熊本地震から1年を経て
 熊本県や熊本市の地域防災計画の見直しと外国人への災害時の対応について 

2017年8月27日 中島 眞一郎 (コムスタカー外国人と共に生きる会)


  • はじめに
    平成28年4月以降の熊本地震をへて、熊本県及び熊本市は地域防災計画を見直しました。外国人被災者対応について変更となった部分を示しておきます。
  1. 平成29年度 熊本県地域防災計画の修正  
     熊本県は、平成29年度地域防災計画の見直しを平成29年4月19日付で、熊本県ホームページで公表しています。その中で、外国人被災者への対応について、以下のような見直しが行われています。  

     県は、災害対策本部内に外国人支援班を設置し、市町村と協力して外国人の避難状況の把握を行うほか、避難所における外国人の支援を行う。
                                                 (一般災害対策編)第3章 第1節 新旧表 3−8頁)
    外国人支援班(国際課)の分掌事務
    1. 外国人被災者の状況(国籍、性別、人数等)及び避難状況の把握に関する事項
    2. 避難所における外国人支援に関する事項
    3. 県ホームページ等による多言語での情報提供に関する事項
    4. 駐日外国公館(大使館・領事館)等との連絡調整・帰国支援に関する事項

    コメント(中島)
     熊本県及び熊本市を除く市町村は、熊本地震の外国人被災者への対応はほとんどできておらず、今回の見直しは、災害対策本部内で外国人支援班を設置し、分掌事務上記の4つの明記していることは評価できます。コムスタカからも行政の外国人被災者対応の課題について指摘していたことがある程度反映され、県行政として熊本地震での外国人被災者への対応の問題点が意識され、その反省の上に計画の見直しがなされています。但し、外国人支援班を担う国際課は、セクションも5つに拡大され、職員数も20名を超えていますが、多文化共生を担う担当職員は1名しかいません。大規模災害時に国際課や嘱託員も含めて国際課全員で外国人支援班を担う体制が作られないと分掌事務を担うことは不可能と思われます。マンパワーやその費用をどのようまかなうかという具体策がないと紙の上だけの修正に終わりかねません。分掌事務の一つ一つの課題への具体化が求められています。  

     
  2. 平成29年度 熊本市地域防災計画の修正  
    熊本市は、熊本地震を経て平成27年度地域防災計画の大幅な見直しを行った素案を、平成29年4月8日から5月8日までのパブリックコメントを募集し、その後同年5月31日に地域防災計画会議で確定しました。

    (1)熊本市地域防災計画(素案)に対するパブリックコメントの提出とその結果
     2016年4月の熊本地震を経て、従来のものを大幅に見直す熊本市地域防災計画の素案に対するパブリックコメントが募集されており、2017年5月8日付で8項目の課題を指摘するパブリックコメントを熊本市に送りました。2017年6月21日付で 熊本市のホームページに 熊本市地域防災計画の素案に対するパブリックコメントの結果が公表されています。(外国人に対する対応では、私以外に1名の方がパブリックコメントを提出しています。)

    私が提出した「今後、素案の外国人対策などで改めるべき課題」は以下の8項目でした。
    1. 1、 熊本市の防災会議に組織として外国人被災者に対応する機関を明記し、災害時に外国人被災者のために対応する責任主体を明確にするとともに、その機関を中心に災害発生時に外国人被災者の救援や支援のために活動する。  
    2. 災害発生直後から、災害関連情報の多言語情報(訪日外国人向けだけでなく在住外国人 の言語も含めて)を発信できるようにする。  
    3. 情報センター機能をあわせた24時間対応の外国人向けの避難所の設置を明記する。(なお、熊本市国際交流会館を指定避難所とする場合には、指定監理団体に外国人向け災害対応できる能力を持つ団体を指定し、その団体に運営責任を果たすことのできる権限と予算をつける)  
    4. 外国人が宿泊している旅館ホテルなど宿泊施設、留学生のいる大学や技能実習生の監理団体や実習実施機関への外国人情報センターの存在の周知と相互連絡可能な仕組みを作る。
    5. 各避難所に、外国人や日本語の理解が不十分な避難者がいることを意識し、その把握や登録を当たり前のこととする。
    6. 車中泊等外国人の屋外避難者を把握できるための巡回活動  
    7. 災害時に外国人避難者の相談に対応できる相談員(多言語あるいは、やさしい日本語をつかう)の配置を行い、そのための人材を養成していく仕組みを作る。  
    8. 熊本県や熊本県国際協会、他の市町村や国際協会など災害時に連携をできるように、普段から連絡協力できる仕組みを作っておく。   

    (2)熊本市地域防災計画(素案)のパブリックコメントの結果
     私ともう一人の方が提出した外国人に対する対策へのパブリックコメントに対する熊本市の対応は、「対応1(補足修正する)4つ 、対応2(既記載)2つ、対応3(説明・理解)1つ、 対応4(事業参考)2つ、対応5(意見伺い)0」というものでした。他の項目と比べて、 外国人に対する対策だけが大きく補足修正(実際は パブリックコメントに基づき新たに書き直されている) されていますので、提出したパブリックコメントが効果を上げたと思います。

    共通編

    P216〜

    P217

    地震・津波災害対策編

    P73

    風水害編

    P78

    外国人に対する対策

    熊本市防災会議に組織として外国人被災者に対応する機関を明記し、災害時に外国人被災者のために対応する責任体制を明確にし、その機関を中心に外国人被災者の救援や支援の活動を行う。

    外国人への対応機関は熊本市国際課となります。また、外国人への支援等についても国際課で行っています。

    対応4

    発災直後から、災害関連情報の多言語情報(訪日外国人向けだけでなく在住外国人の言語も含めて)を発信できるようにする。

    ご指摘を踏まえ修正します。

    対応1

    情報センター機能を併せた24時間対応の外国人向けの避難所の設置を明記する。(国際交流会館を指定避難所とする場合には、指定管理団体に外国人向け災害対応できる能力を持つ団体を指定し、運営責任を果たすことのできる権限と予算をつける)

    国際交流会館を外国人避難所対応施設として明記しています。運営については、会館の指定管理者との協定で対応する予定です。

    対応3

    外国人が宿泊している施設や留学生のいる大学や実習実施機関への外国人情報センターの存在の周知と相互連絡可能な仕組みを作る。

    ご指摘を踏まえ修正します。

    対応1

    各避難所に外国人や日本語の理解が不十分な避難者がいることを意識し、把握や登録を当たり前のこととする。

    避難所運営マニュアルに基づき、所定の登録を行うこととなっています。

    対応2

    車中泊等外国人の屋外避難者を把握できるための巡回活動の実施。

    車中泊の外国人の把握は困難であることから、国際交流会館からSNS発信による情報提供をもとに、返信してもらうことで把握に努めます。

    対応4

    外国人避難者の相談に対応できる相談員の配置を行い、そのための人材育成の仕組みを作る。

    国際交流会館において日頃から多言語での相談窓口を設置している旨を記載しています。

    対応2

    県や県国際協会、他市町村や国際協会等災害時に連携できるような仕組みを構築する。

    ご指摘を踏まえ修正します。

    対応1

    共通編

    P216

    熊本地震での外国人の不安要因の一つは、避難所やテレビ等での情報が全て日本語だったことが挙げられることから発災直後における多言語情報の対応をすべきであると考える。

    ご指摘を踏まえ修正します。

    対応1

     


     しかし、当初の素案では外国及び観光客への対策は、平成27年度地域防災計画と同じ文言のままでした。パブリックコメントの意見を踏まえ、外国人への対応について、以下のように修正されて確定しています。

    (3)修正前 熊本市地域防災計画書(素案)地震・津波編 
    第4項 外国人に対する対策

     外国人は、言葉の違いなどが原因となり、防災に関する情報や災害時における緊急情報、避難勧告等が理解できず的確な避難行動が取れない可能性があり、被害を受けることが考えられる。このため、日頃から十分な防災対策の啓発に努め、特に傷病者については、言葉が通じないと不安も増すため、医療機関との連携を図りながら外国語で診療を受けることができる医療機関の把握と、市政だよりやホームページを活用した情報提供や普及啓発に努める。
     また、(一財)熊本市国際交流振興事業団では、「市政だより」の暮らし、健康に関する情報や本市で外国人が生活する上で必要となる情報を英語、中国語、韓国語に翻訳し、独自のホームページに掲載すると共に、警報以上の災害情報が出された場合、多言語防災メールへ登録している外国人へ災害情報を配信、災害時以外では生活情報やイベント情報等を定期的(月1 回)に配信を行うなど情報提供に努めている。また、長岡市国際交流センターの協力で災害情報カードを多言語で作成し、配布に努めている。
     国際交流会館では、多言語での相談窓口を設置するなど、外国人への情報提供に努める。さらに、市民の生活日本語ボランティア登録制度の充実を図る一方、外国人のニーズやレベルに合わせた様々な日本語教室を開催し、言葉の問題に起因する情報不足の解消に努めるほか、地域の保健福祉センターや自治会及び地域に居住する外国人グループ等と連携をはかり、防災意識の啓発や、外国人が防災訓練等の地域活動へ積極的に参加できる環境を整えている。
    ■外国人避難対応施設
    施設名 住所 電話番号
    熊本市国際交流会館 熊本市中央区花畑町4 番18 号 096-359-2020
    ※大規模な災害発生時には上記の施設を観光文化交流局対策部が開設する。

    (4)パブリックコメントをふまえた修正後
    外国人に対する対策

      外国人は、言葉や文化・生活習慣の違いが原因となり、防災に関する情報や災害時 における緊急情報、避難勧告等が理解できず的確な避難行動が取れない可能性があり、 被害を受けることが考えられる。このため日頃から十分な防災対策を行う必要がある。
    (1) 外国⼈への情報提供等
    国際交流会館において、日頃から多言語での相談窓口を設置するなど、外国人へ の情報提供に努めるとともに、市の窓口においては、手続き・相談を円滑に行うた め、通訳等の支援に努めるものとする。国際交流会館の指定管理者は、「市政だより」の暮らし、健康に関する情報や本市 で外国人が生活する上で必要となる情報を英語・中国語・韓国語に翻訳し、独自の ホームページに掲載するとともに、警報以上の災害情報が出された場合には、多言 語防災メールへ登録している外国人へ災害情報を配信するなど情報提供を行うもの とする。
    また、防災カードを多言語で作成し、外国人への配布に努めるものとする。
    (2) 関係各所との連携
    災害時に備えて、国際交流会館の指定管理者、県・市町村、各大学、民間団体、 在熊の外国人コミュニティ及び自治会等との連携を図り、防災意識の啓発や、外国 人が防災訓練等の地域活動へ積極的に参加できる環境づくりに努めるものとする。 また、傷病者に備えて、外国語で診療を受けることができる医療機関を把握する とともに、医療機関との連携を深めておくこととする。 非常時においては、外国人への配慮が欠如することのないよう、地域住民との協 働で災害時でも役立つ日本語講座を実施することなどにより、地域と外国人との顔 の見える関係づくりを促進していくものとする。

          【関連部局】政策局 災害予防計画章要配慮者等支援対策 第5節 共通 - 217 -
    (3) 大規模災害時の対策
    大規模災害発生時においては、政策局対策部により、外国人避難対応施設として 国際交流会館を避難所として開設するものとする。
    発災後は、国際交流会館の指定管理者や関係機関等と連携し、速やかに情報収集 や多言語翻訳を行い、市のホームページやSNS等を通して、外国人への情報提供 を行うものとする。また、市等から発信される災害情報を円滑に提供できるように、 災害多言語支援センターの設置に努めるものとする。
    併せて、外国人避難者を把握するために、各避難所での登録状況の把握や関係機 関等への情報収集を行い、野外等の避難者に対してはSNS等を活用した状況把握 に努めるものとする。
    また、各避難所においては、多言語化された情報提供に努めるものとする。
    ■外国人避難対応施設
    施 設 名 住 所 電話番号
    熊本市国際交流会館 熊本市中央区花畑町4番18 号 096-359-2020

    コメント(中島)
      熊本市は、熊本地震を経て平成27年度地域防災計画の「大幅な見直しを行った」といわれる素案に対して、平成29年4月8日から5月8日までのパブリックコメントを募集し、その後同年5月31日に地域防災計画会議で確定しました。しかし、当初の素案では外国人対策及び観光客への対策は、平成27年度地域防災計画と同じ文言のままでした。そのことについて、担当部局となっている政策局の国際課の主幹に電話で尋ねたところ、「パブリックコメントが行われていることも知らず、また、外国人対策が平成27年度計画と29年度の素案での文言が同じであることもしらず、確認してから後で連絡する」という信じられない応対でした。外国人への対応についてのパブリックコメントの意見を踏まえ、上記のように外国人の対応が大幅な補足修正がなされました。熊本市に関しては、当初の素案が熊本地震以前と全く同じ文言という何の反省もない驚くべきものでしたが、パブリックコメントを踏まえ、大幅な補足修正を行ったことは評価できます。しかし、発災時だけでなく1年以上経過したパブリックコメント公募時点でも、災害の外国人被災者対応を行う行政としての担当機関である政策局国際課が、防災会議だけでなく地域防災計画に参加や関与していないことが、明らかになりました。上記の計画を実働するためには、担当機関に災害時に外国人対応ができる責任と権限を与え、かつ対応できる能力と意志を持つ職員を担当させない限り、熊本地震の時と同様に紙の上だけに終わる危険性が強いと思われます。

 



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