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須藤眞一郎行政書士事務所気付
文責 岡崎 民(コムスタカ事務局)
移住者と連帯する全国ネットワーク代表理事。 1990年以来外国人労働者の支援活動に携わってこられ、社会的に「外国人労働者問題」を認知させた功労者です。 2005年外国人技能実習生が時給300円で働かされている実態を告発し、「現代の奴隷制度」と批判される技能実習制度の問題を追及してこられました。 この長年にわたる外国人支援活動の功績が認められ、2013年アメリカ国務省から「人身売買と戦うヒーロー」に選ばれました。
2018年秋の臨時国会で改正入管法(出入国管理および難民認定法)が成立し、新しい在留資格として「特定技能1号」「同2号」が新設された。
そして入国管理局が入国管理庁に昇格した。
私は、安倍政権の弱点のひとつは、外国人労働者問題だと思っていたが、この臨時国会で安倍政権だけでなく、野党やマスコミも外国人問題について実態を知らなかったということが明らかになった。
外国人労働者問題は、私たち社会の弱点だったのだ。
では、日本における外国人労働者がどのような状況におかれてきたか。
外国人の実態の捉え方のひとつとして「オールドカマー」と「ニューカマー」に分けられる。
「オールドカマー」は、旧植民地時代に日本に連れてこられた在日1世とその子孫。
国籍では、韓国・北朝鮮・中国などだ。
「ニューカマー」とは、1980年代以降バブル経済を背景に日本に移住してきた人々。
そしてこの移住者はさらに次のように分けられる。
まず、@就労できる在留資格をもっている労働者。
技能実習生もこれにあたる。
なお、日本には職種ごとの資格(教師、専門技術者、通訳、コックなど)はあるが、どんな仕事にも就くことができる「就労ビザ」というものはない。
どんな仕事にも就くことができるのは、Aブラジルやペルーなどから来た日系労働者とその配偶者や永住者。
つまり身分に基づく在留資格がある人は、どんな仕事にも就くことができる。
そしてB非正規滞在者。
いわゆるオーバーステイ。
それからC労働者ではない労働者。
研修や家事労働者や興行ビザで来た人々だ。
この人たちは労働はできないので、働いたら入管法に違反する。
しかし、労働者としての実態があれば、労働法規は適用される。
次にD難民。よく知られているように、他の先進国と比べると日本は難民の受け入れが極端に少ない。
しかし、「難民申請中」というカテゴリーがあり、難民申請して6カ月経つと「特定活動」という在留資格を得て、経営と風俗以外は仕事ができることになっている。
実は東京オリンピック・パラリンピックの準備は、この人たちに支えられているのが実態だ。
オーバーステイの外国人の数は、1993年がピークで298,646人だった。
しかし今年の1月には74,167人にまで減っている。
日本政府はオーバーステイ半減政策と称して、オーバーステイ者の数を減らしてきた。
しかし私に言わせれば、「恩知らず政策」だ。
つまりバブル経済の頃は多くの外国人労働者がいて、そのほとんどがオーバーステイだった。
そういう人たちをさんざん働かせつつ、見て見ぬふりをしていた。
社会にいないことにしていたのだ。
しかし、バブルがはじけると彼らをどんどん追い出していった。
この時、建前としてよく言われたことが、「不法就労者は犯罪の温床」ということだ。
しかし、こんな嘘はない。
また、日系労働者の数もリーマンショックを機に減っていった。
リーマンショックの時、職を失った日本人派遣労働者が「年越し派遣村」に駆け込む様子が注目された。
しかし、日本人労働者が失職する前に、まず日系労働者が徹底的に切られていたのだ。
その後、景気は回復したが、日系労働者の数は増えていない。
増やさない政策を取ったからだ。
1993年3月、「生活と権利のための外国人労働者1日行動」が初めて実施された。 この年以降、毎年実施している。 いわゆる「外国人春闘」だ。 なお、この呼び方は、マスコミがつけた名前だ。 この行動によって、こんなにたくさんの外国人労働者がいたのかと驚かれ、社会に衝撃を与えた。 「外国人春闘」では、生活と権利の向上のため、様々な省庁・行政の窓口と交渉している。 主張の根拠となるのは労働基準法第3条(使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない)だ。 オーバーステイという「社会的身分」を理由として差別してはいけないと主張した。 ここを突破口として、外国人労働者にも労災や雇用保険が適用されるようになった。 現在、外国人労働者組合に加入する労働者の国籍は40ヶ国以上、組合員は4,000人を超えている。 会議での共通言語は、英語ではなくやさしい日本語だ。
外国人労働者がかかえる問題は、賃金未払い、解雇、労災など多岐にわたり、後を絶たない。
これは、場当たり的な受け入れに問題がある。
外国人の受け入れ議論の中心は、外国人技能実習制度の運用にのみ集約され、さらに裾野を広げた受け入れ議論は全く行われなかった。
1993年に創設された外国人技能実習制度は、非常に分かりにくい制度だ。
従来からあった「外国人研修制度」を拡充し、「より実践的な技術、技能または知識の技術移転」を建前とする。
技能実習生は、労働基準法上の「労働者」に該当し、労働関係諸法令が適用される。
なお、このときは「技能実習」という在留資格は作られず、従来からあった「特定活動」という在留資格で対応していた。
技能実習生の主な出身国はフィリピンや中国、インドネシアなどだ。
初めの1年間は研修があり、その後技能検定試験を受け、合格者は各企業や農家などの受け入れ機関で最長2年間の技能実習を行う。
この技能検定試験は日本語で行われるが、合格率はほぼ100%。
あらかじめ、或いは試験会場で、答えが教えられるからだ。
ただし、合格率が98%とか95%という事態がある時から起きた。
これは、権利を主張する研修生には答えを教えなかったからだ。
女性の技能実習生も増えている。
これはアジアにおける女性の社会進出や、技能実習の多くを占める縫製や食品製造に就くのは女性が多かったこともある。
しかし、もう一つの理由は、受入側の企業の社長や農家に男性が多かったこともあると私は考える。
実習生を送り出す側の機関が企業の社長や農家に対して謳い文句にしていたのは「あなたが実習生を選べます」。
ほとんど人身売買だ。
この制度下で様々な不正行為や人権侵害が横行した。
このことを一番最初に指摘したのは日本ではない。
アメリカ国務省の2007年の人身売買年次報告書において、日本の技能実習制度は奴隷労働ではないかと指摘された。
以後毎年厳しく指摘されている。これが制度改正につながった。
技能実習制度が奴隷労働であることを象徴する言葉が「時給300円」と「強制帰国」だ。
(実際の賃金明細書を示しながら)この賃金明細にある通り、時給が300円。労働時間は230時間とある。
支給額が69,000円。
これは毎日夜10時くらいまで働かないと、こういう金額にはならない。
残業の後、寮に帰って内職仕事をすることもあったそうだ。
(別のケースの賃金台帳を示しながら)この賃金台帳を見ると、給料の中から55,000円というこの地域の相場より高い家賃が差し引かれている。
その他、洗濯機、掃除機、調理器具等のリース代も引かれている。
このケースで私が社長に「これはリース会社から借りている器具ですか」と聞くと社長は「いえ、私が貸しています」と平然と答えた。
(別のケースの表を示しながら)ある大手自動車メーカーの孫請け会社では、女性実習生のトイレの使用回数や使用時間を記録し、罰金を取っていた。
こういうことが現在でも横行している。
「強制帰国」とは、実習生が権利を主張したり反抗的な態度を取ると「国に帰す」と脅すことだ。
実習生はみんな借金をして高い保証金を送り出し機関に支払っている。
日本で働いて稼がないとこの借金を返すことはできない。
その弱みにつけこんで実習生を沈黙させている。
現在は、制度上保証金を取ることは禁止されているが、同様のことは現在も行われている。
あるベトナム人実習生のケースでは、彼らが私たちのところへ相談に来た後、それを察知した受け入れ先の社長から強制帰国されそうになったことが分かった。
私たちのスタッフが空港に駆けつけ、彼らを連行しようとする「私服警察官」と揉み合いになっていると、そこへ空港警察が現れた。
するとその「私服警察官」はスッといなくなった。
社長から頼まれたニセ警察官だったのだ。
2010年に入管法が改正され「技能実習」という新しい在留資格が創設された。
しかし、この後も不正行為や人権侵害は後を絶たない。
昨年は、技能実習生に除染作業をおこなわせていた事件が発覚した。
また、女性実習生が妊娠し乳児を民家に置き去りにしていた事件もあった。
これは、受け入れ先に妊娠をしたら帰国させると脅されていたためだった。
また、技能実習制度では決まった職種以外の仕事に従事すること(いわゆる「とばし」)は禁止されているが、零細企業のみならず、名だたる大手企業でも「とばし」は日常的に行われている。
ではなぜこのような不正行為・人権侵害が後を絶たないのか。 政府は、このような事態は、制度を理解していない一部の人が起こしていると説明する。 しかし私は、この制度自体が人を変えてしまう恐ろしい制度であることに問題の本質があると考える。 近代民主主主義における労働契約は、労使対等が原則だ。 しかし、この制度は、保証金の問題、「強制帰国」の問題、受入機関・送り出し機関・監理団体(JITCO)など複数の機関が幾重にも絡む複雑な構造であること等が相まって、実習生はがんじがらめの状態になっている。 この構造の下では労使対等の原則が担保されず、受け入れ機関の社長や農家と、実習生の間に著しい支配従属関係を生じさせる結果になっている。 技能実習制度は、普通の一市民である社長や農家を邪悪な欲望の塊に変えてしまう恐ろしい制度なのである。
ところが、東京オリンピック・パラリンピックの準備に必要な人出が不足する事態に対応するため、2017年には技能実習法が創設され、職種並びに受け入れ枠を拡大し、最長5年まで働けるようにした。 人口減少社会になることは30年前から分かっていたことで、外国人労働者を受け入れないと日本社会の身が持たないことは明らかだった。 しかし安倍政権は、このような事実を直視せず、「外国人労働者の受け入れ」ではなく、あくまで技能実習制度のもと「外国人人材を活用」することで場当たり的に対処しようとしている。 技能実習制度の建前は「開発途上国への国際貢献」だが、これを実質的な労働者受け入れ制度として利用している。 これは偽装そのものである。 また、日本国内には、難民申請者が「特定活動」の資格を得て働くことを難民申請者側による制度の悪用と批判する向きがあるが、「特定活動」の資格で働かせ、人手不足を補おうとしているのは誰なのか。 制度を悪用し難民申請者に偽装を余儀なくさせているのは誰なのか。 これが私たちの今の社会である。 この事実を直視しなければならない。
ドイツは、多くの移民を受け入れていることで知られている。
しかし一方で、年間70〜80万人のドイツ人がドイツ国外に働きに出ている。
労働者の移動は既に世界規模で起きている。
したがって、労働者がどこの国に行っても労使対等の原則のもと働ける社会にしていかなければならない。
そして労使対等原則は職場だけの問題ではない。
人権や平和を形づくるのも労使対等原則だ。
日本が戦争に突き進み始めた頃、はじめに職場でものを言えなくなった。
職場でものを言えない社会は危ない。
労働者は同時に生活者である。
同様に、外国人の受け入れは、外国人との共生を抜きにしては考えられない。
日本はずっと、アイヌ民族や琉球民族と共に生きる多民族・多文化社会だった。
外国人に対して排斥的なヘイトスピーチが横行しているが、外国人がもし全員出て行ったら、今の日本社会は1分1秒も持たない。
このような事実を直視し、外国人労働者を使い捨てにするため受け入れるのではなく、社会の担い手になってもらわなければならない。
そして労使対等原則が担保された多民族・多文化共生社会を目指すため、まっとうな移民政策を確立しなければならない。
東日本大震災で、知り合いの南三陸の水産会社が津波の被害に遭った。
この会社の社長は大変心ある人で、技能実習生を受け入れる際、私のもとに労働条件や生活環境について色々相談に来てくれた。
私は、震災直後に何とか南三陸に入り、社長と再会できた。
社長は開口一番、「真っ先に実習生を逃がしたよ」と笑った。
多民族・多文化共生社会は既に始まっている。
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