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須藤眞一郎行政書士事務所気付
記録 岡崎 民(コムスタカ事務局)
2018年2月11日(日)、コムスタカ−外国人と共に生きる会による今年最初のイベント「外国人と介護労働を考えるシンポジウム」をくまもと県民交流会館パレア9階第一会議室で開催しました。
三連休の中日にもかかわらず、参加者は主催者を含めて60名を超えました。
遠くは広島から、九州では佐賀・宮崎・福岡等県外からの参加もありました。
第1部では、当団体の中島代表より新しい技能実習制度についての解説と、京都大学大学院文学研究科の安里和晃准教授より「外国人と介護労働」について講演がありました。以下その講演の要旨です。
京都から参りました安里和晃と申します。今日は、外国人と介護労働がテーマですが、私からは、超高齢化するアジアを誰がケアするのか、という視点からお話ししたいと思います。さて、このたび技能実習制度に「介護」が追加され、いよいよ介護分野での外国人の受け入れが始まります。しかし、多くの病院や介護施設にとって、海外から人材をリクルートするという経験がない。フィリピンやインドネシア、ベトナムなど介護事情もよく分からない。製造業など他の分野の経験からも、海外取引が生易しいことではないということは知られています。そこで、水面下では「人漁り」とも言える現象が起きています。特にベトナムでは顕著です。良い業者に出会えれば良いのですが、そういう所だけとは限りません。知らずに悪質な業者と取引をするという事態も起きています。現在、そういう危ない橋を渡りかけている状況です。そのうち、アメリカ国務省の報告書などで「日本の介護業界は、悪質な人身売買業者から買ってきたアジアの人々に支えられている」などという指摘がされないか、懸念しています。これは決して大げさに言っているのではなく、いつ起こってもおかしくないと思っています。
ここで、アジアの国々の介護事情、人材育成事情を簡単にご紹介します。
・台湾
台湾には、在宅介護に従事する人が22万人います。
台湾では、日本の介護保険制度でいうところの要介護3程度の重度の要介護者がいる場合、家庭内に労働者を雇っていいことになっています。
その人たちが22万人います。その多くはベトナムやインドネシア、フィリピン出身です。
台北駅や公園などに行くと、外国人に車いすを押してもらっている高齢者をよく見かけます。
台湾でも、デイサービスやデイケアなどの介護サービスがあります。
日本の介護保険制度と違うのは、これは日本を反面教師としているのですが、台湾の場合、要介護者にならなくても、介護保険の受益者となることができます。
日本の場合、要介護者にならないとサービスを受けることができません。
しかし、台湾の介護サービスの考えは、要介護になる前に健康促進、疾病予防をしておく、というものです。
そこで、若い人やボランティアや、退職したばかりの元気な高齢者などを中心に、若いうちからコミュニティ活動を促進し、要介護者になったらサービスを提供するという形をとっています。
ですので、私は、「介護」という言葉は、日本の介護保険制度について語るときにしか使いません。
日本において「介護」というのは、要介護状態になってからのことを指し、(台湾のように)それ以前の健康な状態についても包含しているわけではないからです。
このように、台湾では健康なうちから準備をしておこう、という考え方です。
さて、先述のように台湾では家事労働者の多くを外国人が担っています。
家庭の中に住み込みで働いているのですから、当然様々な問題が生じます。
まず、家庭内で働いている人は、家庭の一員なのか、労働者なのか、という問題です。
斡旋業者は、「いい家庭ですよ。あなたも家庭の一員になれますよ」という言葉で誘って、フィリピンやインドネシアから人手を、動員してきます。
しかし、家庭の中に入るとはいえ、雇用契約を結んだ労働者であることは変わりないわけです。
しかし、家庭内で働くと、これは日本でも同じですが、労働基準法が適用されません。
したがって、労働現場への監督が届かず、使用者と労働者が対等な関係を結べないという事態になる。
そこで、台湾では、外国人の家事労働者による「私たちは奴隷ではない」と抗議デモが起きることもあります。
在宅介護に従事すると、重度の要介護者の場合、痰のケアや、経管栄養とか、ストーマ(人工肛門)のケアなど、医療的なケアを行わなければならないことがあります。
そして台北市が出している介護保険についてのマニュアルをみると、そういう医療的ケアが列挙されています。
私が驚いて「外国人の介護従事者は、医療的ケアを行う資格をもっていないのに行ってもいいのですか」と台北のある行政窓口で聞いたことがあります。
そこに2人の公務員がいたのですが、1人は「はい。家族の一員だから、当然やってもよいです」と答え、もう1人は「いいえ。『労働者』である以上、資格がなければ医療的ケアはできません」と答えました。
つまり、台湾の行政側も、家事従事者の地位をはっきりさせていないのです。
体よく、ある時は「家族の一員だから、医療的ケアやって下さい」と言い、またある時は「あなたは労働者です」と言う。
このように、介護には曖昧な側面があります。
介護はそもそも家族やコミュニティなど、人間関係をベースに行われてきたものなので、「労働」の概念が当てはまらない面がある。
そういう曖昧な領域を行ったり来たりするのが介護の特徴であると言えると思います。
台湾では、母国では看護師の資格をもつ人でも、台湾では介護職として働いています。
ちなみに、日本のEPA制度を使うと、母国で看護師資格を持つ人は日本でも看護師として働く道があるのですが、台湾にはそのような制度ありません。
看護師でも介護職としてしか働けないわけです。
しかし、現場では医療的ケアが必要になる。
そこで、台湾ではベトナムやフィリピンで看護師の資格をもつ人をリクルートし、医療的ケアが必要な介護現場で即戦力として働いてもらっています。
私の推計ですが、台湾のすべての介護職員の50%は外国人、そのうちの30%は看護師であると、推計しています。
・シンガポール
シンガポールも介護現場の多くを移住労働者が担っています。
シンガポールで特徴的なのが、シンガポールの高齢者の中には、隣国のマレーシアなど、周辺の国で介護を受ける人が少なくないことです。
シンガポールは経済成長著しい国ですが、その分物価の上昇も激しく、高齢者は年金だけでは生活していけない事態になっています。
そこで物価の高いシンガポールを出て、より物価の安い周辺国に高齢者が移住するといわけです。
・ベトナム
ベトナムからも多くの若い移住労働者が外国の介護現場で働いています。
ベトナムはまだ非常に若い国ですから、「介護」という概念がまだ成熟していないようです。
そこで、「介護」について十分に教育する必要がある。
(画像を示しながら)これは、ベトナムの斡旋業者で撮影した画像です。
受入国に行くまでに、ここで研修を受けています。
これは宿泊所の画像ですが、ご覧のように2段ベッドを押し込んだタコ部屋です。
よく、「アジアの人々は大家族だから、大人数での生活も厭わない」などということを日本でも聞きますが、アジア人でもプライバシーは当然ながら重要です。
「大家族」説は、日本側の都合の良い言説だと思います。
今、日本の技能実習制度においては、ベトナムは非常に重要な国となっています。
ただし、日本語能力検定試験で「N4」と呼ばれるレベルに達していないと、実習生にはなれません。
N4レベルというのは、日本語の勉強を最低でも6カ月行う必要があるレベルです。
実習生の中には、ベトナムでの仕事を辞めてまでして日本語の勉強をし、業者に高い保証金を支払って日本にやってきます。
業者が悪質だと、日本円にして100万円近いきわめて高額の「保証金」を支払わせるケースもあります。
この他にも「研修費用」という名目で小出しで繰り返し金を支払わせるケースもあります。
そんなお金をベトナムの人がどうやって工面するのかと思われるでしょうが、銀行も業者とグルになって実習生にローンを組ませているケースもあります。
高額の保証金を支払っている実習生に対して、そんな話に騙される方が悪い、などという見方もあるようですが、騙す方はもっと頭を使って、実習生に騙されているという実感を持たれないように仕組んでいるわけです。
・フィリピン
フィリピンには「ケアギバー」という資格がありますが、フィリピン国内の労働市場には「介護職」という職種はありません。
つまり、フィリピン人にとって「ケアギバー」は海外で介護の仕事をするために取る資格です。
ところで、フィリピンには、結婚で海外に行く人が人身売買の被害者でないかどうか調査するための政府機関があります。
国外で結婚予定の人がこの機関に出向いて調査を受けます。
私も1度依頼があって、福島に行くというフィリピン人女性と面接したことがあります。
この女性の結婚相手の日本人男性の職業がよく分からなかったので、調べてみると、風俗業に関わっていることが分かりました。
つまり、彼女は日本に行ったら風俗業に売られるおそれがありました。
そのことを彼女に説明しましたが、既にビザが発給されており、最終的には彼女を止めることはできませんでした。
フィリピンも技能実習制度を利用して日本に行くことが盛んです。
何か月も前から日本語を勉強して実習に備えています。
1年前、私はフィリピンに実習予定者の日本語学習の様子を見学に行ったときに、現地の学生から質問を受けました。
「先生、日本に行くのに技能実習と、EPAと、難民はどれがいいですか?」と。
日本で難民申請をしている間に働く人が増えていていることが事実で、それがSNSなどでフィリピンでも知られているようです。
とりあえず観光ビザなどで日本に行って、難民認定して6カ月待てば働けるし、待たなくても就職を斡旋してもらえる、というわけです。
本人たちは、「難民とは何か」はあまり関係はなく、日本で就職できる選択肢の一つとして、極めて合理的に考えているわけです。
つまり、受入国の考え方と当事者のイメージは、随分違うんです。
技能実習制度にしても、日本政府は「技能移転」を建前にしていますが、本人たちはそんなことを考えて申請するわけではないことがある。
結局、ダブルスタンダードの弊害はここに現れ、移住労働者が一番の被害者になってしまうわけです。
フィリピンには、日本人の父親とフィリピン人との母親との間に産まれた子供が数万人いると言われています。
ほとんどの場合、日本人の父親は逃げてしまい母親一人で育てているのですが、そういう人を日本にリクルートする機関があります。
とある有料老人ホームでの事例ですが、その機関を通して受け入れることになったフィリピン人に「私は死亡しても、職場を訴えません」という趣旨の、いわば死亡免責項目がはいった契約書にサインさせていました。
これは、契約書としても当然無効なのですが、脅すのには十分です。
どんな労働環境だったかといと、1カ月に13回夜勤があったそうです。
そして夜勤手当は、日本人には1回7,000円程度支払われるのですが、フィリピン人の彼女たちには1,400円でした。
後に彼女たちの多くは、未払賃金を請求する訴えを起こしましたが、中には訴えを起こさない人もいました。
彼女がどうして訴えなかったかというと、このような労働環境であっても、日本に来て働くことができ、日本人との間に産まれた子供と日本で住めることが嬉しいと言うのです。
私が何年もかけて説得しても、その意思は変わりません。難しさを感じた事例です。
・インドネシア
インドネシアは、近年最大の送り出し国の1つになっています。
多くのインドネシア人が香港やシンガポールで移住労働者として、家事労働などに従事しています。
日本との関係でいうと、2008年に日本とインドネシアの間にEPA(経済連携協定)が結ばれ、日本が初めて公式に外国人の介護労働者を受け入れました。
・香港
香港は、35万人くらいの家事労働者がいて、外国人も多く働いています。
外国に送金するための窓口を街中で見かけます。
香港の街で、外国人の家事労働者の大規模な抗議でもが起きたことがありました。
家事労働者の賃金を引き下げようとする政府の動きに対して、「最も賃金が低い人の賃金を下げようとするのはおかしい」と1万人規模のデモが起きました。
この時は、バスが止まるなど大きな影響があり、のちにこの政策は撤回されました。
驚くべきことに、香港では、家事労働者を雇うことで、この1年間家事を一切したことがないという家庭が67%に上るとのことです。
つまり、育児や介護などのうち面倒な部分は、家事労働者にいわば「下請け」に出し、その分、子供を抱きしめたり遊んだりすることを親の時間として確保する。
そういう風に家事労働の役割分担を行い、多くの外国人女性が下請けの部分を担っています。
以上、外国人労働者をとりまく状況をみてきました。
さて、外国人労働者を受けいれるかどうかは、受入国の裁量です。
よく外国人労働者を受け入れると犯罪などの問題が増えると言われていますが、それは全て受入国の判断です。
制度をきちんと整え管理すればいいわけです。
日本では、外国人人口は全体の3%くらいですが、カタールやUAEのように、人口の90%近くが外国人という国もあります。
カタールに行ってカタール人に会うことの方が難しい。
それでも国家として機能しています。
外国人労働者を受け入れるかどうかは、受入国がどういう制度を作るかにかかっています。
次に高齢化の状況について。
日本では、高齢者の割合が30%程度に上昇しています。
これに香港・台湾・シンガポールなどが追従してきており、そのうち日本と同じレベルになるでしょう。
「人口ピラミッド」という言葉がありますが、現在の人口分布からいうとピラミッドではなく、「傘」の形になりつつあります。
超高齢化社会を迎えるにあたって、どういう制度を作っていくかを考えなければなりません。
日本は、60年代・70年代は、男性労働者を中心に据え、女性を補助的業務に位置付けた日本型雇用制度がうまく機能していました。
ところが人口減少社会になり、女性をどう活躍していくか、女性だけでなく、高齢者、障害者、外国人、LGBTなどに、どう社会で活躍してもらうかを考えなければ、この先太刀打ちできない事態になっています。
男性中心の日本型雇用の成功体験を忘れて、どうやって女性や外国人に活躍してもらうか、どうやって機会の平等を通じて社会に包摂していくかを考えなければならないことは、もはや自明です。
介護に関しては、この先介護の量ではなく、質が問われることになります。
例えば、がんを患った認知症者もこの先増えていくと考えられるので、そうなると、介護の量よりも質が重要になります。
そのためには裾野の広い労働市場にしていかなければならないのでしょう。
これまでの日本は、みんなが同じであること、つまり均質性が経済成長の根源だったかもしれません。
しかし今後は、均質重視の社会から多様性を認める社会にしてゆくかをイノベーティブに考えていかなければ、この先立ち行かないでしょう。
日本における介護は、長く家族、特に「ヨメ」の役割でした。
2000年スタートした介護保険制度の意義は、介護をすべての人が享受でき、また特定の人に負担をかけないという、いわば介護の社会化がなされたことにあります。
しかし、とは言え、実際にはいまだに家族の関わりは大きい。
虐待もほとんどの場合家族によるもの、特に息子による虐待が最も多いわけです。
そういう意味では、男性も家事対応能力をつけないと虐待という事態を引き起こしてしまいます。
10万人の介護離職者の問題、つまり介護を理由に仕事を辞めざるを得ないという問題も出てきています。
介護保険制度が始まっても、やはり介護における家族の役割は重要であることに変わりはないことが分かってきました。
福祉というのは、国家・行政だけが担うものではなく、家族・コミュニティ・市場をどうミックスするかが重要です。
日本では、介護の社会化が行われたことで、介護職の専門化が行われました。
介護福祉士の資格取得に必要なカリキュラムは、時間数にして1850時間です。
1850時間勉強しないと、介護福祉士の受験資格が得られません。
きわめて専門化されていて、外国人にとっては大変な難関です。
日本で介護職についている外国人のうち、介護福祉士の資格をもっている人は、おそらく1%くらいでしょう。
ただ、日本でも技能実習で3年間みっちり働くと、介護福祉士の受験資格が得られることになりました。
これまでの技能実習制度は技能移転を建前にしていたので、実習が終わったら帰国しなければならず、受験資格は与えられなかったのですが、今回の改正で受験資格が得られることになりました。
いずれそうせざるを得ないだろうと思っていましたが、予想より早い改正でした。
どんどん本音と建て前の乖離が広がってきていると思います。
最後に、10年前に始まったインドネシアとのEPAから学べることを振り返ってみると、当初は反対意見も多くありました。
介護福祉士協会も日本看護協会もすべて反対でした。
厚労省も、本当に外国人が日本の介護現場でちゃんと働けるかどうか、よく分からなかったというのが本音のようです。
しかし、実施してみて外国人でも働けることが分かった。
その要因は、日本語、看護の技術、介護の技術などの教育支援制度を実施したことにあります。
おそらく一人につき200万円から250万円ほどかけて教育しました。
これを「社会コスト」と呼ぶ人がいます。
しかし、私は反論したい。
フィリピンやインドネシアで産まれた子供が看護師・介護士の候補者として日本に来るまでにかかった費用は、フィリピンやインドネシアが負担しているわけです。
日本が負担したのは、彼ら彼女らが資格を得るためにかかる最後の部分だけです。
その後は、日本で働いてもらっているわけです。
将来看護師になる日本人の赤ちゃんのことを「社会コスト」と呼びますか?
なぜこれが外国人になると、単に最後の部分の費用負担をするだけで「社会コスト」になるのでしょうか?
つまり、そこに線引きをしてしまっていることが日本側の問題です。
外国人だからどうこうというのではなく、良い人材に質の高い教育を受けさせれば、外国人であろうとなかろうと、良い労働者・生活者になる、ということがEPAから分かったことだと思います。
多様性の包摂というのは、こういうところにかかっているのではないかと思います。
これで終わります。
ありがとうございました。
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