フィリピン人の重婚事例での婚姻無効訴訟の判例紹介
2014年5月2日 中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
DV被害者であったフイリピン人妻に対する日本人夫からの重婚を理由とする婚姻無効請求事件の2010年7月6日の熊本家裁の判例(平成21年 家(ホ)第76号 婚姻無効確認請求事件 ―――夫の婚姻無効請求を棄却し、夫は控訴せず確定)が、有斐閣の2014年版「判例六法」(P.1586 法の適用に関する通則法第42条の公序 に関する判例7)に掲載されていました。
「日本人原告が、フイリピン人被告との間の婚姻は重婚により無効であることの確認を求めた 事案において、原被告間の婚姻成立から6ヶ月後に被告の前婚の配偶者が死亡しており、既に重婚状態は解消していること原被告間の婚姻期間は5年を経過しており、被告と長女は約5年間日本で生活していること、二女は出生以来日本で生活していること、その婚姻が無効となれば長女及び次女が原被告の嫡出子の身分を失うことになることなどの事情を考慮すれば、フイリピン家族法を適用してその婚姻を無効とすることは公序違反になるとした事例」
また、有斐閣の別冊Jurist No210 June 2012 国際私法判例百選(第2版)にも、「P.22 Ⅰ総論 -(4)公序10 公序(2) 重婚を無効とするフイリピン法 中央学院大学教授 大村芳昭(おおむらよしあき)」として掲載されています。
この判例は約4年前のものですが、その後ほぼ同様な事例で、日本人の夫が、弁護士を代理人としてフイリピン人妻に重婚を理由とする婚姻無効の調停を家庭裁判所に申立てきた事案がありました。これに対して、この判例を提出し、「婚姻は有効である」と主張したところ、家庭裁判所の婚姻無効の調停は、1回で不成立となりました。そして、日本人夫は、婚姻無効ではなく離婚の調停を申立てきました。この判例がどこまで有効に機能するか不明ですが、重婚事案について、「認諾するか、敗訴するしかない」というあり方から、この判例を使って、「重婚であっても、通則法の第42条の公序の規定違反として夫の婚姻無効請求を退ける」ことを可能とする道が開けてきました。
この判例は、ドラマ以上に面白い展開をへて、奇跡的に判決に至り、フイリピン人妻が勝訴し確定しました。あれから4年近くが経過しますが、フイリピン人母子3人は、彼女が原告となったその後の離婚訴訟で勝利的な和解でき、 離婚と子二人の親権を得て、夫の暴力から逃れ、自立して、安定して日本で暮らしています。
2010年7月6日の判決直後の報告をコムスタカのホームページに掲載しています。興味のある方はご一読ください。
日本人夫が提訴したフィリピン人妻の重婚を理由とした婚姻無効訴訟で、熊本家裁は、 公序良俗違反として夫の請求を棄却する初めての判決を言い渡しました。
2010年7月6日 中島 真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
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