中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
2018年6月29日、熊本県内在住(当時)のフイリピン人技能実習生(サマニエゴ ビエンヴェニド アパブラ SAMANIEGO BIENVENIDO APABLA)さんは、監理団体(協同組合アーバンプランニング)と実習実施者(株式会社やすらぎ住建)を被告として、損害賠償等総額約538万円の支払いを求めて熊本地方裁判所に提訴しました。
そして、2021年1月29日に判決が言い渡され、強制帰国の問題に関して被告のうち監理団体アーバンプラニングにのみ慰謝料として50万円、弁護士料として5万円の合計55万円の支払いを命じる一部勝訴の判決が出ました。
原告のサマニエゴさんは、この判決を不服として、福岡高等裁判所に控訴しました。
そして、福岡高等裁判所での1年ほどの審理を経て、2022年2月25日、福岡高等裁判所で判決が言い渡されました。
福岡高等裁判所第2民事部(岩木 宰 裁判長裁判官)は、
「主文
- 原判決を次の通り変更する。
- 被控訴人組合は、控訴人に対して、88万円(うち33万円については被控訴人会社と連帯して)及びこれに対する平成30年6月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 被控訴人会社は、控訴人に対して被控訴人組合と連帯して33万円およびこれに対する平成30年6月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
- 控訴費用は、第1、2審を通じ、控訴人と被控訴人の組合との間においては、これを10分し、その7を控訴人が負担とし、その余を被控訴人組合の負担とし、控訴人と被控訴人の会社との間においては、これを10分し、その9を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の会社の負担とする。
- この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。」
と言い渡しました。
原審の熊本地裁判決は、この訴訟の最大の争点であった厚生労働省の「とび作業」の定義に関する指針について独自の文理解釈をし、民家の解体工事や道路の補修工事も、「とび作業」の必須作業となると判断し、監理団体と建設会社の責任を認めませんでした。
その一方で強制帰国の問題では、監理団体が転籍できるという説明をしなかったことから、監理団体にのみ不法行為の成立を認めました。
原告はこの判決を不服として福岡高裁に控訴しました。被告の監理団体と建設会社は控訴しませんでした。
福岡高裁の控訴審では、控訴人側から、原審判決の誤りを明らかにするために、原審判決の見解について、「とび作業」の定義に関する厚生労働省への調査嘱託を裁判所に申し立てました。
被控訴人2者は、この申し立てを不要として反対しましたが、福岡高裁は申し立てを採用し、2021年8月下旬に厚生労働省から回答がありました。
これに基づいて、控訴人と被控訴人が第一準備書面(最終準備書面)をそれぞれ提出し、2021年12月に結審しました。
控訴審では、「とび作業」の定義をめぐる争いしか双方行っていませんので、本判決は、厚生労働省の技能実習の職種のなかの「とび作業」の定義の見解や運用に沿ったまっとうな判決が言い渡されたと理解しています。
控訴人側は、一抹の不安はありましたが、このような審理の流れから金額は多くの増額は望めないかもしれないが、争点に対する逆転勝訴判決が出る可能性が高いと予想していました。
控訴人は上告しない方針でした。
一方、被控訴人である監理団体控訴期限は3月11日、建設会社が3月15日でしたが、2022年3月16日に弁護士を通じて福岡高裁に確認したところ、いずれも上告期限を過ぎても上告しておらず福岡高裁の判決は確定しました。
そして、
@監理団体にパスポートなどを取り上げ強制帰国させようとし、転籍の選択肢があることを技能実習生に説明しなかった場合には、不法行為が成立し、技能実習生に慰謝料請求権が認められること、
A技能実習計画の認定を受けた職種や作業と異なる作業をさせた場合(技能実習計画の齟齬)にも、不法行為が成立し、技能実習生に慰謝料請求権が認められるという高裁判例を、初めて作り出すことができました。
技能実習生から相談を受けた2018年1月から4年余り、そして裁判を提訴した2018年6月29日から4年近くかかりましたが、一部勝訴で終了することができました。
控訴人は、旧法下の技能実習生であるため、外国人技能実習機構でなく、福岡出入国在留管理局が、この控訴審判決を受けて、監理団体と実習先の会社に不正行為として行政処分を今後行うと思われます。
追記:入管は、監理団体アーバンプランイングや実習実施者 やすらぎ住建への行政処分を2023年8月末現在行っていません。
2022年2月25日の記者会見でのサマニエゴさんのコメントの日本語訳
「判決を聞いて」
控訴人である私(サマニエゴ ビエンヴェニド アパブラ)は、今日の判決を聞き、一部勝訴判決を導いてくれた弁護団、および私のことを助けてくれたすべての皆さんに心から感謝しています。
認められた金額は不満ですが、日本の裁判所が、私の主張を認め、被告の責任を認めたことは評価したいと思います。
私が裁判を提訴した2018年6月から約3年半の期間、日本から遠いフイリピンにいる私と弁護士の間のコミュニケーションをとり、今日の一部勝訴判決をもたらしてくれた通訳や支援者の方々に、感謝しています。
私が日本で技能実習をしていた時、悔しい思いをしましたが、こうやってあきらめないで戦い続けた結果、私の正義の要求が、日本の裁判所で一部でも正当なものであることが認められました。
私と同じように悩み、悔しい思いをしている技能実習生の人たちに、あきらめないで勇気をもって、声をあげること訴えます。
2022年2月25日
SAMANIEGO BIENVENIDO APABLA
※以上の記事は、コムスタカニューズレター第109号に掲載したものです。