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須藤眞一郎行政書士事務所気付
中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
※以下の文章は、2014年12月21日発行のコムスタカ第87号に掲載したものです。
2014年6月28日、熊本県八代市内のスナック三店舗で、ホステスとして稼働していた中国人女性3名(在留資格「技能実習」)と雇用していた経営者ら計7名が、熊本県警・福岡入管の合同捜査により逮捕され、熊本県内のマスコミ(新聞・テレビ)のニュース報道で大きく報道された。
経営者らは、七月中に不法就労助長罪で略式起訴され、罰金を支払うことで釈放された。
熊本県警らは、同年3月から6月にかけて4カ月近く内偵して、同年6月28日に別々の店で働く彼女ら3名を一斉摘発した。
そして、「技能実習」の在留資格で在留している彼女らを、ホステスの仕事に従事していたという資格外就労容疑だけでなく、「偽装結婚」としても立件を目指して、逮捕後も、配偶者や婚姻届の証人、アパートの保証人、紹介者など執拗な取り調べが行われた。
同年7月には、3人のうち1人の中国人女性とその日本人夫が「偽装結婚」容疑で追加逮捕された。
しかし、3人とも結局「偽装結婚」容疑では立件できず、逮捕された日本人夫も釈放され、入管難民認定法の資格外就労容疑のみで起訴され、刑事裁判となった。
同年8月下旬から9月上旬、9月中旬にそれぞれ開かれた刑事裁判の第一回公判で、検察官は、異例なことに求刑は、懲役刑ではなく、罰金30万円とした。
同年9月上旬と、中旬、下旬に裁判所が言い渡した判決は、検察官が求刑したとおりの有罪判決で罰金30万であったが、未決拘留期間を一日5千円として、実質彼女らに罰金の支払いなしという「温情」判決であった。
判決後、彼女らはそれぞれ迎えに来ていた入管職員へ引き渡され、福岡入管の収容施設に移送された。
そして、入管では、3名のうち2名が帰国を拒否して在留特別許可を求めたが認められず、退去強制令書が発付され、中国へ退去強制された。
彼女らは、今後5年間は上陸拒否期間となる。
裁判で明らかになった事情として、彼女らは、2012年8月下旬に来日する前に、中国で5万元から6万元の保証金を仲介機関に支払い、20万元の違約金契約をして来日していた。
来日後、八代市内にある監理団体での1ヶ月の座学期間経過後の同年10月から熊本県内の実習実施機関で技能実習することになった。
そして、彼女ら3名の認められていた技能実習の職種は、農業の養鶏であったが、養鶏の仕事に従事する期間は2週間ほどで、大半の仕事は、卵の箱詰め作業という技能実習として認められていない職種に従事させられていた。
この実習実施機関は、彼女ら3名の外国人他に10数名の日本人従業員が働いていたが、日本人従業員も含めてほとんど毎日残業が夜8から9時まで続き、ひどいときは、深夜午前3時まで働かされるなど、労働基準法違反の長時間労働が行われていた。
実習実施機関で働いてから9ヶ月目の2013年7月上旬、この実習実施機関に労働基準監督署が立ち入り調査に入り、偶然 外国人技能実習として認められていない職種の職場に外国人技能実習生がいることが発覚し、彼女ら3名は、監理団体に戻され、別の養鶏の実習実施機関が見つかるまで待機となった。
そして、その後3カ月間ほどは雇用保険の給付を受けて暮らしていた。
ようやく同年11月に鹿児島県内で養鶏の実習実施機関が見つかり、10日間ほどそこで働いたが、監理団体が入管の許可を得ずに派遣していたことから再び監理団体に戻され、待機となった。
その後、同年12月には、彼女らが待機していた監理団体が、入管から彼女ら3名の問題ではない別の問題で不正行為の認定を受けて、技能実習生の5年間受入れ停止となった。
そのため監理団体が活動できなくなり、「移転先がみつからないので、ここを出て、中国に帰国するよう」に言われ、2014年1月から2月に監理団体の宿舎から出ていき、八代市内のアパートを借りて暮らすようになった。
彼女ら3名は、中国での借金等の問題があるため、中国へ帰国することをせず、日本人男性と結婚することで、日本で就労し続けることをめざした。
そして、ホステスのアルバイトをしながら、技能実習から日本人配偶者等の在留資格へ変更をめざそうとしたが、同年6月28日に資格外就労容疑で警察と入管に摘発されることになった。
彼女ら3名は、「技能実習の在留資格で、認められていない」ホステスの仕事をしていたことは法律違反であるが、本来3年間技能実習生として日本での稼働が可能であった彼女らが、来日後9カ月間しか就労できず、それも労働基準法違反など違法労働の環境で働かせられていたことについて彼女らに一切の責任はなく、本来は、保護されるべき労働搾取の人身取引の被害者といえる。
むしろ、違法な保証金や違約金契約を締結して彼女ら送り出している中国の仲介機関や送出機関 、日本側の受入機関(監理団体や実習実施機関)こそ、その責任が問われるべきである。
また、警察や入管は、4カ月近く内偵している間に、彼女らを法令違反者として逮捕や退去強制するまえに、日本政府として取組んでいる人身取引行動計画に基づき、労働搾取の被害者として調査し保護すべきであったと思える。
明らかな不正行為といえる「@保証金や違約金契約、A養鶏の職種と異なる職種の事業所への派遣や就労、B労働基準法違反の長時間残業など」、送出機関や実習実施機関や監理団体の法令違反行為があるにも関わらず、それらへの責任は追及されておらず、入管は、「退去強制手続きでの人身取引被害者としてのこれらの事情を考慮して在留特別許可を認めてほしい」という彼女らの主張を退け、退去強制令書を発付して帰国させた。
そして、熊本県内のマスコミも、6月28日の当初の警察発表にのみ依拠して、彼女らを入管法違反の「犯罪者」としか報道せず、彼女らのこのような背景や技能実習制度の持つ矛盾やひずみへの調査や報道もなく、その後は沈黙している。
彼女ら3名の今回の事件は、取締りに当たる警察や入管やそれに追随するマスコミが、外国人技能実習生の法令違反には厳しく、彼女ら技能実習生を労働搾取している中国側送出機関や仲介機関、日本側の監理団体や実習実施機関の法令違反や不正行為には関心を持たないあり方であることや、現代の奴隷制度といえる技能実習生制度を、労働搾取する中国側送出機関や仲介機関、日本側の監理団体や実習実施機関だけでなく、日本側の警察や入管やマスコミもまた強力に支えていることをあらためて浮き彫りにした。
中国人技能実習3名のうちの1名は、退去強制令書発付後の9月21日に入管施設に収容中に、「態度が悪い」として他の部屋に移されそうになったとき、中国へ強制送還されると思い、壁に頭をぶつけて自殺を図り、それを止めようとした男性の入管職員5名に取り押さえられました。 その時1名の男性職員の右腕上腕部に噛みついてケガをさせたとして、入管は10月初めに 公務執行妨害と暴行の容疑で刑事告訴しました。 その結果、彼女は警察に逮捕されて身柄を博多警察署に移され留置、そして検察官により起訴されました。刑事裁判第1回公判は2014年、12月9日に福岡地裁で開かれました。 年内には判決が言い渡されます。
※以下の文章は、2015年4月26日発行のコムスタカ第88号に掲載したものです。
中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
2014年6月28日にホステスの仕事をしていたとして資格外就労容疑で、逮捕―起訴され、刑事裁判で罰金30万円の有罪判決(未決拘留期間60日以上認め実質的には罰金を支払わなくてよいという温情判決でしたが)を9月に受け、熊本拘置所から入管へ施設収容され、3名のうち2名は同年10月上旬に退去強制されました。
しかし、3名のうちの1名は、9月18日に退去強制令書が発付され、9月21日に福岡入管の収容施設に収容中に、態度が悪いとして他の部屋に移されそうになったとき、拒否して床に寝そべっていたところ、無理やり連れだされそうになり、(20万元の違約金契約の支払いが不安で、死んで生命保険で支払うことで家族に迷惑をかけたくないとして)床に頭を何度もぶつけて自殺を図りました。
それを止めようとした男性の入管職員5名に取り押さえられますが、その時1名の男性職員の右腕上腕部に噛みついてケガ(全治2週間)をさせ、あざが残ったとして、入管は同年10月初めに 公務執行妨害と暴行の容疑で刑事告訴しました。
彼女は、博多警察署に逮捕されて身柄を入管施設から博多警察署に移され、検察官により公務執行妨害と傷害の容疑で起訴されました。
その後、身柄は福岡拘置所に移されます。
その刑事裁判の第1回公判が、2014年12月9日(火曜日)午後1時30分から福岡地方裁判所本館 3階302号法廷で、午後2時45分過ぎまで開かれました。
裁判は、検察官から起訴状の朗読、証拠の説明、検察側と弁護側からそれぞれ被告人への証拠調べが行われました。
そのなかで、被告人は、「借金をして来日し、3年間働けるはずが騙されて9ヶ月しか働けなくなったこと、このまま帰国して、(途中帰国すると違約金が取られることで)中国の家族に迷惑をかけられないと思って死のうと床に頭をぶつけたことや、本来、働けない実習実施機関で働かされていたり、他の職場を見つけることができない監理団体なのに2013年8月入管が技能実習二号ロへ在留資格の変更を許可したこと、自分たちをだまして来日させた中国の送出し機関や仲介機関、そして違法であることを知りながら自分たちを働かせたり送り込んだ会社や監理団体も罰してほしいと思っていたことや、日本人の夫と結婚して偽装結婚でないのに、中国へ退去強制されることへの入管への不満や不信をもっていた当時の非常に混乱していた心境を明らかにしました。
被告人が入管職員にけがをさせたことに対して、事件の数日後に被害者に謝罪していること、被害者の入管職員からもその時は許してもらえたが、同年10月に入って警察署へ移送されてしまったこと、今もたいへん申し訳なく思って強く反省していること」等が述べられました。
また、起訴容疑はすべて認め、反省して二度とけがをさせるような行為はしないこと、2014年6月28日の逮捕からすでに6ヶ月近く拘留が続き1日も早く中国へ帰国したいが、できれば将来もう一度日本に来る機会が与えられれば日本に来たいこと、その理由として、今回いろいろな人々に騙されたひどい目にあったが、その反面いろいろな人々に助けられ、いい人たちとも出会えたこと、日本という国が嫌いでないことを述べました。
検察官は、「技能実習制度の問題があるとしても、被告人の本件犯行は悪質であり、厳重な処罰が必要」として、求刑懲役10ヶ月を求めました。
弁護人は、「被告人は深く反省しており、被告人の犯行は悪質とは言えず、再発の恐れもないとして 罰金刑か、懲役1年未満の懲役で執行猶予付きの判決を求める旨」を述べました。
裁判官の被告人への日本人夫の婚姻についての質問のあと、結審を裁判官が宣告しました。
次回判決期日が決まって閉廷の予定でしたが、裁判官から、「検察官や弁護人の双方に異論がなければ、今日即日判決を言い渡してもよいのですが、いかがですか」との発言があり、双方了承して、10分間の休憩後に午後3時から判決言い渡しがありました。
判決は「、主文 一、被告人を懲役十ヶ月、執行猶予三年とする。二、訴訟費用は被告人の負担とはしない」との内容でした。
法廷には福岡入管の警備課の職員も傍聴に来ていて、被告人の身柄を入管へ引き取り、入管施設へ移送し、翌日被告人の荷物を受け取り、中国へ退去強制しました。
熊本県内で、2014年6月28日にホステスとして資格外就労していたとして逮捕された中国人女性技能実習生3名の事件は、残っていた1名の刑事裁判の終了と退去強制により一応の終結を見ました。
被告人(中国人女性技能実習生)は、執行猶予付きの懲役刑でしたが10ヶ月で、1年以上となっていないので、退去強制されても(半永久的)上陸拒否事由者ではなく、5年間の上陸拒否事由者になります。
しかし、在留中の2件(資格外就労による罰金刑、公務執行妨害と傷害による懲役刑)の前歴は残り、仮に5年経過しても、事実上彼女の再入国はほぼ望めないと思われます。
2014年10月上旬に再逮捕され、博多警察署に留置され、12月9日の刑事裁判の判決言い渡しまで、福岡拘置所で拘留されつづける2ヶ月余りの期間中、彼女に面会した者は、国選弁護人を除けば私だけでした。
面会時に、私が聞いた彼女が入管の収容施設内で自殺を図った背景として、技能実習生として来日する前に、5万元の保証金、もし途中帰国し、あるいは実習先から逃亡した場合には、20万元の違約金を支払う契約を締結させられていたこと、万一の時にそなえ違約金を支払えるように生命保険に加入してきたことがあります。
彼女ら3名は、養鶏の農業技能実習生として来日しますが、実習先の企業は、彼女らに養鶏の仕事は2週間ほどで、大半は仕事は技能実習性に認められていない卵の箱詰め作業を、残業が3−4時間ある毎日で、時には深夜まで働かされ続けます。
実習生には認められていない違法な労働をさせていることを受け入れた企業も、監理団体も知っていながら放置されていました。
本当に裁かれるべきは彼女ら技能実習生を食い物にしている中国側の送り出し機関、仲介―斡旋機関、日本側の監理団体や実習実施機関です。
アメリカ国務省の人身取引の被害者の基準に照らせば、彼女らは当然人身取引の被害者として当局から保護されるべき存在です。
しかしながら、日本の警察(熊本県警)や福岡入国管理局は、3ヶ月余りの内偵期間中やその後刑事裁判のなかで明らかになったこれらの彼女らの事情を知っていながら、彼女らの問題で中国側送り出し機関や、日本側の監理団体や受け入れ機関に対して、何ら処分をしておらず、また彼女ら3名を労働搾取による人身被害者として救済することはなく、資格外就労の容疑(そのうち一名をさらに公務執行妨害・暴行の容疑)の「犯罪者」として摘発・立件し、検察官が起訴し、裁判所も有罪判決を言い渡し、入管が退去強制しました。
又マスコミも、警察の発表のまま2014年6月28日の逮捕を報道するだけで、その後この事件の背景となる事情への報道はありませんでした。
今回の事件は、日本各地で起きている技能実習生をめぐる様々な問題の一つにすぎません。「現代の奴隷制」といわれる日本の技能実習制度が、どのような実態で維持されているのか、それを警察や入管、検察や裁判所という公的機関、そしてマスコミがどのように支えているのかを明らかにすることになったと思います。
2015年3月8日朝日新聞社の朝刊とデジタル版に、この問題の中国人女性技能実習生のことが、「外国人実習性 窮余の失踪」「手取り七万円 未明の残業」という見出しで、社会面のトップ記事として写真つきで大きく報道されました。
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