外国人女性 大分生活保護訴訟控訴審で逆転勝訴判決
2011年11月25日 中島 真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
コメント (この訴訟について、私はこれまで具体的な支援や関係があるわけではなく、マスコミ報道等により知った範囲でのコメントです。)
2011年11月15日、大分市在住の永住資格を持つ中国籍の生活保護申請却下取り消し訴訟の控訴審判決(福岡高裁)で、大分地裁の却下判決(2010年10月18日)のを取り消す逆転判決が言い渡されました。
2011年11月15日の福岡高裁の控訴審判決は、「一定範囲の外国人(永住的外国人)は、日本人と同様の待遇を受ける地位が法的に保護されている」として、一審大分地裁の却下決定を取り消し、また、「生活保護法所定の事由が存在したことが認められ、これに基づいて生活保護が開始されるべきであったことが認められる」として大分市の却下処分の取り消しを決定しました。
これまで一審大分地裁判決にみられるように、外国人への生活保護の支給について、生活保護法の適用は認められず、厚生労働省社会局長の通知(1954年通知)に基づく、あくまで行政の裁量による行政措置でしかありませんでした。
申請が認められなかった外国人は、行政訴訟である処分取り消し等を訴訟で争っても、行政処分ではないとして却下されるなど、その地位が法的には保護されていませんでした。
11月15日の福岡高裁での控訴審判決は、「一定範囲の外国人(永住的外国人)にも生活保護法の準用による法的保護の対象となる」ことを、初めて認めた画期的な判決といえます。
※ 大分市は、2011年11月14日(控訴審判決の前日)に、この中国女性の4回目の申請を認め、「通知」に基づく生活保護の支給を決定しています。
この判決にたいして、大分市が最高裁への上告を断念し、受け入れること、また、今後、厚生労働省は、現在、通知による行政措置として生活保護申請の対象となっている外国人に対して、生活保護法の適用対象となることを明確化にするように生活保護行政を転換すること、さらに国会は、生活保護法の国籍条項を削除するなどの抜本改正を行うことが求められています。
追記
2011年11月15日福岡高裁で逆転勝訴した大分市在住の中国人女性の生活保護訴訟で、敗訴した大分市側が、同年11月28日最高裁へ上告しました。
補足説明 1、外国人に対する生活保護の申請の取り扱い
生活保護法(昭和25年 法律第144号)には国籍条項があり、外国籍住民には、適用されないことになっています。そのため、外国籍住民からの申請は、却下されます。その上で、1954年の厚生省社会局長通知「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(昭和29年5月8日社発第382号 厚生省社会局長通知、以下通知)により保護に準じた取り扱いをすることになっており、入管特例法の特別永住者だけでなく、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法) 別表第二 の上欄に記載されている在留資格(「永住者」「永住者の配偶者等」「日本人配偶者等」「定住者」)を有する外国人にも、生活保護の申請があれば、「通知」による保護措置が行われ、実質的には、日本人と同じ要件で審査されて給付が認められています。
※ 熊本市では、 2010年7月1日現在 、外国籍の生活保護世帯数は、72世帯(韓国・朝鮮籍、フイリピン籍、中国、その他の順)、これは熊本市の全生活保護世帯の約0.8%を占めています。
補足説明2、大分生活保護訴訟 、控訴審判決に至る経緯
大分市在住の永住許可された中国人女性は、2008年12月に生活保護を大分市福祉事務所長に申請しましたが、大分市福祉事務所長は、「女性名義の銀行口座などに預金がある」ことを理由に申請を却下しました。
これに対しても、中国人女性は、大分県知事に審査請求を行いましたが、「外国人である原告に対する生活保護申請の却下決定は行政不服審査法上の処分に該当しない」とされ、審査請求は不適法として却下する旨の裁決を受けたため、当該裁決の取消しを求める訴訟を大分地裁に提訴しました。
2010年9月30日に、大分地裁は、外国人の生活保護申請に対する却下決定に処分性を認め、却下裁決を取り消す判決を言い渡しました。そして、この判決は確定しました。
しかし、厚生労働省は、外国人による審査請求に対して、却下ではなく棄却として対応するように全国の自治体に伝え、門前払いとなる「却下」はされなくなりましたが、「却下」が「棄却」に変わっただけで、その実態は変わりませんでした。
中国人女性は、審査請求をめぐる争いとは別に、生活保護申請却下処分の取消し及び保護開始の義務付け等を求めて、大分地裁に提訴します。
2010年10月18日に大分地裁(本件一審判決)は、「外国人の原告に生活保護法の適用がないこと」「外国人への生活保護は、行政上の処分ではなく、任意の行政措置である」として、処分の取り消しを求める請求、保護の開始を求める請求を不適法として却下、保護を請求する地位にあることを求める請求は、棄却するなど、原告の請求をことごとく斥ける判決を言い渡しました。