〒862-0950 熊本市中央区水前寺3丁目2-14-402
須藤眞一郎行政書士事務所気付
※以下の文章は、2015年12月20日発行のコムスタカ第90号に掲載したものに、一部追加して加筆修正したものです。
熊本県では、DV防止対策の関係機関内で、DV加害者への介入施策への検討が始まりました。加害者介入施策の必要性を提案してきた者として提言です。
( 行政の考え方 )
一時保護所は、生命や身体への危険度の高いケースを保護するところところで、被害者の安全確保、秘密保持を第一義とし、基本的に生命身体の安全を優先させて、県外の施設へ移送することを原則とする。
つまり加害者への対策は、警察による対応だけで、被害者の一時保護と、県外等への移住による自立支援を原則とする。
一時保護所の入所者の被害者に対する、県外移住を「安全」の観点だけで運営されていることによるひずみが大きくなっている。
(被害者の県外移住は、被害者の希望ではなく、「安全」を重視した行政の方針に従って行われているケースが大半と思われる。)
(1)一時保護所の入所者の実態は、上記の理念と一致していない。
行政機関(福祉事務所・女性相談など)や警察へ相談した場合、身体的暴力を受けている場合や脅迫を受けている場合には、被害者が 加害者との別居や他の地域へ移住する決意もはっきりしないままの状態で一時保護所に保護されるケースが多くみられる。
一時保護される被害者は、@一時的な短期だけ保護されたい被害者(加害者のところに戻りたい被害者、あるいはどうしていいかわからない被害者)、A同じ地域(同一自治体あるいは周辺自治体内で)で別居して暮らしていきたい被害者、B県外移住を望む被害者に大別できる。
Bの被害者は、加害者による危険性大きい場合であるが、その一方で知らない地域でも生活自立能力の高い被害者でないと、結局暮らせなくなり、より貧困な暮らしに陥るか、不安で加害者のところに戻ってしまうことになる。
特に被害者が、仕事を持ったり、子どもが学校へ通学しているケースでは、他県などへの移住は、被害者の仕事を喪失、子どもは転校をよぎなくされ、これまで築いてきた関係を喪失し、一から生活を出発しなければならず極めて重い選択と負担となる。
(2)行政の生活自立支援施策の問題点
被害者のための現在までの行政の生活自立支援施策は、被害者の生活自立までの多様な、かつ長期の取り組みに対応したものになっておらず、縦割りで施設間の情報共有や連携が弱く、一時保護所や母子自立支援施設などの施設を退所すれば、以降は、被害者本人まかせとなってしまっている。
離婚問題や子ども親権や養育監護などの問題を抱え、加害者との関係が県外移住によってのみでは解消しないことの多い被害者にとって、被害者本人で、これらの加害者との問題に取り組まざるを得なくなる。
(3)DV加害者が野放しになっている
刑事事件化することを被害者が望まなければ、被害届を提出せず、逮捕も望まないときは、警察は原則として介入せず、加害者は、DVを行っても罰せられたり、責任を問わるることがなく、加害者が野放しとなっている。
コムスタカへのDV被害者からの相談では、一時保護所への入所を勧める場合は、加害者からの暴力をうけ、緊急避難的に家を出た場合や警察に保護を求めた場合、あるいは、お金がなく、仕事もすぐに望めないため生活保護の受給が必要で、子ども連れのケースで、入所後 母子支援自立センターへの入所が見込める場合に限定している。
被害者が、仕事を持ち自立して生活していくことが可能なケースでは、一時保護所への入所ではなく、友人宅や、他のアパートを借りて、加害者と別居しながら、生活自立できることをめざしている。
つまり原則として 加害者の暮らす同じ地域で、被害者が別居して暮らしながら生活自立をしていく救済支援方針で臨んでいる。
そのためには、(加害者との同居や関係回復をのぞまず、別居や離婚を望む)被害者には、「加害者からただ逃げているだけでは、逃れられないので、加害をうけなくするために加害者に対して向き合っていくこと、あなたが向き合っていくのなら、そのために行動を支援し一緒に取り組む」ことを伝える。
被害者が仕事を持ち、ある程度生活自立能力のある場合には、事前に相談が可能な場合には、別居や自立に必要な準備をしてもらい、DV被害者であることを証明する資料等準備してもらう。
別居した場合には、生活保護、児童扶養手当、児童手当、社保や国保の被害者名義への転換など行政サービスが受給できるように手続きの支援をし、また、加害者からの妨害行為(就労先への職場への妨害、住居への家主や不動産業者へ介入、入管や行政機関への通報など)から被害者の側の事情を説明して、加害者の意図を実現させなくするなど、相談―避難―別居―生活自立、離婚、離婚後の養育費の支払い、子どもとの面会などのDV被害者の相談から自立までのプロセス全般にわたって被害者の相談に対応して生活自立できるように支援していく。
(被害者の状況だけでなく、加害者の状況を的確に把握して、被害者の相談から自立までのプロセスに、社会資源を活用して被害者の必要に応じて支援していく総合的な調整者の役割を果たす)
そして、同時に加害者に対して、時期とケースによるが加害者への通告や警告(コムスタカで支援・保護している旨伝える)、身体的暴力には警察への被害届の提出や告訴、DV保護命令申立、被害者の救済の立場で必要に応じて加害者との話し合い、家裁への離婚調停、婚姻費用請求の調停の申立等の支援、民事上の損害請求や慰謝料請求等の訴訟の支援、家裁の決定後は、養育費や婚姻費用の差し押さえを実施している。(近年では、加害者が慰謝料請求や子ども監護権や親権者の指定変更など弁護士を代理人として、被害者に相手に提訴してくる場合も増えてきており、それに対抗する訴訟支援も行っている。)
DV被害者のうち生命・身体への危険性がきわめて強いケースや、被害者本人が県外への移住を望む場合を除いて、原則として、住み慣れた、友人関係もある地域(加害者が住む地域でもある)で加害者と別居して暮らし、生活自立を目指していくことを可能とするDV防止や生活自立支援策に転換する。
また、 DV被害者のうち生命・身体への危険性がきわめて強いケースについても、警察の介入(刑事事件としての逮捕・拘留・起訴など)がより可能となりやすく、また、危険性が相対的に少なくなれば、その地域に戻って生活していくことが可能となる。
DV加害者による危険性と被害者の生活自立能力は、経験上相関関係にあり、被害者の生活自立能力が高いと、加害者への依存度が少なく、加害者に対抗できるため危険性は小さくなる。
したがって、DV問題の解決には、加害者に暴力を再び行使できないように抑止していく施策と、同時並行的に被害者の生活自立能力を高めていく施策が必要である。
これまでのDV防止施策で最も欠如しているのが、DV被害者の救済の立場で、DV被害者からの相談から、既存の社会資源を活用した加害者への対抗手段(加害者との交渉、警察への被害届や告訴やDV防止法、民事上の損害請求、離婚や養育費や婚姻費用の請求など)を行使し、別居から生活自立までの多様なかつ長期のプロセス全般を調整支援する役割を果たす機関の存在の欠如である。
(1)DVの構造
加害者と被害者の関係が、非対称的な力関係(支配―被支配)があることによって起きている。被害者が加害者にその責任を問う意思がないと、加害者が、加害責任を問われないため、加害者はDVを繰り返せる。そのため被害者の生活自立能力が低く、加害者への依存度が高いほど被害が深刻化しやすい傾向がある。
(2)DV問題の解決
DVをなくしていくには、公的(専門)機関の加害者介入によって、加害者と被害者の非対称的な力関係を相対的に対等なものに変えていくとともに、被害者が加害者に対抗し、その責任を追及できる力をつけ、加害者への依存度を減らし、生活自立能力を高めていけるように支援する。
(3)DV施策の重点
被害者保護から、加害者介入(抑止)へ転換し、被害者が遠方に逃げるのではなく被害者が住み慣れたその地域で、安全に自立していけることをめざす。
加害者介入を含む総合的な被害者の自立支援のためのコディネーターにもっとも重要なことは、被害者と共に解決へくけて歩むことへの信頼関係を構築できるかが、解決へ向けた最初の課題である。
被害者へ
〇 被害者が、加害者と向き合っていくように支援する
〇 加害者に対抗し、その責任を追及するための社会資源が具体的に活用できるように被害者を支援する(刑事責任 警察への被害届、裁判所への保護命令、民事責任 損害請求 慰謝料や婚姻費用や養育費など請求など)
〇 加害者側が行ってくる職場や住居や学校・保育園への嫌がらせに対抗したり、加害者側の弁護士を代理人としての調停申し立てや訴訟の提訴等に対抗できるように支援する。
加害者へ
〇 被害者の側に立って介入していくことを必要に応じて加害者に通知する。
〇 被害者の同意を得て、必要に応じ、被害者との話し合いや、交渉を行う。
〇 加害者が加害者として自覚し、その更生を望む場合には誘導する
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