2022年 3月23日 中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
熊本県内在住(2018年当時)のフィリピン籍の技能実習生(サマニエゴ ビエンヴェニド アパブラ SAMANIEGO BIENVENIDO APABLA)さんが原告となり、監理団体(協同組合 アーバンプランニング)と実習実施者(株式会社やすらぎ住建)を被告として、損害賠償等総額約538万円の支払いを求めて熊本地方裁判所に2018年6月29日提訴しました。
そして、2021年1月29日に、第一審 熊本地方裁判所で判決が言い渡され、強制帰国の問題に関して被告のうち監理団体アーバンプラニングにのみ慰謝料として50万円、弁護士料として5万円の合計55万円の支払いを命じる一部勝訴の判決でした。
原告は、この判決を不服として、福岡高等裁判所に控訴しました。 そして、福岡高等裁判所での1年ほどの審理をへて控訴審判決が、2022年2月25日午後1時10分から福岡高等裁判所1003号法廷で言い渡されました。
福岡高等裁判所第2民事部(岩木 宰 裁判長裁判官)は、
「主文
- 原判決を次の通り変更する。
- 被控訴人組合は、控訴人に対して、88万円(うち33万円については被控訴人会社と連帯して)及びこれに対する平成30年6月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 被控訴人会社は、控訴人に対して被控訴人組合と連帯して33万円およびこれに対する平成30年6月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
- 控訴費用は、第1、2審を通じ、控訴人と被控訴人の組合との間においては、これを10分し、その7を控訴人が負担とし、その余を被控訴人組合の負担とすし、控訴人と被控訴人の会社との間においては、これを10分し、その9を控訴人の負担とすし、その余を被控訴人の会社の負担とする。
- この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。」
と言い渡しました。
2021年1月29日原審の熊本地裁判決が、この訴訟の最大の争点であった厚生労働省の「とび作業」の定義に関する指針を、独自の文理解釈で、民家の解体工事や道路の補修工事も、「とび作業」の必須作業となるという判決で、監理団体と建設会社の責任を認めませんでした。
その一方で強制帰国の問題で、監理団体が転籍できるという説明をしなったことから、監理団体にのみ不法行為の成立を認め、原告に慰謝料50万円、弁護人の弁護料として5万円の合計55万円の支払い命じました。
原告のこの判決を不服として福岡高裁に控訴しました。
被告の監理団体と建設会社は控訴しませんでした。
福岡高裁の控訴審では、控訴人側から、1審の審理中にも回答を求めて証拠提出していましたが、原審判決の誤りを明らかにするために、原審判決の見解に対する厚生労働省への「とび作業」の定義に関する調査嘱託を裁判所に申し立てました。
被控訴人2者は、この申し立てに不要として反対しましたが、福岡高裁は採用を決定して、2021年8月下旬に厚生労働省から回答がありました。
これに基づいて、控訴人と被控訴人が第一準備書面(最終準備書面)をそれぞれ提出し、2021年12月に結審しました。
控訴審では、「とび作業」の定義をめぐる争いしか双方行っていませんので、本日の判決は、厚生労働省の技能実習の職種のなかの「とび作業」の定義の見解や運用に沿ったまっとうな判決が言い渡されたと理解しています。
控訴人側は、一抹の不安はありましたが、このような審理の流れから金額は多くの増額は望めないかもしれないが、争点に対する逆転勝訴判決が出る可能性が高いと予想していました。
そして、
「@ 監理団体にパスポートなどを取り上げ強制帰国させようとし、転籍の選択肢があることを技能実習生に説明しなかった場合には、不法行為が成立し、技能実習生に慰謝料請求権が認められること、A 技能実習計画の認定を受けた職種や作業と異なる作業をさせた場合(技能実習計画の齟齬)にも、不法行為が成立し、技能実習生に慰謝料請求権が認められる」高裁判例を、初めて作り出すことができました。
控訴人は、旧法下の技能実習生であるため、外国人技能実習機構でなく、福岡出入国在留管理局は、この控訴審判決を受けて、監理団体と実習先の会社に不正行為として行政処分を今後行うと思われます。
技能実習生をめぐる裁判の中でも画期的な判例となりました。
判決を聞いて
(2022年2月25日記者会見での控訴人のコメントの日本語訳を再度紹介しておきます)
控訴人である私(サマニエゴ ビエンヴェニド アパブラ)は、今日の判決を聞き、一部勝訴判決を導いてくれた弁護団、および私のことを助けてくれたすべての皆さんに、心から感謝しています。
認められた金額として不満ですが、日本の裁判所が、私の主張を認め、被告の責任を認めたことは評価したいと思います。
私が裁判の提訴した2018年6月から約3年半の期間、日本から遠いフイリピンにいる私と弁護士の間のコミュニケーションをとり、今日の一部勝訴判決をもたらしてくれた通訳や支援者の方々に、感謝しています。
私が日本で技能実習をしていた時、悔しい思いをしましたが、こうやってあきらめないで戦い続けた結果、私の正義の要求が、日本の裁判所で一部でも正当なものであることが認められました。
私と同じように悩み、悔しい思いをしている技能実習生の人たちに、あきらめないで勇気をもって、声をあげること訴えます。
2022年2月25日
SAMANIEGO BIENVENIDO APABLA 署名
追記 逆転勝訴となった福岡高裁の判決が確定しました。
2022年2月25日のフイリピン人技能実習生の監理団体(アーバンプラニング)と実習実施者(株式会社やすらぎ住建)に対する損害賠償等請求訴訟の控訴審判決(強制帰国などに関する慰謝料など不法行為を認め慰謝料等55万円を監理団体に認めた1審判決に加え、1審で認められなかったとび以外の仕事をさせていたことに対して不法行為の責任を認め、監理団体と建設会社に連帯して33万円の支払いを命じる逆転勝訴判決でした)に対して、控訴人は上告しない方針でした。
一方、被控訴人である監理団体は3月11日、建設会社が3月15日の控訴期限でしたが、2022年3月16日に弁護士を通じて福岡高裁に確認したところ、いずれも上告期限を過ぎても上告しておらず、2022年2月25日の福岡高裁の判決は確定しました。
技能実習生から相談を受けた2018年1月から4年余り、裁判を提訴した2018年6月29日から4年近くかかりましたが、一部勝訴で終了することができました。
補足説明 この訴訟の主な争点
原告が実習実施機関(企業)で入管により認められていた職種は、「とび職(とび作業)」でした。
しかし、被告企業での実際の実習内容は、一般住宅の解体や道路の修復工事で、バックフォーという重機の運転をする土木作業という異なる職種でした。
2016年10月14日から2018年1月20日に退職するまでの期間中、認められていない職種や作業に従事させられていたこと、労働安全衛生法上で、講習等の資格の必要な重機の運転を9か月間資格なしでさせられていたこと、実習中に2度ケガをしますが、医師に「仕事中のけがであること」をいわないようにいわれ労災隠しが行われたこと、日報に勤務時間が午前8時から午後5時と書くように言われ、実際の残業代が支払われなかったこと、給与から不当な控除が行われていたこと、そして、以上のことは実習実施機関だけでなく、監理団体も容認して行われていたこと等の問題がありました。
また、原告が残りの在留期間中の転籍の意思を表明しましたが、被告監理団体が転籍の措置を講じる義務を果たしていませんでした。
被告側は、これらの原告の主張をすべて否定していました。
原審の熊本地裁は、2021年1月29日そして、約2年半余りをへた2021年1月29日被告のうち監理団体アーバンプラニングにのみ原告への強制帰国に関する不法行為の成立を認め、原告に慰謝料50万円、弁護士料5万円の総額55万円の支払いを命じました。
この判決は、強制帰国に関する事実認定を行い、被告監理団体の原告への不法行為の成立を認め慰謝料の支払いを認めましたが、監理団体や実習実施者 株式会社やすらぎ住建に対する他の請求は認めず棄却されました。
その為、原告は、2021年2月9日控訴しましたが、被告の監理団体と実習実施者の双方とも控訴期限までに控訴しませんでした。
控訴審では、控訴人側は、「とび職(とび作業)の定義」に関する厚生労働省への調査嘱託を申立てたところ、これを福岡高等裁判所が採用し、厚生労働省からの回答書が証拠として採用され、この回答に対して、控訴人と被控訴人双方が最終準備書面を提出し、2021年12月15日に結審しました。
そして、控訴審判決が、2022年2月25日に言い渡されることになりました。