「韓国・台湾・日本の多文化家族の生活に関連した意識調査」

の調報告書について

2010年4月22日  中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

コムスタカー外国人と共に生きる会は、昨年10月から12月にかけて、韓国の忠清南道の

知事及び忠清南道女性政策開発院長からの要請による「 韓国・台湾・日本の多文化家族の

生活に関連した意識調査」に取り組んできました。目標の300部(外国人妻150部、

日本人夫150部)には、届きませんでしたが、2009年12末時点でコムスタカで回収

できた調査票は、190部(外国人妻 130部  日本人夫 60部)となりました。韓国では、

外国人妻から500部と 韓国人夫から600部、台湾では、双方から300部の調査票の回収が行われました。

そして、集計分析担当の岡山県立大学保健福祉学部の中嶋和夫教授らにより、2010年3月末に、

「東アジアの3つの地域の結婚移民女性の調査票」の解析を基にした調査報告書

( 受入国の夫の調査票の解析は進行中です。)『平成21年度岡山県立大学最先端

研究助成費 調査報告書  地域の国際化(グローバル化)に対応した社会福祉援助技術

の開発と体系化に関する基礎研究 -東アジア3地域における国際結婚移民女性の生活問題-

A4 71ページ  日本語版)が送られてきました。

この調査報告書をご希望の方は、PDF版でファイルで送信しますので、ダイレクトメールでご連絡下さい。

 以下、岡山県立大学の中嶋和夫教授からの分析結果についての概要報告です。

 

日本・韓国・台湾における国際結婚移民女性の意識調査から見えてきたこと

:岡山県立大学保健福祉学部教授

中嶋  和夫

 

2009年度(昨年度)、多くの方々のご協力のもとに、日韓台における国際結婚移民女性を対象

『多文化家族の生活に関連した意識調査』を実施することができました。ご協力をいただきました

皆様には、この紙面をかりて厚く御礼申し上げます。また、このたびは、

『コムスタカ―外国人と共に生きる会』の中島真一郎氏の特段のおはからいにより、

調査結果の概要を掲載させていただくことになりました。このことにつきましても深謝申し上げます。

さて、『多文化家族の生活に関連した意識調査』は、地域の国際化に伴い日韓台で増加している

国際結婚移民女性とその家族(多文化家族)に対する社会福祉援助技術の開発と体系化をねらいとして

企画したものです。そのため調査項目は、「生活問題(生活ニーズ)」を主たる内容として構成させて

いただきました。一般的に、国際結婚移民女性やその家族が直面している社会問題は、1、売買婚的

な結婚、2、身分上の不安、3、家庭内暴力、4、貧困、5、外国人の排除と偏見、6、コミュニケーション、

7、子どもの教育などに類型化されておりますが、私どもは、国際結婚移民女性が日々の生活のなかで

直面している生活問題は詳細に明らかにされていないことに着目し、調査を実施させていただきました。

具体的には、『国際結婚移民女性の日常的な生活問題に関する調査』では、相談員等の専門家が日ごろ

国際結婚移民女性から受けている各種相談内容(構造化された生活問題)を配置し、それが専門的介入を

必要とするほど当事者にとって重要な生活問題として位置づけられるか否かを検討致しました。当事者

とっての重要性の判断は、各種生活問題がウェルビーング(精神的健康)にどの程度の影響を与えているかを

根拠とするもので、相談の頻度に着目した判断ではないことにご留意ください。

なお、調査実施に際しては、日本では「コムスタカ―外国人と共に生きる会」を通して、台湾では世新大学を

通して、韓国では忠清南道女性政策開発院を通して、ランダムに選定した国際結婚移民女性(対象数は、

日本が200名、台湾が200名、韓国が1000名)の方々を対象に、生活問題(生活ニーズ)6領域約70項目

(夫に対する否定的感情、家族に対する否定的感情、文化に対する否定的感情、生活に関する制限感、

経済的逼迫感、コミュニケーション制限感)ならびに精神的健康度について回答をいただきました。

調査の結果、第一に、国際結婚移民女性では、ウェルビーング(精神的健康)が低下した方々が多く認

められることが明らかになりました。精神的健康が低下していると推測される方々の割合は(通常は10%前後以下)、

日本が35.1%、韓国が53.8%、台湾が60.0%となっておりました。

また第二に、国際結婚移民女性が直面している生活問題は、いずれの国においても当事者にとってウェルビーング

(精神的健康)を左右する重要な要素となっていることを明らかにすることができました。

具体的には、日本では、生活問題のウェルビーング(精神的健康)に対する影響度の順序は「夫に対する否定的感情」

(寄与率58.5%)、「経済的逼迫感」(寄与率46.4%)、「社会生活活動の制限感」(寄与率43.0%)、「家族・近隣に

対する否定的感情」(寄与率38.1%)、「日本文化に対する否定的感情」(寄与率33.8%)、「コミュニケーションの

制限感」(寄与率33.0%)となっておりました。

韓国では「経済的逼迫感」(寄与率24.7%)、「家族・近隣に対する否定的感情」(寄与率23.1%)、「コミュニケー

ションの制限感」(寄与率6.8%)、「社会生活活動の制限感」(寄与率6.7%)、「韓国文化に対する否定的感情」

(寄与率6.1%)、「夫に対する否定的感情」(寄与率5.4%)の順でした。

台湾では「経済的逼迫感」(寄与率19.9%)、「社会生活活動の制限感」(寄与率11.6%)、「コミュニケーションの

制限感」(寄与率6.5%)、「夫に対する否定的感情」(寄与率5.5%)の順でありましたが、「家族・近隣に対する

否定的感情」(寄与率0.1%)と「台湾文化に対する否定的感情」(寄与率3.9%)は統計学的に有意な水準を

満たしておりませんでした。

以上のことから、国際結婚移民女性のウェルビーング(精神的健康)の維持・増進において、国際結婚移民女性

が直面している生活問題を「生活ニーズ」と明確に位置づけ、積極的に介入することの必要性が示唆されました。

たとえば韓国を例にとるなら、国際結婚移民女性の生活問題に関連した専門的介入の必要度は、「経済的逼迫感

→家族や近隣の人々に対する否定的感情→コミュニケーション制限感→社会生活活動に関する制限感→韓国文化に

対する否定的感情→夫に対する否定的感情」となっていることを勘案しつつ、個別介入プログラムにおける内容の順位が

重視される必要がある、ということになります。

 これまで、国際結婚移民女性にとっては、生活問題をどこに相談したらよいのか、また誰に相談したらよいのか、

あまり明確にされていないのが日本の現状と言えましょう。相談機関に関しては、韓国ですでに全国に多文化センター

等の設置を義務付けており、計画的に相談機関が設置されております。しかし日本では多文化共生に関する指針が

出され、都道府県や市町村単位では多文化共生プランを立てなければならない状況にありますが、相談機関に関して

はどこが責任を持つかはほとんどの自治体が明示しておりません。

なお、多文化共生の推進に関わる資格は、1、全国レベルでは多文化共生マネジャー(全国市町村国際文化研修所)

、2、大学レベルでは多文化共生推進士(群馬大学)、多文化社会コーディネーター(東京外語大学)、外国人支援

リーダー(浜松学院大学)、3、都道府県レベルでは多文化ソーシャルワーカー(愛知県=財団法人愛知県国際交流

協会に委託、群馬県、神奈川県)、多文化共生キーパーソン(埼玉県)、多文化共生推進員(石川県)、多文化共生地域

づくりリーダー(福島県)、多文化共生コーディネーター(小牧市)、高校生多文化共生ジュニアリーダー(伊勢崎市)、

災害時外国人支援サポーター(船橋市等)、多文化共生推進コーディネーター(岡山市)などといった名称で

養成されております。しかしそれらの資格をもった方々が国際結婚移民女性の生活問題に介入する専門家か

否かという位置付けは極めて曖昧です。

以上のことを勘案しますと、各自治体等が養成している多文化関係職員の業務のひとつとして、国際結婚移民女性

に対する相談業務をきちんと位置づけることが今後のグローバル化が進展している日本の重要な政策課題となって

くるものと推察されます。個別の相談内容に対し、如何に問題を解決するか、あるいは解決することを支援すると

いった業務は、深い専門性が問われるところであり、それら相談項目に関連した知識と技術を習得する必要があります。

残念ながら、前述の資格を取得する際の養成カリキュラム(養成講座)には、そのような内容は含まれてはおりません。

従って、専門家養成には、今回の調査で取り上げた生活問題にも十分即応できるカリキュラムを準備することが望まれます。

責任ある専門的介入は、例えば、相談相手と対等な関係で書面による「契約」を結ぶことからスタートすべき業務であって

、聞き流し的な無責任、あるいは非対称的な関係の中での専門家主導の業務として展開されるべきものではありません。

さらに個別介入プログラムの内容は、当事者の承認を得て、当事者主導で展開されるべきものです。責任ある専門家は

相談内容ごとに、何時までに何がサービスとして提供できるかをきちんと提示して然るべきです。

以上、今回の調査結果を基礎とするなら、多文化家族が生活の場となっている地域において、国際結婚移民女性

がいつでも何でも相談できる「窓口」(相談機関)ならびにそのことに貢献する専門家の養成こそが喫緊の課題と

言えましょう。

自治体がそのことに責任もって対応することが日本の多文化共生の実質化をもたらすものと期待できます。

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