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コムスタカ―外国人と共に生きる会 Kumustaka-Association for Living Togehte with Migrants

〒862-0950 熊本市中央区水前寺3丁目2-14-402

須藤眞一郎行政書士事務所気付

新外国人技能実習制度 2017年11月1日施行 技能実習生保護法について

中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会代表)      

※以下の文章は、2017年12月17日発行のコムスタカ第96号に掲載したものです。

はじめに 技能実習法の施行

 2016年11月18日に、政府が2015年3月6日に国会に提出した「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下、技能実習法)が成立し、2016年11月28日に公布され、2017年11月1日から施行されました。 以下その概要と課題について明らかにしておきます。

1、現行の技能実習制度とその問題点

(1)技能実習制度の目的

 技能実習制度は、在留資格「技能実習」により入国した者を一定期間日本国内の産業界で受け入れてその技能・技術・知識を修得させ、日本の技能・技術・知識の開発途上地域への移転を図り、その経済発展を担う人づくりに協力することを目的とした制度であり、「労働」目的ではないとされています。

(2)技能実習生

 18歳以上で、日本で受ける技能実習と同種の業務に従事した経験を有する者が、出身国で修得が困難である技能等を日本で修得するため最大3年間(優良団体は5年間)技能実習を実施し、帰国後、その習得した技能等をいかせる業務に就く予定である者。 短大等以上の学歴のある外国人は、「企業内転勤」や「技術・人文知識・国際業務」等の在留資格で入国して就労可能となるため、技能実習生は、高卒以下の学歴のある外国人を対象としています。

(3)技能実習制度の現状

 2016年12月末現在 「技能実習」の在留資格者は、22万8588人(1年目の1号 10万2635人、2年目3年目の2号 12万6003人)、国籍別@ベトナム8万8211人(39%)、A中国8万8507人(37%)Bフィリピン2万2674人(10%)Cインドネシア2万2550人(10%)Dタイ7279人(3%)
 職種別では、機械金属、繊維衣類、食料品製造、農漁業など74職種(2016年)

(4)不正行為・労基法違反・失踪者数

 2016年、入国管理局による技能実習に伴う不正行為の認定数は 239機関、労働基準監督署による実習実施機関に対する監督指導数5672件(うち労働基準法違反数4万0004件、技能実習生の失踪者数5058人、途中帰国10648人、死亡4名

2、技能実習法による新しい技能実習制度

(1)(政府の考える)現行技能実習制度の問題点

  1. 保証金等を徴収するなど不適正な送出機関の存在している。
  2. 監理団体や実習実施者の義務や責任が不明確で、実習実施体制が不十分である。
  3. 民間機関である国際研修協力機構(JITCO)が、法的権限がないまま巡回指導を行っている。
  4. 実習生の保護体制が不十分である。
  5. 業所管省庁等の指導監督や連携体制が不十分である。

(2)技能実習生制度の適正化

  1. 技能実習の基本理念・関係機関(国・実習実施者・監理団体の責務、技能実習生)の責務・基本方針を定める。
  2. 技能実習生ごとに作成される技能実習生計画を認定制とし、実習実施者について届出制とし、監理団体について許可制とする。
  3. 技能実習生の保護に関する措置を講ずる。
  4. 関係行政機関等による地域協議会を設置する。
  5. 法的根拠と強制力を持つ外国人技能実習機構を認可法人として新設する。
  6. 送出国の政府と政府間取決めを作成する。(ベトナムとカンボジアとは締結)

(3)技能実習生の保護政策

  1. 技能実習の監理団体や実習実施機関への管理監督の強化(許可制・認定制・届出制導入)。
  2. 電話と電子メールに対応し、母国語による通報や相談窓口の整備と一時退避先の提供など技能実習生への相談支援体制の整備。
  3. 監理団体や実習先に実習継続が困難な場合の届け出義務、対応義務を法律に明記し、実習生の転籍先の調整も含む支援を実施するなど実習先変更支援体制の整備。
  4. 監理団体や実習実施先の法律違反事実に対して実習生に申告できることを法律に明記し、進行を理由とする不利益取り扱いに罰則(刑事罰)を整備。
  5. 罰則の整備(刑事罰)(暴行・脅迫など強制行為等)「1年以上10年以下の懲役または、20万円以上300万円以下の罰金」、(違約金や貯金の管理、旅券の保管、私生活の自由を不当に制限、申告を理由にする不利益取扱い等)「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」を科すなど。

(4)技能実習制度の拡充

  1. 技能実習期間最大3年間から5年間へ
     在留資格「技能実習3号」を新たに設け、優良な監理団体や実習実施機関に3年間実習終了後、一旦帰国し、最大2年間(4年目、5年目)の技能実習の受入れを可能とする。
  2. 技能実習生の受入れ人数の拡充
     常勤従業員に応じた技能実習生の受け入れ人枠を最大5%から10%へ拡大する。
  3. 技能実習生の受け入れ対象職種の拡充
     2016年現在 74職種 133作業を、地域限定の職種や企業独自の職種、複数職種の実習の措置を認めて拡充する。また、「介護」の職種を技能実習として追加 。

3、技能実習法に基づく新たな実習制度の課題

 新しい制度には、「@最低賃金レベルの低賃金労働の現状を改善できるか、A横行している技能実習生の強制帰国を阻止できるか、B技能実習生の実習先の変更がどこまで可能となるか、C外国人技能実習機構、技能実習生の人権保護のためにどこまで実働するか、D送出国の政府と日本政府の取り決めで送り出し機関を規制し、保証金や違約金など禁止できるか」という課題がある。

4、技能実習制度の根本的問題

 今回の新しい技能実習制度の施行は、これまで「現代の奴隷制度」や「深刻な労働搾取」など外国人技能実習生への人権侵害制度との批判をなくし、一部の悪質な受入れ機関(監理団体や実習実施機関)を淘汰し、優良な受入れ機関に優遇措置を施して、制度を発展途上国への技能移転という目的に近づける意図がある。 しかしながら、送出国から来る外国人技能実習生の9割以上が技能習得でなく労働目的であり、又日本国内の受入れ機関の9割以上が、技能移転でなく安価な労働力として受け入れている実態がある限り、その意図は早晩破綻すると思われる。 そして、限られた人員(全国に330人)しかいない外国人技能実習機構で守れる技能実習生の人権もまた限られたものとならざるを得ない。

 今後とも拡大深刻化する日本国内の労働力不足に対して、建前と本音が大きく乖離している技能実習制度の拡充を図り当面を乗り切ろうとする小手先の政策から、実態に合わせて、外国人労働者としての受入れを正面から検討して、段階的に実施していく政策転換こそ求められている。

 

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