003年の最近11年間で最低となり、最大 であった1997年の328人の半分以下にまで減少しています。この特集記事は、イラン人薬物関係検挙人員が国籍別で最多であることのみ強調され、2003年は大幅にに減少している事実が書かれていません。

「来日外国人」薬物犯検挙人員は、1993年から2003年までの最近11年間で、最大は2003年は858人で、次が1997年と1998年の853人で、最低は2000年の720人と、最近10年間概ね横ばいです。日本全体の薬物事犯検挙人員は1万7千人から2万人程度ありますので、「来日外国人」薬物事犯の構成比は、概ね4〜5%以内を推移しており、増大傾向は見られません。

(5)「在留資格別に見た場合、就学生や留学生による犯罪が近年目立ってきている。5年前の98年に比べ、いずれも3倍以上、国籍別だと中国が8割以上を占める。」

留学生の刑法犯検挙人員の1989年から2003年までの過去最大は1991年の1239人、最低は1998年の376人、そして2003年1191人です。就学生の刑法犯検挙人員の最大は1993年の1243人で、1993年以降1998年の325人まで減少し、1999年以降増加傾向となり2003年1081人となります。この特集記事の表現(警察庁の説明どおりのものですが)、最近10年間で最低であった1998年を基準にして3倍以上とのべていますが、過去の最大値よりも少ない事実が述べられていません。また、2003年留学生刑法犯検挙人員1191人の約5割600人、就学生刑法犯検挙人員1081人の約4割454人が、「その他の刑法犯」検挙者で、この大半が放置自転車の無断使用など占有離脱物横領容疑での検挙者です。このような「微罪」で多くの留学生や就学生が検挙されている事実がかかれていません。就学生の外国人登録者数は、1992年ごろまで増加していましたが、その後1998年(30079人)まで減少し、そして、1999年(34541人)より増加傾向となり、1992年の46644人を2002年には47198人と10年ぶりに上回ります。一方、留学生の外国人登録者数は、1993年60110人と6万人台へ増加しますが、1994年から1998年の5年間は約6万人前後とほぼ横ばいで推移し、1999年64646人から2002年110415人と急増していきます。そして、中国人の検挙者の比率が高くなるのは、留学生の約7割、就学生の7割以上が中国人により占められているためです。

日本で暮らす留学生や就学生には、日本の物価の高さや、アルバイトも言葉の問題でできる仕事が限られているなど困難な生活環境に置かれています。留学生や就学生の一部にすぎませんが、「殺人」、「強盗」、「窃盗」などの犯罪者となるものが出てくる要因の最大のものは、留学生や就学生の置かれている生活の困難さにあります。留学生や就学生を取り巻く問題の解決を意図するなら、留学生や就学生のための奨学金制度を充実して、「日本で働かなくとも学べる」受け入れ態勢を充実させることや、日本での生活環境を改善し、生活苦に陥らないで暮らし、就学や留学できる受け入れ態勢を創っていくことを目指すべきです。

(6)「過剰収容の背景には、F級受刑者の増加がある」

この記事では、「来日外国人」犯罪の増大が、刑務所でF級(日本人受刑者等と異なる処遇を必要とする外国人)受刑者の増大をもたらし、それが府中刑務所の過剰収容問題をもたらしているかのような印象を与えるつくり方となっています。

しかし、全国の刑務所の過剰収容問題をもたらしているのは、近年の「治安悪化・重罰化」の風潮の下、実刑数の増大や、刑期の長期化による日本人受刑者数の増大であり、2002年12月末現在F級受刑者は2638人(全受刑者56729人の4.7%)にすぎません。また、近年F級受刑者が増加傾向にあるのは、「来日外国人」刑法犯被疑者は、2002年起訴率70.9%と全終局処理人員の刑法犯起訴率55.4%と比べて、15%以上高くなっていること、刑事裁判での実刑数も、入管法違反者を含めて増大していることも要因となっています。なお、F級受刑者が、東京の府中刑務所に相対的に集中して収容されているのは、多言語で面会や通信に対応できる国際対策室が府中刑務所と大阪にしかなく、東日本のF級に該当する外国人受刑者が集中的に収容されてくるためです。

注)「2002年12月末現在F級受刑者は2638人(全受刑者56729人の4.7%) (出典 『2003年版犯罪白書』)

V、この特集記事が、なぜ差別報道となるのか

 

1、日本社会における外国人による犯罪は、国籍・民族・人種・在留資格などによって行われているのではなく、法人や団体による犯罪を除けば具体的な個人によって行われています。日本社会でおきている外国人による犯罪を、警察庁など公的機関が、特定の国籍・民族・人種・在留資格などによって分析し、その増加や凶悪化、組織化などを公表して宣伝することは、それ自体その集団への偏見と差別を煽動する行為となります。特定の国籍・民族・人種・在留資格などで分類した集団に所属する者の犯罪の数が仮に増加したり、構成比が高くなることがあっても、それはその集団が「犯罪集団」であることや「犯罪を起こしやすい集団」を意味するものでなく、その集団の日本社会における経済的―社会的状況の問題として捉えられるべきです。被差別部落民やアイヌ民族や在日外国人などの日本社会におけるマイノリテイの犯罪動向を警察庁が分析―公表することがなく、マスコミも公表し続けることがないのは、それが差別となることを自覚している、あるいは差別として抗議を受けるからだと思います。このことは、「来日外国人」による犯罪問題についても同様です。

2、警察庁の定義する「来日外国人」のみの犯罪統計をもとに「外国人犯罪に不安増幅」との見出しで特集記事が作られていますが、在留外国人が被疑者となる犯罪は、警察庁の定義する「来日外国人」だけでなく、「定着居住者等」(「特別永住者」、「永住者」、「永住者の配偶者等」)や「駐留米軍関係者」や「在留資格不明者」もあります。警察庁は「来日外国人」のみの犯罪統計を公表し、後者は人権に配慮して、公表していません。「来日外国人」も後者と同様に日本社会の構成員としてその人権に配慮して「来日外国人」犯罪の特集記事の作成や掲載をやめるべきです。

3、警察庁の犯罪統計は「検挙件数」と「検挙人員」であらわされていますが、これらの指標は、犯罪発生数の実数をあらわすものでもなく、警察の取締まりの結果にすぎません。「検挙件数」と「検挙人員」を指標とする「来日外国人」の犯罪データが毎年公表され、「来日外国人」や在留資格のない「不法滞在者」による犯罪が「増加・凶悪化・組織化、地方への拡散」していると強調されつづけてきました。そして、日本社会の「治安悪化」の要因として外国人による犯罪や、「外国人犯罪加害者」と「日本人犯罪被害者」の構図が強調されています。それをマスメデイアが、無批判に誇張して報道することで、日本の社会に「外国人」を、「犯罪者」、あるいは「犯罪予備軍」とみなす風潮が強まっています。警察が取締まりを強化すればするほど、「検挙件数」と「検挙人員」が増大し、より「治安悪化」が印象付けられ、社会的パニックといえる状況を作り出し、身柄拘束を伴う逮捕の増加、拘留期間の長期化、刑事裁判での重罰化や懲役期間の増加を生み出し、刑務所の過剰収容問題を生じさせています。その一方で、もし「治安悪化」が本当に生じているのであれば、本来責任を問われるべき地位にある警察官僚や担当大臣などは責任を問われるべきですが、誰一人責任をとわれていません。むしろ「治安悪化」を宣伝し政治的に利用して、管理社会化の進行や警察の予算増額と人員増が図られていきます。今回の特集記事は、このような風潮を助長し、強める役割を果たしています。

W、警察庁の「来日外国人」犯罪データの見方について、

2003年には、日本の治安悪化が声高に叫ばれ、政党が公約として、また政府が少年事件や外国人犯罪を主眼とする治安問題対策を政策として取り上げるようになりました。実は、この二つとも、日本社会の「治安悪化の要因」として政治利用されています。日本社会の治安悪化の要因として、少年犯罪と外国人犯罪の増加が強調されている理由は、以下の二つの理由によると思われます。第一は、当事者から抗議がくることがほとんどないので、安心して利用できること、もう一つは、警察庁の「検挙人員」や「検挙件数」の増加を示す犯罪データが、犯罪の実際の数値の増加を表すものと信じられ論じられてきたためです。

1、あらゆる犯罪の実数を知ることは不可能ですが、犯罪発生数の統計として一般的 に使用されている認知件数が、外国人犯罪では不明です。日本社会で実際に起きている犯罪の認知件数のうち一体どれだけが「来日外国人」によるものかをデータ上知ることができません。つまり、「来日外国人」による認知件数は不明で、「来日外国人」が被疑者として検挙されて後に明らかとなる検挙件数と検挙人員という指標でしか示すことはできません。 「検挙人員」と「検挙件数」というこの二つの指標は、警察の捜査方針や捜査能力に左右されやすい指標であり、このデータの増加は、実際の犯罪の増加を表すものではありません。

2 特別法犯について

たとえば、入管法違反のうち最も多い「不法残留者」の検挙人員は、1993年2638人から2002年3602人と964人増加していますが、法務省が推定値として公表している「不法残留者」は、1993年約30万人から2002年22万人へ8万人減少しています。このように違反者は最近10年間で約3割減少していますが、検挙者は警察の取り締まり強化により約3割以上増大していることになります。従って、最近10年間で「不法残留」の違反者は減少しているにもかかわらず、検挙人員は増加しているため、検挙人員の指標だけを見ていると違反者が増加していると思えてしまいます。また「不法残留者」の検挙件数も、1993年3149件から2002年4122件と最近10年間で約3割以上増加していますが、検挙人員と同様に実際の違反者は減少しているのに、「検挙件数」でみると増加したように見えてしまいます。とりわけ、「来日外国人」の特別法犯は、検挙件数及び検挙人員(正しくは、検察庁への送致件数と送致人員)とも、その約8割が「出入国管理及び難民認定法」(以下、入管法)違反者が占めており、その増加が特別法犯の増加を決定しています。

3 刑法犯について

ア 刑法犯検挙件数について、

刑法犯検挙件数は、暗数(警察や検察から犯罪と認知されない犯罪)も多く、検挙率(検挙件数を認知件数で百分率したもの)も20%程度(2003年19.4%)しかない窃盗犯の余罪の追及の程度によって大きく左右され、客観的な犯罪の発生数を表していません。しかも警察は、1999年より余罪の追及による検挙件数重視から検挙人員を重視する捜査方針へ転換しており、経年的な比較ができなくなっています。そして、日本人と比べて「来日外国人」は余罪追及が厳しく、余罪が多くカウントされています。 「来日外国人」刑法犯検挙件数は、1993年12771件から、1999年25135 件まで増加しますが、2000年22947件、2001年18199件に減少します。1999年の警察の余罪追及による検挙件数重視から検挙人員重視へ、という捜査方針の転換により、日本全体の刑法犯検挙件数も1999年731284件から2000年576771件、2001年542115件へ大幅に減少していきました。「来日外国人」刑法犯検挙件数の2年間の減少は日本全体の検挙件数の減少と同様に余罪のカウントの減少によるものです。1999年の警察の捜査方針の変更は、1999年33.8%あった検挙率を、2000年23.6%、2001年19.8%に急落させていきます。そのため、警察への批判と「治安悪化」の不安が高まり、2002年、592359件、2003年648319件と増加に転じます。

刑法犯検挙人員一人当たりの刑法犯検挙件数を「余罪率」(余罪率=刑法犯検挙件数÷刑法犯検挙人員)と呼ぶことにします。 日本全体の余罪率(刑法犯検挙人員一人当たりの検挙件数 刑法犯検挙件数÷刑法犯検挙人員)は、1998年2.38件、1999年2.32件から、2000年1.86件、2001年1.67件へ減少し、2002年1.70件、2003年1.71件と増加に転じています。このことは2002年、2003年と再び余罪の追及が厳しくなっていることを意味します。

「来日外国人」の余罪率は、最近11年間では、1993年1.76件、1998年4.03件、1999年の4.22件を最大、2000年3.63件、2001年2.54件と減少し、2002年3.15件、2003年3.12件と増大します。「来日外国人」が、日本人よりも余罪率が高いのは、窃盗犯の余罪が多くカウントされていることによります。 2002年と2003年の「来日外国人」刑法犯検挙件数の増加をもたらした要因は、中部管区の警察の検挙件数が、2001年の3257件から2002年10226件(うち愛知県警8042件)、2003年9202件(うち愛知県警6045件)と大幅増加したためです。愛知県警の「来日外国人」刑法犯の余罪率は、2002年13.8件、2003年8.8件と他と、他と比べて突出しており、最近2年間に関して言えば、「来日外国人」犯罪の増大の理由とされている刑法犯検挙件数の増大は、愛知県警の「来日外国人」窃盗犯の余罪追及によりもたらされています。このように「来日外国人」刑法犯検挙件数は、犯罪の増加をはかる指標としては信頼性はありません。

イ 刑法犯検挙人員

「来日外国人」刑法犯検挙人員が日本全体の刑法犯検挙人員に占める構成比の経年比較でみるかぎり、「来日外国人」犯罪は、最近10年間とくに増加している事実はありません。

刑法犯検挙人員についても、「来日外国人」刑法犯の検挙人員の約3割を占める「その他の刑法犯」のうち、その大半を占める「占有離脱物横領」(「平成11年の「その他の刑法犯」認知件数のうち最も多いのは占有離脱物横領で、その93.7%が自転車の占有離脱物横領である。」2000年版「警察白書」P21)は、認知件数と検挙件数と検挙人員がほぼ一致する罪種であり、その増加は警察の取り締まり強化を示すもので、違反者の客観的な増加を示していません。

また、刑法犯検挙人員については、「来日外国人」は90年代は1993年7276人をピークに1998年5382人まで減少し、1999年より増加に転じて2003年に8725人へ増加していますが、日本全体の刑法犯検挙人員も増加しており、1999年約31万5千人から2003年約38万人へ増加しており、「来日外国人」が「日本全体」の刑法犯検挙人員に占める構成比は、1993年の2.4%を最大に、1998年1.6%まで低下し、2003年2.3%なので、最近の10年余り平均2%程度とほとんど変化していません。

4、警察の「来日外国人」犯罪統計で犯罪発生数を推計できる指標として、 「殺人」の検挙件数、でみるかぎり、「来日外国人」犯罪は、最近10年間とくに増加している事実はありません。

この特集記事の元となっている警察庁のデータ上の根拠となっている「検挙件数」や「検挙人員」は、犯罪の実際の発生数の増加を表すものではありません。犯罪データの指標のうち犯罪の実数と最も近いものは、「殺人」の検挙件数です。刑法犯の罪種のうち暗数が最も少なく、検挙率(認知件数に対する検挙件数の占める比率)も95%程度と、認知件数と比較的近いので、「殺人犯」の検挙件数からその実数を推測することができます。

日本全体では、この10年緩やかな増加に過ぎず、「来日外国人」では、最近10年間(1993 −2002年)では、「来日外国人」の「殺人犯」の検挙件数は、1997年の69件を最大値に最近5年間減少傾向にあり、2002年には34件と半減しています。また、日本全体の殺人の検挙件数に占める構成比も、1997年の5.6%から2002年2.5%、2003年2.7%へと半分以下へ減少しています。

資料2

朝日新聞社 私の視点 投稿原稿(未掲載)

2004年5月10日 中島真一郎(コムスタカ―外国人と共に生きる会 )

朝日新聞の特集と連載「にっぽんの安全――外国人犯罪に不安増幅」を読んで、移住労働者と家族の人権相談活動を長年NGOとして取組んできた者として、「外国人犯罪報道」の差別性をあらためて強く感じました。警察庁の統計を元に?「外国人犯罪加害者」による「日本人犯罪被害者」の構図で「外国人犯罪問題」が報道されることで、在留外国人(あるいは中国人)を日本国内で「犯罪者」や「犯罪予備軍」として危険視し、排斥する動きが強まっていきます。そのため、このような報道がなされるたびに「外国人」であることを理由に解雇されたり、就職できなかったり、住居を借りられなかったり、婚姻に反対されたり、地域や学校内でのいじめなどの差別が日本社会でより強まっていきます。一方、日本社会で外国人が犯罪被害者となるケースも増えていますが、警察庁は、在留外国人の犯罪被害者の統計を公表していませんし、被害者となるケースの報道は小さくし扱われていません。

この特集が掲載した「来日外国人」犯罪データは、警察庁の「検挙件数」と「検挙人員」の増加を根拠とするものです。これらの指標は、あたかも実際の犯罪発生数の増加をあらわしているかのように信じられ、宣伝・報道されていますが、犯罪発生数の実数ではなく警察の取り締まり活動の結果を表しているに過ぎません。これらの指標でも、2003年 日本全体に占める中国人の検挙件数の構成比(%)は、刑法犯1.8%、強盗3.3% 窃盗犯2.1%、侵入盗で6.3%、検挙人員の構成比は、刑法犯1.2%、強盗4.5% 窃盗犯1.2%、侵入盗3.7%です。日本で過去10年間にわたり「来日外国人」は、刑法犯検挙人員の2%程度しか占めていませんし、正規の在留資格を有さない外国人(警察用語で「不法滞在者」)は、0.4%程度しか占めていません。このように、日本社会におけるあらゆる罪種の犯罪(入管法違反や外国人登録法違反を除く)の圧倒的多くは、日本国籍者によるものであり、「来日外国人」や「不法滞在者」による犯罪は、その絶対数も少なく、その構成比も小さく、日本全体の増減に対応しているだけで、最近10年間ほとんど変化していません。

在留外国人には駐留米軍関係者や永住者など定着居住外国人も含まれますが、「来日外国人」のみ、毎年警察庁により犯罪統計データが公表され、その「増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」が宣伝され、その犯罪をいかに減らすかが主に議論されているあり方に、「来日外国人」への差別と偏見を感じさせられます。日本社会におけるマイノリテイの犯罪動向や、各都道府県別出身者の犯罪動向を警察が統計データとして公表―広報することがなく、また、マス・メデイアも報道することがないのは、それが差別となることを自覚しているからだと思います。このことは、「来日外国人」についても同様です。むしろ求められているのは、国籍や在留資格の有無ではなく、「来日外国人」も日本社会の構成員と認め、その犯罪問題も日本国籍者による問題と同様に、個々の具体的な社会的―経済的な状況を踏まえた問題として論じられていくべきものです。

注) 「来日外国人」とは、
警察庁の定義では「駐留米軍関係者」「定着居住外国人」「在留資格不明者のうち明らかに日本人でない者」などを除く在留外国人のことで、外国人登録者のうち、「特別永住者」「永住者」「永住者の配偶者等」の在留資格者を除いた外国人登録者と、在留資格のない外国人(警察用語で、「不法滞在者」)及び外国人登録義務のない「短期滞在者」などを含む概念です。警察庁の定義する「来日外国人」は、実数が不明な在留資格のない外国人を除いて、2002年12月末現在、全国で約113万人(在留資格のない外国人を含めると約140万人)に達しており、外国人登録者総数約185万人の60%以上を占めています。しかも、「来日外国人」のうち約50万人以上が「定住者」や「日本人配偶者等」の在留資格をもつ長期に日本に定住して暮らしている外国人です。

資料3

「来日中国人の犯罪率の高さ」を強調している張荊氏への批判

1、「外国人の犯罪発生率」は、算出不能です。

法務省の『犯罪白書』では、「犯罪(発生)率」とは、人口10万人あたりの刑法犯認知件数のことを意味します。従って、日本の刑法犯認知件数(2003年 279万0136件)のうち「来日外国人」あるいは「外国人」による認知件数は不明ですので、「来日外国人」や「外国人」の「犯罪(発生)率」は、算出できません。

2、「来日外国人犯罪率が高い」という嘘

実は、意外に思われるかもしれませんが、警察庁は、「来日外国人犯罪の増加・凶悪化・組織化・地方への拡散」の主張は繰り返されていますが、「来日外国人の犯罪発生率」が高いという主張は、1999年以降『警察白書』などでもおこなっていません。 警察庁は、1991年から『警察白書』に「国際化社会と警察活動」等の独立した章を設け、「来日外国人犯罪」を強調するようになりました。また、1994年版から98年版まで、毎年その記述のなかに「検挙人員に占める来日外国人構成比の高さ」という見出しをつけ、98年版では「人口の1.0%」を占める来日外国人が「刑法犯検挙人員の1.7%」を占めるとして、「国際化がもたらす治安上の問題として注目する必要がある」という記述をしていました。

しかし1998年通常国会の審議で、1.0%という人口比が、分母となる外国人人口が外国人登録者数より少なく報告されている国勢調査からの推計にすぎないことが国会議員の法務大臣に対する質問で明らかになりました。分子となる「来日外国人」刑法犯検挙人員」には、「外国人登録者のうちの非永住者」以外に「短期滞在者」や「不法滞在者」の検挙人員も含まれており、これに対応する98年の来日外国人人口を計算(新規入国の短期滞在者数を分母に加える)すれば、来日外国人の人口構成比は約4%になり、「人口の約4%」を占める「来日外国人」が「刑法犯検挙人員の1.7%」を占めているに過ぎず、著しく低いことになってしまいます。そして、国会での追求の結果、1999年度版の『警察白書』からは上記の記述が消えて現在に至っています。

3、「刑法犯検挙人員(比)率」

算出可能なデータとしては、刑法犯検挙人員をその構成人口(10万人当たり)で割る「刑法犯検挙人員(比)率」が考えられますが、これは、警察がその構成人口10万人当たり何人検挙したかを示すもので、警察の取り締まりの結果を示すものであり、その集団の「犯罪(発生)率」を表すものでは、ありません。にもかかわらず、「刑法犯検挙人員(比)率」を「犯罪(発生)率」として誤用し、「来日中国人」の「犯罪率」の高さを強調している人物に、「来日外国人犯罪―文化衝突から見た来日中国人犯罪」(明石書店)の著者 張荊氏がいます。

張荊氏は、2000年5月4日(熊本での掲載日時)の朝日新聞の「にっぽんの安全」の特集記事関連でのデービット・ジョンソン氏、菊田 幸一氏との対談の中で次のように述べています。「犯罪全体から見れば少ないのは事実だが、少しでも増えている以上、不安を感じる人が多くなるのは仕方がない、ただ、日本では両極端な議論が目立つ。「外国人を見たら犯罪と思え」という排斥論と、「外国人犯罪はマスコミや警察が生み出した幻想」と否定する意見。どちらも事実から目をそらして入るように思える。現状を冷静に認め、どうしたら犯罪減らせるか知恵を絞るべきだ」「確かに来日中国人の犯罪率は高い。不法滞在者(推計値)を加えた長期滞在者に占める刑法犯検挙人数の割合を、国別に計算すると99年は、中国(台湾を含め0.8%) マレーシア(0.4%)、フイリピン、タイ(0.2%) 韓国(0.1%)の順となる。−−」と述べています。

張荊氏のいう「犯罪率」は、「来日外国人」国籍別刑法犯検挙人員を、国籍別外国人登録人口と国籍別「不法残留者」数を合計したものを構成人口として除して百分率で表したものです。これは、「犯罪率」ではなく、私の言うところの「刑法犯検挙人員(比)率」でしかありません。

そして、張荊氏と同じ方法(分母を「外国人登録者数」と「(推定)不法残留者数」の合計として、分子を刑法犯検挙人員とする)で、警察庁の公表データに基づいて1999年の国籍別「刑法犯検挙人員(比)率」を計算すると「1位、ロシア籍 4.1%、2位 ベトナム籍 2.3%、3位 コロンビア籍 1.7% 4位 イラン籍 0.9%、5位中国籍(台湾籍も含む)0.8%、6位 ペルー籍0.5%、7位 パキスタン 0.4% 8位 オーストラリア 0.4% 9位 マレーシア0.4%  10位 ブラジル 0.3% 11位アメリカ 0.2% 12位 タイ 0.2%、13位 フイリピン 0.2% 14位 韓国 0.1% 」の順となります。以上から、張荊氏のいうところの「中国人犯罪率」は、ロシア、ベトナム、コロンビア、イラン籍より低く5番目にすぎません。

注1)中国籍、マレーシア籍、フィリピン籍、タイ籍、韓国籍、ペルー籍、パキスタン籍、イラン籍は、「推定不法滞在者数」が公表されているので、分母に加えて算出していますが、それ以外の国は「推定不法残留者数」が不明なので分母には加えていません。但し、ロシア、ベトナム、コロンビアの3カ国の分母は、正確な「推定不法残留者数」が不明なことと、その数も少ないことが推定されるので加えていませんが、これらの国の刑法犯検挙人員比率は、中国籍よりも高くなっています。

なお、張荊氏の計算方法は、分母に国籍別外国人登録者を入れて計算していますが、分子は「来日外国人」刑法犯検挙人員であるので、国籍別外国人登録者数から「特別永住者」「永住者」「永住者の配偶者等」の在留資格者を除かないと対応しません。このように分母と分子が対応するように計算した場合、中国籍は1.0%、韓国籍は0.4%となり、中国籍は4番目になりますが、警察庁が公表している国籍別刑法犯検挙人員の中で中国籍が1番高いのではなく、4番目である事実は変わりません。

4、2002年  来日外国人国籍別「刑法犯検挙人員比率」

警察白書では、14歳以上の人口10万人に対する検挙人員を「犯罪者率」と呼んでいます。しかし、「検挙人員」はあくまで警察の取り締まりの結果を表す指標であること、「来日外国人」の14歳以上の人口数が不明なので、人口10万人あたりの刑法犯検挙人員を、「刑法犯検挙人員比率」と呼ぶことにします。

警察庁がホームページで公表しているデータ「来日外国人の犯罪(平成14年中)」)の資料編 「国籍等別刑法犯検挙状況の推移」のデータ(ページ44)「来日外国人検挙人員(国籍別等 16カ国(中国には台湾・香港を含む)の国名表示)」をもとに、日本国籍者も加えて日本社会での2002年の17カ国の国籍別来日外国人「刑法犯検挙人員比率」(人口10万人当たりの刑法犯検挙人員)を算出すると、以下の順番となります。

@コロンビア籍4348人(4.3%)、Aベトナム籍3905人(3.9%)、Bロシア籍2644人(2.6%)、Cイラン籍1444人(1.4%)、Dトルコ籍 1368人(1.4%)、 E 中国籍(台湾・香港を含む)940人(0.94%)、Fペルー籍730人(0.73%)Gイギリス籍 434人(0.43%)、Hブラジル籍 402人(0.4%)、Iアメリカ合衆国籍 319人(0.32%)、Jスリランカ籍 316人(0.32%) K韓国・朝鮮籍 316人(0.32%) Lマレーシア籍 299人(0.30%)Mインドネシア籍 289人(0.29%) N 日本国籍者は、267人(0.27%)、Oタイ籍183人(0.18%)P フィリピン籍177人(0.18%)の順となります。

注1)国籍別来日外国人「刑法犯検挙人員比率」は、人口10万人あたりの「来日外国人」刑法犯検挙人員のことで、分子を国籍別刑法犯検挙人員とし、分母は、国籍別外国人登録者数+「推定不法滞在者数」−(「特別永住者」+「永住者」+「永住者の配偶者等」在留資格者数)として算出しました。但し、刑法犯検挙人員の中には、外国人登録が義務付けられていない「短期滞在者」などが含まれていること、「不法入国者」や「不法上陸者」の推定数が不明であることなど、分母と分子がその分対応していません。但し、公表されているデータで比較できるので、大まかな刑法犯検挙人員比率を比較するために、上記の算出式で算出しています。 

なお、中国籍(32802人)と韓国・朝鮮籍(49874人)とフイリピン籍(30100人)、タイ籍(15693人)マレーシア籍(9442人)、ペルー籍(7322人)、インドネシア籍(6546人)は、2003年1月1日現在の「推定不法残留者数」が法務省より公表されていますので、分母に加えて算出していますが、それ以外の国籍者の正確な「推定不法残留者数」は不明で、数も少ないので分母に加えていません。

注2) 2002年日本国籍者の刑法犯検挙人員比率=(2002年刑法犯検挙人員347880人)―「来日外国人」と「その他の外国人」を合わせた外国人刑法犯検挙人員13077人)÷(2002年国勢調査での総人口1億2743万5350人―外国人登録者数185万1758人―推定不法残留者数22万0552人)で、0.00267と算出しました。 (出典 「2003年版 犯罪白書」と「在留外国人統計 2003年版」、法務省 ホームページ 「本邦における不法残留者数について」(平成15年1月1日現在)より)なお、日本国籍者の刑法犯検挙人員比率を47都道府県、あるいは東京都23区別、政令指定都市別などで算出することも可能とかんがえられますが、東京都や千代田区などは相当高くなります。

5、「刑法犯検挙人員比率」の見方について、

「刑法犯検挙人員比率」は、警察がその構成人口10万人あたりの刑法犯被疑者として検挙した数を表すもので、警察の取り締まりの方針により左右されますので、「犯罪の発生率」を示す指標ではありません。そして、「刑法犯検挙人員」相対的に高いことは、日本社会でその国籍者を「犯罪者」「犯罪予備軍」として危険視するために使われるのではなく、日本社会でその国籍者がどのような在留状況におかれ、どのような経済的―社会的状況におかれているかを考察していく端緒として使われるべきです。

コロンビア籍の女性の多くが、短期滞在者として来日し、「強制売春などを強いられる人身売買による被害者」として在留を強いられていること、ベトナム籍の多くが、インドシナ難民及びその家族として来日して在留していること、ロシア籍やルーマニア籍など東欧の女性たちの多くが『興行』ビザで来日していること、中国籍のなかでも、「留学生」「就学生」「研修生―技能実習生」などの置かれている状況を考えるならば、その国籍者の一部であっても、警察に刑法犯の被疑者として検挙される者の比率が相対的高いことは、「日本社会の治安を脅かすエイリアン」ではなく、日本の難民政策の貧困さや、移住女性を食い物にしている性産業や、「研修―技能実習制度」で労働力不足を補うあり方や、「就学」―「留学」制度の問題など日本社会のひずみや矛盾を照らし出し、日本社会の犠牲者としての側面が浮かび上がります。


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