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コムスタカ―外国人と共に生きる会 Kumustaka-Association for Living Togehte with Migrants

〒862-0950 熊本市中央区水前寺3丁目2-14-402

須藤眞一郎行政書士事務所気付

熊本県・熊本県警・熊本県弁護士会におけるDV対策の取組報告のまとめActivity report 2010

岡崎 民(コムスタカー外国人と共に生きる会事務局)      

※以下の文章は、2016年12月20日発行のコムスタカ第93号に掲載したものです。

 

 以下は、2016年10月23日(日)、熊本県民交流会館パレア9階第一会議室で、コムスタカー外国人と共に生きる会主催による「DVをなくすために、加害者対策を考えるシンポジウム」での関係機関の報告をまとめたものです。


熊本県子ども家庭福祉課の報告

1.DV防止法の施行・改正の主な内容

 従来、DV問題は、警察・行政を含め、介入しなかった分野でした。しかし、社会的に重大な事件が続発したことをうけ、人権侵害としても看過できない問題として、2001年DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)が施行されました。

(1)主な改正点
 DV防止法は、数年ごとに改正を重ねています。主な改正点は次の通りです。

@2004年改正
 ○身体的暴力だけでなく、精神的暴力、性的暴力もDVと定義された。
 ○保護命令制度の拡充
  ・退去命令の期間が二週間から二ヶ月に拡大
  ・被害者への接近禁止命令と併せて、子どもへの接近禁止命令も出せるように

A2008年改正
 ○自治体に配偶者暴力相談支援センター(配暴センター)の設置が努力義務化された。(現在、県内では、熊本県と熊本市、合志市に配暴センターが設置されている)
 ○保護命令制度の拡充
  ・被害者が生命または身体に対する脅迫を受けた場合でも(実際に暴力を受けていなくても)、一定の要件を満たせば、保護命令が出せるようになった。
  ・被害者への面会の要求、連続電話等を禁止する命令を出せるようになった。
  ・被害者の親族等への接近禁止命令も出せるようになった。

B2014年改正
 ○同棲相手からの暴力もDV防止法の適用対象になった。

2.熊本県における取組み

熊本県としては、法律の名称にあるように、配偶者からの暴力を「防止」すること、確実に被害者を守って、再被害を起こさないようにすることを第一の目的としています。

 具体的には、熊本県女性相談センターをDV防止法に基づく配暴センターと位置づけ、相談、保護、自立支援等の体制を整えています。

 DVに関する相談を受けた場合は、それがDVであることをまず本人に認識してもらい、速やかに手を打つよう努めています。
 

3.課題

(1)DV未然防止
 ○ 2009年度に熊本県が実施した調査によると、女性の4人に1人がDVの被害経験があると回答しています。 DVが重大な人権侵害であることについて、県民全体への更なる啓発が必要であるとともに、DV未然防止対策の充実が求められます。県が実施した、高校生に対するアンケート結果調査でも、何がDVか認知されていないという分析があります。DVは、家庭内の問題ではなく、社会の問題という認識が足りていないものと思われます。
 ○ また、加害者対策について、精神保健福祉センターで加害者カウンセリングの取組みを行ってきましたが、県内の民間団体において加害者プログラムの実施を始めた団体があり、相互に連携しながら加害者更生に取り組んでいく必要があります。

(2)発見・相談体制
 ○ 2009年度に熊本県が実施した調査によると、DVの相談機関を一つも知らない人が17.5%存在し、被害経験があってもどこにも相談していない人が49.3%存在することから、相談窓口の周知が引き続き必要です。不幸な結果になった事案を分析すると、相談する所を知らなかったという場合がありました。関係者が、相談機関の存在の周知を続けていくことが必要です。
 ○ また、外国人・障がい者・高齢者等について、発見・相談が困難な状況にあることが多いことから、関係機関との連携を強化し、適切な対応を行う必要があります。実際の事例で、高齢DV被害者で、何十年も夫の暴力に耐えてこられたという方がおられました。この方の場合、相談すること自体がためらわれたとのことでした。しかし、早期に相談し、早期に対応することによって、新たな生活を構築することが大事です。

(3)被害者の保護
 ○ 一時保護された被害者のほぼ半数に同伴児がおり、保育や学習などきめ細やかな対応を行う必要があります。
 ○ 緊急の場合等において、比較的柔軟な保護が可能である民間シェルターとの連携体制も整える必要があります。

(4)被害者の自立支援
 〇 保護から自立までの中間的施設として、ステップハウスの運営や、県営住宅を確保していますが、自立のための第一歩として、引き続き取り組みを進めていく必要があります。
 ○ 女性相談センター・精神保健福祉センターでは、被害者の自尊心・主体性の回復に向けて心理カウンセリングを実施していますが内容の充実を図ることが必要です。
 ○ DV家庭で育った子どもは心の傷を抱えており、特別な配慮を必要とします。関係機関との連携を更に強化し、適切な支援を行うことが必要となってきます。

 

熊本県警本部生活安全企画課 ストーカー・DV対策室の報告

1.平成二七年度のDV事案への対応状況

 平成二七年度に熊本県警がDV事件として認知した件数は、七八一件。 前年度プラス八件です。これに平成二六年度以前から対応している事案もあるため、それと合わせると、現在、県警が対応しているDV事案は、かなりの数にのぼることになります。

 しかし、当然すべてのDV事案を県警が把握しているわけではありません。被害者がどこにも相談できずひとりで苦しんでいる事案は、まだ相当数あるはずです。
 

2.加害者の検挙件数

上記の事件のうち、加害者が検挙された件数は、一二八件。前年度プラス六件です。

 また、事件化はできませんでしたが、警察から加害者に対して警告した件数は三七〇件。前年度プラス一五三件です。 なお、保護命令違反で検挙した数より、脅迫、暴行、傷害罪で検挙した数の方が多いです。しかし、検挙した件数と警告した件数を合わせても、警察が加害者に何らかの接触をして対応した件数は、認知件数の約半分ということになります。
 

3.DV事案等の特徴

 DV事案に限らず、ストーカーや恋愛感情のもつれが原因になった暴力的な事案の特徴として次のような点が挙げられます。

  • 警察が把握した段階では軽微にみえる事案でも、殺人などの重大事件に急展開することがある。
  • 加害者の被害者に対する執着心や支配欲が強い。
  • 加害者の被害者に対する行為が、長期に及びかつ執拗である。
  • 被害は、被害者だけでなく、被害者の親族・友人・知人に及ぶこともある。
  • 加害者は、警察に検挙される危険性を考えず、大胆な犯行に及ぶことがある。

 

4.警察のDV対策の現状

 DV問題の難点のひとつが、DV被害者には被害の申告を躊躇する傾向がある点です。しかし、「被害届は出さないが、警察にも知っておいてほしい」と申出するだけでは、警察は動きません。被害者が何らかのアクションを起こさないと、DVは内々のものになってしまうのが現状です。

 また、DVは繰り返すという性質があるため、加害者が逮捕されても、釈放されて被害者がいる自宅に戻ると、さらなる被害、より大きな被害を生むこともあります。釈放後も、加害者が被害者に危害を加えることが物理的に不可能な状況を作り出すことが重要です。DV事案は加害者を逮捕したときがスタートになると考えるべきでしょう。

 しかし、被害者にとっては、単に避難を促されても、被害者の経済的な問題、職場の問題、子どもの学校の問題等のため、避難が容易でありません。

 その一方で、避難しないことで次の暴力を生み、それが被害者の命を奪うという事態も十分考えられます。市民の身体・生命を守る役目を担う警察としては、さらなる被害を生まないため、(加害者介入よりも)身の安全を最優先をしないわけにはいきません。警察の立場からは、安易に避難しないことを容認するわけにはいかないのが現状でしょう。
 

5.関係機関との連携

 DV事案が発生しても、被害者の避難・転居が容易ではなく、長期化する場合が多いです。そこで、少しでも被害者の負担を軽減するために、関係機関との連携が不可欠です。 実際、様々な制度がありますが、その存在を知らなかった(あるいは、関係者が知らせなかった)が故に被害が深刻になったという事態だけは避けなければなりません。より一層関係機関が密に連絡を取る必要があります。

 また、警察の内部でも、対応に差や、対策に隙間が出ないことを目指し、二四時間対応の初期的事態対応チームや専門チームを設けています。
 

6.最後に

 熊本県警でも、今も被害に苦しんでいる方が存在することは認識されているようです。「一番気が安らぐ場所であるべき家庭で暴力におびえながら生活するというのは、とても辛く苦しいことだと思う。加害者対策と被害者保護は、車の両輪と考えている。一人でも被害を発生させないために、警察も全力で対応していることを知っていただきたい。」

 

熊本県弁護士会 両性の平等に関する委員会の報告

 DV事案については、法律の専門家がかかわる局面が少なくありません。そこで、熊本県弁護士会におけるDV対策の取組みについて紹介します。
 

1.熊本県弁護士会について

 会員数二六六名(二〇一六年十月現在)。男性会員は二二六名(八五%)であるのに対して、女性会員は四〇名(一五%)。圧倒的に男性の会員が多いのが現状です。
 

2.「両性の平等に関する委員会」の活動について

 弁護士の多くは、各県の弁護士会内の委員会に所属し、活動しています。「両性の平等に関する委員会」では、DV問題に限らず、ひとり親家庭の貧困問題、セクハラ問題、LGBT(セクシャルマイノリティ)に関わる問題等について取り組んでいます。

 委員会の構成員は三五名。男性会員が七名であるのに対して、女性会員が二八名と、こちらは圧倒的に女性会員が多く所属しています。熊本県の女性弁護士四〇人のうち、二八名が両性の平等委員会に所属していることになります。

 委員会の具体的な取り組みは次の通りです。

(1)法律相談
 次の機関で定期的に法律相談を開催しています。
・熊本県女性相談センター
・くまもと県民交流館 パレア
・熊本市男女共同参画センター はあもにい
・その他、各種無料法律相談会(電話も可)

(2)研修会
 弁護士自身が両性の平等に関する問題への認識を深めることは必須です。 そこで、弁護士会員向けに、研修(DV、性被害、LGBTなど)を委員会主催で行っています。

(3)関係機関との連携及び情報収集
 弁護士だけで問題を解決するということは困難です。そこで、関係する他団体との連携や情報収集(勉強会など)を行っています。
 

3.DV対策に関する活動について

 次に、DV事案で弁護士がかかわる局面について紹介します。

(1)法律相談及び法的措置
 各自治体や、男女共同参画週間等に併せて開催される法律相談などにおいて、DVやDVが疑われる事案に接することがあります。

(2)関係機関からの連絡
 上記の熊本県女性相談センター等の関係機関に保護された被害者について、当該関係機関から連絡を受け、次のような相談を受け付けることがあります。

  • 保護命令に関すること
  • 離婚調停、離婚訴訟の代理人として、相手方への婚姻費用・養育費・面会交流・財産分与・慰謝料などの請求
  • 債務整理に関する相談(DV事案では、相手から借金や連帯保証を背負わされている場合が相当数あります)


(3)弁護士の活動における工夫及び課題
 男女二名の弁護士で弁護活動するよう努めています。DV事案の場合、加害者から弁護士が攻撃される場合があります。 また、男性弁護士が女性被害者と一緒に居るところを加害者に目撃され、誤解を招くことを防ぐ効果もあります。
 
  • 調停や裁判期日における配慮を裁判所に申し入れます。例えば、裁判所の待合室で、被害者と加害者が直接顔を合わせないよう、離れた待合室を用意してもらいます。また、裁判所に来る時間や裁判所をさる時間をずらしてもらうなどの配慮をしてもらいます。
  • 課題の一例としては、裁判所の管轄の問題があります。調停・裁判を担当するのは、相手方が住んでいる所にある裁判所です。被害者が県外など遠くに避難している場合、調停・裁判の度に、県外等から来なくてはならないという課題があります。 同様の課題として、遠くに避難した場合、弁護士とも頻回には会えないという問題があります。
     

4 DVの加害者とかかわる場面について

(1)刑事事件の弁護人として
弁護士がDVの加害者と接する場面の例として、刑事事件の弁護人として接触する場合があります。 DV加害者が、暴行・傷害等によって逮捕・拘留あるいは起訴された場合、弁護士は、DV加害者の「刑事弁護人」として活動します。 その際に、加害者に以下のような更生を勧めることがあります。

  • 加害者更生プログラム
  • カウンセリング
  • 心療内科(加害者の精神疾患が疑われる場合)
     

(2)課題
 ところが、弁護人としての活動には、次のような課題があります。
  • 加害者更生に関する、個々の弁護人の問題意識に差異
  • 更生プログラム等を勧めるかどうかは、個々の弁護人の弁護方針に委ねられている
  • 更生プログラム等への参加は、あくまで加害者本人の意思。弁護人が強制はできない。また、裁判所のプログラムなどで強制的に受けさせる仕組みにもなっていない。
 

5.まとめ 〜課題

 現行の法制度の中では、DVにおける暴力が、暴行罪・傷害罪を構成する場合は刑事事件の対象となります。 しかし、それ以外の類型の場合は刑事事件になりにくいのが現状です。したがって、被害者保護の活動が中心にならざるを得ません。 DV防止法のさらなる整備や、加害者更生のための司法的アプローチの強化が課題です。

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