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コムスタカ―外国人と共に生きる会 Kumustaka-Association for Living Togehte with Migrants

〒862-0950 熊本市中央区水前寺3丁目2-14-302

須藤眞一郎行政書士事務所気付

元監理団体職員へのパワハラと残業代未払い控訴審判決

   中島  眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)


 2019年6月4日に、監理団体の元キャリア職員(フィリピン出身)が、残業代とパワハラによる約200万円の損害賠償請求訴訟を監理団体グローブとその上司2名を被告に提訴しました。 一方、被告グローブは、2020年5月26日に、原告の提訴日の記者会見での発言による報道(熊日、KKT、日本テレビ、KAB)により名誉を棄損されたとして原告に総額550万円の損害賠償請求反訴を提訴しました。
 2022年5月7日、一審の熊本地裁で、原告の一部勝訴(本訴で約40万円の支払いを被告に命じる一方、反訴では被告の名誉棄損を認め原告に被告への33万円のお支払いを命じる)判決(佐藤丈宣裁判長)が言い渡されました。
 この熊本地裁判決に対し、原告と被告双方が控訴しました。 福岡高等裁判所の控訴審では、2022年9月20日に第1回口頭弁論で即日結審し、2022年11月10日、次の通りの判決(山之内紀行裁判長裁判官)が言い渡されました。

 「主文

  1. 1審原告の控訴に基づき、原判決主文4項を取り消す。
  2. 上記部分につき、1審被告グローブの請求を棄却する。
  3. 1審被告中〇〇の控訴に基づき、原判決中の1審被告〇〇の敗訴部分を取り消す。
  4. 上記の部分につき、1審原告の請求を棄却する。
  5. 1審原告のその余の控訴及び1審被告のグローブの控訴をいずれも棄却する。
  6. 控訴費用は、・・(以下省略)」

争点

1.提訴時の記者会見の発言が名誉毀損に該当するか


 控訴審の最大の争点であった1審原告の記者会見の発言が1審被告に対する名誉棄損に当たるのかについて、一部を認めた1審の判決を取り消し、すべて名誉棄損にあたらないと判じました。 この反訴は、原告の提訴から1年後に被告の監理団体が、原告の提訴時の記者会見の報道により名誉を棄損されたとして総額550万円の損害賠償を提訴してきたいわゆる「スラップ訴訟」と言えるものでした。 1審の熊本地裁の判決は、監理団体の主張した5つの原告の発言のうちの「給与明細では残業は、最大ひと月27時間30分しかないのに、記者会見で30時間以上の残業時間があったという原告の発言が真実と異なり、名誉棄損にあたるとして、33万円の支払いを命じました。
 しかし、控訴審判決では、監理団体が原告から名誉を傷つけられたという5つの発言すべてについて、真実と信じる相当性があるとして、1審判決を取り消しました。


2.上司の言動に対して、パワハラによる慰謝料請求が認められるか


 1審原告に対して上司1名の言動がパワハラにあたるとして慰謝料を認めた1審判決は、「上記のメッセージを送信したことは、不適切な発言ではあるが、(略)職場における優越的な地位を背景にしたものであるとは言えない。 (略)パワーハラスメントに該当するとまで言えない」として、その部分は取り消されました。 ただし、原告が記者会見で述べた、「上司2名がパワーハラスメントを行った」という発言については「これらの行為をパワーハラスメントと受け取ったとしても不自然不合理ではないから真実と信じるについて相当の理由があったと認めるのが相当として、名誉棄損は否定しました。


3. 残業代の未払い


 1審判決で認められた残業代の未払い(約30万円)については、1審の判断が維持されました。 なお、1審原告の主張した「直行直帰による残業代未払い」と、1審被告の主張した「労働時間が算定しがたい」という主張はいずれも認められませんでした。
 ※ 1審被告の監理団体グローブは、1審原告のキャリア職員(通訳・訪問・指導・相談などの業務)に対して、2016年8月まで基本給のみ支払っただけで残業代を支払っていませんでした。 2016年9月から残業代を支払うようになりましたが、2017年7月から、キャリア職員には、事務所に寄らず自宅から実習先の企業や農家へ直行直帰をするように指導し、残業代を減らしていきました。 キャリア職員は、熊本市から大分県や宮崎県など片道2時間以上かかる実習先を定期的に訪問していましたが、それらは通勤時間(通勤手当もなし)となり、勤務時間から除外され、残業代が大幅に減りました。 1審判決・控訴審判決とも、監理団体の「キャリア職員の労働時間は把握できない」「労基法第38条2の事業外みなし労働時間制適用」の主張は斥けましたが、直行直帰への変更が労働条件の不利益変更に当たるという1審原告の主張は認められませんでした。

【追記】
 被告(反訴原告)の監理団体グローブは上記の控訴審判決を不服として、最高裁判所に2022年11月22日に上告しました。そのため、本件訴訟は、最高裁での決定まちとなりました。


※以上の記事は、コムスタカニューズレター第111号に掲載したものです。     

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