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コムスタカ―外国人と共に生きる会 Kumustaka-Association for Living Togehte with Migrants

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須藤眞一郎行政書士事務所気付

ベトナム人技能実習生の死体遺棄容疑事件刑事裁判の報告

2021年6月30日
コムスタカ 代表 中島 眞一郎

 ベトナム人技能実習生レー・ティー・トゥイ・リンさん(以下、リンさん)は、2020年11月19日に死体遺棄容疑で熊本県警に逮捕されました。 そして、同年12月10日に熊本検察庁により同罪で起訴されました。 約2ヶ月間警察署で勾留されていましたが、2021年1月21日に、保釈金200万円で、裁判所から保釈が認められ釈放されました。 また、リンさんは、従前の実習先が「マスコミが取材に来て迷惑する」として継続的実習を断られたため、新しい実習先を見つけ、転籍の手続きをへて2021年2月下旬から技能実習を再開しました。
 保釈が実現したことで、弁護側が、有罪を認めて情状酌量による執行猶予を得るという、それまでの方針から、リンさんの意思を踏まえて、無罪主張へ方針を変えたため、同年2月2日の刑事裁判の第一回公判は、裁判所の職権で取消しとなりました。
 この刑事裁判で、無罪を認めさせていくために、これまで1名の弁護士から弁護士2名を増やして3名で弁護団を構成することになりました。
 2月12日弁護側の無罪主張を受け、裁判所は公判前整理手続(証拠や争点を整理する手続き)を行うことを決定しました。 これまで、2月から5月にかけて計5回、裁判所で公判前整理手続の事前協議(裁判官、検察官、弁護人の三者による)が開かれ、弁護側の無罪立証方針や証拠意見が提出され、検察官の反論がなされてきました。
 リンさんの事件は、そもそも、死体遺棄罪が本件に適用できるのかという問題とともに、この事件の背景には、帰国させられることを恐れて妊娠・出産を相談できない技能実習生の抱える問題及び、孤立出産する女性への刑事罰の適用の問題、とりわけ死産の場合の刑事罰の適用の可否という重要な問題があります。
 リンさんは、保釈後見つけた新しい技能実習先で、技能実習を継続しながら、刑事裁判の被告人として無罪を主張して、自らのため、そして同様の悩みや問題を抱えている技能実習生のために、闘っています。 また、法曹三者の枠内で無罪主張していても無罪を実現できないと判断し、世論に広く無罪であることを訴えるため、4月24日には熊本市国際交流会館6階ホールで記者会見を開きました。 記者会見では、リンさん自身は顔を写さず声も変えることを条件にマスコミの前に出席して、自らが日本語書いた「マスコミの前で訴えたいこと」を読み上げ、弁護団の無罪主張の説明ととともに、記者会見を行いました。
 2021年5月10日の第3回進行協議後に検察官が、熊本県警芦北警察署に保管されている双子の遺体を遺族に引き渡すことを許可しました。
 それを受けて、5月12日(水)午前中に芦北警察署で双子の遺体の引き取りと、死体検案書を受け取りました。 そして、同日午後、熊本市役所で火葬許可書を発行してもらい、翌日の5月13日午前中に、熊本市東区戸島にある熊本市斎場で、双子の遺体を火葬しました。 リンさんが、スイッチを押して、30分程度で火葬が終わり、持参した骨壺に収骨しました。 死産から、約6カ月を経て、双子の遺体は無事火葬され、遺族である母親の元に戻ることができました。
 リンさんの刑事裁判は、4回の裁判所での法曹三者による進行協議をへて、2021年6月21日に第1回公判が開かれることになりました。
 5回の裁判所での法曹三者による進行協議をへて、2021年6月21日(月)に第1回公判が開かれ、リンさんの被告人質問が行われました。 そして、同年7月13日(火)に第2回公判が、同年7月20日(火)に判決が宣告されることになりました。


弁護人による主張の要旨 2021年4月24日

リンさん刑事裁判弁護団
主任弁護人 石 黒  大 貴

1 事案の概要

 技能実習生の立場で妊娠が発覚すれば、母国ベトナムに帰国させられ家族に迷惑がかかることを恐れたリンさんは、一人で妊娠の事実を抱え込み、令和2年11月15日午前中、自宅の自室で双子を出産した。 すぐに死産であることが分かったが、産後直後の疲労と精神的疲弊によって、休息をとったのちに、わが子をそのままにできないとの思いから、目の前にあった段ボールにタオルを敷き、子どもらを箱の中に納めた。 さらに上からタオルをかけ、休憩をとりながら子どもらの名前を考え、名付けた名前と「安らかに眠ってください」とのメッセージを書いた紙を上にのせ、自室にあるリンさんの腰の高さほどの台(キャビネット)の上に置いた。 本件は、出産当日である令和2年11月15日中のリンさんの上記行動が、「葬祭義務」に違反した死体の「放置」であるとして、死体遺棄罪であるとして起訴された事案。

2 死体遺棄罪とは

 死体遺棄罪(刑法190条)は、死者に対する社会的風俗としての宗教的感情を保護法益としている。 裁判例上、「宗教風俗上、死体の処置に関し、道義上首肯しえないような方法で埋葬、冷遇放置、隠匿する場合」には死体遺棄罪が成立するとされている。 また、葬祭義務を有する者が、これに違反して、死体を放置しその場から離去する場合に、「放置」という不作為(何もしないこと)を理由に死体遺棄罪の成立を認めている。 なお、この「葬祭義務」というのは、法令上の規定はなく、慣習上の義務とされている。

3 墓埋法との関係

 墓地埋葬等に関する法律(通称「墓埋法」)3条本文において、「埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外、死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない」と規定されている。 リンさんは何もしなかった「放置」を理由に起訴されているが、死産当日の15日中に葬祭義務の履行を要求することは、死後24時間以内の埋葬・火葬を禁止する法律の規定と明らかに矛盾する。

4 弁護人の主張

 弁護人は、前項3の墓埋法上の規定から、15日当日のリンさんに葬祭義務を要求することはできないことを主張しつつ、そもそもリンさんが行った行為は遺体の冷遇放置ではなく、埋葬のため安置であることを主張している。
 すなわち、リンさんのとった行為は、死産直後の肉体的・精神的に疲弊しきった状態で、限られた身の回りの物で棺を作り、我が子の遺体を入棺した行為であって、これを葬祭義務に違反した放置とは評価できない。 なお、死産した嬰児の遺体を紙箱に入れている産婦人科も存在する。
 また、リンさんは、自らの体調が回復したのちに子どもらを埋葬する意思を有していたが、言語も文化も異なる日本において、死産した場合の埋葬手続もわからなかった状態であった。
 そして、長時間のお産に伴う苦痛に一人で苦しみながら産み落とした子どもが死産であった状態下において、リンさんにどこまでの行動を期待できたのかという点(期待可能性)が大きく問題になる。
 葬祭義務が具体的に何を意味するのかは明らかにされておらず、リンさん自身が体力的・精神的に限界の中で、彼女がとった精一杯の行動は、刑罰を以って処罰されなければならいのかは極めて疑問である。
 本件で死体遺棄罪が成立してしまえば、妊娠の事実が発覚すれば帰国させられる恐怖に怯える技能実習生は当然のこと孤立出産を余儀なくされ、死産した母親たちが、出産当日に何もしなかったことを理由に、死体遺棄罪で逮捕される例が増えることに大変な危機感をいただいている。
 弁護団としては、何としてもリンさんの無罪を勝ち取る決意である。

以 上

「記者会見で述べたいこと」 2021年4月24日

ベトナム人技能実習生 レー ティ トゥイ リンさん

 私はベトナム人の レー ティ トゥイ リンといいます。 マスコミの皆さんの前で話をすることには、とても怖くて悩みましたが、昨年11月、私が警察に逮捕されてから、多くの方々に支援していただきました。 おかげさまでマスコミの前で話す勇気が出ました。 皆様には、ほんとうにお世話になり、心から感謝しています。

 私は2018年8月、日本に技能実習生として働きに来ました。 日本に来るために150万円もの費用を工面したので、ベトナムの家族のため、農家で一生懸命働きました。 2020年5月ぐらい妊娠していることが分かりました。 しかし、妊娠した実習生が帰国させられたことも聞いていましたので、ベトナムに帰らされることが怖くて、組合や社長さんに言うこともできず、だれにも相談することができませんでした。

 お腹の赤ちゃんが動いているのを感じながら、苦しかったのですが、2020年11月14日午前中まで働きました。 その日の夜お腹がとても痛くて、胎児が動かなくなりました。 一晩中苦しみながら、一人で、15日の午前中、部屋で双子の赤ちゃんを死産しました。 双子は全然泣かないし、呼吸もしないし、触っても反応しませんでした。 そのとき、体調が悪くて、心細くて、怖くて、自分の子どもの遺体を見て心がとても痛みました。 母として丁寧にダンボールに白いタオルを敷いた上に2人の遺体を入れ、青いタオルをかけました。 またベトナム語で双子の名前を付け、「安らかに眠ってください」という弔いの言葉をかいた手紙をダンボールに入れ、自分の部屋の棚の上におきました。 もちろん、自分の子どもを捨てることは考えませんでした。 検察官は、この日の私の行動について起訴していますが、その日は体がきつくて、怖くてどうしたらいいのかわかりませんでした。 それが無罪を主張する理由です。

 今、私が一番望んでいることは、芦北警察署に保管されている私の子どもの遺体を1日も早く引き取り、火葬して、弔いたいということです。

 最後に、マスコミの皆さんにお願いがあります。 新しい実習先や個別に私への取材はしないでくださるようにお願いします。 今の新しい実習先に影響が及びます。 そして私も皆さんの助けを頂きながら、安心して働きたいと思っています。

 心からお願いします。

 どうもありがとうございました。

 

4月24日の記者会見の様子

【以下は、4月24日に行われた記者会見の際の質疑応答の内容です】

    
    

Q.(記者)無罪主張は初めてのケースか?     
【回答 弁護士】 少ない事例のうちの一つ。外国人拘留されると保釈されない。そういう場合、争えない。死体遺棄罪として有罪としていいのか?という問題。

Q.(記者)執行猶予が付いた場合、帰国して再度入国できなくなるのか? 
【回答 コムスタカ 中島】 入管法上、死体遺棄罪で有罪となって懲役1年以上の実刑の場合には退去強制となるが、執行猶予が付くと退去強制とならない。 しかし、懲役1年以上で執行猶予付きの場合でも、入管法第3条の上陸拒否事由に該当して、再上陸は原則できない。

Q.(記者)150万円の借金があるということでその借金の名目は?
【回答 リンさん】 日本に来る前、ベトナムのセンターでの日本語の勉強、飛行機代など。あとは、ベトナムのあっせん機関に支払うための借金。

Q.(記者)昨年11月、警察に逮捕されたときどのように感じたか?
【回答 リンさん】 とても怖かった。なぜ私が捕まったのか理由もわからず怖かった。

Q.(記者)今日マスコミの前にいることは怖かったということだったが、どんな気持ちで今日いたか?
【回答 リンさん】 今もすごい緊張しているが、みんなが支援してくれて、感謝の気持ちでいっぱい。無罪であることを話したい。

Q.双子の子どもを出産できていたらどんなふうに育てていたか?
【回答 リンさん】 ベトナムに連れて帰って育てたかった。

Q.死産か出産かわからない状況と最初聞いているが、死産と書いてある。どこまで認められるか?
【回答 弁護士】 死産か、出産直後に亡くなっていたと検察官も認めている。

Q.(記者)子どもの名前なんと付けたのか?どういう意味か?
【回答 リンさん】 コイ(かっこいい)とクォン(強くたくましく)と名付けた。

Q.(記者)生まれたときに亡くなっていたとのことだが、なぜそんな名前を付けたか?
【回答 リンさん】 安らかなところ、天国でも元気にいれるように、という意味。

Q.(記者)妊娠した実習生が帰国させられていたということを知っていた、ということだったが、友達なのか、ベトナムコミュニティでそういった話を聞いたのか?
【回答 リンさん】 インターネットで知った。

Q.同じように実習生が苦しまないように、どういう風にしていくべきかリンさんからの思いを聞かせてほしい。
【回答 弁護士】 妊娠して死体遺棄という犯罪で処理されるような世の中になってほしくない、という思いでこのような場を設けている。 どこの国で妊娠したら帰国させられることはない、というばかなことはないように。 実習機構から通知は出ているとしても実習生には知られていない。 実習生はきちんと法律で守られているということをいろいろなチャンネルで知ってほしい。

Q.(記者)妊娠したらどうしたらいいか、監理団体からどういう情報をどの程度知らされていたか?
【回答 弁護士】 リンさんには答えようがないが、知らされておらず、監理団体は実習している現場にほぼ来ていなかった。

Q.(記者)子どもたちの死体を埋葬する意思があったという主張だが、その主張の判断はなぜ?
【回答 弁護士】 産んだ子どもが亡くなっていた、出産直後の疲弊がすさまじかった、という中で、どのように子供を弔とうか、という状況。 妊娠した事実を当時誰にも相談できず、産んだ子どもを隠す、ということはしていなかった。 埋葬の意思はあったという前提で考えている。

Q.(記者)妊娠が分かった時、どういう気持ちだったか?
【回答 リンさん】 怖い気持ちとうれしい気持ち。

Q.(記者)子どもらを火葬してあげたいという言葉があったが、裁判が終わったらどのように過ごしたいか?
【回答 リンさん】 子どもの供養ができていないので、遺体を引き取りたいという意思があり、引き取ったら火葬し、納骨してベトナムに持って帰りたい。

Q.(記者)今の新しい実習先では安心して働けているか?
【回答 コムスタカ中島】 マスコミの影響がなければ大丈夫かと思う。

Q.(記者)警察が遺体を引き渡さないという理由は?
【回答 弁護士】 芦北警察署は長く置いときたくないが、検察官が反対している。 検察官に弁護士から遺体の引き取りを依頼しているが、被告人が無罪主張しているため、遺体に証拠価値があるため引き渡せない、とのこと。 検察官は、リンさんに対しては死体を埋葬していないという理由で死体遺棄罪を適用しながら、リンさんの埋葬したいという気持ちには反している。 不当な対応だと思う。

Q.(記者)今後について、在留期間は残りどのくらいまでか?
【回答 弁護士】 今年の8月21日まで。刑事裁判は、在留期限の8月21日まで第一審を終わらせる審議計画を策定している。

Q.(記者)家族に仕送りしているということだが、ベトナムに家族は何人いるか?
【回答 リンさん】 答えたくありません。

Q(記者)日本に対してどのような気持ちをもって日本に働きに来ていたか?
【回答 リンさん】日本に来る前は、日本がとても良い、バラ色のイメージだった。

Q.(記者)いろいろな国がある中でなぜ日本で働きたかったのか?
【回答 リンさん】 ・・・・  

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