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コムスタカ―外国人と共に生きる会 Kumustaka-Association for Living Togehte with Migrants

〒862-0950 熊本市中央区水前寺3丁目2-14-402

須藤眞一郎行政書士事務所気付

東アジア市民に向けて踏み出した一歩

「東アジア市民共生映画祭2012」を終えて

申明直(熊本学園大学・東アジア学科教授)

熊本市現代美術館がいっぱいになった。空席がありやしないかと心配していたが、舞台の前まで客席が埋まった。2−3回リハーサルをしたからか、司会、照明、音響、舞台進行全てが抜かりない。そこで問題が生じた。熊本到着の飛行機が一時間延着だという連絡が来たのである。仕方なくゲスト紹介を最初の映画上映の後に回す他なかった。開幕セレモニーの番が来た。2−3ヶ月練習してきたK-POP少女時代チーム(熊本学園大学東アジア学科一年生七名で構成)のダンスはいつ見てもパワーと初々しさが溢れる。次は中国の歌の番。PVと共に「北京歓迎迩」という歌を熊本学園大学の学生たちと中学からの留学生たちが共に歌ってみせた。最近東アジアをめぐって周りがいかにうるさくとも東アジアの若者たちが共に歌って踊る友情の歌を止めることは出来なさそうだった。赤いセーターの若々しさが東アジア市民たちの拍手を受けて輝いた。

映画「スペイン・モンドラゴンの奇跡」は遠いヨーロッパの話ではなかった。シネマトークパネルで登場したグリーンコープの佐々木氏は映画を通して日本生協の新しいビジョンを見つけることが出来たと述べた。スペイン・モンドラゴンは正に日本と韓国の悩みを洗い出した鏡であり、新しいビジョンであった。韓国の大学卒業者の中で30−40%しか正規職での就業が出来ず、日本の卒業生の20−30%が非正規職として就業する現実において、解雇がないだけでなくかえって正規職雇用が増えているというモンドラゴンの話は言葉通りの「奇跡」のように思えた。シネマトークに登場したリュ・ジヨルプロデューサーは、このような奇跡は「バスク地域の人々の間にある密接な愛情と共同体意識」から来るものだと述べた。

共同体意識がはじめから密接に形成された訳ではもちろんないだろう。「生産」と「生活」の協同組合がどのように国境を超えて密接な共同体を作って行けるか気になった。グリーンコープの佐々木委員長はフィリピンさとうきび農民との交流、東ティモールあるいはパレスチナ農民たちとの交流を通じた既存の活動をより発展させたいと述べ、韓国の社会的企業「バリの夢」キム・ヒョンドン代表はロシア沿海州高麗人農民たちと韓国・日本の市民たちとの連帯を形成して行けるかについて語った。映画祭を通じて、生産する人々と消費する人々のネットワークをつくることが出来たらという思いがよぎった。通訳を介しての機会だったためトーク時間が足りず、深い話まで進むことが出来ずとても残念だった。トーク時間を増やした方が良さそうだ。

しかし映画「スペイン・モンドラゴンの奇跡」台本を翻訳するため、日本人学生たちと留学生たちが共に知恵を合わせて何度も原稿を直していた姿は、どう考えても本当に美しい風景としか言いようがない。若い学生たちのこのような情熱が東アジア共生経済を推し進める原動力ではないかと思う。

映画祭「セッション2」の台湾映画「ピノイ・サンデー」上映が終わり、シネマトークに突入した。前NHK香港駐在特派員であり熊本学園大学教授を勤めていらした横澤先生は、台湾や香港のフィリピン人コミュニティの話をして下さった。カトリック信者の多いフィリピン人コミュニティは映画のように日曜日のミサが終わると、教会を囲むように形成された居住地域周辺を中心に活発な交流活動をしているという。他郷で暮らすフィリピン人たちの笑顔と涙が共に滲んでいる場所であり、フィリピン人と中国人たちの交流が活発に行われる場所でもあると説明して頂いた。

シネマトークパネルとして参加したフィリピン出身の東アンナマリエ氏は、海外に出ているフィリピン人たちの家族愛と現地での寂しさが映画の中に溶け込んでいてとても胸が痛んだそうだ。暖かく落ち着いた声からは真実性が滲み出ていた。映画の中の「ソファ」の話も面白かった。アンナマリエ氏は「ソファ」とは移住労働者たちが夢見る、家族皆が楽に休むことのできる空間ではないかと言い、大学院生王一萍氏は台湾社会では必要ない物だが、移住労働者たちにとってはとても大切な何かに思えると述べた。横澤先生は、移住労働者たちが安楽と幸福を象徴するソファを自身の物にする過程がいかに至難であるかを映画は見せてくれているようだと述べる。

いずれにせよ、ソファは遂に工場寄宿舎に移されることはなかった。移す途中の川原の上のソファに座ってギターを弾き鳴らし、歌をうたう姿はとても美しくも強い印象を植えつけてくれた。幸せは未来にあるのではなく、その「道」の上にあるということ、幸せのソファを移すその「道」そのものを楽しめというメッセージにも思えた。主人公たちは結局、今・そこにあるフィリピンでの幸せを求めて故郷の海辺の村へと帰る。

学生スタッフたちは遅い時間に再び熊本学園大学へと戻った。一四号館ホールのセッティングを行い、夜遅くまで受付窓口のマニュアルを修正し、司会台本を直す学生たち。留学生と在学生が呼兄呼弟しながら笑い合い語り合う姿が、ある映画の一場面のようにも映った。映画祭を始めて五年余り、このような風景をずっと夢見てきたのではないだろうか。

28日はそれまで学生たちが準備してきたものをめいっぱい披露する舞台となった。「東アジア共生ネットワーク」というテーマの壁新聞を準備し、スタッフたちが活動する写真を集めて壁新聞を作り「東アジア共生カフェ」を飾り始めた。前日、一寸の間違いもない清算能力を見せてくれた受付担当スタッフたちは余裕のピースをしてみせ、スチールカメラとビデオ担当のスタッフたち、進行を受け持ったスタッフたちは音響と映像担当のスタッフたちと無線で会話しながら忙しなく動いていた。口元に自然と笑みが浮かんできた。

映画「クロッシング」は本当に重厚な響きのある映画だ。東アジアの悲劇のその只中を貫通するキム・テギュン監督のこの映画は、何度見ても何度も目元に涙を浮かばせる映画である。キム・テギュン監督の映画二編の間の休憩時間に「東アジア共生コーヒー」と「沿海州高麗人味噌」を紹介する時間を設けた。共生コーヒーのプレゼンテーションはこざっぱりしていて、沿海州高麗人味噌の紹介はその味噌の味のように無愛想でありながらも香ばしかった。その香ばしい紹介のおかげでその日試供品として持ってきた沿海州高麗人味噌は完売となった。

「裸足の夢」上映が終わり、お待ちかねのキム・テギュン監督とのシネマトーク時間。キム監督は映画俳優になってもおかしくない程カリスマのある風貌と素敵な視線、魅力的な声の持ち主であった。映画「オオカミの誘惑」や「火山高」が娯楽性の強い映画だとすれば、「クロッシング」や「裸足の夢」は社会性の色濃い映画といえるが、これらの映画を撮るようになったきっかけは何かという質問が出た。キム監督は映画「クロッシング」を製作してからあまりにも胸が痛み、何か暖かい映画を作りたかったのだが、それが映画「裸足の夢」だったという。映画「クロッシング」は色々な状況を考慮しなければならなかったのだが、特に中国での撮影は毎晩無事撮影が終わることを祈らなければならないほど、気苦労の多かった作品だという。

映画「裸足の夢」と「クロッシング」共にサッカーの場面が入っていたが、何か特別な理由があるのかという質問が出た。北朝鮮も東ティモールも、特別な遊具がない状況において、サッカーはボール一つあれば全て解決できる遊びだからだというのが監督の答えである。互いの言語が異なっても視線を交わせば通じ合える、万国共通語たるサッカー。もしかするとサッカーこそが協同と共生の言語なのかもしれない。映画「裸足の夢」サッカー競技の最後の場面、長い植民地と内戦によって傷だらけになってしまった東ティモール少年たちの傷を癒してあげたのも正にサッカーであった。葛藤と苦悩の末に内戦相手側部族の少年に差し出した一人の少年の手は、そのような意味において東アジア共生の一つの表彰ともいえる。

今回の映画祭で最も印象深かった場面は、映画「クロッシング」の最後、雨の降る場面だろう。モンゴルのゴビ砂漠でついに離れ離れになっていた父と息子を再び会わせてくれた「雨」は、葛藤と対立でひび割れてしまった東アジアの砂漠を湿らせてくれる大切な生命水にも似ている。正にそこから黄砂が始まり、次いで東アジア全域を覆うという点も興味深い。トークパネルの中地先生の指摘通り、それが自然的な意味であれ、社会的な意味であれ、東アジアの黄砂と酸性雨を共に克服するために我々は共に知恵を絞らなければならないだろう。

北朝鮮の食料不足によって死んで行く子供たちの問題を東アジアのレベルでどのように解決していくべきかを問う質問に対するキム監督の回答も印象的だった。キム監督は、そこにも人々が住んでいるということ、家族が住んでいるということを語りたかったと答えた。「国民」よりも「人」、「東アジア市民」が先立つという、いかにも素朴でありながらも偉大な真実を含ませた言葉ではないだろうか。思えば、このようなお話を聞くことが出来ること自体がとても有難く、幸せなばかりだ。

映画祭を振り返ると、至らない部分も多く恥ずかしいが、それでも目を瞑って下さる多くの方々のおかげで、小さくともここまで引っ張って来ることが出来たように思う。心の底から感謝の挨拶を申し上げたい。これからも映画祭を通してより多く考え、共に疎通できる映画祭にして行きたい。映画祭中ずっと若々しい笑い声を共有してきた東アジア学科の学生たちと、韓国・中国からの留学生たちとの交流と疎通は、今回の映画祭が作り出した最高の収穫であり、東アジア市民に向けて踏み出した小さくとも大きな一歩であると確信する。

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