外国人への国籍差別―外国人生活保護受給者へ国民年金保険料法定免除除外問題
2013年1月12日 中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
はじめに
在住外国人への社会保障の適用は、国籍条項を理由とした排除から、国籍条項の撤廃による適用へ拡大していきます。1977年の国際人権規約の批准、1981年の難民条約批准後、日本の社会保障制度は、社会保障制度の内外人平等の原則が求められるようになり、日本政府は「国籍要件」撤廃の必要性に迫られました。
1982年には、児童手当法、児童扶養手当法、国民年金法等が、1986年には国民健康保険法の「国籍要件」が撤廃されました。現在では、原則として三月を超える(三月を超える在留が見込める場合を含む)在留期間のある正規の在留資格を有する在留外国人には、日本人と同じように社会保障の適用があります。但し、生活保護法には、国籍条項が残っています。1946年に制定された生活保護法には、国籍条項はありませんでしたが、全面改定された1950年制定の現行生活保護法には、国籍条項があり、外国人には適用されないとされています。
一方で、生活に困窮する外国人には、1954年の厚生省社会保険局長通知を根拠に、行政措置として、生活保護法が準用され、日本人と同じ認定基準で、1954年以降、外国人の生活保護が認められてきました。実務上は、外国人が、生活保護を市区町村に申請すると、認められる場合にも生活保護法の国籍条項を理由に申請は却下される決定書が交付され、かつ1954年の通知を根拠に生活保護がみとめられ、その給付額が決定された決定書が交付されます。
また、厚生労働省は、1990年から外国人の生活保護の対象を、入管特例法の特別永住者と入管法の別表2(永住者・定住者・日本人配偶者等身分関係によって認められる在留資格)の在留資格を有する「定住外国人」に限定するようになりました。
生活保護受給者のうち日本人と外国人の違いに対して、厚生労働省は、「申請して不許可となった場合や支給金額の決定に不服がある時には、日本国民には行政不服審査請求など不服申立制度が認められるが、外国人には不服申立てができないという違いがあるが、それ以外の保護の内容については、違いはない」(平成24年7月4日 社援発0704第4号厚生労働省社会・援護局長 「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」の一部改正などについての(通知)より)とする取り扱いがこれまでなされてきました。
1. 問題の発覚
2012年8月6日付の日本年金機構による疑義照会への回答により、新たに外国人生活保護受給者の国民年金保険料の法定免除の適用除外問題が発生してきました。
熊本市在住の外国人に、熊本市の生活保護課から、今年8月から生活保護申請が措置により受給が認められました。来日後 数年経過しているが、国民年金に加入していなかったので、生活保護課から国民年金課に申請して年金番号を登録できるようにしてほしいといわれ、熊本市の国民年金課に申請しました。そのときの説明では、生活保護の受給がみとめられているので、国民年金保険料の法定免除がみとめられるため、保険料は請求されないという説明でした。これまで、外国人生活保護受給者にも法定免除が認められる運用がなされていいました。ところが、9月上旬に外国人には生活保護法の適用がなく、行政措置に基づくものにすぎないので、法定免除は適用されないという通知が国民年金課から連絡があったということで、一般免除の申請を国民年金課へ提出してほしいといわれました。
2. 熊本市国民年金課の説明
熊本市国民年金課にいき、法定免除の適用除外の意味の説明を聞きに行きました。担当職員によると同年9月6日(各)市(区)町国民年金課長様あてに、熊本西年金事務所国民年金課長名で、日本年金機構本部から、疑義にかかる回答が あったので、「外国人にかかる国民年金法第89条第二号の適用について」という題名の通知が送られてきたというものでした。
疑義照会回答の概要
(問)外国人が生活保護に準じた生活扶助を受給している場合は、国民年金法第89条二号に該当するものとして取り扱うかことが可能か
(答え) 外国人に対する生活の保護の給付については、生活保護法に根拠を有さずに、行政措置として生活保護上の保護の決定実施にかかる取り扱いに準じて給付を行っている者であるから、当該通知に基づく保護を受けている外国人には、「生活保護法による生活扶助その他の援助であって厚生労働省令で定めるもの」に該当するとされた国民年金法第89条第二号に規定する法定免除には該当しないものである。 つまり、「行政措置として認められていた外国人の生活の保護の給付について、これまで受給期間中は、国民年金保険料の法定免除(国民年金法第89条第二号に規定する法定免除)に該当するとしていた取り扱いが、この通知により今後該当しないものとして取り扱いに変わり、行政措置にすぎない外国人の生活の保護の受給者は、国民年金保険料の法定免除はなく一般免除(前年所得に基づいて決められ、4段階の免除がある)として免除申請することが必要になった」という説明でした。
3. 熊本西国民年金事務所の説明
九州内のある自治体(長崎県佐世保市)からの問い合わせの問題に関して、疑義照会がなされ、同年8月10日に国民年金機構から回答があった。この回答に対する国民年金機構の見解は、従来通りの見解を伝えたもので、特に取り扱いを変えるものではない」とのことで、市町村で法定免除の取り扱いをしているところがあるで、この回答を受けて、実務運用が異なっているところがあるので、この回答の見解に沿った運用になるように国民年金機構九州ブロックとして、各市区町村へ通知することになった。熊本西年金事務所として、国民年金課長名で、市区町村の国民年金課長あてに2012年9月6日付で通知を提出した。九州内について、通知の日にちは統一されていないと思われるが、同様な通知が出されているはずである
今回の通知は、国民年金機構から全国的に指示があって通知が出されたものではなく、自治体(長崎県佐世保市)からの疑義照会への回答を受けて、国民年金機構九州ブロックとして、本部の回答を受けて通知した。なお、これまでその回答通りの運用が行われていない実情や、これまで外国人生活保護受給者ですでに法定免除扱いとなっている外国人に関して今後どのように取り扱うのか、現在九州ブロックとして本部に疑義照会している というものでした。
4. 日本年金機構本部と厚生労働省の見解
九州内では、2012年9月上旬ごろから各地の年金事務所より各市町村の国民年金課長あてに通知が送られ、これに基づいて外国人生活保護受給者に国民年金保険料の法定免除を認めず、一般免除の申請に取り扱いが変更されていっていました。しかし、九州外では、通知がだされていないところもあり、バラバラの対応になっていました。この通知は、2012年8月10日付の疑義照会に対する 国民年金機構の回答(当然 厚生労働省とすり合わせて行われたものである。)で、「従来からの見解を述べたもので、特に取り扱いを変更したわけではない」)を根拠になされています。しかし、それを根拠づける通知文書や疑義照会への回答など過去一度もだされていなかったとされています。
日本国民年金機構本部(及び厚生労働省)は、全国の市区町村や各地の地方年金事務所で、少なくとも1982年の国民年金法の国籍条項が削除され国民年金への外国人の加入がみとめられて以降、長年外国人生活保護受給者に法定免除が認められる取扱いが行われていることを知らなかったということになります。
5. 共同通信の全国配信記事
この問題について関心のあった共同通信社の原 真記者が、厚生労働省や日本年金機構本部や全国の外国人の多く住む自治体の外国人生活保護受給者の国民年金保険料の取り扱いについて取材・調査した記事が全国配信され、全国各地の地方紙が2012年10月16日の夕刊や翌日17日の朝刊で、「事実上の運用変更」「国籍差別」問題として大きく報道しました。
6. 厚生労働省の新たな通知
この報道後の反響の大きさや批判を受けて、厚生労働省は、各地の年金事務所や各自治体の年金保険担当機関に対して、「「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(通知)に基づく保護を受けている外国人の国民年金保険料免除の申請取扱いについて」というタイトルで、平成24年10月26日付、厚生労働省年金局事業管理課長名で、地方厚生(支)局 年金調整(年金管理)課長あてに、発しました。この通知の内容を要約すると、以下のような内容でした。
一、 免除の申請に対する具体的な取り扱い
保護受給外国人からの国民年金保険料免除申請については、国民年金法(以下「法」という)第90条第一項第5号及び国民年金法施行規則第77条の7第4号を適用して差し支えないこと。(以下、省略)
二、過去に法定免除としてとり扱った者への対応(要旨)
(1)平成24年7月以降、保護受給外国人に対して法第89条第一項第2号の法定免除を適用している場合は、改めて法第90条に基づく免除の申請が必要である
(2)平成24年6月以前に保護受給外国人に対して、法第89条第一項第2号の法定免除を適用している場合には、(以下中略)その取扱いについて検討しており、対応が決まり次第、おって連絡する。
参考
〇 年金法第89条第一項第2号(日本人保護受給者へ適用)
「生活保護法による生活扶助その他の援助であって厚生労働省令で定めるもの」
〇国民年金法第90条第一項第5号(外国人保護受給者に適用)
「保険料を納付することが著しく困難である場合として、天災その他の厚生労働省令で定める事由があるとき」
7. まとめ
厚生労働省の新たな通知のように外国人生活保護受給者は、国民年金保険料の法定免除ではなく一般免除申請扱いとするが、一律全額免除とすることになっても、この問題が解決するわけではありません。外国人生活保護受給者への一般申請させたうえで国民年金保険料の全額免除の一律適用は、保険料負担がなくなる点では同じでも、日本人受給者と外国人受給者を差別的に扱うとい内外人平等原則に反します。
厚生労働省の新たな通知による修正による解決ではなく、ア. 疑義照会2012年8月10日当初回答の撤回(佐世保市の疑義照会で、佐世保市も期待していた「法定免除の適用ができる」という回答の見解とすることでの解決) イ.
省令で、法定免除が可能という内容に改正する。ウ. 生活保護法の国籍条項を撤廃する 以上3つの異なる次元での解決が可能で今回の問題で明らかになった「@全国の自治体で行われていた法定免除扱いとするとの見解が、1982年の国民年金法の国籍条項撤廃時ではなく、30年以上経過した2012年8月に突然出されたのか、A1982年の国民年金法の国籍条項撤廃以降、30年間余り、厚生労働省や日本年金機構が本当にその実態を知らなかったのか、もし、知らなかったとすれば、行政として、なぜそのようなことがおこりえたのか、知っていたとすれば、なぜ放置していたのか」が疑問として残ります。
今回の一連の動きの背後に国民年金法の国籍条項の撤廃(内国民待遇の受け入れ)という方向と逆の「外国人生活保護熟者への差別的取扱いを強化する」方向での力が働いていると思われます。
今回の問題は、共同通信配信記事を、全国各地の地方紙が「国籍差別」問題として大きく取り上げたことにより、いまのところその流れを押し戻す効果をあげ、生活保護法の国籍条項の問題を顕在化する効果を上げました。しかし、今後とも 外国人生活保護問題は、生活保護制度全般の見直しが議論されているなかで、かつての外国人犯罪問題と同じように排斥のターゲットとして焦点化してくると思います。