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コムスタカ―外国人と共に生きる会 Kumustaka-Association for Living Togehte with Migrants

〒862-0950 熊本市中央区水前寺3丁目2-14-402

須藤眞一郎行政書士事務所気付

人身売買をなくすためのシンポジウムの報告

中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

2013年9月7日の「人身売買をなくすためのシンポジウム」(定員50人)には、約50名近くの参加者があり、熊本で、はじめて「人身売買」問題をテーマとするシンポジウムでしたが、熊本県内だけでなく福岡市や北九州市からの参加もあり、ほぼ満席の状態になるほど盛況でした。

第一部の3人の報告者の報告も内容が濃く、また第二部のパネルデイスカッション(参加者と報告者の質疑)も、30名以上の参加があり、質問や意見が参加者から途切れるこ となく、終了時間を延長して会場の締め切り時間ぎりぎりまで続きました。

参加者は、女性の参加よりも男性の参加がやや多かったこと、人身売買問題のテーマでは、マスコミの参加は、多くて一人か二人と思っていましたが、個人として参加も含めて 5社(熊日、朝日、読売、西日本、NHK)の7人からの参加がありました。

また、事前に参加要請していた関係行政機関から、熊本県国際課、熊本県警、福岡入管熊本出張所、熊本市国際交流会館から職員の参加がありました。それ以外にも弁護士や行政書士の方の参加もありました。そして、主催者のコムスタカメンバーを除いても参加者 の半分以上は、市民であり、10代後半から70代までの世代の参加がありました。

このシンポジウムの目的である、人身売買として、女性や児童への性的搾取だけでなく、 強制労働などの労働搾取があり、現代日本の奴隷制度といえる技能実習生制度がそれに該当すること、そして、アメリカ政府の人身売買問題を優先課題とする真剣な取り組み、タイや東南アジア諸国が、日本からの援助資金も活用しながら、日本よりはるかに進んでいる人身売買対策(人身取引被害者保護法制定、男性用シェルターの設置、24時間の多言語ホットラインの設置、国内外の機関と覚書(MOU)を締結し、連携した取り組みなど)を整備実施していること、そして、人身売買の被害者として技能実習生を位置づけ、現代日本の奴隷労働といえる、日本や九州における技能実習生の実態を訴える場として、参加者に大きなインパクトをお与えたようでした。


シンポジウムの参加者からのアンケートの感想より

  • 人身売買は、発展途上国の門だと思い込んでいたが、日本で重要な問題として扱うべきだと理解できた。
  • 日本国内、九州内での技能実習生のあまりに苛酷な実態がショックでした。解決にはまず多くの人に現状を知ってもらう必要があり、伝えていこうと思いました。
  • 技能実習生の多くが不当な扱いを受けていることにおどろかされ、学習しました。
  • 本当に大切なことだと思います、今までよく知らなかったことを反省しました。
  • タイにおいて政府の人身取引に関する取り組みがかなり進んでいることがわかり、大変興味深くお話を伺いました。
一、アメリカ政府の人身取引対策
国連は、2〇〇〇年に国際組織犯罪防止条約に付帯する人身取引議定書をイタリアのパレルモで採択しました。人身取引議定書は、第三条で人身売買を定義し、搾取を目的とし、暴力や騙しや権力の濫用や脆弱な立場を利用する行為、人を誘って獲得し、輸送し、引渡したり受け取ったりする手段の3つの要素で構成される犯罪であること、女性や子どもへの性的搾取だけでなく、強制労働など労働搾取や臓器売買まで含みうると明記しています。

アメリカ合衆国では人身取引議定書が採択された2〇〇〇年に、人身売買被害者保護法(TVPA)が成立しました。

アメリカ政府は、人身売買を現代の奴隷制ととらえ、国内外における優先問題と認識しています。その定義は、「人身売買は、強制労働や強制売春等からの搾取を意味し、人の移動の有無、国籍、適法か否か、性別(大人の男性も含む)、年齢も関係ないことや、被害者による搾取認識の有無、搾取されていた間の犯罪関与の有無や、暴行の有無も被害者認定に関係がない」としています。

対策として、4つのP(防止・起訴・保護・連携)の取組みが重要視し、アメリカ政府の国内外の具体的な取組みとして、人身取引の評価システム・+加害者への責任追及を可能とするため被害者の長期滞在や永住ビザ取得への道を開くTビザ・人身取引に関する司法サービスの強化・大学生などの教育の取り組みなどがあります。

アメリカ国務省は、人身売買被害者保護法(TVPA)第11〇条に基づき、翌年2〇〇1年から、毎年、各国の人身売買状況と政府の人身売買対策を、同法の最低基準と比較して3つの階層で評価する人身売買報告書を公表している。ロシアを除く主要国は、最低基準を満たす第1階層と評価されており、また、アジアでは韓国や台湾も第一階層と評価されています。しかし、日本は、2001年から現在まで最低基準を満たさない第2階層として評価されて続けています。特に2004年は、第2階層と第3階層の間の第2階層監視国との評価を受けてしまい、これが2004年からの日本政府の人身取引行動計画の策定や取組みにつながっていきます。日本の対策は、いわば外圧からはじまり、その認定基準も極めて狭く、女性や子どもへの性的搾取のみで、強制労働などは認めず、被害者認定数も、年間数十名と極めて少ない名ばかりの対策となっています。

アメリカ政府は、世界中でこの問題に取組む方のなかから、ヒーローを数人毎年表彰しています。2013年は、技能実習生など外国人労働者に対する救援活動が評価され、日本からも移住労働者と連帯する全国ネットワーク事務局長の鳥居一平氏が選ばれました。  


二、タイにおける人身取引
タイは、東南アジア地域では、経済大国であり、人身取引は、先進国との関係では「送出国」ですが、周辺国等との関係では「経由国」及「受入国」となっています。人身取引の形態は、水産加工業や漁船での性的搾取、家事労働、偽装結婚などがあります。   

タイ政府の人身取引対策  
タイには、1997年に制定された「女性と子どもの人身取引防止と撲滅に関する法律」がありましたが、2008年人身取引対策法を制定し、包括的な人身取引対策を国を挙げて取り組んでいます。同法は、人身取引対策に特化した包括的な法律で、性的搾取以外にも強制労働などを対象とし、加害者の罰則強化や男性も被害者とふくむこと、関係機関が協力して対策に当たる事や非が者支援基金を創設する等被害者支援が示されています。 また、タイでは、様々なレベルにおいて、他分野の専門化や関係機関から構成されるチームである多分野協働チーム(MDT)が人身取引のケースに取り組んでいます・MDTは、国レベル(社会開発人間安全省が、事務局の役割をはたす)だけでなく、各地方政府レベルにもあります。また、タイでは、ネ婚地域の周辺諸国(カンボジア、ベトナム、ミャンマー ラオス、中国など)と人身取引に対処する多国間合意書や二国間合意書に署名し、人身取引対策の国家間の協力関係をきづいている。

日本政府とタイ政府の人身取引対策の比較  
1、法律や対策を施行する行政機関の体制

日本では、2004年に人身取引対策行動計画が策定され、内閣官房に人身取引対策に関する関係省庁連絡会議が設置されたが、人身取引に対する包括的な法律がなく、関係省庁連絡会議も常設機関ではないのに対して、タイでは、2008年包括的な対策法である人身取引対策法が制定され、人身取引防止撲滅国家戦略及施策(2011〜2013)が策定され、首相を長とする人身取引対策委員会が設置、社会開発人間安全省に人身取引対策部が設置されている。また国内関係機関や周辺国との間にMOU(多国間・多機関覚書)が締結され、被害者救済のための連携した取り組みが進められている

2、公的被害者保護施設や被害者保護  
日本では、被害者保護施設は、地方自治体の施設である婦人相談所を公的シェルターとして指定し、あるいは民間のNGOに委託。原則2〜3週間の短期施設しかなく、長期滞在施設がなく、また、男性用の被害者施設もなく、人身取引被害者保護対策として、特化されたものはない。また、被害者の認定は、警察と入管が行うが、その認定基準が狭くかつ非公開で不透明である、2012年では、年間30人〜40人程度しか認定されていない(うち外国人被害者は入管ではわずか9名)。そして被害者と認定されても、長期滞在を可能とする施策がなく、原則3-4週間で帰国をする以外にない。

これに対して、タイでは、77あるすべての地方政府に短期滞在のシェルターがあり、全国に9つの長期滞在のシェルター(女性用4つ、男性用4つ、男児用1つ)など充実した保護施設がある。被害者認定のガイドラインが策定され公表されている。また、人身取引被害者支援基金(TIP基金)が整備され、行政の関係機関やNGO等が連携して被害者救済に取組み他分野協働対策チームが組織され、被害者が損害賠償や加害者訴追のために、長期的に取り組めることを可能とする支援のための施策が行われている。  

タイで、2008年から2012年の5年間で保護された人身取引被害者は、外国人2203人 帰国したタイ人237人とされる。日本では、2008年から2012年の5年間で警察庁の公表による人身取引被害者数は142人 (2013年は17人、うち外国人7名うち6名がタイ人)である。また、加害者処罰や予防活動においても、タイ政府の取り組みの方が、日本より進んでいます。(詳細は、NPO法人 北九州サスティナビリティ研究員  織田由紀子氏の「タイの人身売買の現状となくすための政府の取組」ご参照ください。)        

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