熊本県・熊本市の多文化共生施策の現状と課題

2011年4月3日 

 中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

 

2月の多文化共生月間

2006年に総務省が「多文化共生プラン」を策定して以降、全国各地の地方自治体で、多文化共生の地域づくりを課題として掲げ、

外国籍住民を対象とした施策を実施するところが増えてきています。熊本県や熊本市及び熊本市国際交流振興事業団(国際交流会館)

などが主体になり、2009年頃から毎年二月に「多文化共生の地域づくりをテーマとした講演会やシンポジウムなどのイベントが

行われるようになりました。

熊本県は、20093月策定の「くまもと国際化総合指針」により、これまでの国際交流や国際貢献と並んで、多文化共生の地域づくり

(コミュニケーション支援・生活支援・多文化共生の理解促進)を重要な課題として取り上げるようになりました。

217日(木)午後2時から午後4時熊本市国際交流会館ホールで、羽賀 友信氏( 新潟県長岡市国際交流センター「地域広場」センター長)を講師に、

「多文化共生のまちづくりー災害時の情報提供とコミュニケーションについて」をテーマに多文化共生地域づくり講演会が、

熊本県(観光交流国際化国際交流班を連絡先)主催で、開催されました。

また、熊本市も、2010年3月策定の「世界に開かれた活力ある都市を目指して、熊本市国際化指針」おいて、従来の国際交流や国際協力の推進に加えて、

「外国人にも暮らしやすい多文化共生のまちをつくる」( 外国人市民への支援・市民の異文化理解の推進・外国人市民参画のまちづくり)を

課題として掲げるようになりました。

2月19日(土)午後2時から午後4時、熊本県立大学で、「多文化共生のシンポジウム」が、羽賀 友信氏(新潟県長岡市国際交流センター所長)を講師に、

「九州、・熊本は、すばらしい、いいところたくさんあるよ!世界60カ国以上を訪問した経験から語る」をテーマに台地部の講演会が、第二部のパネルディス

カッションー「多文化の財産とは?」が。熊本市・熊本市国際交流振興事業団・県立大学により開かれました。それ以外でも、熊本市国際交流会館において、

「世界の動きを知るセミナー 多宗教の観点から」「多文化共生の写真展」「在住外国人の書道展」などの催しが行われました。以上は、イベントですが、

在住外国人の実態調査や、多文化共生の地域づくりリーダーの養成やなども行われるようになっています。

多文化共生施策の現状と課題

このように、2002年から2003年にかけて、熊本県・熊本市にコムスタカー外国人と共に生きる会から、「外国籍住民及び帰国者への施策」を提案したころの、

「外国籍住民という言葉自体にカルチャーショックを受けました」という県職員の反応や、ほぼゼロ回答という熊本県や熊本市の行政の実情から比べると大きな変化です。

熊本県内に、2009年末で9257人の外国人登録者がいます。そのうち9割が中国や・フイリピン・韓国・朝鮮籍などのアジアからの外国人が占めています。

それらの人々を、地域社会の構成員とみなして「外国籍住民・外国籍市民」といいう概念でとらえ、行政の施策の対象とすることは、とても大切なことです。

総務省の「多文化共生プラン」に沿った内容であれ、熊本県がその国際化の指針で「多文化共生の地域づくり」、を、熊本市が、その国際化指針で

外国人にも暮らしやすい多文化共生のまちをつくる」を掲げて、そのための施策を実施しようとしていることは評価できます。

しかしながら、現状は、イベントと従来の施策の延長の域を超えていません。

一、   外国籍市民への支援について、

行政情報の多言語による情報提供や、相談窓口強化、就労支援、支援ボランテイアの養成などが具体的な施策として掲げられています。

それ自体推進していくことに異論はありませんが、しかしながら、その実施主体となる行政部門である国際課には、国際交流や国際協力の部門担当は存在しても、

多文化共生を担う部門や担当は存在しません。

2、市民の異文化理解への促進

 市民への外国人との交流や学習の機会提供や教育の推進が具体的な施策として掲げられています。しかしながら、それらは、交流の交流や啓発活動のレベルにとどまり、

地域社会に具体的に存在する外国人への差別や偏見、いじめなどなくす具体的な取り組みになっていません。

3、外国人市民参画のまちづくり

 これらは、地域社会の各種団体への参加を促す情報提供や、その機会の提供を行というレベルで、外国籍住民が、熊本県や熊本市の行政へ参画する 

具体的な制度や仕組みは存在しません。

 

熊本県・熊本市にしろ、多文化共生の施策の実施主体である国際課の活動の中心は、国際交流や外国人観光客を対象とした誘致促進活動となっており、

外国籍住民を対象とした施策 は、「名前や看板止まり」というのが現状と思います。

また、熊本市国際交流振興事業団の国際交流会館を拠点とした様々な国際交流活動や外国人による相談や支援活動は行政の施策を担う実際の機能として

大きな役割を果たしていますが、国際交流会館を活用・利用している外国人が、比較的問題の少ない外国人が中心となっており、問題を抱え行政の施策を

必要としている外国人に十分には手が届いていない現状があります。

これらの現状や課題は、熊本県や熊本市にとどまる問題ではなく、日本の各地の地方自治体における多文化共生施策の共通した問題であるとも思われます。

そこには、日本の省庁の一つである総務省が地域住民施策の一つとして多文化共生を掲げているという限界があります。具体的には、日本には、外国人を

対象とした法律には、外国人を管理排除する「外国人登録法」と「出入国管理及難民認定法」の二つの法律しかなく、外国人の権利を保障したり、外国人への

差別を禁止したり、外国人を保護する法律が存在しないことです。総務省の「多文化共生」施策も、「地域住民」(全国的課題ではない)と「多文化」

(政治や経済や社会活動の主体ではない)という限定のなかで行われています。総じて、日本の外国人政策は、管理と排除しかなく、

総務省による多文化共生施策も、「外国人」もできるだけ「日本人」と同じに扱うという域を超えていません。

 

しかしながら、このような日本の外国人政策や多文化共生施策の現状は、移民を受入れている国(アメリカ合衆国、ドイツやフランスなどのEU諸国、)

の移民保護政策や社会統合政策と比べて遅れているだけでなく、韓国や台湾等のアジア近隣諸国や地域の政と策比べても、相当遅れています。

 

熊本県への外国籍住民や帰国者のための8項目の施策

20029月提出)

1.DV被害者や単身者も利用できる自立のための中間施設としてシェルターを設置すること

2.自動車免許の取得に関して、外国籍住民への配慮ある措置をとること

3.外国籍住民の住民票本欄への記載を可能とすること

4.社会保障適用範囲を外国籍住民へも拡大すること

5.外国籍住民や子どもへの偏見と差別を助長する表現をやめさせること

6.外国籍住民や帰国者への住居差別をなくす施策を実施すること

7.日本語が不十分な外国籍児童・生徒・住民や帰国者のための日本語教育を充実させる施策を実施すること

8.外国籍住民の意見や要望を県の行政に反映させる外国籍住民代表会議(仮称)を設置

戻る